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ラブハンド  作者: hisasi
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小学生の話

 本人は至って真面目です。きっと。

当然、女の子からは嫌われていきました。

不思議なんですが、女の子はスカートめくりをしている男の子とは話せても、お腹をつつく僕とは口も聞いてくれない始末なのです。 

それを、僕には理解出来ませんでした。どちらも同じ事だと思ったからです。

「おんなごころが、分かってないね」

とは、北村愛子から言われた言葉です。

しかし、僕はめげずに女の子のお腹を追い続けました。子供心に純粋に、お肉を求めたのです。勿論、自分のお気に入りのお腹の持ち主だけです。まあ、お気に入りといっても子供なので、少し太めの女の子であれば誰でも良かったですが。ちびっ子ながら僕も男なので、細身の女の子には何もしませんでした。しかし、おかしな事なんですが、クラスの女子全員から嫌われていました。北村愛子がよく、僕がどれだけクラスの女子から嫌われているか報告してきましたが、その時の僕はまったく、気にもとめませんでした。鼻で笑って相手になんかしなかったのです。

そう、あんな事があるまでは・・・・。

あれは、僕が六年生になったばかりの事でした。その日、僕は日直をしていて、朝のホームルームの為に、教壇に立っていました。朝のホームルームの進行は、日直がすることになっているからです。まあ、たいした事はしないのですが、係りの仕事なので仕方ありません。僕はその時、また同じクラスになっていた北村愛子と一緒に皆の前に出て、朝のホームルームの進行をしていました。確かその時、北村は黒板に何やら書いていたと思います。 

僕はと言うと、決められた通りホームルームを進めようと、一生懸命口を動かしながら担任の鈴木先生の横にいました。鈴木先生が進行役をサポートしてくれるので、まあ、先生の言う事を聞いていれば、誰でも無難に進められる事になっていました。

鈴木先生は優しい女の先生で、川原先生の恋人だ、と言う様に生徒には認識されていて(本当は違っていたのですが、当時生徒達ははそう信じて疑いませんでした)、比較的大人しめの音楽の先生でした。普段いつもうるさい生徒達を、上から叱り付ける事もしなかったし、なかなか美人だったので、クラスの皆は先生の事が好きで、人気がある先生でした。もちろん、僕も鈴木先生の事は気に入っていました。

その日だって、まだこのクラスになって始めの頃で、自分が日直になるのもこのクラスでは初めてだったので、緊張していたのは事実でしたが、先生の言うと通りに張り切ってがんばっていたんです。それはもう、僕なりに真面目に頑張っていたのです。

しかし、終わりに近づくと、今までに無い緊張に包まれてきました。

何故なら、鈴木先生は、いつも朝のホームルームが終わると日直と握手する事が分かっていたからです。僕にとって、大人の女性に触れるのはその時はなかなか恥ずかしい事でした。その事を考えていたので、あまりの緊張の為か,僕の深層心理がおかしな作用したからか、よからぬ考えが僕の頭に閃きました。何でそんな事を思いついたのか、自分でもよく分からないのですが、一言で言えば、子供だったからと言うしかないでしょう。

ホームルームが終わって、先生は僕に握手を求めてきました。

僕のすぐ横に先生がいます。僕はすかさず手を伸ばしました。先生は笑顔で待っています。しかし、ここで僕の手は、先生の右手にではなく、それをすり抜けて無防備な左わき腹に向かったのです。

僕の指は、Tシャツ越しに、先生の腰のお肉を摘みました。

「・・・柔らかい・・・」

そう思って、僕は先生の顔を見ました。

鈴木先生の顔は、笑ってはいませんでした。そこには、今まで見た事の無い形相をした鈴木先生がいました。そして、目があった瞬間、僕の顔に衝撃が走りました。

その時僕は、天国と地獄を一瞬で味わい、そして、大人の女性の怖さを知ったのです。

僕を叩いた後、先生は我に帰って心配そうに僕の頬を擦りましたが、教室は大爆笑に包まれました。僕の痛みをよそに、後ろで北村愛子も笑っています。お肉の感触も忘れてしまうほど衝撃的で、それ以来、なんの断りも無しに女の子のお腹を触る事はしなくなりました。

女性の怖さの一端を、垣間見たのかもしれません。

鈴木先生は、僕が卒業するまで僕の近くに来ると、当然のようにお腹を警戒するようになりました。もう、そんな事必要ないのに。僕がそうなったのもあなたのせいなのに。

その時、小学生の僕がそう思ったか思わないのか、それ以来、僕のお腹に対する興味は別の方向に進む事になります。どういう方向に進んだかと言うと、それは、女性のお腹を触ると言う方向では無く、お腹を好きな同志を求めようとする様になったのです。

ただ、その頃には僕も、中学生になっていました。

僕の行った中学校は、その地域の小学校三校の生徒が集まっていたので、同じクラスには僕に初めて会った人も多数いました。なので、僕が女の子に嫌われた過去や、お腹を触ったりしていた事を知らない人だらけでした。要するに、僕は大人しくしていて、変な事をしなければ、女の子に嫌われる事は無く、普通の中学生として生きていけたということです。女の子に興味を持ちつつも、部活に勉強にがんばっていけば、普通の中学生として、僕も普通の高校生になれていたのかもしれません。

しかし、やはり、自分を偽っては、人は生きられないのかもしれません。

いや、初めのうちは、偽れるものでした。

中学生になると、その緊張からか、環境が変わるからか、皆自分が小学生であった事を忘れてしまうらしく、僕がへんてこエロ小学生だった事は皆忘れてしまった様でした。

僕自身が制服をきっちり着こなしていたからかもしれません。制服を着ると、皆同じ様に見えるから不思議です。僕も真面目な友達も一緒くたに、溜まりに溜まった生意気エロ中学生として扱われてしまうんですから。

まあ、他の人から見ればそうかもしれません。

今の僕が中学生達を見たって、そう思ってしまうのですから。僕だってそうだったのでしょう。

とにかく、中学校に入ると、僕はなるべく女の子には話しかけないで、男の子とばかり話すように心がけました。

入学してからしばらくは、僕は猫をかぶっていたといえるでしょう。

とにかく、僕がお腹の肉好きだ、と思われないように細心の注意をしました。中学生ともなると、女の子に関する話題が大半を占めているのですから、そのような話題がいつ何時口から出てくるか分からないのです。まあ、小学校からの友達もいますし、男の子とはすぐ打ち解けられるのが僕の得意技でしたから、そのせいかどうか、男の友達はすぐ出来ました。

そう、誠也(せいや)君もそのとき友達になった一人でした。

誠也君とは同じクラスで、一学期に班が同じになって、何と無く話したような気がします。何がきっかけで僕らが仲良くなったのかよく分かりませんが、とにかく思い出せないほど一緒に遊んでいました。部活も同じサッカー部で、まあ、僕が半ば強引に誘ったのですが、よく一緒にボールを磨いたものです。

勿論、女の子の話もしました。

他の帰る方向が同じな一年生四人と、部活が終わった後に歩きながら帰った時の事です。

「岡田ってさ、好きな女の子とかいるの?」

こう切り出したのは、僕を先生に売ったあの陽介でした。陽介も同じサッカー部に入っていました。ちなみに、岡田っていうのは、誠也君の苗字です。

「え?女の子?な、なんだよ急に」

「だから、好きな奴がいるかって事!」

「そりゃあ、気になってる子はいるけど」

「誰?誰?誰よ?同じクラスの女か?」

そう話に加わってきたのは、隣のクラスの真ちゃんです。

「別に、お前らに言うことないよ。なぁ、武」

誠也君に話を振られて、僕はそれに同調するように言葉を出しました。

「そうそう、誰が好きだっていいじゃないの」

その時は、僕も彼が誰が好きかなんて聞いてはいませんでしたが、なんとなく話を合わせておいたのです。すると、周りにいた三人が目を細めてこちらを窺ってきました。

「お前は福田が好きなんだろ?」

案の定、また陽ちゃんがいらない事を言ってしまいました。皆が僕の方を見て口を歪ませます。

あろう事か、誠也君も驚きの目でこっちを見てきました。

「福田!?」

そこに居た皆が口をそろえて顔を見合わせ、驚いたように言いました。

「お前、どうかしてるよ!あんな豚饅頭のどこがいいんだよ」

「マジ、どうかしてるよ。明らかに二人分食べてるだろう。あれは」

真ちゃんと、禄ちゃんは言った傍から笑い転げていきます。禄ちゃんと言うのは真ちゃんと同じクラスで、同じサッカー部の間禄太です。

「武士は昔から目がおかしいからなぁ。二組の相沢とかも気になってるんでしょ?」

さらに陽ちゃんが続けます。確かに相沢さんのお腹は小学校の時よく追っ駆けて触っていました。幾分ふっくらしていて足の鈍かった相沢さんは、とっても触りやすかったのです。 

陽ちゃんの言葉に、皆の笑いに火がついて、さらに増していきます。

誠也君もお腹を抱えて笑っています。僕は慌てて弁解しました。

「違う、違う。二人とも違うよ。ぜんぜん、好きじゃないよ!」

「武士はあんなに太っちょ達がいいのかよ?俺には分からないなあ?」

「だから違うって。陽ちゃん、いい加減な事言うなよ!一言だってそんな事言ってないよ。福田も相沢も興味ないって」

すかさず真ちゃんが突っ込んできます。

「じゃあ、誰が好きなんだよ」

僕は考えてしまいました。

何しろ、その時は本当の意味でどの女の子が好きかなんて考えた事が無かったからです。

女の子はむしろ怖い存在でしたし。

話すといっても、たまに同じクラスの北村愛子と悪口を言い合うか、最低限必要な事をクラスの女子とする位でした。

しかし、ここで誰もいないといっても誰も信じてはくれないでしょう。このままでは、僕はやっぱしお肉が好きな男として噂が広まり、女の子に嫌われ、そして最後にはきついお仕置きが待っているのです。それだけはどうしても避けたいことです。

確かに、中学校の中で気に入っている腰肉の持ち主はいました。

まあ、特に先輩なのですが、それをこいつらに言っても何を言われるか分かったものじゃありません。何故なら、どちらかと言うと、福田や相沢達と同じような見栄え人達だったからです。まあ、腰肉が基準なのですから仕方ありません。

ここは自分の考えと違う、無難な、しかも人気のある人を言おう。そうすれば、僕は変な好みの持ち主ではなくて、ミーハーな当たり前の好みの持ち主と言う事になる。そうすれば、こいつらも納得するだろう。中学生の僕は、とっさにそう思いました。そして、僕の頭の中に、中学で一番人気のあるであろうと言われている、バスケ部の一之瀬先輩が浮かびました。

「じゃあ言うけど。誰にも言うんじゃないぞ。絶対だぞ!」

皆笑いながら、僕の話を聞いてきました。

「もったいぶるなよ。早く言えよ」

「じゃあ言うぞ。俺は一之瀬先輩が好きだ。うん」

僕の言葉に、皆いっせいに笑い出しました。真ちゃんも、禄君も、お腹を抑えてもだえます。陽ちゃんなんか笑いながら、僕の肩を叩いてきました。しかし、誠也君は笑わないで様子を見ていました。

「お前ら笑うなよ!俺が誰を好きだろうと構わないだろう」

「武ちゃん、一之瀬先輩は無理だよ。だって、三年生だし、凄い美人で人気あるじゃん」

「そうそう。皆、狙ってるんだから。先輩達が言ってたよ。確かに、すげースタイルいいけどさ」

「胸もあるし」

「俺は、お尻がいいと思うよ。うん」

「真ちゃん、彼女いるじゃん。お尻持ってるじゃん」

肩掛けかばん越しに、僕は真ちゃんに突っ込みました。真ちゃんは、入学早々同じクラスの女の子と付き合っていました。対して、その頃の僕には、女の子と付き合うと言う事がどんな事かよく分かりませんでした。なので、よく分からない事を口走ってしまいました。

何とか話をそらそうとしたのかもしれません。

「それとこれとは別でしょうが?武ちゃん、そんな事言ったら一ノ瀬先輩から嫌われちゃうぞ」

「うるさいよ。しかし、彼女は明るくて、笑顔が可愛いし。性格が好きだなぁ、俺は」

僕は一ノ瀬先輩と話した事は一度もありませんでした。当然、性格なんて知りませんが、そんな事でも言わないと信憑性がないと思ったのでしょう。

中学生の僕の頭は、超スピードフル回転です。

「性格ねぇ?だけど、一ノ瀬先輩には彼氏がいるって、誰か言っていなかったけ?バスケ部の誰かだって?」

「そうだっけ?そんな人いるんだ。じゃあ、武ちゃん、もう駄目じゃん」

「何!そんな事言うわけ」

僕は自分が、本当は一ノ瀬先輩の事を何とも思って無いにもかかわらず、その時は本気になって反論しました。

「いや、武だったら彼氏いなくても無理でしょう。ねぇ、武?」

陽ちゃんの言葉は、いつも心に突き刺さるものがあります。

僕は偽りの気持ちに乗ってしまうかのように、反論しようとしました。

すると、今まで何も言わなくて聞くだけだった誠也君が、突然口を開きました。

「それは言いすぎだろうが。武が一ノ瀬先輩を好きって言うならそれでいいじゃんか!誰かがとやかく言う事ないだろう。お前らおかしいよ!そんなこと言うべきじゃないし、応援しようって気にならないか?」

その言葉に、皆笑っている口が閉じて、何と無く気まずい雰囲気が流れてしまいましたが、いつになく真剣な誠也君の言葉に、僕は心を打たれました。僕の嘘にそこまで言ってくれなくてもと思いつつも、僕に対する友情を感じました。こんなに僕の事を大切に思ってくれているのか、友達と思ってくれているのかと、恥ずかしくも嬉しくなっていきました。


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