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ラブハンド  作者: hisasi
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専門学校に入る

 料理はいいよ!物事の何かを分かりたい時、料理を作ってみてください!

 「料理は人」

 いい言葉です。


 料理にあなたが現れるでしょう。そして、味を見ればすぐに結果が分かります。

学校に入ってみると、クラスの半分は女生徒で、何しろ一緒になって講習を受けたり実習を受けたりするのですから、ほとんど一日中一緒にいる訳です。これで、何も起きないはずはありません。それに、僕の場合は友達になった男の影響と言うか、彼女達と積極的に交流をもつ事になってしまいました。その友達と言うのが大倉(おおくら)君と言うのですが、なかなかの美男子で、背も高くて明らかに女に慣れているやつで、実際、入学当初からその片鱗を見せていました。 

その大倉君は、僕と同じクラスで、出席番号が隣だったので、初日に席が隣どうしになったのですが、初めての一人暮らし、初めての授業で緊張している上、教室という場所で一人でいる事に慣れてしまっていた僕は、彼の事を特に気にもしていませんでした。しかし、この大倉という奴は、初対面だと言うのに何の躊躇いもなく僕に話しかけてきて、事あるごとに声をかけてき始め、そして、色々なプロフィールを聴いてもいないのに自分から喋りだしてきて、いつの間にか僕の事も聞いてきました。この大倉君、天性のテクニックというか、相手の何かしらの話題を見つけると、それを自分の話も織り交ぜながらどんどん紡いでいき、いつまでたっても話が止まらなくする事にかけては天才でした。そして、何より彼の話を聞いているうちにこちらも面白くなってくるので、どうしたって僕も笑ってしまい、話に乗っかるようになりました。そうこうしていくと、自然にこちらからも話を持ち出してしまうことになり、その日の授業が終わるころには、僕らはすっかり打ち解けていました。

そして、とにかく飾らず気さくなこの男は、何日もしない間にクラス中の人間と友達になってしまい、僕も彼に引きずられるようにクラスの皆と仲良くなっていきました。何しろ大倉君は格好良いし、楽しいと言う事で、女の子の方から彼の周りに集まる始末なのです。もちろん、他の男達も集まっては来るのですが、大概、彼の隣には僕がいたので、自然と僕もその中に入っていき、大倉君を交えて彼女達ともよく遊ぶようになっていきました。

この大倉という男、実に女性の扱いに慣れており、隣でいて感心せずにはいられないくらいで、僕は隣にいながら彼をよく観察して真似をしていました。大倉君は人の心を捕らえるのが上手いと言うか、乗せ上手と言うか、とにかく彼の周りはいつも賑わっているのです。ただ、大倉君は勉強は熱心ではなくて、大体いつも僕のノートを丸写しでしたし、実習なんかではバイト先で色々やっていたせいか、僕の方がおおむね彼より上手でした。魚を捌くとか、料理を仕上げるとかになると、彼はまるで僕の生徒の様に感心しながら話を聞いていましたし、僕が彼を手伝う事もしばしばでした。

ですが、やっぱりそれ以外は大倉君にはかないませんでした。僕らは学校以外でも一緒に遊んだり、同じバイトをしたりと、まあ彼には色々な事を教えてもらいましたし、色々な事を話したりしたものです。遊ぶ事に関しては、彼は僕の師匠でした。

二人でいる時は、大概彼が一方的に僕に話してくるので、彼が僕の気持ちを分かっているとは思えませんでしたが、彼の事は嫌でも色々分かってくるので、僕には色々な彼の顔が見えてくるようになりました。

例えば、彼がこの道に進んだ動機なんかも聞きましたし、夢なんかも聞きました。彼の父親はフランス料理のシェフで、都内に何店舗もお店を持っていました。蛙の子は蛙というか、それで、彼も同じ道を進むことを選び、将来はフランスでお店を持つのが目標だと、いつも僕に言っていました。

彼は僕の事も色々聞いてきました。要するに、僕が料理をするきっかけなどを聞いてきたのです。大概の人は、自分以外の人が、どんな目的で生きているのか知りたいものです。目標がある人なら、尚更その傾向はあるもので、大倉君の場合も例外ではありませんでした。彼の純粋で、しっかりした綺麗な動機に、僕は少し躊躇いと言うか、恥ずかしさを感じました。彼の動機には、裏付けさえバッチリなのですから無理もありません。確かに、今となっては僕が料理を面白く思っていて、取り組んでいきたいと思って頑張っていても、一番最初の動機となると、まあかけ離れているからです。

何しろ、僕は女の腰にお肉をつけさせたいのが望みで、この世界に入ったのですから。

どんな事もきっかけに過ぎないとは言え、僕の料理をやり始めたきっかけは、色々な意味で口に出せるものではありませんでした。人と変わった事をする事が、どんな結果を及ぼすか色々経験してきていたので、僕はこの時大倉に本当の動機を話しませんでした。なので、僕が何かそれらしい動機を彼に答えて話を濁すと、彼は何の疑問も持たないまま納得してくれて、次の瞬間にはまた自分の話しをし始めるのでした。

まあ、僕らはこんな真剣な話しもしてはいたのですが、彼がとにかく女の子が好きだったので、ほとんどの会話の中心は女の子の事でした。

彼を一言で言えば、和製ドンファンです。

とにかく、手が早い男でした。知り合った途端、事あるごとに女の子を誘っては最後まで持ち込んでいくのですが、その後に特にその女の子達と付き合うでもなく、かと言ってギクシャクするでも無い関係を作れる類まれな男、それが大倉君でした。その時の僕にとって、彼の存在は、まるでカルチャーショックと言うか、常識破りの信じられないものでした。まだ、女の体も知らない僕にとっては、そんなに簡単に女性と寝る事が理解できなかったのです。渡辺由香の影響もあったのでしょうが、そう言う事を大切にしていきたい気持ちが、まだどこかしらにあったのです。

しかし、大倉君は見事に僕の考えを打ち砕いていき、侵食していきました。

彼は女の心を知り尽くしているかのように、僕に女の子の落とし方を伝授していきました。僕は正直に、自分がまだ経験が無い事を彼に伝えていたので、大倉君の張り切りようは尋常ではありませんでした。もちろん、皆にその事を言いふらすなんて失礼な事はしませんでしたが、それは熱心に女性を落とすテクニックを教えてくれたのです。この分野では、彼は完全に僕の師匠でした。

まずはファッション。彼は休みになると服屋に僕を連れ出しては、僕に合う服を選んでくれました。彼は実家に住んでいるんですが、自分の部屋に呼んで、持っている雑誌を見せてくれたり、古着をくれたりしました。それまでの僕はと言うと、まあそこまでお洒落に興味が無かったので、彼の部屋で行われる課外授業はかなり勉強になったとおもいます。まあ、そのおかげでバイト代は全部服につぎ込む事になりましたが・・・。

ただ、その甲斐あってか、僕の外見もそこそこ見栄えが出来てきて、お洒落に心がけると言う気持ちになるようになりました。

彼が一番僕に言ってきたおしゃれポイントは、「清潔感を出せ」と言う言葉だったのですが、「いいもの着てても汚くしてたら意味がない、だけど、安物でも綺麗に着こなせばよく見えるもんだ!」と言う事らしく、その時の僕は素直に彼の言葉を実践していきました。それに、「本物は本物」という言葉で、「小さくても、時計や下着、靴下なんかの、小物は安物じゃなくて、本物を見に付けろ!」と言っていたのも覚えています。まあ、家が裕福だったのでそんな余裕の発言が出来たのでしょうが、その言葉が僕に与えた影響は計り知れないものがありました。まあ、清潔にするのは料理をするものにとっても基本ですが、それが女の子に対するときでも及んでいくとは、そのときの僕は思っていなかったのです。

そんな当たり前とも言う様な事から、ある種、彼の欲望むき出しの考え方、女に対しての哲学なんかを受け入れていくうちに、僕の物へ対する考え方が変わっていき、そして、女の子に対する考え方も変わっていく事になりました。

その時に、僕の心にセカンドウェーブが吹いてきたようです。

その風は、長年の疑問、「何故、僕の行為は女の子に嫌われるか?」という事の答えを導いてくれて、僕にもおのずとそれが理解できるようになりました。

僕がそれまで女の子にしていた事は、女の子の心を逆なでする行為で、大倉君が言うには、女の子にやっては成らない事の三か条の中に入っていました。

まずは年齢を聞きそれをネタにする事、他の女の子と比べる事、そして太ってるなどの容姿やスタイルを指摘する事。これらの事は、彼曰く、女の子に口に出していい事は起きないと言う事でした。

僕はそれを聞いて、背筋が冷たくなるのを覚えました。

僕が今までしてきた事、女性に対する欲望は、女の人を怒らすことに直結している事が、それで分かったのです。自分がしてきた事の間違いに気が付いたとき、人は何をする事が出来るでしょう?そうです、悪い事は、改め、忘れていく。幸いな事に僕はまだ若かったので、過ちが何であるかという事に気が付き、直していこう、と思える事が出来ました。

そんな僕が、女性に対して素直な気持ちになろうと思い、大倉君に女性と親しくなるにはどうすれば言いかと尋ねると、彼は僕に女性との会話、お喋りの大切さを僕に教えてきました。とにかく会話しない事には女の子の心は開かない、と言う事を僕に教えてきたのです。そして、彼はトークのテクニックも、僕に惜しげもなく教えてくれたのです。

その甲斐があってか、しばらくすると、僕にも彼女が出来ようになりました。

バイト先で知り合った三つ年上の女性で、名前を大城真弓と言いました。バイト先は居酒屋だったのですが、彼女はホールを担当していました。僕達よりも少し遅くに入店してきて、後輩に当たるのですが、何かと僕と喋っているうちに仲良くなって、バイトの皆で飲みに行った晩、酔った勢いで彼女の電話番号を聞きだしました。そして、次の休みにデートの約束を取り付け、大蔵君のアドバイスを取り入れつつ、なんとか付き合うまでこぎつけたのです。 

まあ、彼女は普通の女の人でしたが、もちろん、僕よりは数段恋愛経験がありましたので、彼女が出来てからその事しか考えられなかった僕は、彼女と初めて致す事になりました。

まあ・・・、やはり緊張しました。

でも、彼女の巧みなリードのおかげで、無事済ます事が出来たのでした。正直、あっという間の出来事でしたが、それからの心持といったら比べ物にならないものでした。自信に漲ると言うか、余裕が持てるというか、大人になった気分でした。

僕がそんな事を出来るまでになったのも、大倉君がいたからこそでしたので、次の日には彼にその晩の事を報告していました。僕は有頂天になって、彼にその事を言いました。その時の彼は、やや興奮気味になり、まるで自分の事の様に喜んで、僕を叩いたりしながら、彼女との話を聞いていました。僕は素直に彼に感謝して、そして彼女とは幸せになりたいと言う様な事を彼に言いました。不思議な事に、いたしてしまいますと彼女は僕のものだと言う気持ちが強くなってしまうもので、前より余計に彼女の事を大切に思ってきていたのです。

それからと言うもの、僕は彼女の部屋に入りびたりの生活を送り、以前の僕からしてみれば、大分ふしだらな生活を送っていました。大倉君の言いつけを守り、僕は自分の本当に気持ちを抑え、彼女のお腹には見向きもしませんでした。彼女は、まあそこそこのいいお腹を持っていたのですが、摘む事も、撫でる事もしませんでした。確かに、何度もいじくりたい衝動に駆られはしたのですが、僕は何かと世話を焼いてくれる彼女をとても大切に思っていたので、彼女が嫌がるような事は一切しなかったのです。

まあ、僕自身は少し無理をしていたのかもしれませんが、それでも、僕らの関係はうまくいっていると思っていました。

しかし、彼女と付き合いだして二ヶ月位たった頃でしょうか、僕は見てはいけないものを見てしまったのです。

あれはもう、学校が冬休みに入っていて、久しぶりに帰った実家からこちらに戻って来た時の事でした。僕は、その彼女に会いに行ったのです。

僕が行く前に電話すると、彼女はいつもと同じように電話に出てきて、僕が来るのを待ってる、と言っていました。僕も久しぶりだったので、お土産に彼女の好きなシュークリームを買って行こうと、僕の家の近くにある彼女のお気に入りのお菓子屋さんに途中で立ち寄り、彼女の喜ぶ顔を思いながら、イチゴのシュークリームとカスタードとホイップクリームの二種類を買いました。

彼女の家と僕の家は、自転車で二十分くらいの距離なのですが、夜の冷たい風を受けながら、僕は自転車を漕いで彼女の家まで向かいました。そして、寒さに震えながら玄関まで行き、チャイムを鳴らすと、笑顔の彼女がドアを開けてくれました。可愛らしいパジャマ姿の彼女が、冷え切った僕を迎えてくれます。

一人暮らしの彼女の部屋は、女の子らしくイチゴのマットとかイチゴの柄のベットカバー、それにイチゴのクッションとか、男兄弟の僕には想像もつかないような色の部屋でしたが、それは何と無く受け入れていました。何しろ女の子の住んでいる部屋に上がった事なんかそれまで無いので、これが普通だと思っていたのです。僕はベットの前にある背の低いテーブルにお土産を置いて、イチゴ柄のマットの上に座りました。彼女はそれを見て声を上げて喜び、お茶を入れてくれました。

まあ、僕はその晩泊まる事になったのですが、彼女が先にお風呂に入っている時、突然彼女の携帯電話が鳴りました。

どうやら、メールが来たみたいです。

いつもだったら気にならなかったのですが、その日の僕は無造作に鏡台の上に置いてある携帯電話が、どうしても気になってしまいました。本当だったら、見てはいけなかったのでしょうが、彼女に対する信頼が僕を行動に移させました。

そして、僕は信じられないものを見てしまったのです。

彼女の携帯を手に取り、今来たメールを開いてみると、僕の友達の大倉君からメールが来ていました。頭の中にぐるぐる?が飛び交いましたが、僕は恐る恐るそのメールを開いてみました。

そして、僕は、メールを見たことを後悔しました。

何と、僕が来る直前まで彼がこの部屋に来ていて、あろうことか僕の彼女と寝たみたいな事が書いてあるではありませんか!僕は気が動転しながらメールの返信履歴をを見てみると、彼女が以前から大倉君に対して、いくつかハートマークがいっぱい入ったメールを送っていたのが分かりました。内容についてはショックすぎて覚えていませんが、とにかく僕は頭が真っ白になってしまい、気がついたら夢中で部屋を飛び出していました。

そして、冷え込みが激しい夜の街を、自転車に跨って全速力で自分の家まで漕いで行きました。

途中で無灯火点検のおまわりさんの検問がありましたが、僕は二人の警察官が止めるのも無視して突っ切って行き、叫び声を上げながら追いかけてくるその警察官達も引き離し、夢中になって走りました。

なぜか涙は出ません!

でも、胸が張り裂けるような、やりようのない怒りと憤りが、僕に湧き上がりました。

あの二人は僕をだまして、楽しんでいたんだ!

僕は彼女の愛を手に入れる事が出来なかったんだ!

信じていた友達に裏切られたんだ!

そんな思いが頭を巡り、家に着くと自転車を降りてすぐ、道端にしゃがみこみ吐いてしまいました。そして、部屋に着くと真っ暗闇の中、僕はベットに倒れこんで目を閉じました。


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