スター街道爆走中!
ロックンロールスターになって、一花咲かせてくださいな!
それから僕達は、デビューの喜びに浮かれる暇もなく、ライブ巡りに突入しました。
始めは都内のライブハウスで行われ、数組のバンドとの競演でした。僕らにとっては初ライブでしたが、田代さんの影響力と元「コロラド」のドラマー上村さんが活動しているバンドと言う事を知っている人達や、業界人や色々な噂を聞きつけてきた人、あと「ラブ・ハンドパーティー」の遠慮がちで控えめな宣伝の甲斐もあって、僕らの注目度はかなり高いものがありました。なので、初ライブにしては結構な待遇だったと思います。
僕や九条君はライブが初めてだったので、始まる前は緊張でがちがちでしたが、同じくライブ初挑戦の北村のあまりの緊張感のなさというか、肝っ玉のでかさと言うか、のんびりして落ち着いた様子に助けられて、僕ら二人は程よい心境でライブを迎えられました。九条君は北村と話しながら、徐々にリラックスしていったようですし、僕は北村が緊張してないのに僕がするなんて悔しいという思いから、必死でそれを乗り越えつつ、張り詰めたいい緊張状態に自分を持っていきました。
さすがに上村さんや池内さんは落ち着いた様子でしたが、皆に共通して言える事は、ライブをやりたくてたまらなく、うずうずしていると言う事で、皆、逸る心を抑えられないかのように、冷静な炎を燃やしながら控え室で過ごしていました。
ただ、応援に来ていた斉藤さん一人だけが、かなり興奮していて、燃える魂を前面に押し出しながら、いつも以上に僕やメンバー達に声をかけてきました。
ライブが始まり、前の組の演奏が聞こえてくると、それぞれに楽器の最終調整をしだし、僕は歌詞カードを見たり、挨拶の事などを考えていました。田代さんはライブハウスの関係者や、業界人らしき人達と話していて、僕らの所にはあまり来ませんでした。他のバンドなんかも田代さんの事は知っているらしく、まるで事務所の社長にするみたいに挨拶したり、様子を伺ったりしていました。代わりと言っては何ですが、斉藤さんが僕の傍にくっついてくれて、僕にはボーカルのしゃべりも巧みじゃないと格好つかないとか、しびれる台詞をいくつか横で教えてきてくれましたが、僕の考えは決まっていたので、それは聞き流していました。
何しろ色々な想いが詰まったバンドではありますが、ここまで来れたのは自分だけの力ではありませんし、今更格好いい事なんていっても仕方ないのですから。
飾らない、素直な気持ちで、その場で思ったことを言いたかったのです。決められた感情なんて、くそっ食らえの精神でここまで来たのですから。それに、いくら緊張していたって、本当の言葉なら素直に声になるはずです。
僕はそれだけ決めて、完璧に頭には入っていてのですが、歌詞を見る事に集中しました。
不思議なもので、皆で練習している時にはもう人の手に渡った気になっていた歌詞が、改めて読み返してみるとそのときの気持ちやら、作っていた状況、その時後ろで流れていた音楽とか匂い、思いついた場所なんかが思い出されてきて、ふつふつと心の奥で火がつくのが感じられてくるのでした。
「グローバル・O・グライダーさん、準備お願いします」
ライブハウスのスタッフの声が聞こえてきました。
僕らは立ち上がり、その時には控え室に来ていた田代さんを中心に集まりました。
「まあ、いつもどうりやってこい。俺が確信してるんだから間違いない。風、起こしてこい!」
田代さんがそう言うと、僕はさっと前に手を出しました。すると北村が、僕の手に自分の手を載せてきました。そして九条君。何故か斉藤さん。苦笑いしながら池内さん。仕方ないなと上村さんが、手を合わせてきました。
そして、田代さんの顔を皆で見ました。
「おいおい、俺は勘弁しろよ」
と田代さんは言いましたが、僕らは無言の笑顔で懇願すると、しぶしぶ手を出してきました。
「グローバル!」
僕がそう言うと、皆は声を合わせました。
「おーぉぉ!」
恥ずかしそうに頭をかく田代さん、鼻を大きく膨らませながらみんなの背中を叩く斉藤さん、そして、周りで見ている人を尻目に、僕らは初めてのステージに向かいました。
「初めまして!グローバル・O・グライダーです!」
ステージの眩し過ぎるライトに照らされながら、僕はマイクを握りました。思っていた以上にお客がいて、僕らの音を逃すまいとして耳を張り詰めているように感じられて、僕は少し大きな気分になってしゃべりました。
「今日が僕たちのデビューですが、最高の音、聞かせますんで、耳に焼き付けてください。そして、盛り上がっていきましょう!」
僕はそう言うと、隣にいる九条君、池内さん、北村、そして最後に上村さんに目配せして、マイクを持ちました。
僕の合図を皮切りに植村さんのドラムが鳴り響き、曲は始まりました。
激しいサウンドの、ノリノリの曲「竜神」です。
* 苦し紛れの言葉だけ いつの間にやら身についていた
心の奥で隠してる 僕の言葉は誰も聞けない
はぐらかすだけの笑顔じゃ 誰の心も掴めやしないさ
愛のこもった声だけが!! 君の瞳を輝かせるんだ
退屈な毎日の中で起こる事も いつもどおりの日常さえも
Ah 吹き飛ばすほどのボルケーノ 君がきっかけで噴出すよ
未来と言うエッジが! 僕の頬を切り裂いた!
過ぎ去った過去が今! 目を光らせ吼えているんだ!
甲高い声で叫びだす! 君の心を捥ぎ取るよ!
鋭い牙で噛みつくんだぜ! 僕の 心にいる 竜神よ!
曲が終わり、ギターの音が止むと同時に、ライブハウス中に歓声が響き渡りました。オーディエンスが僕の目の前で沸いていて、それを見た僕の頭も沸騰しました。
今まで感じた事の無い快感が僕の全身を駆け巡ります。
額に噴出してきた汗を拭って、僕は彼らに話しかけました。
「次は、僕らのデビュー曲になります。街角で聞こえるようになれば最高ですが、一足先にここで聞いてもらいます。『スーパーサウンド』、聞いてください!」
*ふつふつとこみ上げてくるんだ 僕の感情が溢れ出す時に
頭の中に流れてくる 誰も知らない音がある
あぁ 苛立ちを感じながら あぁ 尚早の時を過ごしながら
いつも追い求めてる音がある
さあ すべてを投げ出して さあ 求め続けて彷徨いながら
もてるプライドを注いでも まだ掴めない音がある
一瞬の出来事なんだよ 頭の中で破裂するんだ
その一つ一つを手に入れて 鳴り響いた時の喜びが!
スーパー サウンド スーパー サウンド 頭の中で鳴り響くんだ
スーパー サウンド スーパー サウンド 君に聞かせたいこの歌を
スーパー サウンド スーパー サウンド 永遠に響くメロディを
スーパー サウンド スーパー サウンド 世界が変わっていく音が鳴る
僕が歌いきると、一瞬の静寂を迎えた後に、激しい感性が響き渡りました。
フロアーにいる全てのオーディエンスが、発狂にも似た声を挙げて興奮しています。
僕はメンバーの顔を見回しました。皆息を上げながら満足そうな顔を返してきて、袖にいた田代さんも僕を見て親指を立てました。そして、湧き上がる歓声が鳴り止まずに、僕らを包み込みました。僕は高揚しながら上を見上げると、ライトの光を目を焼き付けました。
それから僕らは「最後の言葉」と言うバラードと、「遠い光」(これは僕らの記念すべき第一曲目です)の二曲を演奏して引き上げました。引き上げると斉藤さんが顔を真っ赤にして僕に駆け寄って「よかった、よかった」と繰り返しながら抱きついてきました。
田代さんは僕らを見ながら、にやりと笑うと
「まずまずだな。これからだぞ!」
とだけ言って、また関係者達の方に行ってしまいました。
ただ、顔が嬉しそうだったのは僕もメンバーも見逃しませんでした。要するに、満足してくれたようです。テンションの高いままの僕は、メンバーにハイタッチしま栗、北村の前まで来ると、頭をもみくちゃにしてやりました。北村は声を上げながらはしゃぎましたが、僕の脛に二発、けりを食らわすのを忘れませんでした。
とにかく、僕らは初めてのライブを成功させることが出来たのです。
それから、ほぼ毎日ライブのスケジュールが組まれて、都内はもとより、横浜、大阪、福岡のライブハウスをめぐりました。同時に色々な媒体を使って僕らの宣伝がされ、考えられない位の反響を受ける事になりました。それに伴って日覆うごとにファンが増えているのがはっきりわかり、一緒のステージに上がったどのバンドよりもオーディエンスを沸かせていました。それは僕らの自信を確信に変えさせてくれて、僕らもオーディエンスの熱風に当たるたびに、それを自分たちの力に変えていく事で、音楽の質を上げていきました。
そうやって、僕らは激流のようにめまぐるしい、でも蜂蜜のように濃密の三ヶ月を過ごし僕らの歌を主題歌に使っているドラマの放送日を迎えたのです。