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ラブハンド  作者: hisasi
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苦い思い出は笑える

 男には決めなきゃなん時がある!


 バッチ来い!しかし、出来ない事が多いんだよね。


 とほほ。しかし、若いときなら笑えるよ。うんうん!

結局、由香先輩から明確な答えは求める事は出来ませんでしたが、僕の中では、間違いなく彼女は僕のものである事が決定づけられました。何しろ、彼女からキスしてきたのですから、彼女は僕に事が好きに間違いないと思ったのです。まあ、今考えても当然です。なので、それからの彼女と僕は、前よりも踏み込んだ関係になり、そして、何度もカラオケに通いました。

そんな事をしているうちに、二人の関係も深まり、僕は当然のように自分の彼女として先輩に接していました。僕はもちろん有頂天です。

こんな事があって、僕は前以上に積極的な人間になりました。そして、世界で一番の幸せ者だと信じて疑わないまま、季節は十二月になっていました。

十二月も後半になり、クリスマスが近づいてくると、僕は浮かれ気分になっていました。それまで、クリスマスに彼女はいた事がありませんでしたが、今年は相手がいるのです。確認はしませんでしたが、僕は当然、由香先輩と過ごすものと思っていました。彼女なので、彼氏の僕と過すのは当たり前の事でしょう。皆、そうしているのだし。僕はそればかり考えていて、プレゼントも十二月に入るなり考えて、シチュエーションまで考えて、準備万全の体制で待ち構えていました。彼女の慶ぶ顔まで浮かべるほど、僕は浮かれポンチになっていたのです。

しかし、それもつかの間の事でした。僕は信じられない事を聞いてしまったのです。

それは、部活の先輩からでした。

部活が終わった後に、僕が部室でいつも通り着替えていると、急に彼女と同じクラスの先輩が話しかけて来たのです。

「小田切さぁ、お前、渡辺と、仲いいよなぁ?」

この先輩は結構面倒見のいい先輩でした。

「は、はい。最近、まあ」

「まさか、付き合ってないよなぁ?」

僕はにやけて、付き合っている、彼女は僕のもんなんですよ、と言いかけたとき、その先輩が畳み掛けるように喋りだしました。

「付き合っては無いとは思うけどさ、あいつにあまり近づくとやばいぞ」

先輩が真顔でそう言ってきたので、僕は思わずスットンキョな声を出してしまいました。「ひへぇ?」

僕は先輩の言葉を、理解できていませんでした。

「あいつさ、有名なんだよ。男を弄んじゃうの。一年の時からそりゃあ、凄かったよ」

それを聞いて、僕はすぐに言葉が出ませんでした。何を言い始めたんだ、この人はと思っている僕を尻目に、その先輩は身振り手振りを交えて言葉を続けました。

「だってさ、教育実習に来てたやつをさ、あいつが誘って、惚れさしといて、捨てたらしくてな。どうやらこれが本当らしくて、同じ教育実習生に泣いて話してたって有名なんだよ。三年生の中でも、そんな事された人が何人かいるらしくてな。結構有名なんだよ。まあ、確かにあいつ顔は可愛いし、性格もあんなんだから友達になるにはいいけど、本気になっら痛い目見るって話だよ。まあ、可愛いけどな。もしかしたらと思ったんだけどな。一応、お前も後輩だからさ、相手は何人も男をたぶらかしてるらしいからさぁ。それに、他の学校にも痛い目見た奴がいるって噂だしさぁ。ん?おい!小田切聞いてる?」

その時の僕は、完全に自分を自分でコントロール出来ていませんでした。その先輩の顔を鬼のような目で睨みつけ、どんな言葉も耳には入らなかったと思います。だから、先輩が僕の名前を言った瞬間、何かの糸がブちっと切れてしまいました。

気づいたらその先輩に飛び掛っていました。

それに気がついて、周りにいた皆が止めるまで、僕はその先輩の服をつかんで離しませんでした。何かを言いふらしていたと思いますが、それも定かではありませんでした。ただ、気がつくと先輩の服が大きく裂かれて、腰の辺りから垂れ下がっていて、僕の手の中にはその服の布が握られていました。先輩はビックリして、慌てて僕から離れていきましたが、僕はしばらく何人かに組み伏せられて押さえつけられるまでじたばたしていました。  

そこにいた上級生に事情を聴かれても、答える事なんかできないで、僕は逃げるようにその場を後にしました。

次の日、僕はサッカー部の顧問の先生に呼び出され、僕が掴みかかった先輩と一緒に説教されてしまいましたが、僕は飛び掛った理由をちゃんと言えず、先輩も何も言わなかったので、先生はそれ以上二人を問い詰めませんでした。先輩からはいやな事悪かったって後から言われて、僕も冷静になっていたので、謝りましたが、やっぱりその先輩ともばつが悪くなり、僕もなんか馬鹿らしくなってしまったので、その日にサッカー部を辞めてしまいました。

そして、退部届けを出した翌日の放課後、僕はまた由香先輩を待っていました。

クリスマスも近くなってか、学校では男女二人組みが目立ち、仲良く話しながら校門から帰っていくのがどうしたって目に付きます。

僕は下駄箱の横に立ちながら、部室であの先輩に言われた事を思い出しました。

まさか彼女がそんな事していただなんて・・・。

僕にはそんな人だとは、どうしても思えませんでした。彼女が平気で人を誑かし、面白がっているなんて考えられません。

僕の気持ちを踏みにじっているだなんて・・・・。

何回も彼女と話し、唇を重ねて、僕らは分かり合ってきたはずなのです。彼女の口から真実を聞くまで、僕はそのことを受け入れられませんでした。ちゃんと僕が問いただせばきっと、彼女は否定するはずです。

その時の僕には、その自信がありました。

そんな僕の揺れ動く心を、知ってか知らずか、彼女は下駄箱にやって来ました。

廊下の奥の方から、女友達と三人でこちらに向かって歩いてきます。僕は迷っている心を落ち着かせようと、ひとつ息を吐きました。そして、頃合を見計らって、僕は先輩達の前に姿を現しました。

先輩達は、三人とも僕の方を向いて、先輩以外の二人はお互いに顔を見合わせました。先輩はいつもの笑顔で僕の顔を見てきます。

僕が何も言わずに由香先輩だけを見ていると、他の二人は先輩にさよならして、僕の脇を通り抜けていきました。

僕はそんな友達には目もくれず、由香先輩から目をそらさないでいました。

後ろで、なにやら話している二人の声が聞こえましたが、僕は気にしないで彼女に近づいていきました。

「どうしたの?部活行かなくていいの?」

僕は何も言わずに、さらに近づいていきました。

「なんかあった?珍しいね、木曜日に会うなんて」

彼女は、革の鞄を、お尻の上に両手で持ちながら、僕の方を見ています。

「ちょっと、聞きたい事があるんだ」

僕は、低い声でそういいました。

「何、どうしたの?」

彼女は少し不安げな顔をしました。

「とりあえず、帰ろうよ」

そう言って、僕は自分のほうの下駄箱に向かいました。彼女も何も言わずに、自分の下駄箱に行きました。

玄関を出て山の方を見ると、夕日が沈みかけていて、校舎の窓ガラスがオレンジ色に染まっています。カラスの鳴き声とともに、校舎の間を抜ける風の音がして、外に出た二人の顔を撫でてきました。

彼女は僕の斜め後ろに来て、僕の腕によりそって来ました。外には、この時間には珍しく誰一人いなくて、僕らは何も喋らないまま校門を出ました。

僕は、この時点で特に何も考えていませんでした。

とにかく、彼女の本当の気持ちを知りたい、ただそれだけを思っていました。横で何も知らない、いつもの彼女を見ていると、部室で聞いた言葉はまったくのとんでもない事の様に感じられ、疑いを持っている自分の方がおかしくすら感じられてきます。

すると、彼女は校門を出てすぐ、僕の手を握ってきました。僕が彼女の手の冷たさにびっくりして、十度斜め下を見ると、彼女も僕を見上げていました。

「武士の手、あったかいね」

彼女は白い息でそう呟きます。

寒くてもかさついていないピンク色の艶のある唇、冷たい風に揺れる睫毛、曇りの無い透き通った可愛らしい目、彼女の全てが僕の視界を埋め尽くしてきました。そして、彼女の目の笑い皺を見ているうちに、僕にある感情が湧き上がってきました。

僕は、彼女の手を力強く握ると、その手を強く引っ張って、足早に歩いていきました。

しばらく何も言わずに彼女を引っ張って行き、僕らがいつも使っている駅の近くに来ると、僕はいつもの帰り道から外れて、別の道を進みました。

いつもの様子と違う僕に気が付き、おかしく思った彼女が、僕の手を引っ張り返してきました。

「何でこっちに来たの?帰らないの?」

彼女はそう、聞いてきます。

「付いて来て」

僕はそれだけ言うと、さらに彼女の手を引っ張りました。

「話があるんでしょ?さっきから何も話してないじゃん。何話したいのよ?」

そう言って彼女が立ち止まるので、僕も歩みを止め、彼女の方に振り返りました。

「いいから、付いて来て!」

また僕が歩き出すと、彼女は不満そうにしながらも、付いて来ました。なので、僕はどんどん進んでいき、また、少し歩いていくと、また彼女が歩みを止めました。

「ここは・・・」

彼女が言いたい事はよく分かりました。

僕らの目の前には、派手できらびやかなホテル街に続く入り口があったからです。僕は彼女の声が聞こえない振りをして、彼女を強引に引っ張って歩き出しました。

もう、薄暗くなってきていて、埃まみれのネオンが怪しく光りだしています。呼び込みのお兄さんや、ティッシュ配りのおじさんの間を僕らは進んでいき、何軒も連なるいかがわしい飲み屋や、刺激的なお店の間を抜けて行きました。制服姿の僕らを見る視線にあおられ、彼女は自然に僕にくっついてきました。僕は幾分緊張しながらも、自分の気持ちがへし折られないようにと、胸を突き上げながら通りを歩いていきました。

そして、歩きながら、ぶっきらぼうに、少し戸惑った顔をしている彼女に話しかけました。

「俺、この前から凄い考えたんだ。俺は先輩に言ったよね?俺の気持ち」

僕は彼女を見ると、彼女は潤んだ瞳で見返してきました。そして、頷きました。

「でも、ちゃんと先輩から答えを聞いてなかったよね」

彼女は何も言いませんでしたので、僕はさらに言葉を続けました。

「でも、キスもしたし。だから俺は付き合っていると思ってるんだけど、なんか、ちゃんと気持ちを聞きたくて」

僕はゆっくり、でもしっかりと伝わるように話しました。こんな状況でこんな事聞くなんてかなり場違いとは分かっていたのですが、二人だけで静かな所でなんか聞く勇気がその時は無かったのと、一気に答えを決めてしまいたいという気持ちが、僕をこの場所に向かわし、こういう事を口にさせたのでしょう。

彼女は、僕の方を見ずに、前の方を見ていました。

「どうなの?先輩は、俺の彼女だよね?俺、確かめたいんだ」

僕は聞こえるように、彼女に言いました。

すると、彼女から僕の手をとって、勢いよく走り出しました。

いきなりの事に頭を働かせることもできず、ただびっくりした僕は、彼女に導かれるままに一緒に走りだしてしまいました。彼女は僕の腕を引きながら、おじさんや客引きやらの間を僕を導くように駆けて行きます。僕は彼女の揺れる髪の毛と後姿を見ながら、いったいどこに向かっているのだろうかと思いながらその通りをを抜けていき、駅の反対側に通じる地下通路に入って行きました。

通路にいる人たちの間を次々と抜けながら、僕らはまた地上に出て、線路沿いに少し進んでいきました。そして、小さな小道を入って少しすると、彼女は立ち止まりました。

「ここは・・・」

走ったせいで息を切らせながら、僕はそう呟きました。目の前には、古びた平屋の旅館風の建物があって、入り口あたりにひとつ電灯がついていました。先輩の方を見ると、彼女も「ハアハア」息を弾ませながらも、カラオケ店で見せたような、ゆがんだ目で僕の方を見て、怪しく口をゆがめました。

「制服姿じゃ、あんなとこ、入れないんだよ」

彼女は僕の手を握りながら、目の前の建物に入って行こうとします。

「ちょ、ちょっと待って!」

僕は慌てて彼女の腕を引っ張り返しました。すると、彼女は怪訝な顔してこちらを見返してきます。

「何?入らないの?」

僕は戸惑いを隠しながら、声を出しました。

「いや、そうじゃないけど、なんか、その、抵抗とかしないの?なんか、躊躇とかするもんじゃない?それを・・・」

彼女は不思議そうな顔をします。

「どうしたの?ここなら制服でも入れるんだよ。おばあちゃんが入れてくれるの」

彼女の言葉に、僕は信じられなくなりました。

「って言うか、どうしてこんな所知ってるんだよ!」

彼女は明らかに困惑しています。

「何でって、武士君があんなとこ歩いて、あんなこと言うから。私、てっきり・・」

「いや、そりゃ、そうなんだけどさ。でも、なんか、これって、おかしいぞ。先輩、何って言うか、俺・・・。」

彼女は、明らかに不満そうな顔をしてきました。そして、僕の手を勢いよく離し、少し離れると、鋭い眼差しをぶつけてきました。その目は「怒」の光を放っています。

僕は突然の事に混乱しながらも、頭の中で考えをめぐらしました。

確かにこういう事をして、確かめたかったんだけど、そうじゃなくて、嫌がってほしかったのに。ああ、何で先輩はこんな場所知っているんだ。しかし、こんなチャンス逃す事は出来ない。だけど、だけど、何か違う気がするぞ。やっぱり、先輩は・・・。

頭の中で色々な考えが浮かんできましたが、最終的に部室でサッカー部の先輩に言われた事が浮かんできて、それが僕の口から出て行きました。やっぱり、これを確認するまでは、どうしようもありません。

「俺、聞いたんだ。先輩、他にも男がいるんだろ?俺の事、からかってるんだろ?」

彼女はびっくりしたように口を空けました。まるで、まったく違った事を言っているかのようでしたが、僕は声を荒げながら続けました。

「色々な男と、ここに来てるんだろ?だから、いろいろ知ってるんだ!別に、先輩は俺の事が好きじゃないんだ。だから、ちゃんと答えてくれないんだ。そうだろ?」

彼女は驚いたような目を僕に向け、何にも言わずに見つめてきました。

「色々な男がいるのに、俺の気持ち知っているのに、俺のことからかって楽しんでたんだろ!」

僕がそう言い終ると同時に、彼女がそれを強く否定してくれる事を願いました。そして、また笑って二人で手をつないで帰ることを・・・。

しかし、彼女は笑いもしないで、怒ったように切り裂くような声を出してきました。

「そうよ!」

その言葉は僕の脳味噌を立てに切り裂きました。

「え?」

彼女はさらにまくし立てました。

「あなたの思ってる通り!あなたが言った事は全部ホント!私は君の事からかって楽しんでたの!」

僕は力なく呟きました。

「う、嘘だろ・・・・?」

「本当よ!一人でいる君を見て、なんか声かけて遊んじゃおうと思ったの!君に声かけたらどうなるか知りたくて、面白がってた!」

僕は彼女の事を呆然と見ながら、何も言う事は出来ませんでした。すると、彼女は僕の手をとって、今度は何か抑えたような、優しげに語り掛けてきました。

「あなたが私の何を知ってるか知らないけど、今こうして二人でいるんだから、それでいいじゃない。あなたは私の事が好き。そうでしょ?」

僕は体を動かす事が出来ませんでした。

「武士、よく聞いて。確かに、始めはそうだったけど、君と話しているうちに、本当に好きになってたの。あなたの声が好きだって言ったのも嘘じゃない。あなたの顔も好き。今は、あなたの事大好きよ。」

彼女の目は涙ぐんでいるようにも見えました。でも、僕の耳は何も受け付ける事はできませんでした。

「嘘だ!」

「信じてよ!だから、あなたが望むなら、私、いいよ。」

そう言うと、由香先輩は僕の手を優しく握ってきました。

しかし、僕はその手を振り払ってしまいました。何故でしょうか?しかし、振り払ってしまったのです。

すると、由香先輩の顔が急激に雲っていき、目から涙が溢れてきました。僕はその涙にいてもたってもいられなくなってしまいましたが、その時、彼女の強烈な叫び声が響きました。

「ほんと、信じられない!馬鹿!私がこれだけ言ってるのに、こんな事して!信じてくれないだなんて!あんたは私の事ちっとも分かってないんだ!お前なんか一生童貞でいろ!」

彼女は僕をすごい形相で睨み、持っていた鞄を僕の腕に激しくぶつけると、振り向きもしないで駅に向かって走り出していきました。

残された僕はただそこで立ち尽くしているしかなくて、その日どうやってうちに帰ったかすら覚えていません。ただ、確かな事は、僕は号泣して帰ったと言う事です。


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