お腹のお肉
実は「ラブハンドル」という言葉を聴く前に、「ラブハンド」という言葉と、話の後世は出来ていました。偶然の一致。
でも、世の中ってそんなもんですよね。アイデアだって良くかぶるし。
でも、これを小説に取り上げる馬鹿な男は私だけでしょう。ちがうか!
『ラブ・ハンド』
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人間は男と女、二つの性で成り立っています。人類が火を手に入れて、粘土板に文字を刻みこみ、大洪水 に飲み込まれる前から、男と女で成り立ってきました。
いや、男好きの男もいれば、女好きの女もいるじゃないか、という方もいるでしょう。
確かに、長い人間の歴史にはそんな話も多々ありますが、それらの話は他に譲りまして、これから綴る話は女を愛する男の話です。
そう、何千年も前から、色々な事情がありつつも、男は女を愛してきました。ほとんどの人は疑う事はないと思いますが、中にはそんな事は信じられない、とおっしゃる方もいるでしょう。ただ、そんな事を言う人でも、一組の男女が、(一時的とは言え)愛し合ったからこそ、そこに存在している事を思い出してください。それに、そうでなければ、こんなに世界中に人間がはびこっている訳がありません。
人は人が好きなのです。
もっと言えば、男は女の事を好きなのです。
色々な女性がいて、色々な魅力があります。男性は、女性の魅力に気づくことで、自分の中の女性の好みを知り、自分を知っていきます。
もちろん、僕もその一人です。
僕も女性の事が好きです。
はい?
君は女性の何が好きなんだって?
まあ、焦らないで下さい。それを今からお話していくんですから。
女性の何が好きなのか?
女性が何しているのが好きなのか?
女性のどの部分が好きなのか?
女性の一番好きな所は何なのか?
色々な女性の魅力があるので、まったく迷ってしまいますが、僕の女性の好みは一言で言えます。そう、僕が女性の体の部分で、どこが一番好きかと聴かれたら、すぐにこう答える事が出来るでしょう。
「ラブ・ハンド」
初めて聞いた方もあると思うので、詳しく説明しましょう。
それは、女性達が常に気にしているであろうし、体のスタイルを気にする上で、とても重要な所でもあります。どんなダイエット本にも、この部分を抜きにして書かれている本は無いだろうというほど、女性達には気になる部分でありましょう。なぜなら、この部分は、痩せたい人には一番厄介で、取り除くには一番時間がかかり、尚且つ、気にしていないとすぐに元に戻ってしまう、そんな憎むべき所だからです。
体のスタイルを気にしている女性なら誰でも気になるその場所は、体の中心、お臍の両脇、腰骨の上。要するに、お腹の周りについていて、腰の骨の上に乗っているお肉。
そう、腰の横から横に飛び出る皮下脂肪の事です。
この場所は、女性なら一度は気になった事があると思います。いや、一度ならず、今でもずっと気にしている方もいるでしょう。嫌いで嫌いで仕方なくて、できる事なら切り取ってしまいたいと思っている人もいるかもしれません。
でも、聞いて下さい。
僕の考えは違います。女性達の感じるその部分の評価と、僕の評価は違うのです。
女性達の求める理想のウエストとは、括れていて、無駄のなく、すらっとしている状態だと思います。そう、モデルや、女優さん達みたいな。
確かに、そこまで体を磨き上げ、努力し維持していく努力は感嘆に値します。
しかし、僕にはまったく魅力には感じられません。僕に言わせれば、そんなのはまさに神への冒涜です。
僕の愛する「ラブ・ハンド」
それは、勿論はみ出ているのは当然として、触って柔らか書く、艶があって張りがあり、プックリして弾けそうに、腰骨の辺りから包み隠さず顔を出してるような、あのお肉が、僕の女性の一番好きな所なのです。
わかりますよね?
今の女性達の様な細い腰じゃないんですよ。
僕の求めているのは、お肉のある腰なんです。
例えば、女の子がジーンズを履いていますね。そして季節は夏、少し丈の短めのTシャツを着ているでしょう?そんな女の子が、自転車で自分の隣を通り過ぎた時、サドルに乗っているお尻の両端に目を凝らしてください。そして、ジーンズの上にはみ出るお肉が、Tシャツの裾からかいま見えたら!
「ラブ・ハーンド!」
そんな光景に出くわしたなら、僕はいっぺんに幸せな気分になってしまうんです。そして、その瞬間の映像を目に焼き付けて、一日中思い出しては幸せな気分になってしまいます。めったに見れない、貴重なショットに胸が熱くなってしまいます。
そう、めったに見る事が出来ないのです。
女性達は、ダイエットに励み、腰の肉を目の敵にして、せっせとせっせと汗を流しています。貧乏人からセレブまで、さまざまな方法でこの腰肉を落とそうと必死です。そして、あろう事かその成果が確実に上がっていて、最近の女性達のウエストは細くなる一方です。超音波や、脂肪吸引なんか持ち出されてはそれも仕方ないかもしれません。技術の進歩はすさまじいいのですから。
そして、そんな事をしていない人ですらも、腰の肉を隠そうと必死になっています。彼女達が腰肉を見せるなんて事はいたしません。残念ながら。
ここで言っておきたいのですが、僕は別に病気でやせている人に、無理に肉を付けるほうがいいとは言っていませんよ。命が何よりも大事です。自分の命を無駄にしてまで、僕の好みのようになってくれ、とはとても言えません。どうしてもお肉を付けれない人が、無理してお肉を付ける事は、僕の望む事ではないんです。
まあ、そんな事してくれる人はいませんけどね。
そうそう、僕がただのおデブちゃん好きだという人も出てくるでしょう?とにかくお肉が好きなんだろう、って言う人です。体外の人がそう思いますけど、そうじゃあないんです。確かにお肉は好きですが、おデブは僕の好みじゃあないんですよ。お肉が好き、って言ったって、特に好きなのは腰肉ですし、まあ、太ももなんかも好きですけど、やはり、腰に乗ったお肉が好きなんです。おデブな人って言うのは、まあ、全体的に太っているでしょう?パンパンになっている脹脛とか、弛んだ顎とか、三段に分かれて垂れ下がったお腹とか。これははっきりしてます。
まあ、僕はその人達の事をどうこう言うつもりはありません。それは、その人達が自分で決める事ですし、勿論、病気になってやせるのが困難な人に、僕がこんな事を言うのはまったく失礼な話ではあります。許される事ではありません。しかし、僕が言いたいのは、ただ、お肉がある人が、お腹を出せば僕が満足するかといえば、違うと言う事なのです。
そう、それが言いたいのです。
要するに、脂肪の質が違うということです。おデブな人につく脂肪は内臓脂肪で、そんなお腹を見せられても、僕に喜びはおきません。内臓脂肪で大きくなっているお腹は、男の人のお腹を見ればよくわかると思います。男の人のお腹は、大体内臓脂肪で大きくなっていきます。もちろん、女の人も例外ではありません。そんなお腹では、真のお腹の美しさは出てきません。
真のお腹の美しさに必要な脂肪、それは皮下脂肪なのです。
内臓脂肪のないお腹に乗っている皮下脂肪があってこそ、いい「ラブ・ハンド」は作られます。しいて言えば、太った人がダイエットを始めて、徐々に健康的に痩せていき、足首や二の腕が痩せて、顔のたるみも取れて、勿論内臓脂肪なんかは消えてなくなったのに、お腹の回りにだけは程よく皮下脂肪が残っている状態の女性・・・。
そんな女性こそは、いい「ラブ・ハンド」の持ち主だといえるでしょうもちろん、そんな事をしなくても、小さい時からちゃんと育てられていればいい「ラブ・ハンド」を持つ人はいるでしょうが・・・。
でも一ついえる事は、そんなお腹は自然のおりなす美だと言う事です。
それは、まさに芸術・・至高の美なんです。
さあ、想像して下さい!
そんな女性がいて、胸元あたりまでしかないタンクトップを着て、ベルトをきつく締め、ジーンズのホットパンツを履いているとしましょう。そんな女性が腰をひねらせて、ベルトの上にお肉を載せながらこちらを振り向いたとしたら。その腰の肉を想像してください。たまりませんでしょう?
それが見れたら、僕はどんなに幸せでしょうか。
そんな女性達が巷にあふれて、いつでも眺める事が出来たら。
日本女性達が、みんな僕の考える「ラブ・ハンド」を持つようになったら。
僕にとってはパラダイスじゃあないですか。
しかし、今の女性達は、どんどん細く、どんどん括れていき、どんどんスリムなウエストになっていくようです。
時代は僕の好みとはどんどんかけ離れていっているのです。
何とかしなければ!
どうにかしてこの「ラブ・ハンド」を広めていかなければ!
いや、「ラブ・ハンド」を持つ女性達を増やしていかなければ!
僕の中で、そんな思いが日に日に強くなっていきました。いや正確には、どうやら幼い頃からそんな事を思っていたようなんです。
★★
僕が生まれたのは、冬の寒い日で、午前中だったと聞いています。病院には父親と幼い兄二人、そして、祖母が来ていたそうで、些細なアクシデントもなく、元気に生まれたそうです。三人目と言う事もあって、母は慣れていたのでしょう。大きく生んでくれて、僕はすくすく育っていっていきました。
僕は覚えていないのですが、はいはいをする様になった時、僕の行く方に待ち構えていた母の胸に飛び込まず、お腹に飛び込んだり、おっぱいを吸った後に必ずお腹の上で寝たそうです。
「武士。あんたはほんとにおかしな子だったよ。お風呂に入れた時だって、あたしのお腹を握って離さないんだから。何でかって不思議に思ったものだよ。それに、あたしだけかと思ったら、良子おばさんとか、多恵ちゃんとかにも。武士にお腹の肉摘まれたって言って、多恵ちゃんなんか武士とお風呂に入るのやだって言ってたのよ。あと、おばあちゃんだって」
母は小さい頃の僕を思い出すと、必ずこの話を織り交ぜてきます。まだ小さい時にそんな事を言われても、そんな事があったのかと思うだけでしたが、今思えば、なるほどと頷いてしまいます。小さい頃から僕はお腹の肉に興味があったのです。
それが僕の初めての「ラブ・ハンド」体験でありました。ただ、僕が「ラブ・ハンド」を自分の中で意識したのはもう少し後になります。それまでに、幼稚園の先生のお腹に触りまくっていたとか、初めて会う女の人のお腹は必ず触ったとか、何かとあったようですが、自分の中で確信があったというか、自覚したというのは、物心つく時期と重なっていて、小学生の頃です。
それは、小学四年生の夏の事でした。
体育の授業をする前に、生徒達は運動場に並んで座っていました。三クラスが男女二列になって、ジャージ姿の川原先生の話を聞いているのです。川原先生は僕の担任の先生で、三十五歳独身、長身のスポーツマンで、隣に立っている四組の鈴木先生の事が好きと言う事になってました。
川原先生は、これからするリレーの説明を、生徒達にいつもの大きな声でしていました。生徒達は、生徒達の指導に厳しい河原先生に怒られまいと、ちゃんと話を聞いています。
しかし、僕は先生の話なんか聞いていないで、違う事に集中していました。
何をしていたかと言うと、ずっと、ずっと、斜め前に体育座りしている恵美ちゃんの事を見ていたのです。正確には、背中を丸めて座っているので、体操着がパンパンに張り裂けそうになっている恵美ちゃんの腰のお肉でした。体操着越しなのですが、腰にお肉が乗っている様子が僕の目には見えたのです。凄く気になって、先生の話なんて、まるで耳に入ってはいなくて、ずっと恵美ちゃんの腰を見ていました。
僕はその時、初めて女の子に触りたいと思ったのです。
それくらい彼女の腰肉は、プックリとはみ出していました。
「武、どうしたの。先生にまた怒られるよ。話し聞いてなよ」
隣から肩をこつかれて、不意に僕の妄想の世界は壊されました。声をかけられた方を向くと、北村愛子が僕の方を見ながら先生の方を指差していました。この女の子は事あるごとに僕に突っかかってくる奴で、三年生の頃から一緒のクラスになっていました。
「何でも無いって。ガリ子には関係ないだろ」
僕はそう言って、また恵美ちゃんの腰を見ました。恵美ちゃんが動くたびに、腰の肉も動きます。
「恵美ちゃんの事、好きなの?」
唐突な北村の言葉に、僕は慌てて弁解しました。突然、何を言っているんだろうか、このガリガリ女は。
「ガリ子、黙れ。お前には関係ないだろう」
そしたら、運の悪い事に、後ろの陽介君が話を聞いていたんだなぁ。
「武士,福田の事好きなの?そうなの?おい、武士、福田の事好きなんだって!」
「ち、違うよ!そんな事ある訳無いじゃん!こいつが勝手に言ってるだけで」
「先生!小田切君が、福田さんの事を好きだそうです!」
陽ちゃんがでかい声で、そう叫びました。当然、三クラス全員が、僕の慌てふためいて赤くなった顔を見ました。あろう事か、僕は愚かで馬鹿な事に、勢い余って、立ち上がってしまっていました。
当然、前で話している川原先生と目が合います。
「武士!何やってんだ!話を聞いてろ!立ち上がるんじゃない!」
先生の顔は怒っていて、怒られた僕は、口をつぼめながら座りました。クラスの皆は、くすくすと笑っていて、可哀相に恵美ちゃんは赤くなって小さく俯いていました。それに、なぜか、クラスの女子達は僕だけに冷たい目線を送ってきていて、かなり気まずくなってしまったのを思い出します。
しかし、今思えば、あの日から僕の「ラブ・ハンド」を求める旅は始まったのかもしれません。
恵美ちゃんの事は忘れません。
ある意味、初恋だったと言えるでしょう。
まあ、その日から彼女から避けられはしたのですが・・・。
ただ、この時から、僕の中で女の子に求める事が定まっていったと思います。
なので、それからの僕といえば、クラスの男の子達がスカートめくりをしている時に、一人だけ女の子達のお腹を突いていました。