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はじまり

てらてらと光る短剣を見つめたリアナは細く息を吐いた。

今から、自分の胸を突くのだ。緊張しない方がおかしい。

何度目かわからない深呼吸を終えたリアナは目を瞑り、短剣を振り下ろした。


* * *


王国歴160年、『オオハルシャギク王国』では小さな諍いが絶えなかった。

その諍いの原因の一つに、次期王である皇太子ガイアが関係していた。

彼は絵に描いたような暴君だった。

王室の庭の花をすべて引っこ抜いただとか、城に火を放っただとか、下町に夜な夜な出歩いては女遊びにふけっているだとか。悪い話しかないような男だった。

現王であるアースは、王妃であるセミリャが病に臥せてからというもの使い物にならないと国民は首を振った。

王妃セミリャが陰った日、皇太子ガイアは突然小さな子どもを抱いて城に戻ってきた。

「自分の子だ」と皇太子は宣言し、王妃の死で悲しむ間もなく国民は混乱した。

母親のわからない皇太子の”子ども”は、王族に代々受け継がれる宝石のような瞳を持っていた。

宝石のように、というのはただただ”美しい瞳”の意ではなく、虹彩がブリリアントカットでも施されたような不思議な形状をしているのだ。

国民は彼を王族として認めざるを得ず、現王アースの即位が長く続くことを祈った。

そんな国民の願い虚しく、妻の死とガイアの粗暴な行動を病んでか、偉大であった王アースはその年のうちに陰り、ガイアが王へと即位した。


皇太子であったガイアは王に即位してすぐ、国民の心配した通りに身を振った。

その行動は粗暴で暴君とのもので、あたりの国々に戦争を吹きかけては国土を広げると声を上げ、戦果はあげるものの国民は常に戦の火の粉がいつ自分たちに降り注ぐのかを身を縮こませる日々を送った。

そして即位してたったの10年、自らまいた種によりガイアは帰らぬ王となり、王族はガイアの連れてきた少年一人となってしまった。

母親もわからない、父親は国民から反感を買う暴君。必然的に玉座に座らさせられた幼い王は真っ青な宝石眼を輝かせ凛と言った。


「私は国を統治しない。私は国民と常に共にあり、常に寄り添い、人生を捧げる。」


その言葉を聞いて国民は改めて落胆した。

なんとも気概のない子どもが王になったものだと、国を出ていくものも多かった。

しかし、国民の心とは裏腹にオオハルシャギク王国はものの数年で一気に発展を遂げた。

悪戯に広げられた国土は整備され、荒れていた外交関係も改善、国外から新たなものを受け入れる体制も整えられた。

これまで前時代的であったオオハルシャギク王国には諸外国の商人が行き来するようになった。

新しい思想も認められ、国民は生まれて初めての文化に触れることも増えた。

一部の批判はあったものの幼い王を支持する声は少しづつ広がり、かつての活気を取り戻し始めていた。


王は齢にして14、たった一人で王国を立て直した聖君として国民に慕われるようになった。


* * *


「リアナ、こちらにいらっしゃい」

5歳になったリアナは母の呼ぶ声を聞き、母の伸ばした手に自分の手をそっと乗せた。

リアナの母はリアナと同じミルク色の髪とルビー色の瞳をした人だった。

母は周りからは品行方正と称されていたが家では抜けたところがあり、よくこけるしなにかすれば怪我をする。そんな母のことをリアナは愛らしいと思い大好きだった。

母は慈しむようにリアナの手を握ると「お客様よ」と優しく言った。

その言葉にリアナは頷き、共に応接室へと向かった。


応接室には父と4歳になったばかりの妹カロナがいた。

そして母の言う客人であろう男と、少年が一人ゴブラン織りのカウチソファに腰掛けていた。

リアナは首を傾げ母の顔を見上げた。母は優しくほほ笑んだままリアナを抱き上げると、客人と向かいに位置するソファに座らせた。

「…」

リアナは座らされたソファからすぐに立ち上がると客人へ頭を下げた。スカートの裾を上品に摘まみ、習ったばかりのカーテシーをやって見せる。

「アシュベリー・リアナ・アプロディーテでございます」

その場に居た母は頭を抱えて小さくため息を吐いたが、リアナに頭を下げられた男は「ほう」と声をあげて感嘆した。

「さすがはアシュベリー殿の嫡女だ。5歳とは思えませんな」

爽やかそうな青年はそう言い、立ち上がるとリアナのカーテシーに倣うように深々と頭を下げた。その様子を見ていた父は慌て「頭をお上げください!」と叫ぶように慌てた。

リアナはその様子をじっと見つめていた。男の素性がいまいち掴めなかったからだ。

「私はこの国、オオハルシャギクの国王。ロータス・ガイア・エーオース。リアナ嬢、今日はお目に掛かれて光栄だ」

少し慌てたようにリアナはガイアよりも深く頭を下げなおす。

「はっはっは。よくできた子だ。頭をあげなさい」

リアナの様子を見たガイアは愉快そうに笑った。

20代半ばであろうガイアは、若いなりに経験豊富な老人を思わせるような貫禄をリアナに感じさせた。

「お前にも見習ってほしいくらいだな」

そういってガイア国王は奥のソファに座っていた少年の頭をぐりぐりと回すように撫でた。

少年は困ったように俯き、リアナのことをちらりと見た。

「ヒュー殿下、お初にお目にかかります」リアナはぺこりと再び頭を下げた。

これが、リアナとヒューの初めての出会いだった。


殿下と呼ばれた少年は俯きがちにこちらをうかがっている。

彼が現王唯一の子どもであり、次期王にと甲斐甲斐しくあちらこちらに連れ回っているというウワサの”ヒュー王子”であるとリアナは察した。

年に一度のフェスティバルで遠巻きに姿だけは見たことがあったので間違いない。王族特有の宝石のような虹彩が眩く見える。

性格は大人しく、気の弱い王子だと父の仕事仲間からウワサで聞いたことがあった。ガイアにぐしゃぐしゃに撫でまわされたされた髪の毛を優しくなでつける様子を見て…ウワサの通りのおとなしい人だとリアナは思った。

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