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第一話 夢の異世界

「あ、どもー。」


 目覚めたのは暗い部屋の中、それでも目の前に座る美しい女性の姿ははっきりと見える。

 あまりにも淡白な挨拶をしてきた彼女だったが、そんなことより自分の体が幽霊のように透けていたことに驚いて、声を上げる。


 「えなにこれ!?俺どうなっちゃってんの??体もスケスケだしどういう事よ!!?」


 「あなた死んじゃったみたいですよ、この後どうしましょっか?」


 今まで誰にも見せたことのない程のオーバーリアクションはあっさりと流される。

 まあ、正直なんとなく分かっていたことだから良いのだが。

 おそらく目の前で資料をペラペラめくっているのは女神という奴なのだろう。


 「あの、どうするって俺死後何が出来るのかとか全然分かんないんですけど。」


 「んー、何もない暗闇で迷走し続けるとかー霊の体をいじくりまくる実験に参加するとか。

  あ、後は異世界に転生して冒険するとかもあるっすね。」


 「異世界、それいいじゃないですか!」


 それがいい、というよりはそれ以外がだめすぎる。

 南無阿弥陀仏の精神は一体、どこに行ったのだろうか。


 「異世界…でも、実際人気あってもう相当な転生者があっち行っちゃってるんすよねー。

  予約取れるかどうかは、微妙だなー。」


 「えー、どれくらい埋まっちゃってるんですかね。」


 「テスト後のフードコートくらい?」


 「満席じゃねえか!」


 あまりにもコテコテなツッコミをしてしまった。

 しかし、や異世界というのは人気があるというのは間違いではないのだろう。

 実際、現代日本にはそんな異世界転生をテーマにした作品がたくさんあるわけだからこうして本当に行ける機会を与えられたら、ついつい夢を見てしまう。


 「んー、まあ取れないわけじゃないんすけどね。

  誰かトイレで席立った瞬間、そこに座るみたいな感じで。」


 「いやそんなマナーの悪いこと流石に出来ませんって。」


 「そうなるとなー。お、今何とか一人…っていうか部分的に入れそうっすね。

  ここに入れちゃってもいいっすか?」


 「はい、もうそれでいいです。お願いします。」


 部分的に…というのが少し気になったものの、何かこの女神適当っぽいからいいや。

 割と何の変哲もない人生だった気がする、それはもう前世の内容がバッサリカットされてしまうくらいには。

 せめて、次の人生では少しでも人の役に立てることをしてもいいかもしれない。

 モンスターを倒す騎士、人々の生活をサポートする魔法使い…


 「じゃあ準備できたんでもう行くっすよ。

  不備あったらまた呼んでください、裏にいるんで。」


 深夜のコンビニバイトくらいのテンションでその場を去る女神。

 せっかくこれからの人生について思いを馳せていたところだったのに…。

 こんな淡白な転生シーンはこれまでに一度でもあったのだろうか。


 目の前はいつの間にか光に包まれている。

 強すぎる光に、目を開けることですらままならなかった。

 と、そんなことを考えている隙間を縫うようにして意識が落とされていく。

 気づけば、何も考えることも出来ずに眠りに落ちていた。

 

 ………ん?何か聞こえてくる。

 優しい川のせせらぎに、鳥だったり虫だったりの美しい音色。

 目を薄く開けてみれば、さわやかな緑が広がっていてここが自然豊かな森であることが分かる。

 どうやら、異世界転生には成功したらしい。


 さて、これからどうしていこうか。

 まずはこの森を抜けて町みたいな場所にでてみるのもいいかもしれない。

 とにかく、壮大な世界を旅してやりたいことを決めてみよう。


 …あれ、歩けない。

 何でか分からないけど、体が全く動かない。

 そういえば、もう一つ確かな違和感があった。

 目線が明らかに低い気がする、もう地面スレスレ。


 ふと、嫌な予感が頭をよぎる。

 近くに、水たまりのようなものを見つけてそこに映った自分の姿を見てみた。

 映ったのは、生首だった。


 「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!」


 悲鳴が森一体に響き渡り、近くにいた鳥たちも一斉に飛び上がる。

 え、なにこれホラー?怖すぎるんだけど。


 「ちょっとおい、不備だよ不備。

  女神さーん、どうなってんのこれー!!」


 「はい。」


 急に目の前に画面が映し出される。

 そこには、先程まで話していたあの女神がいた。

 

 「え、これどうなってんの?ちょっと説明してよ!」


 「言ったじゃないすか。部分的に転生できそうって。」


 「部分的にって、パーツだけってことかよ!

  何か特殊能力とか、ステータスとかに関する部分だと思ったわ!」


 「話聞かないから…。」


 いや確かに聞かなかったけど、まさかこんな風になるとは思わない。

 改めて、頭だけ転生された経緯を聞く。


 「いや、この世界には最強の魔王がいたんすよ。

  それがようやく、一人の少年によってやられたと思ったんすよね。」


 「え、まさか。」


 「そう、その魔王は首を落とされたんすけど体だけで今も元気に暮らしてるって訳っすね。

  それで文字通り頭一つ分、転生できる枠が開いたってことっすね。」


 あまりに謎展開すぎる。

 何だよその魔王、単細胞生物かよ。

 どうやら俺は、その謎展開に自分から巻き込まれにいったやばい奴だったらしい。


 「じゃあ自分はご飯食べながらオモ〇マい店見るんで、頑張って欲しいっす。」

 

 「は?おい…」


 そこで画面は途切れる。

 確かにご飯時に見るのに丁度いいけど、ってそんなことを言ってる場合ではない。

 このまま暗くなっていったら確実にやばい、後普通に怖くて泣いちゃう。

 とにかく、移動しなければ。


 とりあえず俺は全身の筋肉を動かしに動かして、ようやく倒れることに成功する。

 その後は唇を動かしながら、何とか体を動…頭を動かす。

 こんな物理的に頭を動かすというワードを使うことになるとは思わなかった。

 多分、カタツムリよりやや遅いくらいのスピードは出ているのではないだろうか。


 だが、こんな所で諦めるわけにはいかない。

 ここで諦めたら、数年後に森の中で頭だけの白骨死体が見つかって終わりだ。

 俺も、今度は後悔の無いような人生をこれから送っていきたいんだ。


 それだけで俺の唇は動き続ける。

 少しずつでも、前に進み続ける。


 ふと、頭によぎった。

 異世界転生ものの第一話としてこの展開合ってる?

 どちらかといえば、ざんねんな〇きもの辞典みたいなダサすぎる絵に気付いた俺はそこで希望を失い、気絶した。

 どうか夢であってくれ、ってか夢だろこれ。

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