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ラブハンド  作者: hisasi
23/37

 人間一人じゃ何も出来ないよ

 やはりそれなりの大物が仲間にならないとね。


 それだけの実力と面白さが無ければ人は寄り付かないんでしょうな


 南無賛

これには僕もびっくりして、かなり動揺しました。

何しろ秘密裏にことを進めていましたし、僕のプライベートなアドレスは限られた人しか知りえないはずなので、どこから漏れたんだろうと思ったからです。

一瞬、皆への疑いが頭に浮かびましたが、とにかく相談してみないことには始まらないと思い、僕は「セルロースハム」さんに連絡を取りました。すると、意外なことに彼は心配する事は無い、と返事を返してきました。

何と、彼の方にも同じ人からメールが送られていたらしく、彼が言うにはこの人は是非にでもメンバーに入れたほうがいいとの事でした。

僕は、彼の事を信頼していましたし、疑う事すら嫌な気分になっていましたが、これにはびっくりしました。

慎重にことを進めて行こうと言ったのは彼でしたし、誰にも知られていないこの計画を他の誰かが知っている事に何の疑問も感じないような馬鹿な人では無いと知っていたので、彼がもろ手を挙げてそう言ってきたのが本当に信じられませんでした。

なので、彼が僕の知らない所で何かことを進めているのではないか、と言う不安が僕に沸き起こってしまいました。

もしかして裏切りなのか?

僕の頭の片隅に、そんな考えも浮かんできました。

そんな僕の心情を察したのか、彼はしきりに僕を安心させようとしてきました。

そりゃあ僕だって、安心はしたかったのですが、どうしたって彼の胸のうちを聞くまではそんな心境に離れませんでした。何しろ顔が見えない間柄なのですから。


パソコンの前で、僕は頭を抱え込みながら悶えました。


せっかくうまくいっているように感じられた僕の計画が、行きづまるかも知れない不安が全身を駆け巡っているのです。

まだ顔も見ていない彼を想像しながら、一人で激しく罵っていました。

すると、パソコンに彼からのメールが届きました。

僕は、マウスを動かして、彼からのメールを開きました。


「君が疑うのも無理はない。ここまで来て、僕らの間で秘密を作ることは、よくないことだとは思っているが、どうか信じてほしい。むしろ、彼らが加わる事は、僕らにとって計り知れない力を手に入れられることになるんだ。それは保障するよ。でも、君に何の疑いも持たずに、僕の話を聴いてくれというのは無理な話だろうし、今まで築いてきた君との信頼関係も壊したくない。だから、僕はここで自分の素性を白状するよ。それで、僕の気持ちを分かってほしいと思う。ここまできたら、君に自分の事を隠すことは出来ないし、そうする事で君の信頼を得られたらいいと思ってる。だからどうか僕の事を信じてほしい。僕らの計画のために。僕は正直に素性を明かすが、それでも君が僕の事を信じてくれなくてもいいと思うし、この計画が僕抜きで行われなくてもいいと思ってる。そして、それでも応援したいと思っていることを付け加えておくよ」


そのメールの後に、一枚の写真が送られてきました。

その写真を見て、僕は思わず身を乗り出してしまいました。

僕はこの人を知っていました。

ハンドルネーム:「セルロースハム」本名:今田完治。

その写真に写っていたのは、ITビジネスで成功し、いくつ者会社を所有してる車椅子姿の青年実業家でした。

今田さんは、この僕でも一度ならずとも目にしている、ビジネスの世界で活躍している人間でした。幼いころに発病してから半身不随となりながらも、大学在学中にIT関連の会社を設立、独創性と驚くほどフェアな仕事に会社はうなぎのぼりの成長を遂げて、今ではいろいろな業種に携わるグループを作った立役者でした。ベンチャー事業を立ち上げたい若者にとってはシンボル的な存在でしたし、その生い立ちにもかかわらずやってきた事に、世間からの信望もある人でした。

僕は思わず唸ってしまいました。

この人だったら、今までのようなアイデアや助言も納得してしまいます。

あまりの衝撃に、ただ呆然と画面を見ていましたが、我に返ると早速返事を打ち込んで、彼の元に送りました。正直な気持ちで、本当に彼か確かめるような返事を送ると、すぐに返事が返ってきて、本当だからびっくりさせてすまないというようなメールが帰ってきました。

僕はにわかには信じられないから、少し時間をほしいと返すと、彼はいきなり携帯の番号を送ってきて、掛けてきてほしいと言ってきました。

僕はパソコン画面の携帯の番号を食い入るように見つめながら、恐る恐る自分の携帯電話のボタンをプッシュしてみました。

時計を見てみると、深夜の一時半でしたので少しためらったのですが、興奮が僕と僕の指を後押ししたので、僕は「発信」ボタンを押しました。

二回コールされた後、電話から声がしてきました。

「もしもし」

少し高い、以前テレビで聞いたことがあるような声がしてきました。

「あ、もしもし、あの、今田さんですか?」

僕は恐る恐る聞いてみました。

「そうですよ。もしかして、「ラブ・ハンド」さん?」

僕は電話を耳に当てながら、大きくうなずきました。

「そうです。あの、初めましてって言うか、なんと言うか、ほんとに今田さん?」

電話から大きな笑い声が聞こえてきました。

「そうですよ。紛れもなく、私は今田完治です。疑うのも無理はないし、そうしてきたのは僕の方なんだけど。間違いないですよ」

「マジで!ほんとに今田さんなんだ!信じられないよ。まさか、今田さんと、いや、まさか今田さんが「ラブ・ハンド」好きだなんて」

また、笑い声が聞こえてきました。

「そっちの驚きですか。そうですよ。知ってはいるとは思うけど、あなたに負けず劣らず腰肉好きです。しかし、僕だけだと思ったのに、他にもそんな趣向の人がいたんでびっくりしたよ」

今度は僕が笑い声を上げました。

「僕は嬉しかったですけどね。しかし、まさかあなたが今田さんとは。だけど、それならいろいろ納得いくけど。あなたがいなかったらここまで来れたか分からないし。だけど・・・」

僕の不安そうな声を察して、彼が続けてくれました。

「だけど、いきなり知らない人からメールが来たのが信じられない?それに関しては、僕も信じられなかったけど、まず間違いなく、サプライズだよ!こんな事が起こるなんて、すごいだと思った。君ってすごいよね」

その言葉に、僕は訳が分からないまま黙っていました。

サプライズ?

今僕と話しているのが、あの今田さんだということ以上のサプライズがあるのだろうか?

彼は話を続けました。

「君も本当にびっくりすると思うよ。だから、君が本人に会うまで秘密にしときたかったんだ。こんな素晴らしい計画の立案者に敬意を表したかったし。何しろ、サプライズが僕は好きなんだよね。メンバーの十人はこれで揃う事になるし、早速会合の日取りを決めたいんだけど、あちらさんはこの時期かなり忙しいみたいだから、日取りはまた連絡するよ。少なくとも、二週間前には」

「あちらさんって、そういえば、二人なんですか?」

「そうなんだよ。ビックリする事に二人なんだ。これには僕もさらに驚いたんだけど」

「なんか、僕にはさっぱり分かりませんよ。頭がごちゃごちゃになってきた。それに、本当にあなたが今田さんなのかも確かめてないし。僕どうすればいいんですか?」

「よし。こうしよう。僕も君に会いたくなった。やっぱり顔見て話さなくちゃね。明日は暇かな?四時くらいに僕の本社に来てよ。住所はまたメールで送っとくから。受付に言えば通すようにしておくよ」

「マジですか!?なんか緊張しちゃうなあ。受付には何て言えばいいんですか?まさか『社長の変態仲間の[ラブハンド]ですけど、四時にアポイントメントを取ったのですけど』,なんて言うんですか?」

僕がそう言うと、抑えたような笑い声が受話器からこぼれてきました。

「相変わらずだねぇ。それもそうだね。でも、まあその時間に来て、約束してるんだといえば、通すようにしとくよ。心配しなくていいよ。じゃあ、また明日。」

「はい。おやすみなさい」

僕は携帯を耳から話し、若干脂のついた画面を見ながら、静かな興奮を味わっていました。

翌日、僕は約束通り今田さんの会社に行きました。都心の一等地にあるビルの何フロアーかが彼の会社らしく、一階にある総合受付の綺麗なお姉さんに話しかけると、すぐに電話をしてくれて、僕をエレベーターまで案内してくれました。僕は丁寧な対応にどぎまぎしながらエレベータまで行き、彼の会社のある階のボタンを押しました。

エレベーターのドアが開くと、デカデカと彼の会社のロゴが壁に張ってあり、その下に紺色の服を着た受付上が二人いました。

ぼやけた水色のカーペットが敷き詰められていて、エントランスの白い壁紙、壁際に大きくとられた採光性抜群の窓、いかにも大勢の人が働いてる雰囲気に僕はいたるところを見回しながら、二人の受付嬢が座っているテーブルまで歩み寄りました。

エレベーターのドアが開いてから僕の存在には気がついていただろう彼女達は、僕が約束の客だと分かったのか、僕が切り出す前に声を掛けてくれて、さっそく今田さんに伝えてくれました。

僕はただ頷くだけでしたが、彼女達から案内されるままにフロアーの奥に通され、一番隅にある部屋に連れて行かれました。

通された部屋は応接室で、静かな室内には、独特の家具の匂いがしていました。壁際には観葉植物が置いてあって、落ち着いた色のカーテンがかかっていました。そして、部屋の中央には二人がけの、落ち着いたクリーム色のソファーが二脚、その間に重そうなガラスの四足テーブルがありました。  

僕が柔らかく沈むソファーのすわり心地に幾分落ち着かなくなっていると、おもむろに部屋のドアが開き、車椅子姿の今田さんが現れました。

僕は慌てて立ち上がり、慌ててお辞儀をしました。

今田さんは秘書らしきスーツ姿の人に車椅子を押されながら、僕の座っていたソファーのすぐ隣まで進んできました。緊張しながら、改めて今入ってきた人の顔を見ながら、本当に「セルロースハム」さんが、あの今田さんである事を認識しました。

ここに来るまでに、何回も雑誌で見た人が、まさに僕の隣にいるのです。

上品なスーツを着こなし、きちっと磨かれた革の靴を履いて、車椅子に座っています。

「あの、お初にお目にかかります。『ら・・・小田切です。まさか、本当に『セッ・・・今田さんに会えるとは」

僕はしどろ、もどろしながら挨拶しました。今田さんはそんな僕を見ながら、少し笑いながら手を差し伸べてきました。

「こちらこそ。『ラブ・ハンド』さんに会えてうれしいよ」

僕は、チラッと彼の後ろにいる人を見ました。

「あ、あの今田さん?」

「何言ってるんだい。『セルロースハム』でいいよ。そっちのほうが付き合い長いわけだし。まっ、言いにくいからいっか」

今田さんはそう言って大きな声で笑いましたが、僕はちらちら、彼の後ろに立っている人を見ました。その人は柔らか表情をしながら二人を見ていて、僕と目が合うと小さくお辞儀をしました。

「あっ、斉藤を紹介していなかったね。僕の秘書で、片腕で、相談役で、まあ、気の許せる人間だ。もちろん、君の事も話してある。彼の前では僕は隠し事はしないんだ。信用していいよ。それに、僕が始めて投稿した写真を撮ったのも彼なんだから」

そう言って、今田さんは笑いました。僕は今田さんの顔を見て、そして斉藤さんの顔を見ました。二人とも見るからに仕事が出来そうで、頭も切れそうです。身なりも僕なんかとは違って上から下まで高級な生地を使って仕立ててありました。

この場では、僕みたいな人間なら硬くなるほうが自然だと思いますが、二人の優しい感じが僕を和ませてくれましたし、二人の受け入れてくれるような目を見ていると緊張も解かれるようでした。

「初めまして。『ラブ・ハンド』です」

そう言って、僕は斉藤さんに手を差し伸べました。彼も同じタイミングで手を差し伸べてきて、僕らは握手しました。

「さあ、座ってくれ。これで、僕の言っている事が信じてもらえたと思う」

「はい。あなたの事は信じています。しかし、この間のメールの・・・」

「それについては、今この場で話すよりも、直接本人に会ったほうがいいと思うんだ。百聞は一見にだよ。近いうちにメンバー全員を集めて第一回目の会合をしようじゃないか。スケジュールは向こうサイドにあわせなければならないけど、なるべく近いうちに調整してくれるそうだ」

「そんなにすごい人達なんですか?僕は今あなたにあって話をしてるだけで信じられないのに」

「僕も、こんなことに成るなんて思いもよらなかったんだけど。僕達が思ってるよりも、ことは爆発的に飛躍しそうな感じなんだよ、これが」

「そうなんですか」

僕は大きな不安感に襲われてしまいました。何か、見えない重石が方に乗っかっているようです。そんな僕の様子を察したのか、斉藤さんが声を掛けてくれました。

「君は自信を持って、その日を迎えていいんだよ。君から発せられたメッセージが皆を動かしてるんだから。これは君の提案なんだから。掻くいう、この私もその一人だよ。」

「そう。初めて君のブログを私に教えてくれたのも、斉藤なんだ」

僕は二人の顔を見ました。二人は穏やかに微笑んでいます。

「ここまで来たんじゃないか。まだまだ道のりは長いかもしれないけど、同じ志同士、頑張って行こうじゃないか!」

今田さんはそう言うと、僕の肩に手を添えてくれました。

僕はその手をとり、力ずよく握り締めました。

「一緒に、頑張りましょう!」

その言葉に、今田さんはすぐ後ろにいる斉藤さんを見上げながら振り向き、斉藤さんは今田さんの方に手を添えながらまた静かな微笑を交わしました。

それから僕はそれぞれのメンバーに連絡を取り合い、その旨を伝えました。

今田さんの提案で、今田さんの存在も皆に伝え、まだ分からないメンバーの事も出来る限り伝えました。そして、第一回目の会合で、全員の出席を取り付けました。

ただ、かなりのメンバーが期待と困惑と不安を持っているようでした。

まあ、無理はありません。僕だってそうなのですから。


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