2.下宿屋のお仕事 いよいよ開始①
「風子さん、こっちのお皿、もう運んでいいの?」 ユウトが言う。今日の当番は彼らしい。
配膳台に並ぶ皿に目を走らせながら答える。
「いいよ。……あ、待って、ごめん。まだ、その一番端っこのお皿、目玉のってない」
「あ、ほんまや」
「ごめんごめん。急いで焼くわ。7人分となると、何個焼いたか、途中でわからへんようになるわ」
私、野々原風子は、自分ちの隣の下宿屋で、働いている。下宿人は全部で7人。
朝食準備をする朝は、キッチンはけっこうなハードな戦場になる。
しんどい仕事や疲れる仕事は、したくない、と思っていたはずなのに、気がつくと、毎日なかなかにハードな時間を過ごす羽目になっている。
大急ぎで、冷蔵庫から取り出したタマゴを、フライパンで目玉焼きにする。
「半熟じゃない方がいいから、僕のはしっかり焼いてください」 とタクト。
「あ、僕、半熟がいいから、こっちと取り替えっこしよか? こっちはけっこうよく焼けてるみたいやから」
ユウトが言う。
「そう? ありがと」 タクトとユウトがお皿を交換している。
「オレは、タマゴは1コでいいから、ベーコンが多い方がいい。今日は、これでいいけど。今度から」 ナオトが言う。
「僕は、野菜いらないんで。今度から、レタスとかトマトのせなくていいから」 ヒロヤが、ひとりごとのように、ぽそっと言う。
「おまえら、ワガママいいすぎ。ちゃっちゃと食べやな時間ないで」 テツヤが言う。
「うまそ。……みんな、はよ食べやな、冷めるで」 トモヤが、ソワソワしながら、みんなをせかす。きっとお腹が空いているのだ。彼はかなりの食いしん坊なのだ。
とりあえず、最後の1人分の目玉が焼けたので、お皿に大急ぎでのせる。
「はい。できました~。とりあえず、今日のところは、それで、お願いします。次からは、可能な範囲で、オーダーを承りますが、すみません。今日は、それでお願いします!」
「は~い」 7人分の声が返事をする。
「いただきま~す」 今日の当番のユウトが声をかけて、全員が手を合わせて、一斉に、いただきますを言って、食べ始める。みんなお行儀がいい。
さっきまでは、自分の希望を口々に言ってた子たちも、食べ始めたら、一気に笑顔にかわる。希望は言うけど、いつまでも、文句を言う子たちではない。そこは助かる。
「今度、食べ物のお好みアンケートをとるから。可能な範囲で、希望に添えるようにしますね」
「はあい」
みんなニコニコしている。可愛い。……けっこう素直だし。