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ひろ君は遅れてやって来る

作者: 夜狩仁志


NOVEL DAYSに投稿した作品です。

「三題噺バトルコンテスト」参加作品でした。

三つのお題を盛り込んで小説を書くコンテストで、お題は「幼馴染」「ヒーロー」「始発」文字数は2000文字。

 私の幼馴染のひろ君は、

 いつも遅れてやって来る。


 今日も私は始発駅。

 始発電車で学校へ。

 私の幼馴染のひろ君が、

 乗り込んでくるのは、二つ先。


 いつも一緒のひろ君は、

 幼稚園からの幼馴染。

 家が近所の同い年。

 いつも一緒に遊んでた。


 それから小学、中学、高校と、

 同じ学校へ進学し、

 朝昼晩に登下校。

 いつも一緒に通ってた。


 高校進学した時に、

 ひろ君、隣町まで引っ越して、

 同じ学校、通うにも、

 電車に乗るのは二つ先。


 電車が止まりドアが開く。

 多くの人の塊が、

 波のように押し寄せて、

 一緒にひろ君、やって来る。


「おはよ!」

「おはよう、ひろ君」


 人で溢れた満員電車。

 周りの人に埋もれても、

 それでも、いつもひろ君は、

 私を見つけて来てくれる。


 幼馴染のひろ君は、

 いつも遅れてやって来る。


 どこかに遊びに行く時も、

 いつも私が待たされる。

 遅刻をするわけではないけれど、

 いつも後からやって来る。


「ごめん、おまたせ」

「また遅刻だよ」


「二分前だからセーフ」

「ぜんぜんアウト」


「仕度に手間取っちゃってさ」


 笑いながらそう言って、

 いつも話をはぐらかす。


 私が忘れ物をした時も、

 ふた駅目で遅れて持ってくる。


「ほら、お弁当。また忘れたのかよ」

「ありがとう。ごめんね」


 嫌な顔ぜんぜん見せないで、

 いつも私を助けてくれる。

 そんな幼馴染のひろ君は、

 私のヒーロー、ひろ君で……



 そう……



 私のヒーロー、ひろ君は、

 いつも遅れてやって来る。


 幼い頃の、ひろ君は、

 いつもヒーロー役をやっていた。

 幼馴染の私には、

 か弱い悲劇のヒロイン役。


 私がいじめられている時も、

 どんなに強い相手でも、

 どんなに人数いようとも、

 いつも遅れて助けてくれた。


「なんでもっと早く来てくれないの?」

「ヒーローは遅れてきた方がカッコいいだろ」


 幼馴染のひろ君は、

 ヒーローだろうと、なかろうと、

 早く来ようが、遅れようが、

 私にとってはヒーローだった。


 私のヒーロー、ひろ君は

 いつも遅れてやって来る。


 私が痴漢にあった時も、

 一番最初に助けてくれた。

 いつものように始発駅、

 車内でお尻を触られて、


 二駅目で乗り込んだ、

 ひろ君によって捕まって、

 痴漢をしていた、おじさんは、

 そのまま駅員さんに連れてかれ。


「大丈夫か?」

「……うん。すごく怖かった」


「ごめんな。俺も最初から乗ってれば」

「ううん、ありがとう、もう大丈夫だから」


 私の幼馴染のひろ君は、

 一足先に帰ってしまう。


 中学までの私たち、

 自宅までの道のりは、

 途中までは一緒でも、

 最後は一人で帰ってしまう。


 帰りが遅くなった時、

 私を家まで送ってくれて、

 帰りはひろ君一人だけ、

 私は背中を見てるだけ。


 今日も学校帰りの私たち、

 私は電車の終点へ。

 一足早く、ひろ君は

 二つ手前で降り行く。


 学校、クラスも同じで。

 帰る電車もおんなじで、

 それでもいつも、ひろ君は、

 一足先に別れてしまう。


 私のヒーロー、ひろ君は

 一足早く去って行く。


 そして今日も、ひろ君は、

 電車が止まりドアが開き、

 人の波と一緒になって、

 私を置いて降りていく。


「じゃあ、また!」

「うん、また明日ね……」


 正義の味方のヒーローは、

 いつも市民を置いていき、

 なにも語らず笑顔を残し、

 背中を見せて去って行く。


 感謝の言葉も言えなくて、

 顔と顔を合わせることもなく、

 手を繋ぐことも許されず、

 風のように去っていく。


 守られる側の人たちは、

 見送ることしか出来なくて、

 一緒になることも出来なくて、

 ただ待つことしか出来なくて……


 そう……


 私のヒーロー、ひろ君は、

 いつも先に帰ってしまう。

 置いていかれた車内では、

 孤独と寂しさで満席に。


 そして今日も…………ひろ君は、

 やっぱり遅れてやって来る。


 そして一足早く去っていく。

 たまには一緒に……最後まで……


「じゃあ、また……」

「まって!!」


 とっさに掴んだ彼の手は、

 温かくて、大きくて……


「どうしたん?」

「……」


 去って行こうとする彼を、

 遮るように閉まるドア。


「あの……もう少し…… 一緒にいたいな」

「……えっ? ……ああ、いいよ」


 私の幼馴染は、ヒーローに。

 そしてヒーローを経て、想い人。


 今は大好きな恋人に。


 終点へと向かう中……


 私と彼の新しい、

 物語は折り返し、

 二人で始発電車に乗り換えて、

 新たな未来へ、進み始める。

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