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ラブハンド  作者: hisasi
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ラブハンドの由来

 いや分かってるんです。くれぐれも実際に調べたりしないで下さい。悲しい結果になりますので。いや、そっち方面から閃いたわけでは・・・。


ここまで付き合ってくれた方は分かってもらえると信じています。

次の日の朝、僕はさっそく家電量販店に行ってデスクトップのパソコンを購入しました。ちょうどサービス期間中で、インターネットへの接続も無料でやってもらえるらしく、それ無しでは僕の計画も始まらないので、大枚叩きましたが迷わず加入申し込みしました。

何日かしてインターネットの接続の工事もすむと、その日の夜、早速検索エンジンを使って女性の腰肉について調べてみる事にしました

始めは何をどう調べていいか迷いましたが、とりあえず、「女性の腰肉」と打ち込んでクリックしてみました。

すると、検索結果は一万件以上ありましたが、ほとんどが美容関係のようですぐに検索をあきらめました。

落胆しましたが、まあ、予想もしていましたので次のフレーズ「女性の外見」で調べてみると、今度は何件かヒットしました。「女性の外見」というフレーズが乗っているサイトが画面に何件も並べられていて、僕は一番上にあったサイトをクリックしました。しかし、そのサイトの内容は僕の思っていたのとは違うもので中年女性向けの下着のサイトだったので、すぐに画面を戻し、大体どれも同じ様な女性のコスメに関する事が多かったので、よく吟味したうえで今度は別のサイトをクリックしました。

今度現れたのは、どう見てもアダルトサイトで、個人の女の人が運営しているのか、その人の夜の生活を赤裸々につづったものが画面に現れました。目を向けると、現実に起きた事とは思えないような、信じられないほど赤裸々で、いやらしく、心苦しくなるような、そんな話が書かれていて興味をそそられましたが、今は関係ないので今度にまた見る事にして、次のサイトを開いて見ました。

すると、今度はずばり、男性が運営する男性に向ける、男性のためのサイト、「女性の評価論塾」が出てきました。

これは、男性達が女性の外見に関するありとあらゆる事を討論するサイトらしく、何やら色々な分野の女性の外見に関するテーマが書れていました。要するに、男達画自分のフェティズムを遺憾なく発揮して、討論、意見交換、見せびらかす事が出来る場所で、同じ思考の連中が同じブロックで一つのテーマに沿ってチャットしたりする場所でした。

例えば、巨乳好きの人達は「でかパイ論」ブロックでとか、足フェチの人は「足と足」ブロックでとか、二の腕狂いの人達は「2の、二の腕」ブロックの中で、自分の思いを炸裂できるようになっていました。

僕は若干興奮気味になりながら、もっとよく調べてみると、「女性の腰肉」ズバリのブロックはありませんでしたが、「桃尻女と、小尻娘」ブロックに並んで「すべてのポッチャリ好きへ」というブロックがあるのを見つけて、すかさずクリックしました。

クリックしてみると、画面が変わり、見るからにポッチャリしすぎている娘の写真が前面に出てきました。そして、その下あたりに、「コミュニティ投稿欄」とか、「チャットルーム」とか書かれていたので、とりあえず投稿欄をクリックしてみると、ポッチャリ好き達からの色々な投稿が羅列されて、そして写真付きのそれには様々な事が書かれていました。

世の中には色々な嗜好の人がいるらしく、見るも耐えないようなブヨブヨな体つきの女の子が好きでたまらないという人や、百キロの女の人に押しつぶされたのを自慢する人、今まで付き合った女の子の体重の合計を競っている人達もおり、「すべてのポッチャリ好き」達のあらゆる声が載っていました。僕は圧倒されて、またメニュー画面に戻りました。

そして、「ヘルプ」をクリックして解説を読んでみると、どうやらこのサイトでは会員になるとサイトの住人達と直接やり取りも出来き、自由に投稿を載せる事も出来るということでした。ただ、わいせつな写真や表現は載せる事が出来ない決まりになっており、発見され次第、退去処分になるという事でした。

僕は迷う事無く、すぐさま会員登録しました。多少お金が掛かるようでしたが、僕はこのサイトを足がかりにする事にしたのです。

にわかに興奮冷めやらなかったのですが、その日はとりあえず登録だけしておいて、登録を済ますと、また検索画面に戻りました。そして現実の世界に引き戻されるかのように、今度はバイトの求人情報を探す事にしました。家にいながら何でも出来るや、と思いながら、僕はマウスを動かすのでした。

何日かして、僕は求人サイトで探したバイトの面接に行きました。とりあえず、家から近いのと、なかなか時給のいい事もあってレンタルビデオショップの店員になる事にしました。料理以外の仕事は初めてだったので面接に少し緊張しましたが、何しろ人手不足らしくその場で採用されてしまい、僕は店員として週末から働く事となりました。やけにあっけなく決まったので、幸先いいなぁと思いながら家路に帰り、部屋につくと早速また「女性の評価論塾」のサイトを開きました。

それまで、投稿欄などを探りながら様子を見ていたのですが、今度はこちらから「ポッチャリ好き」達とコンタクトを取ろうと思い、そのサイトのチャットコーナーに加わる事にしました。

チャット上では、すでに何人かが書き込みをしていて、その中の誰かの出した意見、「若い人の脂肪とある程度年を重ねた脂肪、どちらがいい脂肪であるか?」と言う内容で議論しているようで、大体の人は若い張りのある脂肪の方に軍配を上げているようで、その意見が多く書き込まれていました。

僕はどんどん加わっていく意見を目で追いながら、早く自分も書き込みをしなくてはと思いましたが、僕はその寸前で躊躇してしまいました。

その時、まだ自分のハンドルネームを決めてない事に気が付いたからです。

画面上には、ここの住人の色々なハンドルネームが溢れていて、もちろん名無しの人もいたのですが、「ドラム缶ねえちゃん」とか「セルロースハム」とか「脂男爵」とか色々個性溢れるものが多くて、ほとんどはインパクトのあるハンドルネームを持っているようでした。

別に付けなくてもチャットには加われるのですが、それではここの住人に相手にされないですし(実際に、名無しの書き込みは冷やかしがほとんどでした)、自分でもやっぱり盛り上がりに欠けてしまいます。

なので、僕も何かこれといった名前を考え出さなくてはと思いましたが、瞬時には何も考え出せませんでした。しばらく頭ではハンドルネームを考えて、目では飛び交う意見を追っていたのですが、しだいに頭の中で考えがあふれてしまいそうになったので、僕はいったんパソコンから離れて、冷蔵庫にお茶を取りに行きました。

いったいどんな名前にしたらいいのだろうか?

一言で僕の思いを伝えられるものといったら何だろうか?

今まで考えても見ませんでしたが、ここで何の変哲の無いハンドルネームにするのは止めたいと思いました。どうせなら格好いい名前にしたいし、何しろ、僕の事を世間の人に分かってもらわなければならない初めの一歩なのです。

ここだけは譲れるものでは無いと思いながらも、しかし、やはりいい考えは浮かんできません。

僕は少しずつ苛立ちを感じながら、ペットボトルに入った冷たい緑茶を喉に流し込みました。

名前と言うのは僕を一言で表すでしょうし、自分で決めるのなら尚更です。

「ドラム缶ねえちゃん」なら、その人の好みはハンドルネームを見るだけで分かってしまうし、実際、この人はそのような女性が好きようでした。この人が送ってくる投稿には立派なドラム缶ねえちゃん達が多くいたからです。

僕としても、これが小田切武士の好みの体型だっていうのを、皆に知らしめたいのです。

でも、その日は特に思いつくこともなく、ベットの上で考えているうちに眠ってしまいました。

次の日も、僕の頭の中はハンドルネームをどうするかで一杯で、部屋の中を真っ暗にしながらパソコンの画面を見つめながらも、いいフレーズがないかしきりに考えていました。「女性の評価論塾」だけじゃなくて、他のサイトも見ながら、いいアイデアがないか探していました。ただ、かなりの数を検索してみましたが、これだというアイデアを僕に与えてくれるものはなく、分かった事と言えば、あそこまでポッチャリした女性の事を議論しているのは「女性の評価論塾」だけだと言う事位でした。

まあ、僕が調べた限りではありますが。

他にも、「男の評価論塾」と言うサイトもありまして、そこでは女性達の熱い意見が飛び交っているのは確認したのですけど、内容までは見る気になれませんでした。

僕は一つ溜息を吐きながら、テレビのスイッチをつけました。

それまで、パソコンの画面だけしか見ていなかったので、一息入れようと思ったのです。テレビ画面の右上に、もうその日の残り時間が六時間ほどだと言う事が現れていて、自分が一日中パソコンと向き合っていた事を何気なく思い知らされました。

思えばご飯も食べてはいません。

僕はテレビを消し、玄関のドアを開けて、近くのスーパーまで夕食を買出しに行く事にしました。

アパートの階段を下りてみると、ちょうど正面に赤く夕日が浮かんでいて、そのオレンジの光がまっすぐ僕の目の奥を貫きます。それが、暗がりにいた僕の脳味噌をいきなり刺激してきたので、僕は一つくしゃみをしてしまいました。おかげで、僕の頭の中のもやもやも吹き飛んでいったようなのですが、奥底にある黒々とした重石は取れないでいました。 

まあ仕方ないや!とスーパーに歩いて行こうとすると、いきなり後ろから声がしてきました。

「ラブ!ヘァンドゥ!ラブ!ヘァンドゥ!」

僕はビックリして後ろを振り返りました。

すると、そこには一人のおじさんと、一匹の黒い犬がいました。すぐにそのおじさんはアパートの隣に住む大家さんで、黒い犬は最近見かけるようになった大家さんの愛犬だと分かりました。

大家さんはしゃがんで自分の犬と同じ目の高さで、何かをしようとしていました。

犬の片足を、自分の手にもってじっと犬の方を見ています。

犬はと言うと、きょろきょろしながら、たまに僕の方を見たかと思うと、ぜんぜん反対の方を見たりして落ち着かない様子でした。

大家さんはこの犬に何とか自分の方を向かせようとしていて、目が合ったらまた声を上げていました。

「ラブ!ヘァンドゥ!聞いてるのか?ラブ!」

毛並みもよくて、利口そうな目をくりくりさせているその犬は、口から血色のよいピンク色の舌を出して、長くてふさふさの尻尾を無邪気に左に右に振っています。

しかし、大家さんの言葉は理解していないようでした。

飼い主の大家さんは大きくため息を吐くと、ポケットの中からスッティック状の犬のおやつを一本取り出して、その黒い犬に与えました。

犬のラブちゃんは一瞬でそのおやつを食べてしまうと、またもや舌を出しながら尻尾を振って、大家さんの顔を見上げます。

すかさず大家さんはしゃがんで、犬の前に自分の手のひらを出し、

「ラブ!ヘァンドゥ!ラブ!ハンド!」

と、そこら中に響く位の声を出しました。すると、犬のラブちゃんは、ゆっくりとその黒い毛に覆われた前足を上げて、大家さんの掌に乗せました。

それを見た瞬間、大家さんの顔に満弁の笑みが浮かび、犬とつないだ手を上下に振りました。

「やれば出来るじゃないか」

大家さんは大はしゃぎでそう言いながら犬の首の辺りを掻くと、犬も嬉しそうにその手に身をゆだねていました。そして、ポケットから取り出されたおやつをむさぼっていました。

僕はそれを見ながら、ほのぼのとした心地になって、またスーパーの方に足を向けました。

黒い毛のあの犬は、僕の好きな犬種のラブラドールレトリーバーで、時々僕にも懐いてきてくれていました。僕が首の辺りを書いてやると、機嫌がいい時はお腹を見せて横になったりしてくれていました。

その時分かったのはどうやらこの犬はメスだと言う事で、顔は男っぽいのに僕らのような一物がついてないなぁ、と思ったものでした。

しかし、大家さんのあのハンドの発音は、日本育ちの彼女の耳には聞き取りづらかっただろうなぁ。ラブちゃんにお手を教えるのに、大家さんは外国のトレーニングビデオでも見たのかなぁ?と思いながら、僕は商店街のアーケードに通りがかりました。

上を見上げると、空は暗くなりかけていて、Tシャツに突っかけ姿の僕を、きらびやかだけど寂しげな電灯の明かりが照らしていました。

商店街には買い物をしている主婦達が自転車に乗って往来していて、ゆっくり歩く僕を尻目に、急ぎ足で駆け抜けていきます。すれ違いざまに後ろにしがみ付くように乗っている小さい子供と目が合いますが、それもつかの間、彼女達はすぐに遠くに離れていき、人ごみに紛れた僕は、ご飯時でにわかな盛り上がりを見せる店先を覗きながら、お目当てのスーパーにたどり着きました。

店に入ってまず一番最初にある野菜コーナーや鮮魚コーナーは早足で駆け抜け、迷わずお惣菜コーナーに行きます。お目当てはお弁当なのです。料理人だったとはいえ、家で自分で何かを作る気にはなれないでいたので、最近はもっぱらこのスーパーのお弁当ばかりです。僕は手ごろなお弁当と飲み物を買うと、スーパーを出てアパートに向かっていきました。

そして、アパートに通じる道に差し掛かると、遠くであのラブちゃんと、今度は若い女の人がいるのが目に飛び込んできました。アパートに近づくに連れて、女性の高い声がはっきりと聞こえてきました。

「ラブ!パパにはしてくれたのに、どうして私にはしてくれないの?さあ、いくよ。ラブ、ハンド!ラブ!ハンド!」

しかし、犬のラブは笑ったように舌を出しながら無反応です。すると、困ったような顔をしながら、彼女はしゃがんでラブちゃんの頭をぶるぶる揺らしました。僕は入り口に差し掛かると、後ろから彼女を見ました。彼女は大家さんの娘で、僕の一つ上の階に住んでいるようでたまに見かけました。年は僕より少し上だと思いますが、顔は大家さん似のブルドック顔の人でした。しゃべった事はなくて、そこまで興味も無かったのですが、このときは目を惹かれてしまいました。

どうしてかと言うと、しゃがんだ彼女のTシャツが捲れ、ジーンズの上にぷっくりとはみ出た腰のお肉が可愛らしく顔を覗かせていたのです。

まさに、僕が好きな腰のお肉の形をしていました。

僕は思わず立ち止まってしまい、その部分だけを凝視していると、犬が僕に向かって一つほえてきました。

慌てて顔を伏せ軽く会釈すると、彼女も同じように返してきたようでした。去り際にその顔を見てみると、こめかみに汗をたらしていて、お手にかなりてこずっているようでした。ブルドック顔だけどにあんないい腰肉があるんだなぁ、と思いながら階段を上ろうとすると、外から彼女の声がまた響いてきました。

「ラブ!ハンド!ラブ!ハンド!」

と、甲高い声が聞こえてきます。いつになったらラブちゃんはハンドを覚える事やらと思って二階にさしかかった時、いつぞやと同じ様な電流が体を貫き、僕の頭のコンピューターにスイッチが入りました。そして、その衝撃で体の筋肉が毛羽立って、僕は階段の途中で立ち止まってしまいました。

「ラブとハンド」

要するに、「愛と手」

「愛のある手」

「愛のあるものをつまむ手」

「愛のあるものを手がつまむ」

「愛のあるものが手でつまむところ!」

その場所とは腰の肉、すなわち腰の肉とは「ラブハンド」

「腰の肉の部分=ラブ・ハンド!」!

僕の頭の中で、言葉が間欠泉のように噴出してきて、頭の中を飛び回り、そして、一本の糸に繋がってゆきました。

そうだ!腰の肉は「ラブ・ハンド」なんだ!

肉のつまみ具合、ここに対する敬愛を表現すること、そして、そのかわいいネーミングといい腰肉に対する愛称としてぴったりではありませんか。

そして、これと同時に、それまでの僕の悩みも解決する事となりました。

僕は使うハンドルネームはこれ以外にはありません。

「ラブハンド」

そう、この時、僕はこの「ラブ・ハンド」という言葉を思いついてしまったのです。

買ってきた弁当は台所に置いたままにして、早速パソコンの前に座り、「女性の評価論塾」にアクセスしました。そして、「すべてのぽっちゃり好きへ」を開き、チャットコーナーにカーソルを合わせてクリックしました。


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