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ラブハンド  作者: hisasi
33/37

グログラ!!!

 グラコロじゃないですよ。

しかも、これってちゃんと意味があるんです。フランス語なんですよ。


 グロ・グラ 調べてみたら分かるんです。


 なるほどってなもんですよ

一方、僕らのバンドは、田代さんの精力的な働きかけや、人気に乗じて儲けようとするレコード会社のおかげで順調に活動できるようになっていて、溜め込んでいた楽曲を次々に世に送り出しました。それらの曲は、「ラブ・ハンド」ブームのお陰もあってすさまじい勢いで売れてゆき、瞬く間に僕らは音楽業界でスター扱いされる事となりました。

街を歩くと声をかけられ、今まで疎遠になっていた人やまったく知らない人からの連絡などもあり、僕らは今まで生きていて味わったことのない感覚、有名人になった事を実感して、半ば、いや完全に浮かれていました。

何しろ話でしか聞いた事の無いような過密スケジュールを組まれ、寝る時間さえほとんどありませんでした。それでも、池内さんや上村さんは前以上に夜の世界に飛び込んでいましたし、九条君は前とは別人とも思えるように精力的に活動していました。九条君には女の子のファンが結構いて、彼にとっては今までの人生の中で考えられないくらいのラブレター(ファンレターとは別に)を貰ったり、プレゼントを貰ったりもしていてました。それに加えて、自分の才能を世間に理解され、実際に結果を出している事に、音楽的な力という面と、自分の男としての魅力という面で相当な自信をつけたようでした。

こんな感じで、僕以外の男性メンバーは三人で夜の街に繰り出していき、それを僕と北村は一緒に見送っていました。もちろん僕も誘われてはいたのですが、僕は僕で「ラブ・ハンドパーティー」の面々と会い、色々と話して指示を出さなくてはならなくなっていたのでそんな時間はありませんでした。計画の第一段階が成功したとたんに、各方面から色々な案件が持ち出されてきて、今田さんが僕を交えて話し合うことを望んできたこともあったので、今まで任せていた事にも加わらなくてはならなくなったのです。

他のメンバーには、ほとんど「ラブ・ハンド」関係の事は、話してなかったのですが、まあ、彼らもあまり気にしてはいなかったのですが、北村だけには色々な事を相談していました。北村も北村で、今までとまるで違う環境になったことに戸惑っていて、バンドの中では唯一の女性と言う事もあってか、幼馴染の僕に色々なことを相談してきました。

彼女は、バンドがうまくいっているのは嬉しいんだけど、自分が変わっていってしまうようで怖いとか、このまま人気が出て行くと、メンバーの心変わりがあるかもしれなくて心肺だなんて事を、しきりに僕に言ってきました。それに、これは僕もそうなのですが、田代さんの健康の事も心配の種のようでした。

最近の田代さんは、明らかに以前より痩せてきていて、顔色もよくありませんでした。でも本人はそれを口に出す事はなくて、僕なんかが心配して話をその事に向けると、急に不機嫌になって怒り出すのです。とは言え、今は田代さんの部屋ではなくて、レコード会社のスタジオを使っていたり、忙しくて中々会えないので、余計に彼の事が心配になっていました。前なら毎日のように会う事が出来ましたが、今ではほとんどメールか電話のやり取りなのです。電話口だと顔が見えない分、言葉で余計に聞いてしまい、その度に田代さんの声が跳ね上がります。

「お前に心配されなくたって、俺の事は俺が一番よく分かってんだ!俺を誰だと思ってんだ!お前はそんなことより音楽の事を考えろってんだ!アルバムも出したばっかなんだし、それに、ツアーも始まるんだ!余計なこと考えてんじゃねえよ!」

それだけ言うと、僕が何も言わないうちに電話を切ってしまうのでした。それでなくても田代さんにここまでしてもらった僕は、そう言われると何もいえなくなってしまいましたし、田代さんの言うとおり、僕には余計な時間はなくなっているのでした。

僕らのバンドは、初の全国ツアーに向けて動き出していたのです

僕らのツアーは、北海道から始まりました。

北海道のドーム球場が僕らのステージとなり、チケットは完売していました。当日の朝には少し小雨が降っていて、僕はホテルの窓から心配そうに雲行きを眺めていましたが、初ツアーに意気込むメンバーと、初めての北海道に楽しそうな北村を見ていると、緊張感も程よく感じられて、気分も上向いてきました。それに今日は、今田さんや斉藤さん、森田幹事長はさすがに呼べませんでしたが、「ラブ・ハンドパーティー」の面々は間宮さんも含めて招待していましたので、かなり気合が入いりました。

会場に行く時間が近づくにつれて、メンバーのテンションも上がってゆきます。九条君は片時もギターを離しませんですし、池内さんは頻繁にトイレに言っては戻ってきました。上村さんも口数少なくて、いつもだったらおべんちゃらを使ってくるレコード会社の人達もぽりぴりしたオーラを纏う彼らには話しかけても来ませんでした。でも、みんな気合が入りすぎて、ここでテンションを上げすぎないようにしてる事が、いっしょにいる僕には分かりましたから、そんな彼らに僕がする事と言えば、何もせず、ほおっておくくらいなものでした。

ただ、北村には違いました。

僕は一人だけ部屋の違う彼女の所に足を向けました。

いつもは強がっている彼女でしたが、ここの所ライブ前はいつも必要以上にナーバスになていましたし、飛び入り的な所があったせいか、バンドが人気が出てからも北村は自分に自信が持てていないようでした。

彼女が思っていたよりも心配性なようなのが、最近僕にもよく分かってきたのです。

この頃は、彼女の事が前以上に身近に感じられていました。

「はーい!」

僕がドアをノックすると、彼女の声と共に足跡が聞こえ、ドアが開きました。

「何だ、武士か。」

彼女はホッとした様な顔をしてそう言うと、僕を部屋に入れました。

「準備できたのか?」

「え?あぁ、うん」

「何だよ。緊張してるの?ドーム位なんて事ないよ。規模は比較にならないけどさ、ライブはライブじゃん。いつも通りやれば大丈夫さ!自分達の音楽を皆に聴いてもらうだけ、ただ、それだけだろ?」

僕はそう言って、笑顔を北村に送りました。北村は少し口元を緩ませます。

「まあ、それはそうだけどさ。やっぱ大勢の人の前に出るのは緊張するよ。ブラスバンドで全国コンクールに出た時も緊張したけど、その時は私以外にも大勢いたしね。大勢の中の一人だから気が楽って言うか、同じトランペットの子達もいたから。今度は私一人だからねぇ。うまくいかなかったらすぐ分かっちゃうじゃん?」

僕はベットに腰掛ける北村の隣に座りました。

「何言ってんだよ!一人じゃないよ。バンドなんだぜ。チーム、チーム。一人は皆の為、皆は一人の為。いわば運命共同体だぜ、メンバー全員」

僕がそう言うと、北村は窓の外を見ました。そして、片手で髪をかき上げると、また僕の顔を見てきました。

「ふふふ、何か、ちっちゃい頃のあんた思い出しちゃった。馬鹿で、ちびで黒くて、バカで、何考えてるかよく分からん奴でさ。先生によく怒られてたし、言ってることも意味不明だったし」

北村の透き通った黒い瞳が、僕の心を覗いてきます。

彼女の少し赤らんだ白い頬が、少しとがった鼻が、僕のすぐ隣でいたずらっぽく動きます。僕は横目で彼女を見ながら、鼻で笑うように頷きました。

「中学の時も、高校の時も、いったいこいつはどうなるんだと心配だった。そしたら、あんた料理人になるって。もういきなりだったし、やっぱり何考えてるか、分からなくてさ。それも、辞めちゃうし」

僕はなぜか痒くなって、大きな声を出して笑ってしまいました。

「心配ばっかかけちゃうな、俺」

すると、北村は目を閉じ、かみ締めるようにゆっくり首を振りました。

「ううん。あんたには感謝してるんだよ。私、あんたに田代さんの所に連れっていかれなかったら、今みたいに充実していなかったもん。今だから言えるけど、あの頃はほんと八方塞りだったの。教員試験は受からないし、その時付き合っていた人には振られるし、ピアノ教室で教える事にも疲れを感じていたの。もう、行き場がないって言うか。だから、ほんと、思いっきり音楽している今の自分が信じられないくらいなの」

彼女は一呼吸億と、言葉を続けました。「

「今でも色々戸惑ってしまうけどさ。このバンドに私が貢献してる事なんて些細な事だけどさ、今は楽しいって思うの」

北村の血色のいい唇が、動きを止めて、閉じられました。

何故か、その様子が、僕の心の暖炉に、火を灯しました。そして、僕の頭の奥がにわかに熱を持ち始め、小さな光がだんだん大きくなっていくのを感じました。

「俺も、楽しいよ。充実してる」

北村の整えられた眉が動き、その黒目がまたもや僕を探りように見てきました。 

「あんた好みの女の子、増えてきてるもんね」

「そ、そうじゃなくて、何て言うか。そうじゃない!」

「そうじゃないなら、どうなのよ?」

 僕は何と無く言葉に詰まってしまいました。

そうじゃないけど、何て言うか、そうじゃない事で楽しくて充実して、安らげるというか・・・。自分の言った言葉が、何故か僕に圧し掛かってきます。

すると、言葉の詰まった僕を突き放すように、彼女の声が飛んできました。

「あっ、もうこんな時間になってる!?準備しないと遅れちゃうわ!コンサート初日に遅刻なんて恥ずかしすぎだよ。あんたもぼけっと座ってないで、支度しに行きなさいよ」

 北村が備え付けの時計を見て、急に立ち上がって動き出しました。

「俺は向こうに衣装があるから、もう行けるよ」

「じゃあ、早く皆の所に行きなさいよ。私、ちゃんとお化粧していかなくちゃ」

 北村はそう言って、備え付けの鏡台の前に座りました。

「じゃあ、化粧終わるまでここで待ってるよ」

その僕の言葉を聴いて、北村がすぐにこちらに顔を向けました。

「ば、馬鹿ね!出てってよ。あんたに化粧するところ見られたくないの!早く行ってよ。もう!」

そう言うと、彼女は立ち上がり、まだベットに腰掛けていた僕を、部屋の外まで追い払ってしまいました。

「先に行ってて!時間にはロビーに行くから」

 彼女はそう言うなりドアを閉めてしまいました。

僕は仕方なくその場から離れてゆきました。

しかし、彼女があんな気持ちでいたなんて、なんて言うか、知らなかった。

僕はそう思いながら、バンドマンルームのほうに歩いてゆくのでした。

 コンサート会場には数えきれないほどの人達が押しかけていて人の塊を作っており、裏口にもかなりのファンが押し寄せていました。リハーサルを終えた僕らは、すでに本番用の衣装に着替えていて、いつでもスタートをきれるように気持ちを持っていくことに集中していました。

でも、ちょっと気晴らしに表の様子を覗きに行くと、もう客席は満員に近い状態でした。前のほうには、何人かいつも見るファンの顔がいて、皆一様に、「ラブ・ハンド」スタイルでした。まあその子達だけじゃなく、いたるところに、いろんな腰を強調する服の子がいました。

ここで見る限りでは、僕の思い描いたと売りの世界が広がっています。

僕は意気揚々としながら、一人浮かれ気分でいたのですが、そんな僕を見て隣にいた上村さんが、醒めた声で言ってきました。

「女の子のファンがいっぱいいるのはいいんだけど、どこか惹かれないのは俺が年取ったせいなのか?武ちゃん?」

 僕は女の子達を指差しました。

「何言ってるのさ。夢のようじゃないの。大体、拓さんも最近、もててもててしょうがないって言ってるじゃん。いい思いしてるのは一緒じゃないの」

 上村さんは頭を抱えながら首を振りました。

「だめだこりゃ。でも、お前は俺と好みがかぶらないから好きだけどね」

僕らは、鼻を鳴らして握手しました。そして、ステージ裏に向かいます。

もう、開演間近。全員の準備出来ていました。

「じゃあ、いつもの行こうか!」

僕がステージ裏にいる皆に大声で呼びかけると、バンドメンバーと、スタッフが集まり円陣を組みます。

「グローバル!」

僕の声に続き、皆の怒号が響き渡ります。

「おぉぉーっ!」

掛け声の余韻を背に感じながら、僕らはステージに向かいました。

合図と共にスタジアムの照明が落とされ、演奏用の照明に切り替わると、ざわざわしていたスタジアムに一瞬の静寂が訪れます。

しかし、それもつかの間、

「グーロ・グラ!グーロ・クラ!グーロ・グラ!グーロ・グラ!グーロ・グラ!グーロ・グラ!グーロ・グラ!」

僕らを呼ぶ声がスタジアム中に響き渡り、手拍子が鳴り響きます。

僕はメンバーの興奮した顔を見回しながら、ステージに上がりました。

「グーロ・グラ!グーロ・グラ!グーロ!きゃぁぁぁー!!!」

歓声が僕らの体を吹き飛ばすかのように鳴り響きます。

僕は手を振りながら、マイクスタンドまで進んで行きました。マイクスタンドは丁度ステージの中央に設置してあるので、そこからはスタジアム中が隅々まで見渡せて、ステージから二階席まで人がびっしりといるのがよく分かりました。

スタジアム中のオーディエンスが総立ちして歓声をあげていて、僕に手を振っています。メンバーがポジションに着いたのを確認すると、僕はマイクを握りました。

「北海道の皆!グローバル・O・グライダーです!」

僕の一言に、オーディエンスが反応してきます。

「今日は雨が降りそうな天気の中来てくれて、本当に嬉しいです。傘を持ってこなかった人もいるかな?でも大丈夫!変える頃には止んでるよ。俺達の音楽と、皆の力があれば、雨雲なんて吹っ飛んでくぜ!皆!今日はそのつもりで盛り上がってくれよ!」

僕がそう言って片手を天に指差すと、女の子達は同じように手を振りあげ、同じように天を指差し僕の名前を呼んできました。

「よし!皆の熱気が伝わってくるぜ!今夜は激しく燃えあがんぞ!激しいのいくぞ!聞いてくれよ!『スーパーサウンド』!」

僕がそう言い終わるか終わらないかのうちに、観客の歓声が響き、それと同時に、九条君のギターの音が響き渡りました。

彼の細くて華奢な指が減の上で踊り、照明のせいでピックがきらきら光っています。

僕は全身でリズムを取りながら、気分が高ぶらせ、同時にサウンドに呼吸を合わせていきました。次第にドラムやベースの音が重なり、音が激しくなっていきます。

そして、僕は歌い始めました。

正直、これだけの人の前で歌うのは初めてではありましたが、異常なくらい気持ちよくて、脳に快感が吹き上げます。それはメンバーも感じているのか、僕のノリが感染したのか全、ての音が気持ちよく弾んでいるのが分かります。

その流れでサビになると、観客席からも歌声が聞こえてきて、僕は手で客の声を引き寄せました。

このステージからは、オーディエンス一人一人の顔がよく見えて、歌という糸が、僕と観客を縫い付け、まるで僕もオーディエンスも一つの固まりなっていくようです。そうして、曇りひとつない盛り上がりがスタジアムを埋め尽くし、僕が歌い終わると、大歓声とともに収縮していきました。

それから僕らはどんどん演奏していきました。

今度のツアーは僕らのファーストアルバムを演奏するツアーで、その中には立て続けに出したシングルが入っていることもあり、よく知っている曲が多かったので、観客席が静かになることはありませんでした。

メンバー紹介の時の北村の恥ずかしがり方(彼女はいつも控えめだったので、テレビでも雑誌でもあまり目立つことはしませんでした)も面白かったですし、九条君目当てのファンは「ラブ・ハンド」スタイルじゃないという事や、会場にいる男性ファンは大方上村さんの「コロラド」時代からのファンだと言う事も、池内さんは、大勢の前だと結構照れ屋だということも分かりました。

それに、客席にいるファンは、僕の独りよがりなトークにも付き合ってくれましたし、ロックにもバラードにも申し分のない反応をしてくれました。それを肌で感じた僕らも、確信に近い手ごたえを得ていました。

そうして、予定していた最後の演奏が終わると、すぐに観客からアンコールを求める声が沸き起こり、僕はもったいぶったようにマイクを持ちましたが、内心は嬉しくて仕方ありませんでした。それと言うのも、僕は事前にアンコール曲を決めていて、それを皆にも伝えていたからです。

それは、僕が作詞作曲した「好きな人に歌う唄」と言う曲でした。

十二曲を終えて汗まみれの面々に目配せすると、皆準備OKとでも言うように頷いてきました。僕は嬉しさを隠しつつ、アコースティックギターを持ちに行き、アンコールを叫ぶ観客の皆に語り掛けました。

「ありがとう。実はアンコールがなかったらどうしようかと思ってたんだ」

観客の声が止み、僕の声だけがスタジアムに響きます。

「でも、皆のその声を聞けて本当に嬉しいよ。最後の曲は今日初めて発表するんだけど、僕が曲を書いたやつです」

ファンの女の子が、喉から驚きの声を響かせます。

「ちょっといつものグロ・グラ・サウンドと違うかもしれないけど、アコギを手にして思いをつづってみました。聞いて帰ってください。あぁ、最後にしたくないけど、最後の曲です。『好きな人に歌う唄』!」

僕はそう言うと、北村を見ました。

彼女は一つ頷くと、ゆっくりと鍵盤に指を走らせます。

そうして、静まり返った会場にピアノの音と、ギターの音色が響いていきました。


* ビルの間に見えるのは  温かい風が吹いた日に 君と見た僕らの星

  星の光が届く時間と あなたを思う時間は同じだと 君が笑って名をつけた


 気まぐれな風が吹き  桜色の渦巻きが 二人の周りを包んだね  

  悩みはいっぱいあるけれど  君が笑うたびにほら 心が晴れやかになっていく


 君が言った言葉だけ  僕の心に刻まれて

  君の温もりを感じている  それ以上何がいるんだろう

  君を幸せにすることが  僕が幸せになること なんだ

 

  人は定められて生きるなら  君と二人で歩いてる今が

  きっと正しい道なんだ


 いつも隣にいてほしいから この先何がおころうと

  君を守り続けける  そう決めたんだ


最後のフレーズを弾いた後に、僕は優しく弦を指で押さえ、そして顔を上げました。

スポットライトが、すかさず僕の視界を奪います。しばらくの静寂。その静寂を一つの拍手が破り、それに二つ、三つと続いていくと、それは会場全体に広がって、やがてスッポットライトに当たっていた僕を会場全体の拍手が包み込んでいきました。

「たけしー!!」

「グロ・グラ最高!」

「また来てー!!!」

割れんばかりの拍手の中から、そんなファンの声がいくつも飛び交い、僕らはそれに答えるように手を振りながら前に並んで、同時に頭を下げました。

右側のファンに、正面の観客に、左サイドの応援団に、会場にいるすべての人に感謝の気持ちを表して、コンサートの幕を閉じました。

北海道公演を終えた僕達は、その後の仙台、横浜、東京、大阪とライブに来てくれた観客を沸かせて、強行軍のツアーを精一杯頑張りました。どのコンサートも評判は上場で、会場は常に満席、チケットもすぐにソウルドアウト、そして、会場には「ラブ・ハンド」スタイルの女の子が溢れていました。マスコミもこれを取り上げ、一つの現象として大きく扱う事もあり、僕の実現したかった、「ラブ・ハンド」を世間に広めると言うことは叶えられていったのです。

僕は自分のやってきた事が形になり、世間に影響を与えたと言う事実に、かなりの満足を感じていました。だって、レストランを辞め、インターネットで頭を悩ませていた頃では考えられない事が今起きているわけで、小さい頃からの夢見てきた光景(一度に二万人のラブ・ハンド!!)も今となっては見ることができ、僕自身の存在も世間で認められてきているのです。

こうなってくると、自分の中で特出してくる感情を隠せはしませんでした。

僕はいくらでも自分の思い通りにやりたい事が出来るし、色々な女性と触れ会う事が出来る。僕の影響力の影響力があればどんな事だって出来る、僕の言葉が世間を変えていくんだ!ツアーが西に進むたびに、僕の中ではそんな思いが膨らんで生きました。今はツアー中でなかなか身動きが取れないし、空いている時間にもさまざまな仕事が入っていて、ちゃんとした自分の時間は取れてなかったのですが、このツアーが終わったら、きっと僕もオイシイ思いが出来るはずです。夜眠る度にそんな思いが頭占めて、その度に僕は焼け焦げるような期待感とこみ上げてくる優越感の波に揺られるのですが、気持ちよくそれに浸るとようやく、眠りにつきした。


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