表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラブハンド  作者: hisasi
25/37

 大物登場!

 ドカーンと食らったらいいんだけど。


 まあ、そんな事無いって思うけど、そうだったらいいな見たいな


 これからどうなるのかなぁ?

静かになった部屋に、今田さんの声だけが聞こえてきて、一同耳をそばだてました。

「はい。はい。全員揃っています。はい。では、お待ちしています。はい」

今田さんは携帯を耳から離すとボタンをひとつ押して、大きく息を吐き出しました。

そして、みんなが注目してるのを察すると、メンバーに向かって口を開きました。

「二人が今、ホテルに着いたみたいです。もうじき、ここに来るそうです」

そう言うと、持っていた携帯を斉藤さんに渡し、僕の方を向いてきました。

「いよいよだ」

小声でそう言ってきたので、僕は何も言わずに頷きました。

この段階になると、さすがに皆の様子が「プチ・ラブ」さんにも伝わったのか、彼女はそれ以上僕に何かを話してはきませんでした。

それで余計に部屋全体をなんともいえない緊張感と静寂が包み、僕の胃袋も何かに締め付けられるくらい痛くなりました。

今から来る人たちとはどんな人なんだろう?

あれからずっと想像してきましたが、いまいちつかめませんでした。

しかし、今田さんのこの様子はただ事ではありません。

一方で、今から来る人が実は全然大した人じゃなくて、拍子抜けするような結末が起きる事が何故か頭に浮かんできます。

何だ、僕達をこんなに緊張させて、今田さんも人が悪いなぁ、と言って笑いあう光景が浮かびますが、いつもは穏やかで落ち着いている斉藤さんが、何回も時計を見ながら、頭の中でいろいろ考えているような様子を見ていると、やはりそれなりの人が来るのがびんびん感じられて、否が応でも僕の中で緊張が高まっていきました。

どれくらい立ったでしょうか?

いや、それほど長い時間はたってはいなかったのでしょうが、僕の中ではだいぶ時間がたったと思われた時でした。

個室のドアがおもむろに開けられ、人が入ってきました。

皆の目が一斉にそちらに向けられました。

恭しく頭を下げながら、あの年配のサービスマンが扉を閉めます。

金縁の金具で縁取られた、重厚感溢れる白い扉の前に、そして、僕らの前に、二人の人物が立っていました。

一人は恰幅がよく、ダブルのスーツをどっしりと着こなした白髪交じりの髪の毛を清潔そうにふわりと撫で付けていて、色黒の、いささか油の乗った顔にある細く鋭い目がこちらを向いていました。

この人の顔は僕もよく知っていました。

この人は、この国の与党の幹事長、森田哲司その人でした。

そして、同じく隣に立っている同じくらいか少し上くらいの年の、白髪のおじさんは、上から下まで黒で統一してあり、それが細身の体によくフィットしていて、ところどころで光るアクセサリーがセンスを感じさせました。そして、しわの刻まれた額の舌に、深い黒色のサングラスをしていました。

見た限り、この人を僕は知りませんでしたが、隣にいた女性はすぐに気がついたようでした。

「間宮修一!?」

彼女は僕の腕を強く引っ張りながらそう呟きました。僕はその名を聞いたことがありませんでしたが、次の彼女の一言で自体が飲み込めました。

「シュウイチ・マミヤよね、あの人?!」

シュウイチ・マミヤ・・・。

日本を代表する世界的デザイナーの名前で、世界中のコレクションに出品されている、人気も知名度も一流のブランドでした。かくゆう、僕自身のの財布もシュウイチ・マミヤのものでした。兄貴からの二十歳の誕生日プレゼントが、こんな形で繋がるなんて思いませんでした。

「でも、もう引退したって、うちのパパが言ってたのに。ねえ?日本にはもういないとか、ねえ聞いてる?」

彼女の声をよそに、二人は静かにお辞儀をしながら自分達の席に着きました。

彼女の隣には幹事長の森田さんが座り、その隣に間宮さんが座りました。僕も含めて、一堂現れた人のあまりの衝撃に声も出なくて、ただお辞儀をするだけしか出来ませんでした。ただ、隣にいる英子ちゃんだけは、まじまじと二人を見ながらニコニコしていました。

「お二人とも、お忙しい中、この会に出席していただいて、本当にありがとうございます」

今田さんが、皆を代表してそう言いました。すると、テーブルの全員が席に揃ったので、何人かの給仕たちが僕らのグラスにシャンパンを注ぎまわりました。僕のグラスに注いでくれたのは、お世話になっていたメートル・ドテルで、目が合うとウインクしてくれましたが、他のサービスマン達は僕を怪訝そうな顔をしてみていました。

「いやいや、こちらこそ、どうしても出席したいと言う無理なお願いを聞いてくれて感謝しています。今田君の計らいもあって、皆さんは我々が来るまで、我々の存在を知らなかった事と思いますが、なにぶん、プライベートな行動が難しい身ゆえ、こんな形になってしまったことをお許しください」

そう言って、森田さんは頭を下げました。

「実を言うと、この申し出は僕が行ったもので、彼に話を持ちかけたのも僕なんだ。その点で言ったら、僕も皆さんに迷惑をかけてしまったと思う」

間宮さんもそういって、首だけでお辞儀をしました。

「イヤー、あまりのことにびっくりしましたけど、二人なら問題ないですよ。ねえ、皆さん?」

僕はお偉いさん達二人が揃っていきなり頭を下げたもんだから、慌ててしまって、言葉を発しました。僕の言葉に、一同声を出して頷きました。

「しかし、まさかあなたたちのような人がこのメンバーに加わるとは思いませんでした」

二人は頭を上げて、僕の方を見てきました。森田さんは少し寂しいような表情をしながら、何かを言いかけようとしましたが、今田さんの声がそれを遮りました。

僕の隣で、今田さんがシャンパンの入ったグラスを持ち上げています。

「何はともあれ、メンバーが揃った。では、第一回「ラブ・会」を始めようではありませんか。乾杯のほうは、創設者でもある「ラブ・ハンド」こと小田切君にやってもらおうと思うのですが・・・」

そう言って今田さんは僕の方を見てきました。すると、森田さんと、間宮さんも、もう一度確かめるように僕の方を見てきました。ですが、僕は大慌で、それを断りました。

「この会は今田さんなしでは成り立たなかった。だからあなたがしてください。皆、異論はないですよねぇ?」

すると、皆は僕の意見に乗ってくれたので、乾杯は今田さんがする事になりました。

今田さんは仕切りなおすように一つ咳払いすると、目の前にグラスをかざしました。

「では、第一回「ラブ・会」の成功と、十人のメンバー、そして「ラブ・ハンド」の繁栄を願って!乾杯!」

皆、声をそろえてグラスを掲げました。

それと同時に、絶妙なタイミングで給仕たちが食事を運んできてくれて、食事が始まりました。食事が始まるとそれぞれに、思い思いのことを話していて、「ラブ・ハンド」をどうしようなんて事は隅に置かれ、まずは出てくる最高級な料理と、素晴らしく香りたつワインを楽しみました。始めは幹事長や、カリスマデザイナーに遠慮していた面々でしたが、隣にいた英子ちゃんが二人に屈託なく話しかけて、場を和ませてくれたせいか、それともワインのせいか、僕も普通に彼らに話しかけていました。まあ、この場に肩書きなど不要、そんな集まりではないのですから、いくらお偉いさんとは言えそんな事で話をしないのは損と言うものです。今田さんや、斉藤さんは分をわきまえてか控えめな感じでしたが、失うものなど何もない僕は別です。気がついたら、ほんとに親しく話をしていました。

それに釣られてか、他のメンバーも色々話しに加わってきました。さすが政治家や世界を相手に自分を表現してきた二人です、興味を根こそぎ持っていかれるような色々な話を持っているので、二人の話にみんな盛り上がりました。やはり、色々な事をしてきた人の話には説得力があり、面白いものです。話の中で、この二人が幼馴染で、小学校から高校まで一緒であることが分かりました。二人は無二の親友だったのです。いろいろなエピソードを聞いているうちに、二人のたどってきた道も少しながら分かってきました。

森田さんは父親も政治家なのでその道を選び、間宮さんは社長の息子でありながら、高校卒業とともに日本を飛び出しフランスに渡ったということでした。聞いていて、まったく性格の違う二人なのですが、間宮さんがフランスにいっている間も親交があったようで、それから今の今まで友達関係が続いていると言う事でした。

興味深い話をいくつも聞いているうちにデザートまでがあっという間に過ぎていき、今日は「ラブ・ハンド」が目的で集まった事を、僕もうっかり忘れかけるくらい話に耳を傾けていた時、不意に、コーヒーを口にした森田さんが語りだしました。

「私にも子供がいてね、息子と娘なんだが、君達より一世代上だろうか。それぞれに二人の孫がいるんだ。そう、一番上の孫は、もう高校生になっていてね。女の子なんだが、小さい頃は本当に可愛くて、私にもよく懐いてくれていた。目に入れても痛くないとはああいうことをいうんだな、私はそう思ったよ。そして、まあ、彼女も大きくなったんだが、ある時から私の前に姿を見せなくなった」

森田さんはそこで一度言葉を切りましたが、コーヒーを一口含むと言葉を続けました。「その子は娘の子なんだが、様子を娘に聞いても埒が明かない。思えばそのころ娘夫婦は折り合いが悪くて、父親の私にかまう事が出来なかったのかもしれなかったのだろうが、私も妻も急がしかったし、すぐにはそれ以上踏み込む事はしなかったんだ。その頃は、選挙が迫っていたから仕方なかったんだ。ただ、それでも娘と孫の事は心の隅に気にかけていたんだ。だから、選挙が終わると、すぐに彼女たちの家に行ったよ。当選したのに娘は顔を出さないし、久しぶりに孫の顔も見たかったからね」

僕は様子の違う森田さんの口ぶりに、ごくりと唾を飲み込みました。

「私は一人で彼女の家に行った。一階のリビングには電気が着いていたが、二階は真っ暗だった。私がチャイムを鳴らすと、娘が出てきたんだが、ひどく疲れきっている様子で、私の顔を見るなり、あれは、あれは泣きだしおった。私は訳が分からないまま娘を諭すと、娘は泣きながら私に『助けてください!』と言った。聞いてみると、孫の事だった。私は階段を駆け上り、孫娘のいる部屋のドアを開けたんだ」

森田さんの目は明らかに潤んでいました。

「そこには・・・、そこには・・・、変わり果てた姿の孫がいたんだ。痩せて細って、まるで骸骨みたいになってたんだ。彼女は力なくベットに据わっていた。私の顔を見ると大きな声で『出てって!』と言って布団の中に入ったんだ。私は呆然として、孫の傍に駆け寄ったが、孫は布団をかぶったまま何も言っきはしなかった。そのうち娘が上ってきて、私を一階に連れてもどしてから、事情を話してくれた。何ヶ月前からか、気付いたらあんなふうになっていた。世間体が怖くて病院にも連れて行けないし、学校も休ませてる。たぶん、ストレスが原因だと思うと娘は言ってた。孫は中学に入ってから急に太りだしたらしく、それを気にしていたようなのじゃが、娘は気にも留めなかったようなんだ。何しろ、自分の夫の事で精一杯だったし、私の選挙の事で気が気ではない日が続いたんだろう。そうするうちに、ほおっておいたら、孫は痩せだしたし、安心していたようなのじゃが、それが急激に進んでいって、気付いたら、気付いたら見るも無残な姿になっていたんだ」

そう言いながら、森田さんは完全に泣いていました。すると、彼の肩に手を乗せながら、間宮さんが言葉を引き継ぐように続けました。

「それで、こいつは、俺の所に相談に来たんだ。こんなプライベートな話を相談できるのは俺しかいなかっただろうからな。それに、その手の現象はいつもモデルたちと向き合っている俺にはぴんと来たんだ。彼女達の体へのこだわりは半端じゃあないからね。それに、同じような話もよく聞いていた。要は無理やりやせようとしたってことさ。いろいろ、手を尽くすうちに、こいつの孫娘は俺を信用してくれて、病院に行くようになった。今もまだ入院しているがな。しかし、初めの頃は見ちゃあいられなかったよ。こいつの孫娘ということもあるが、若い娘があんな姿になるなんて。今みたいに食べ物に困らない時代にだ。そして、同じ時期に俺が可愛がっていたモデルが死んだ。自殺だった。俺には子供がいない。結婚した事はあるが、どうも子供には恵まれなかった。俺はモデル達を自分の子供のように思っていてね、まあ、若い頃は恋人と思っていた時期もあったが、この頃じゃあそんな気持ちも起こらなくてな。若い世代はみんな子供みたいに思っていたんだ。皆、いい子達だったが、心までは救えなかった。彼女達のエスカレートする痩せる、スタイルを維持するという気持ちを、俺はどうしても抑える事が出来なかった。そして、彼女達の何人かには不幸な事が起こったんだ。どうしようもない事だったんだが、ファッションに携わる者として憤りを感じたんだよ。しかし、自分がやって来た事と言えば、それを助長するに近い事だらけだった」

間宮さんは唇をゆがめると、また、言葉を続けました。

「私は自分に、腹がっ立った。そして、第一線からは退いたんだ。そんな事があった後、俺はスポーツジムで斉藤君と知り合ったんだ。三ヶ月前くらいにね。そして、君の事を知った」

そう言って、間宮さんは僕の顔を鋭い目線で見てきました。森田さんも目を赤くしながら、僕の方を見てきました。

「私は、自分のせいで孫をあんなにさせてしまったと思っている。間宮も同じだ。どうにかして償いたい。もう、他の女の子にこんな思いはさせたくないんだ。少なくとも痩せ過ぎになるような女の子は見たくないんだよ。それには、君の思いつきは十分に私達の目指すものに近い。なら協力するのが筋だろう。だから、私たちは君に力を貸したいと思ったんだ」

そう言って、幹事長は僕の手を両手で握りました。すると、それに間宮さんが手を載せてきました。

僕は目元、目の奥、胃のあたりが熱くなるのを感じました。

そんな僕の肩に、今田さんが手を添えてきます。英子ちゃんは泣きながら、僕の空いているほうの手をとりました。

気付くと、皆が僕の周りに集まって来ていました。

「こんなに強い気持ちが集まれば、かなわない事はないですよ!皆の力で、世界を変えましょう!悲しくなる世界ではなく、笑いたくなる世界を!我々には出来きる!いや、やりましょう!」

僕らはそこで、改めて一つに纏まりました。

六十を過ぎた親父が心を開き、若い人達が情熱を込めた所に、女性達の力が加われば、世の中、何か起らない方が不思議です。

そんな気分の中、僕達は、一つの目標を目指し、連携をとりながら、それぞれに活動していく事を誓い合いました。

そして、皆の気分も盛り上がった事に乗せる形で、僕は今田さんに日ごろ温めていた事を話しました。

要するに、若い力を動かすには音楽の力しかない事、それを成し遂げるために自分は音楽活動をしていきたい、と言う事をです。

すると、今田さんはしばらく考え込みながら、一つ二つ頷くと、斉藤さんの方を向きました。隣にいた斉藤さんは僕の顔を見ながら少し困惑していましたが、無言で頷きました。

「実はね、私もそう思っていたんだ。君には言っていなかったけど」

その言葉に、僕はびっくりしました。

「そうなんですか?!本当に?」

「ああ、色々斉藤と相談はしていたんだが、何しろ、若い人の心を動かすことは非常に難しい事だが、それをしないで僕らの願いを実現することは出来ないからね。斉藤の人脈を使って動いていた最中だったのだけど、君も同じ事を考えていたとなると話は具体的に進めざる得ないね。よし、これは斉藤と君が進めていったほうがいいと思う。皆さんも、お聞きになったでしょうが、小田切君はその方向で行くと言う事になりました」

皆、拍手で答えてくれました。すると、今田さんが選んだ五人の内の一人で、ハンドルネーム「イソギンチャク」さんが声を上げました。

「じゃあ、私はメディアで働きかけましょう。私は某テレビ局でプロデューサーをしているので、何とかそちらの方面で進めて行きたいと思います」

「じゃあ、私は周りの女の子の意見とか、学校方面で活動してみるわ。あと、お父さんにもそれとなく働きかけてみます」

英子ちゃんがそれに続いてそう言うと、穏やかな声で間宮さんが口を開きました。

「よし、お譲ちゃんと私はファッション部門を作るとしようか。私の持てる限りの力を使って、こちらの方面は何とかしよう。お譲ちゃん、手伝ってくれるかい?」

その言葉に、英子ちゃんは目をキラキラさせながら、幹事長と間宮さんの間に割り込みました。

「はい!私、精一杯がんばります。よーし!なんか楽しくなってきた」

そう言って、彼女は声を上げて笑いました。彼女の若さに困惑気味の森田さんでしたが、落ち着いたようにしゃべりだしました。

「もちろん、政治の方は私に任せてくれ。各省庁にいろいろな働きかけが出来ると思う」

「幹事長にそう言ってもらえると、心強いです。よろしくお願いします」

今田さんが頭を下げながらそう言いました。

「いや、君に頭を下げて貰う事はないよ。私がしたいから、私のもっている力を使うまでなんだから」

「それでも、そう言ってもらえると、本当にありがたいです」

「今田さん、人にありがたがっている暇はありませんよ。何しろ、この会のまとめ役はあなたなんだから!」

僕は隣の今田さんに大声でそう言いました。

彼意外にこの会のまとめ役にふさわしい人はいないし、彼にはその力があります。

「な、何を言ってるんだい、小田切君。そもそも、発起人は君じゃあないか。君がふさわしいよ」

慌てたように今田さんがそう言いましたが、僕は彼の目を力強く見つめました。

「何を言ってるんですか。あなたがいないで、ここまで来れたはずがないんだから、あなたこそふさわしいですよ。確かに、思いついたのは僕かもしれないけど、ここまで膨らませたのは僕だけの力では出来なかったでしょ?それに、僕にはこれだけの人をまとめる力はありません。皆さんも、同意してくれると思います。ねぇ?」

皆は一様に微笑を浮かべながら、僕達のやり取りを聞いていたので、僕の問いかけにはすぐに力強く頷いてくれました。

「それに、小田切君にはこれからやってもらいたい事が山ほどありますから、ここは社長が引き受けたほうが得策だと思います」

斉藤さんが耳元で、今田さんにそう伝えると、彼は少し考え込みましたが、僕の顔をしっかりとを見て、ゆっくりと口を開きました。

「僕に任せたら、どれだけ事が大きくなるか分からないけど、それでもいいの?僕がやると決めたら、本気になっちゃうよ」

僕はなんか嬉しくなって、今田さんの手をとりました。

「それでこそ、僕はあなたに任せます」

その言葉に、隣にいた森田さんも同意しました。

「私も、君がやる方がいいと思う。何しろ、私や間宮も加わるんだ。ボンクラ爺さん達を世話できるのは、若い人には酷というものだよ」

そう言って、にやりと笑うと、僕達にウインクしてきました。

「ぼんくらはお前だけだろう!しかし、まあ、引退したとは言え、俺は自分の世界で出来る事は事はしっかりやるつもりだけどな。だから、なんだ。皆のまとめ役は、今田君、君がやったらいいんじゃない?」

間宮さんはそう言うと、メンバーの顔を見渡しました。すると、メンバー全員が拍手と共に、今田さんがこの会の会長になる事を認めました。

今田さん自身は少し困ったような顔をしていましたが、納得したように一人頷くと、皆の顔を見ながら照れくさそうに笑いました。

「じゃあ、僕が引き受けます。その代わり、あくまで調整役です。表の顔は、小田切君になってもらいますからね、それだけは譲れない。何しろ君が作ったんだから。森田先生も間宮さんも表立って目立つのも困るだろうし、他の皆もおおぴっらに活動するのは気が引けると思うからね。私はあくまで君のサポート、会のまとめ役。もちろん、その仕事については全力で頑張るつもりです」

今田さんはそう言って、僕の手をとり強く握り締めました。

僕は、改めて嬉しく思いましたが、これから起こるだろう事が彼の手から伝わってくる気がして、急に少し不安になりました。

何と言うか、自体は大きく動き出していって、大きな波に流されていく感じと言うか、自分の力では制御できない風を感じたというか・・・。よく分からない感情が、僕に期待感と不安感の合わさったようなものとして起こったのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ