表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラブハンド  作者: hisasi
30/37

メジャーデビュー

 いやーこんな事ってあるんですね。

 大丈夫なんだろうか しかし、敏腕プロデューサーだなぁ。


 こんな人の近くにいたいよー

     ☆☆☆☆☆


「さあ、今日もどんどんリクエストを受け付けるよぅ。皆、どしどしメールを送って下さいね。じゃあ、今日の一発目をいってみよう!最近やたらにリクエストが増えてきた期待の新星!ドラマのタイアップから火がついた、赤丸急上昇中のバンド!『グローバル・O・グライダー』で『スーパー・サウンド』!轢きつけられるボーカル武士の声を聞いてくれ!」


レコード会社に向かう車の中で、いつものDJの声が流れた後に、僕らのデビュー曲が流れてきました。

連日、各メディアで、何度も、何度も流されている僕ら名前でしたが、未だに聞きなれない感じでした。自分のバンドの名前を聞くと、胸の奥を、見えない手で擽られたようになるのです。

隣で寝ている九条君のいびきに混じって、僕らの歌が流れてきます。

上村さんと池内さんはと言うと、僕らの後ろの席で北村となにやら話しているようでした。自分達の曲が流れても皆が騒がなくなったのは、もう慣れてしまったからでしょうか?夕方の渋滞に捕まった車はゆっくり進んでいるようで、運転してくれている僕らの担当マネージャーの漆原さんが、肩越しに僕を見てきました。彼は僕らの曲のリズムに合わせて肩を揺らして、目と口元をにんまりさせると、また前を向いてアクセルを踏み込みました。助手席にいる斉藤さんは夕日をまぶしそうに、しかめ面しています。

僕はカーテンの隙間に見える外の風景を見ながら、いつの間にかうとうとしてきたのですが、そうこうしていると、色々な事が思い出されてきました。


北村が田代さんのスタジオに来た日の夜、上村さんや池内さんも集まって早速、曲

を作り上げていきました。

あの曲の題名は「遠くの光」。僕の素直な気持ちを書いたものでした。

僕と九条君がそれを皆の前で演奏すると、それぞれのパートを、その場であれやこれやと二人が足していき、それを田代さんの感性が纏めていきました。そんな僕らは、朝方まで眠気も感じさせないくらいに音を鳴らしていき、そして、一つの歌を完成させていったのです。正直言って、僕らの曲を田代さんも巻き込んで、ここまで煮詰めたことをありませんでしたので、異常な興奮がありました。そうだからか、うまく音が重なって出来上がっていくのが手に取るように分かりましたし、いつにない集中感と結束力がバンドの中で起こっていたと思います。いつもは自分の曲ばかり弾きたがる池内さんも、この曲を聴いてからはめったに見た事の無いいまじめな顔つきでベースに向き合っていましたし、後で分かったのですが、九条君の曲作りのアドバイスをたびたびしていた上村さんは、前から作っていたんじゃないかと思えるくらいのアレンジをしてきました。そして、何故か北村も帰らないで付き合ってくれて、田代さんの家の台所を借りて夜食を作ってくれました。

僕が明日仕事じゃないのか?と言っても目を輝かせてこう言うのでした。

「こんな瞬間に、帰れる訳無いじゃない!いいからこう言う事は任せてよ!」

しかし、何かが作り上げられていくときと言うのはどうしてあんなに時間が凝縮していくのでしょうか?

そして、どうして皆の力が合わさり波長が合った時、今まで全然出来きなかったものでも、あんなにも早く仕上げられるのでしょうか?

これも田代さんの人を見る目なのか、僕らの力なのか、やっぱり偶然なのか、部屋中に冬の柔らかな太陽の日が差し込んでくる頃には、僕らの初めての曲は完成していました。  

もうすでに田代さんも北村も眠りについていて、深夜遅くに加わった斉藤さんと僕達四人は、斉藤さんの差し入れの缶コーヒーで朝の乾杯をしました。眠気と疲労感とが不思議と笑気に変わっていき、やや乗りきれていない斉藤さんを残して、四人の不思議で不気味な大笑いが響き渡ると、笑い疲れた者から順に、その場に寝転んでいきました。

それからの曲作りは、面白いように進んでいきました。

九条君が曲を書き出すようになり、皆でそれを膨らましていく形に落ち着くと、歯車がかみ合ったようにスムーズに動き出したのです。九条君の音楽センスや曲は今や誰もが認めているので、池内さんも自ら「このバンドの曲は勇次じゃなきゃだめだ」と言って自分の曲はすべて引っ込めてしまいましたし、九条君自身がその気になって前と比べたら別人になってしまったと言うくらい積極的に自分の曲を作ってきました。そして、それらの曲は完成度が高くて、どれもこれも僕らの心にビンビン来るものばかりでした。

そんな九条君でしたが、曲と同時にバンドにもたらしたのもがあって、それがなんと北村でした。それまでそれほどバンドの運営なんかには口を挟んでこなかった九条君が、あの次の日に、田代さんに彼女をバンドのメンバーにいれる事をお願いしていたのです。

まあ、お願いと言うか、あれはもう脅迫に近いものがあったと思います。

何しろ、北村が入らなければ、バンドを辞めるとまで言っていたのですから。

でも、始めからいきなりの全力投球の九条君の言葉に、田代さんは戸惑いも見せずにこう答えました。

「そうか、いいぞ。なんだか知らんが、ピアノが出来るんなら、あの譲ちゃんにはピアノか、キーボードやらしてみよう。お前がそこまで言うなら、俺はかまわんぞ。」

こうして、プロデューサーの承認はあっけなく取れてしまい、その様子を聞いていた僕ら三人も別に依存はなかったので、流れるままにそれに頷き、拍子抜けしたような九条君が急にいつになく明るい声ではしゃぐのを見ていました。

きっとまだ本人の了解なんて取れてないだろうに、と思っていた僕でしたが、九条君が機嫌よくギターを鳴らしているのを見ると、声もかけずらい感じでした。

大体北村は加わるはずない、彼女を昔から知っている僕は、他の二人にそう言っていました。

しかし、あろうことか北村はあっさりOKしてきました。

それも、僕がその事を彼女に言うより先に、自分から田代さんの所にまた連れてってほしい、と言ってきたのです。

僕は意外な展開にやや驚きながらも、彼女を田代さんの家に連れてゆきました。そして、彼女の登場に驚きと嬉しさを交えた九条君に、メンバーとして遺書にやっていきたいと誘われた彼女は、何か当たり前みたいに返事してきたのです。

それが言いすぎなら、待ってましたと言うか、私も一緒にやってみたいと言うか、そういう感じのノリで、北村が加わることになってしまったのです。

僕にしてみれば幼馴染がバンドに加わるのには抵抗がありました。しかし、結果的にはそれでバンドは良くなったと言えました。九条君の曲も、北村のせいかどうか、今まで潜んでいた天才的な感性もあらわになってきましたし、しばしば彼が暴走気味になる時も、彼は彼女と話していると落ち着くようでした。

そんな二人に刺激を受けたのか、池内さんも田代さんの琴線に触れるような曲を書き出してきましたし、僕も以前よりも密な関係になれた九条君と、色々話しながら詩を作っていくことが出来たので、曲の完成度が以前より高くなっていきました。

そんな皆を上村さんが大きくまとめてくれて、田代さんがケツを叩いてくれたのです。

こうして、小さな歯車がうまくかみ合い、大きな歯車を動かし、機械が動き出すように、僕らのバンドの音は構築されていきました。そして、大方の曲が出来上がり、田代さんのスタジオでそれらを録音した二日後の事でした。

その日、朝早くから出かけていた田代さんから、スタジオに電話がかかってきました。僕が電話に出ると、田代さんのいつもの声が響いてきました。

「あっ、武士か?俺だけどな、近々デビューする事になったから、皆に伝えてくれ。夜には帰るから」

淡々と報告口調で話してきた田代さんの声と話の内容のギャップに、僕の脳はしばらくうまく歯車が合いませんでした。

「え?デビュー?」

僕はすっとんきょな声を出してしまいました。

「ああ、それと、レコード会社も決まったからな。クリスタルレコードだから。そう、上村に言っといてくれよ」

田代さんのいつものだみ声が、ずいぶん落ち着いた感じで聞こえてきました。

クリスタルレコード?何?あのクリスタル?

僕の混乱は増していく一方です。

そんな僕が何も言葉に出来ないでいると、田代さんは話を続けました。

「とりあえず、そう言う事だから。じゃあ、夜にな!」

田代さんはそう言うと、僕が何かを話す前に電話を切ってしまいました。

なので、僕は受話器を片手に持ったまま、しばらく何も考えずにいたのですが、後ろからメンバー達が近寄ってくるのが感じられたので、後ろを振り向きました。

僕がしばらく戻ってこないので、何が起こったのかと見に来たメンバー一人一人の顔を見回すと、皆不思議そうな顔をして僕を見返してきました。

なので、僕は引きつったような笑顔で、声を出しました。

「俺らデビューするって。決まったって!」

僕の言葉がメンバーに伝わると、見る見るうちに表情が変わっていき、お互いの顔を見合わせながら、頭が理解していくと共に大声を上げていきました。

北村の切り裂くような叫び声に、僕や池内さん怒号が重なり、上村さんの大きな笑い声が包み込みます。九条君もいつもは見せないはしゃぎようを隠しもしないで、僕に抱きついてきました。そして、僕は所属会社がクリスタルレコードだと言うと、池内さんと九条君は、一瞬動きを止めた上村さんを見るなり、さらに声を上げました。

当の上村さんは、信じられない顔をしながら僕の顔を見てきました。

クリスタルレコードは、「コロラド」の所属レコード会社だったところで、ボーカルと会社の意見が食い違ったために、その事務所にあこがれて残りたかった上村さんも含めメンバー全員が契約解消になってしまった事が、バンド解散の原因だと聞いていました。クリスタルレコードは大手だし、上村さんの話を聞いていた僕らは、彼がやるならまたクリスタルで、という気持ちを知っていたので、嬉しくて仕方ありませんでした。

「これで、やっとスタートが切れるな」

上村さんの言葉に、僕らは力強く頷きました。

「しかし、いつもの事だけど、田代さんもいきなりだなぁ」

池内さんがはしゃいだ声でそう言うと、九条君が一人浮かない顔をしながら口を開きました。

「いきなりじゃないよ。たーさんはずっと前から準備していた。ほとんど曲待ちだったんだ。根回しから、なにやらずっと一人でやってくれていた。前からあまり顔を見てない日がよくあっただろう。あれはそのためさ。それに・・・」

九条君は歯を食いしばって、下を向き、そしてゆっくりと僕らの顔を見てきました。

「たーさん。・・・たぶん、病気なんだ」

九条君は無理やり引っ張られてきたように、言葉を吐き出しました。

その言葉に、僕らはさっきまでの浮かれ気分を吹き飛ばされてしまいました。

「嘘っ・・・!」

北村が口元に手を持っていって小さくそう言うと、九条君は目を瞑りながら力なく首を振りました。

「少し前に、たーさんに言われたんだ。皆がいない時にたーさん、風呂場で蹲っていてさ。誰にも言うなって言うからみんなにはいえなかったんだけど、きっと深刻じゃないと思うんだ。きっと。それ以上何も言わなかったから、詳しいこと聞けなかったんだけど。でも・・・」

「そう言えば、斉藤さんもなんか変な事言ってた。最近の田代さんは怖いくらいに気迫が漲っているって、命を削っているみたいだって・・・」

僕がぽつりとそう言うと、皆、黙って下を向いてしまいました。

すると、上村さんが口を開きました。

「親父さん、俺と二人で呑んだ時、言ってた。最後の花はでっかく飾りたいって、最高傑作は手に入れたから、でかい花火打ち上げたいって。俺はまた酔っ払いのうわごとだとばっかり思って流しちまったけど、もしかしたら・・・・」

すると、突然北村の声が空気を切り裂きました。

「皆、止めて!変な事言わないで!田代さん、いつもとぜんぜん変わってない!ぜんぜん変わってないよ!」

北村は上村さんの話をさえぎると、突然玄関に向かって駆けていきました。

突然の彼女の行動に、他の三人は目で追う事だけしか出来ませんでしたが、僕はすぐに彼女の後を追って部屋から飛び出していきました。

玄関を出ると、エレベーターの隣にある非常階段に出る扉が半開きになっていたので、僕は迷わず扉の外に飛び出しました。すると、冬の冷たい風が顔に吹き付けられて、一瞬目を瞑ってしまいましたが、目を開けてみると、北村が手すりに寄りかかりながら声を出して泣いているのが見えました。

彼女が泣いているのを見るなんて、いつ振りでしょうか?

少し動揺しつつも、僕がそっと北村に歩み寄っていくと、僕の気配を感じたのか、赤く晴らした目の彼女が振り向いてきました。そして、そのまま彼女は僕の胸に飛び込んできました。

「田代さんが病気だなんて・・・」

北村は泣きながらそう言ってきました。

「何言ってんだ。決め付けるなよ。まだ分からないじゃないか」

僕は彼女の取り乱しようを飲み込む冷静さを必死で探しながらも、出来るだけ落ち着いた声でそう言いました。

「そうだけどぉさぁ、だって、皆の 言う事 聞いてたらさ・・・」

彼女は喋りながら、また嗚咽を交えます。僕は慰めようとした言葉を呑みました。

確かに、最近曲作りとレコーディングに気を取られていて、田代さんの様子には注意をしていませんでしたが、よくよく思い出してみると、確かに田代さんは以前と少し変わっていたかもしれません。僕から見たら、あったときよりもアグレッシブになって、鋭さが増しているように見えました。

それはもう、異常なくらいです。

ただ、それはバンドが出来上がっていったからだと思いましたし、田代さんは皆の前ではつらい顔なんか見せてなかったうえに、いつも僕らのケツを叩いてくれていた印象しかないのです。まるで、自分は元気だとでも言うように・・・。

それを思い出すと、僕も急に何か得体の知れない感情がこみ上げてきて、腕の中にいる北村を抱く手の力がこもりました。

「田代さん・・・今日、夜に帰ってくるって」

僕は自分にも言い聞かすように、口を開きました。

「いつも元気なお前が泣いてたら、田代さんビックリするだろ。なっ!だから、泣くなよ」

すると、北村は何度も頷いて、両手で涙を拭いました。

「そうだね。笑って、田代さんにお礼言わなきゃね」

そう言って彼女は、涙交じりの笑い顔を僕に向けたかと思ったら、すっと僕から離れたかと思うと、何故か急に僕の脛を蹴り上げて、非常口のドアに入っていきました。

僕は訳が分からないまま、何もいえないままその場でもだえると、いなくなった北村に悪態をつきました。

それから田代さんが帰ってくるまでの間に、僕は斉藤さんに僕らがデビューする事を伝えました。斉藤さんはすごく喜んでくれて、たまたま一緒にいた今田さん共々僕らの門出を祝福してくれました。どうやら、僕らのデビューにも「ラブ・ハンドパーティー」の面々が絡んでいるらしく、そちらの方面も着々と進んでいるようでした。それに、詳しい事は分かりませんでしたが、間宮さんと英子ちゃんの方でも動きがあったような事を言っていました。皆それぞれに動き出しているみたいです。それだけ言い終えると、斉藤さんはすぐにこちらに向かってくれるようでした。

北村の提案で、デビュー祝いをこの部屋でする事になり、僕らは大急ぎで準備に追われる事となりました。もうすっかり泣きやんでいた北村は、異様に張り切っていて、嫌がる上村さんと嬉しそうな九条君を引き連れ手、料理や飲み物の買出しに行き、僕と池内さんは部屋の掃除と小物の買出しに向かいました。メンバーは皆暗黙の了解のように、田代さんの事をそれ以上話題にする事もなく、ただ、自分達がデビューしたと言う喜びに浸る事にしました。今はそれが一番なんだと皆思っていたのです。

皆で頑張った会もあり、田代さんが帰ってくるまでにはもうすっかり準備は整っていて、後は御大の登場を待つだけになっていました。

そして、出来上がった料理を摘もうとするのを北村に怒られていると、エレベーターを見張っていた池内さんが慌てて戻ってきました。

「来た来た!」

彼の声に、すでに来ていた斉藤さんも含めたメンバーは、慌てて玄関に集まりました。程なくして、玄関のドアが開き、スーツ姿の田代さんが入ってきました。

同時に、僕らがクラッカーを鳴らすと、田代さんは紙の屑にまみれ短い驚きの声を上げると、今まで見た事の無い様な万弁の笑みを浮かべました。

「どうだお前ら!俺に任せろって言っただろ」

田代さんが勝ち誇ったような顔を見ていると、僕の中で今までの色々な苦労や、田代さんの今の状況や、単純な嬉しさが頭の中に同時に噴出して、尚且つそれが涙腺を刺激してしまったので、よそうよそうと思ってはいたのですが、それをそのまま田代さんにぶつけました。

僕が泣きながら胸に飛び込んできたので、田代さんは一瞬びっくりしたようですが、驚くほど優しく僕を受け止めてくれました。

「武士、お前みたいなでか物が飛び込んできたらこけるだろうが。まったく困った奴だ。まあ、歌声には感じられん繊細さが、お前の面白い所だけどな」

憎まれ口叩きながらも、田代さんは僕の背中を叩いてくれて、僕はなだめられるまま彼と一緒にリビングまで歩いていきました。

リビングには北村や僕やらが作った料理やら斉藤さんが持ってきたギンギンに冷やしたシャンパンやら、買ってきたビールがあって、田代さんはそれを見るなり声を上げて喜んでくれました。

「愛子ちゃんの手料理じゃあ、残す訳にはいかんなぁ。よし、今日ははちきれるまで食べるぞ。分かったか、お前ら!」

すかさず斉藤さんがシャンパンの栓を音を立てて吹き飛ばしました。

それを受け取った北村が笑顔を浮かべながら田代さんの隣に行くと、グラスになみなみとシャンパンを注ぎました。そして、皆のグラスもみたしていくと、田代さんが片手にグラスを持って、皆の顔を伺いました。

「皆、今まで良く頑張ってきた。まあ、本当はこれからなんだけどな。まあ、とにかく、まずはデビューする事が出来た」

メンバーは顔を見合わせながら、あらためて喜びを分かち合っていると、田代さんはさらに言葉を続けました。

「あれだ、お前らの『スーパーサウンド』!あれが来クールのドラマの主題歌になって、それと共にお前らを売り出していく事になった」

それを聞いて、僕と九条君は腕と腕をぶつけ合いました。「スーパーサウンド」は僕らが二人で話し合いながら作り上げた初めての曲でした。それに加えていきなりドラマの主題歌?!皆熱くならざるをえません。

雄たけびがマンションに響きました。

「分かったからよく聞けよ!いいか、それまでの五ヶ月間、都内を中心にライブをすることにした!もう、大体の大箱は抑えたから、ほかのバンドと一緒ではあるが、まあ、やる事になった。宣伝のほうはこっちでやるから、お前らは音楽だけに集中しろ!」

メンバー全員でそれに答えました。

「よし!では、俺達のスタートに、乾杯!」

「かんぱーいぃ!」

僕らはグラスを高々と上げ、それぞれに音を立ててぶつけ合い、そして飲み干しました。

僕は今一度、目の前にいる御大の顔を見ました。

どす黒い肌に黒ひげを蓄えている口は大きく笑っていて、がっちりとした体を震わせてグラスを空ける姿を見ていると、とても病気だなんて感じられません。なので、やっぱり九条君の言葉は信じられませんでしたが、それでなくてもやっぱりこの人は自分にとって必要な人なんだと感じていました。

改めてこの人を偉大さを感じてしまいました。。今一緒に音楽に携われて、彼の期待に応えられた事が嬉しくて、僕は田代さんの笑顔を見るとその全てが溢れ出してきました。

もう、僕に迷いはありません。

田代さんがここまで僕らを持ってきてくれたのですから、後は言われたとおりに音に音楽に全力を注ぐ、それだけです。

今の自分の力のすべてを出していこう、田代さんの横顔を見ながら僕はそう思うのでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ