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異国の元王子

『アシュベリー家』に王家の親子がやってきた数日後。

カロナを断定的な婚約者にしたいとの通達が届いた。もちろん、ヒュー王子の婚約者だ。


リアナの両親はその通達を見て胸をなでおろしていた。

先日の話し合いでは皇帝が「リアナと婚約させたい」といってきかなかったのだという。

しかし、リアナはすでに婚約者のいる身であり、この国の外交に大きく関わる婚約であることを父が本気プレゼンしたらしい。

ガイア自身は全く納得していなかったらしいが、穏便を望む側近たちは「カロナ様との婚約を」と強く推してくれたようだ。

…そして、断定的婚約という文言は最後の抵抗だろう。


「カロナ、ひゅーさまのお嫁さんになるの?」

まだ4歳の妹は、不思議そうに首を傾げて両親に尋ねた。

王妃になる、ということはこれからカロナは王妃になるための王妃教育が待ち構えている。ということだ。

それはそれは厳しく、大変なものになるため、6歳になる頃には始めなくてはならない。

両親はカロナを優しく抱きしめると「きっと幸せになれるわ」と自分たちに言い聞かせるように呟いた。


「そういえばリアナ、パルネラ殿の息子さんとの文通はどうだ」

リアナの父は優しくほほ笑む。深紅の髪が灰色がかった瞳に被さるようにしていた。最近忙しいのだろう、髪が伸びはじめている。

「すぐにお返事を下さいます。マメな方なので」父の言葉にリアナはそう返した。

現在、リアナは産まれる前から婚約の約束をしていたパルネラ・マカーロ・リブラと文通をしている。

東にある隣国、『サフロール共和国』の貴族である。リアナよりも3つ年上の優しく、爽やかな少年だ。

これまでに2度、顔を合わせたことがあるが非の打ち所の無い子どもで、褐色の肌に琥珀色の瞳をした、異国の王子…という風貌の人だった。


***


「やあ、リアナ」


金をあしらったツヤツヤの馬車から降りてきたのはパルネラ・マカーロ・リブラだった。

リアナの婚約者である彼は、リアナが6歳の誕生日の頃オオハルシャギク王国にやってきた。

玄関前で出迎えるリアナにマカーロは駆け寄り、優しく屈みリアナの目線に合わせた。

「マカーロ様、お久しぶりです」

貴族らしく頭を下げたリアナを見て、マカーロはにこにこと微笑んた。

「ああ、半年ぶりくらいかな。大きくなったね」

人当たりの良い優し気な笑顔はまるで太陽ようだ…とリアナは感じ、家の中にマカーロを招き入れた。マカーロは優しくリアナの手を取った。

白髪めいた灰色の髪は柔いウェーブがかっており、リアナは空に浮かぶ雲のようで綺麗だと思った。


「お誕生日おめでとう。今日はプレゼントを持ってきたんだよ」

マカーロはリアナにそう声をかける。

「とても嬉しいです」

リアナはそう答え「私どもも、マカーロ様がいらっしゃると聞いてたくさんおもてなしを考えました」と続けた。

マカーロはにこにこと花でも飛ぶような笑顔のまま何度も頷き「嬉しいなあ」と呟いた。


「そういえば、カロナちゃん未来の王妃サマなんだってね」

「そうなんです。カロナは私と違って愛想もあるしかわいらしいから、きっとよい王妃になります」

リアナは少し興奮したように鼻息を荒くすると、嬉しそうにやわらかく口角をあげた。

家族くらいにしかわからない表情変化だったが、マカーロは「リアナの笑顔は可愛い」と思った。マカーロはリアナが大好きなのだ。

「リアナ、僕らの家系が実は没落王族だって知ってた?」マカーロはにこにことした表情のまま言った。

マカーロの言葉を聞いて「…知らなかったです」とリアナは首を横に振る。

「リアナも時代が時代なら王妃様、だったねえ」

そういって笑うマカーロを見て、リアナは全く"王妃"という言葉に惹かれない自分に気が付いた。

同時に、誰かの隣で恋愛小説のように一喜一憂自分のことすらリアナには想像がつかずにいるのだ。


「マカーロ様が現行する王族の方であったなら、きっと私とは違う方とご婚約されるはずです」

リアナは嫌味なくそういった。マカーロは一瞬驚いたように琥珀色の瞳をぱちくりとさせ、すぐにまた微笑んだ。

「王族だったとしても関係なく、きっと僕は君と婚約をするさ」

そんなマカーロの言葉にリアナは疑問を抱き「どうしてですか」と尋ねた。

リアナの小さな手を握り返しながら、マカーロは喜びをかみしめるように言った。

「それが僕らを導く星の流れだから、かな」

マカーロは星が飛ぶようにまぶしい笑顔をリアナに向けた。リアナは目の前がちかちかするような気分だった。

元が王族というのも頷ける。何とも言えないカリスマ性と、他者を引き込み巻き込めるリーダー性が彼にはあるのだ。


* * *


「そしてそのお姫様は、一人胸を刺して死んでしまいました」


優しい声でマカーロはそう話を締めくくる。

リアナはマカーロの国に伝わるおとぎ話を静かに聞いてはいたものの、あまりに悲しい結末に大きな苺色の瞳をぱちくりとさせた。

「どうしてお姫様は悪いことをしていないのにしんでしまったのですか?」リアナは不思議そうに首を傾げた。

話の概要としては物静かなお姫様がだんだん国民の反感を買うも、まっすぐに生きれば認めてもらえると頑張る話だ。

健気にお姫様は頑張るものの、気付いたころには反感が膨れ上がりすぎ、そしてどうしようもなく自死を選んだ。

「そうだね。お姫様はまっさらに美しすぎて、周りの人に”悪”という塗料を塗りつけられてしまった…」

「…キャンバスと一緒、ということ?」

リアナは未だに理解ができないといった表情でマカーロを見つめる。マカーロは不思議そうに自分を覗き込むリアナを見て、にっこり微笑む。

「そうだね。僕も、このお話の最期は違うものだといいと思っているんだ」

「ふふ、マカーロ様が変えればきっと素敵なお話になりそうです」

その言葉を聞いてマカーロは複雑そうに顔を曇らせた。

リアナは自分が変なことを言ったのかと少し考えたが、変なことは言っていないはずだ。

「そうだね」

少し落ち込んだようにマカーロは言うと、しばらくの沈黙の後「ねえ、リアナ。このお姫様はどうして胸を刺したんと思う?」とリアナに話しかけた。

リアナは窓際の花を愛でながら、少し考え答えた。

「それが最善だと思ったのでしょう」

その答えを聞いて、マカーロは頷いた。

「リアナ、リアナは僕が好きかい?」

マカーロの問いに、リアナは目を見開くばかりで何も返事をしなかった。

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