第一章 第九幕 リュージvsレイルpart1
「始めっ!!」
開始の合図と共に俺は魔法陣を展開する。
カリンは巻き込まれない様にする為か、闘技場の奥の方へ走って行ってしまった。
対するレイルは剣こそ抜いている物の、ドラゴンを召喚する気は無いらしく、ただ一人で立っているだけだ。
「随分と余裕ですね。あまり甘く見ていると痛い目見ますよ」
「ふんっ、ただの少年と小竜で一体何ができる」
「そう思っていられるのも今の内ですよっ!!」
ーーーズガガガ!!!
地面から岩の柱を出現させ、レイルへと放つ。
無論、詠唱などしていない。
「何っ!?」
レイルは突然詠唱もなしに魔法を放って来るとは予想していなかったらしく一瞬反応に遅れたが、流石は騎士団長と言うだけあって一瞬で状況を把握すると後方へ飛び上がって避けた。
しかし、これをミルが追撃する。
「くらえっ!!」
ボウッと燃え盛る火球をレイルが着地した瞬間を狙って放つ。
いくら騎士団長と言えども、これは避けられないだろう。
ーーーしかし
「ふんっ!!」
何と、レイルは剣一つでミルの火球を真っ二つに叩斬ったのだ。
「嘘でしょ!?」
ミルは驚いたように口を開けている。
「無詠唱魔法とは…なるほど、少し貴様を見くびっていた様だ。だが、詰めが甘いぞ。では、次はこちらの番だ!!」
レイルがそう言うと、持っている剣が輝きだした。
「はぁ!!」
レイルは剣を大振りで振ると、斬撃が衝撃波となって飛んできた。
ーーーズドオォォン!!
地面は大きく切り裂かれ、激しい振動と共に闘技場一面に砂埃が舞う。
そして、視界が塞がれている隙に、レイルが砂埃を切り裂いて飛びかかって来た。
「うわっ!!」
あまりの速さに俺は目を瞑る。
ーーーガキィィン…
不思議な事に金属同士ぶつかり合う音が響いた。
そして、俺自身痛みを感じないどころか何かが当たった感触さえない。
恐る恐る目を開けると、そこには、見たことの無い大きなドラゴンが俺の目の前でレイルの剣を片手の爪のみで摘んでいた。
まるで、紙切れを持つかの様にいとも簡単に。
「リュージ、大丈夫?」
「お前、もしかして…ミルなのか?」
「うん、どうやらそうみたい」
ミルもこの状況を理解していないらしく、自分の巨大な体躯に困惑している様だ。
そんな中、俺は自分の手に何か違和感がある事に気付き、視線を手に降ろしてみた。
その瞬間、驚きのあまり飛び上がりそうになった。
なんと、いつの間にか青白い石を握っていたのだ。
「な、何だこれ!?」
「ティアドロップ!!」
と、叫んだのはユリアだった。
「ティアドロップを顕現させましたか!!それはドラゴンテイマーとして一人前になった証です。ドラゴンと主が真の絆で結ばれた時、顕現すると言われています」
「ッチ!!」
それを聞いてレイルは大きく舌打ちをした。
そして、ミルに摘まれた剣を無理矢理引き剥がすと、再び距離を取り始めた。
「この土壇場でティアドロップを顕現させたか。口先だけでは無かった様だな…」
レイルは一息吐くと続けた。
「認めよう、お前の事を…だからこそ、もう容赦はしない」
そして、レイルは右手を上に掲げて叫んだ。
「グランガレオス!!目の前の少年に実力の差を見せてやるぞ!!」
「…イエス、マスター」
その声と共に現れたドラゴンは、全身に甲冑を身に纏い、両手に大剣を握り締めた緑竜だった。