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ラブハンド  作者: hisasi
20/37

何かに気が付いた!

 ありえない話が続いたっていいじゃないですか!


 これからが面白くなりますから。


 どうぞよろしく!

演奏が終わると、男達がステージ前から引き上げてくるのですが、そいつらの顔を見ると明らかに油くさくて、とがっていて、幼くて、壁際まで来ると、仲間内でなにやら話し合っていました。これと一緒になって盛り上がれというのは、いくらなんでも難しいだろうと思っていると、今度はぜんぜん趣の違うバンドがステージにあがるのが見えました。僕は気分の盛り上がらないまま、ステージの真ん中に立ってジンバックで体を熱くしてゆくしかありませんでした。

 それから何組かのバンドがステージに上がって演奏し、なかには僕も結構いいなぁとおもうバンドもいましたが、全体としてはあまり盛り上がっている様子はなくて、女の子達は明らかに最後のバンドがお目当てだという事が判ってきました。

もちろん、それまでのバンドのファンの子達もいて、そのバンドがステージに上がると前に出て行き声援を送るのですが、そんなに多くの女の子達ではなくて、大体の女の子はその子達の周りで聞いているような感じでした。

ただ、演奏順が進むたびに女の子達のファンは多くなっているようで、あまりの分かりやすさと正直さに、それを遠めで見ている僕はおかしくなりました。

確かに、女の子達が興味を示しているバンドの演奏はいい音を出していて、まあ、押しなべてボーカルの男は派手で見栄えがいいことは共通しているのですが、それを踏まえても何かひきつける雰囲気を持っているバンドには、女の子達も反応をしているのです。

一組だけ、女性ボーカルのバンドがいたのですが、彼女にはまた彼女のバンドの色に染まっている女の子達がついていて、ファンの子達が盛り上がっている様子を見て、その歌い手の子も盛り上がっていくのを見ると、僕も気持ちが浮き上がってしまいました。

そのバンドの大半は男のファンなのですが、もう少しお酒が入っていたらそれに加わっていたかもしれません。

とは言え、まだ会場全体が盛り上がるようなバンドは出てきませんでした。でも、僕には明らかに何かを期待している空気が、終わりに近づくにつれて増してくるのが感じられました。

 五組目のアコースティックギターの二人組がステージの裏に消えると、それまで壁際にいた女の子達が我先にステージの前に集まってきて、すぐにステージの最前列はファンの女の子達で埋め尽くされてしまいました。そして、彼女達は皆で次のバンドの名前をコールし始めました。

「サーンフラ!サ―ンフラ!サ―ンフラ!サ―ンフラ!サーンフラ!」

女の子達の声がライブハウス中に響きます。

会場全体も彼らの登場を待っているかのように、皆がステージに注目し始めました。

僕も新しいジンバックを手にしながら、ステージを注目します。。

会場の雰囲気が僕にも伝わってきて、なんだか僕も彼らのファンで、彼らが早く出てきてほしいような気になりながら、ステージに出てくるのを待ちました。

彼女達の声は徐々に大きくなっていき、僕も自然とそのそばに歩み寄っていきます。すると、フロアーの男達も同じように集まってきました。

すると、突然堰を切ったような歓声とともに、それぞれ楽器を持ってバンドのメンバーがステージに登場しました。女の子達がそれぞれにファンであるバンドマンの名前を叫びだして、何を言っているのかよく分らない位の音がこだます中、ボーカルの男の子が女の子達に手を振りながらマイクスタンドの前まで着ました。

その姿に、女の子達がさらに歓声を上げます。

ドラムとベースはもくもくと楽器の微調整をしていて、ボーカルとギターの二人は調節しながらも、あまりの声に僕には聞き取れなかったのですが、ファンの子になにやら声をかけていました。やがてボーカルの男がそれぞれに目配せして、準備が整ったのを確認すると、マイクに口を近づけて声を出しました。

「では一曲目歌います。ブラックセプテンバー」

ボーカルがそう言うと、ドラムの音がフロアー中に激しく鳴り響いて、それにつられてギターやベースも後を追って引き始めました。ノリノリのサウンドに、会場の女の子達が熱を発しながら体を揺らし始めました。

雄たけびを上げる男もいて、僕の耳というよりか脳味噌に重低音が響いてきて、体の仲間でシェイクされました。ボーカルの力強くハリのある声が広がると、彼の声がそこにいるすべてに伝わり会場を包み込見込んでいきます。そして、サビに入ると、そこにいるみんなが激しく乗り出して、みんな手を上に張り上げてリズムに乗り出しました。

僕も、手に持っていたジンバックを一気に飲み干すと、その中に飛び込んで一緒になって激しい音楽に身をゆだねて、もみくちゃになりました。

歌詞はよく意味がわからないのですが、激しい祝詞音リズムに会場中が飲み込まれていって、曲が終わるとそこら中で叫びだし始めました。もちろん僕もです

「今日は集まってくれてありがとう。俺らもここに来れてうれしい」

会場にいる女の子達が歓声を上げます。

「終わりまでじっくり刻みつけてくれよな!盛り上がっていこうぜ!」

フロアーに地響きがなります。

「次の曲に行きます。次の曲は、バトルフィールドラブ!」

ギターが一人で引き始めると、ボーカルがマイクを両手に抱え込むようにしながら声を出しました。そして、皆が音も立てずに聞いているなか何小節か歌うと、急にテンポが変わってドラムとベースが激しい音を出しながら加わってきて、一気にロックを響かせました。それと同時に、皆はノリノリになって拳を突き上げます。

僕は始めて聞く曲でしたが、ここにいる皆はやはりファンなのでこの曲もさっきの曲もよく聞いていたのでしょう、いいタイミングで声を合わせて歓声を上げます。

皆の息もぴったしです。

その次のバラードになると、さっきまで激しく体を上下させていた女の子達も、聞き入っているのか動かないか、体を横に揺らしていて、ステージの上のスポットライトに照らされているボーカルの姿に釘づけのようでした。会場は完全にこのバンドの音、このボーカルの声にとらわれていて、彼がこの場を支配しているかのようでした。

かくゆう、僕も、彼らの歌に聞き入っていました。

激しい時には激しく、聞き入るときは聞き入り、バンドの曲に合わせて僕の心も波長を合わせているかのようで、歌詞の内容はよく理解できなくても、フィーリングが僕を盛り上げていました。

女の子達も同様で、最前列の子なんか、あまりのはじけぶり、その代わりように、見ていて驚きを通り越して笑いたくなるくらいでした。

ドラムを一つ叩く振動ががんがん僕に響いてきて、ギターやベースの音が僕の頭の中を占領していくと、ボーカルの声が体中を駆け巡っていくのです。

こんなに音楽を体で感じた事は無かったので、僕にとってこれはかなり衝撃的でした。

改めて音楽を感じてしまったのかもしれません。

耳で聞くというより、全身で聞いている、そんな感じです。

はじけだしたこの感情が、僕の頭のコンピューターに激しい衝撃を与えてたのかどうかは知りませんが、またもや直感が僕を貫きました。

そして、周りを見渡してみて、そこにいるすべての女の子が、このバンドに陶酔しきっているのを目に焼き付けました。

周りのファンにもみくちゃにされながら、女の子達が熱狂的に声援を送っているのを見て、そして、だれかれかまわず体をくっつけながらも激しく動き回っているのを見て、僕にはこの力しか道はないように思えてきました。

この力なら出来る!

これなら、人の心を動かし、ムーブメントを作れる!

何のムーブメント?

もちろん「ラブ・ハンド」のです!

僕は周りが音楽につられて激しく手を振り動き回っている中、一人じっとしてただボーカルの顔を見ていました。

頭の中で僕のコンピューターが高速回転して、次々とイマジネーションを送り出してきます。

このバンドの音楽からとは、違う盛り上がりが僕の中に起こり、激しい感情が僕の足から頭へ駆け抜けます。

僕は乗りにあわせて天井に雄たけびを上げました。

これだ!

これはすごい!

やるぞ!

やってやる!

僕はさらに雄たけびを上げ、その場で狂ったように飛び跳ねだすと、それにつられるかのように周りにいて僕を見ていたの女の子達も、男達も激しく飛び跳ねだしてゆき、それが会場全体に広がってゆきました。そして、オーディエンスの歓声と体の躍動が会場を飲み込んでゆき、さらにはバンドの音までも飲み込んでしまうと、すべてから開放されたか、前列の一部が着ていた上着を剥ぎ取るのが見えました。

男達が大半なのですが、女の子も一人だけタンクトップに手をかけたのが僕にも見えたのですがその途端、異様な盛り上がりの中で押し潰されもみくちゃにされてしまい、近くにいた何人かと共に床になぎ倒されてしまいました。

僕の上に人が重なってきて、床に体を打ちつけながらも、人の重さと発散された熱と体臭の中で、僕は一人笑い声を上げていました。

演奏が終わり、バンドがステージから去ると、ステージ近くにいた観客達もまたちりぢりになっていきました。一部はステージ横に集まって、後から出てくるバンドのメンバーを待っているファンもいましたが、大半はさっきまでのライブ感を引きずりながらもライブハウスを後にしていきました。

僕もその波に乗るようにして出口に向かいましたが、回りの人たちとは違う高揚感を味わっているのは明らかで、外から入り込んでくる風が僕の汗ばんだ体を冷やすのを感じながら、さっき受けた衝撃を反芻していました。

これこそが、音楽こそが人にムーブメントを起こす鍵で、それは僕の閉ざされた扉を開く希望だという事が体と心が訴えていました。

そんな事を思いながらライブハウスを出かけると、待ち構えていたようにあの人がいて、僕のほうに走りよってきました。

「お前見た?俺の言った通りだったろう!俺らの音楽も聴いたろうが!頭ん中がすっきりしたんじゃねえの?よかったろう?」

大森さんの顔を見据えながら、僕は声を張り上げました。

「最高でしたよ!今までもやもやしたもんが全部吹き飛んだようです!いや、マジ誘ってくれてよかったですよ。ありがとうございます!」

僕がそう言うと、大森さんは肩を組んできて耳元で笑いました。

「だろう!よかったろう!よし!これから皆で飲みに行くからお前も連れてってやるよ!」

そう言うと、手首についているとげを僕の首に食い込ませながら、彼は有無も言わさず僕を引きずっていきました。

翌日、二日酔いでぐるぐるしている頭をさすりながら、僕はテレビをつけました。

テレビからはお昼過ぎの番組が流れていて、今日のニュースにコメンテーターが何かを言っているようでした。僕は起き上がって冷蔵庫を開けて冷たい水を口に流し込むと、着ていた物をその場で脱ぎ捨てて、シャワーを浴びました。

結構熱めのお湯が僕の頭を流れてゆくと、昨日の事がずきずきする頭に浮かんできました。あのライブの後でケルベロスさんとバンド仲間と、あの時一緒に演奏した何組かのバンドと飲みに出かけ、僕は彼らにに派手に飲まされてしまいました。行った居酒屋の酒が安物だったのか、飲み合わせが悪かったのかだいぶ酔っ払ってしまい、今まで溜めてきた鬱憤をその場で撒き散らして、散々暴れ回った事が、断片的に浮かんできました。体をよく見て見ると、足も腕も痣だらけです。

そう言えば、「サンダーフラワー」の人達は一人もいなかったなぁ。

僕の中に、再び彼らのライブの映像が浮かんできます。

いきり立ったオーディエンス、響く音楽、飛び散る汗、その中の自分。そして、僕を突き抜けた感覚。

シャワーのお湯が僕の気持ちをほぐしているからか、昨日ほどの昂揚は起こらなくて、そう思ったなぁぐらいな感覚しかありませんでしたが、確かに刻み付けられたものは感じました。

昨日の夜に感じた予感は、僕の根底を確かに揺さぶっていたようで、今は確信に変わっていました。音楽の持っている力があれば、僕のしたい事を叶えてくれるかもしれない。

でも、どうやって?

今の僕には、何のアイデアもありません。

タオルで体を拭きながら、また渇いた喉を潤していると、テレビからコマーシャルが流れているのが目に入ってきました。

コマーシャルでは、今一番人気のスーパーアイドルが出ていて、どうやら自分の部屋にいるようです。そして、その役では一人暮らしをし始めて不安な日々を送っているようで、それを紛らわそうとブログを書き始めます。すると、大勢の見知らぬ人たちから応援の返事が来て、彼女は少し希望を抱き始め、そして、それから起こったことや感じたことをブログに書くにつれてすっかり元気を取り戻し、さらに楽しくなっていきます。

とまあ、こんな感じでプロバイダーの宣伝がなされていました。

ただ、それを見て、僕の目は釘付けになってしまいました。

そう、また頭のコンピューターがスパークしたのです。

「それがあったか!」

僕は裸のまま、すぐにパソコンに向かいました。

「ミュージィック」と「ブログ」と「ラブ・ハンド」。

明らかに組み合わさらないようなこの三つのキーワードが僕の頭の中で組み合わさった時、考えられないような奇跡は起こるのかもしれません。



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