第一章 第八幕 提案
「邪竜ティアマトが…実在した?」
驚きの表情を見せたのは俺ではなく、隣にいたカリンだった。
「まだ確定はしていません。ただ、かの邪竜を復活させようと目論む組織がいるのもまた事実。貴方達にはこれを阻止する為に協力して欲しいのです」
「ーーー失礼ですが」
突然レイルが声を上げた。
「この話はまだ彼等には早すぎます。確かに彼等はドラゴンテイマーの様ですが、いかんせん子供です。この件について関わらせるのは早計かと」
レイルの発言に俺は思わずニヤけてしまった。
俺がまだ子供だからと完全に見くびっている様だけど、俺は精霊魔法を使ったり、無詠唱魔法だって出来る。伊達に神童だとか呼ばれていた訳じゃない。
「お言葉ですが騎士団長。私だって人並みのプライドくらいあります。子供だからと見くびって貰っては困りますね」
この言葉は流石にレイルも予想していなかったのか、目を丸くしてこちらに振り向いた。
「面白い事言うじゃないか青二才。だが君達は所詮ただの子供だ。君達に出来る事はない」
「…ならば、試して見ますか?」
その言葉に場が凍り付く。
沈黙の中、口を開いたのは意外なことにカリンだった。
「ちょっと、リュージ!!貴方何考えてるの!!謝りなさいよ!!」
「嫌だ、いくら相手が騎士団長だろうと馬鹿にされたまま黙っていられないんでね」
「貴様っ!!」
ーーーパチンッ
突然ユリアが手を叩いた。
「ならば良いでしょう。リュージ、貴方の提案を受け入れます」
「え…?」
「場を用意します。私達としても貴方の実力を見ておきたい」
「お言葉ですが女王陛下、相手は子供ですよ!?まさか騎士団長である私がこの子供を相手にしろと?ご冗談を…」
「いえ、本気ですよレイル。確かに見た目は子供です。ですが、この子供達からは何か底知れぬ力を感じる。私はこの少年の可能性を見てみたいのです」
ユリアがそう言うと、レイルは渋々引き下がった。
「くそっ、こうなったら仕方がない。悪いが手加減はせんぞ。自分の愚かさをその身で感じるがいい」
すると、再びユリアが手を叩いて声を張り上げた。
「メアリー、来なさい」
すると、まるで待っていたかの様にドアが開き始める。
ドアの先にいるメアリーがユリアの前までやって来た。
「はい、女王陛下」
「今から闘技場を開放します。このお二方とレイル騎士団長を闘技場にお連れしなさい。ただし、戦闘の内容に機密事項が含まれる為、一般公開は致しません。当然貴女も立入禁止と致します。案内が終わったら速やかに業務に戻ってください」
「御意」
「メアリー、悪いが二人を先に連れて行ってくれ。僕もすぐに行く」
「わかりました」
俺達は再びメアリーに案内される形で闘技場へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
闘技場内部はまさにコロシアムと言った感じで、円形に囲まれて周りに観客席がある。
かなり広いみたいで恐らく観客席の方から俺達を見たならば小指ほどの大きさになるのでは無いだろうか。
「ミル、出て来ていいぞ」
「あいさ。でもリュージ、本当に良かったのかい?あんな啖呵切ってさ」
「全く本当に何やってんのよ!!実質私まで巻き込まれてるじゃない!!」
カリンは怒り心頭の様だ。
「ごめん、まさか君まで巻き込まれるなんて思ってなかったんだ」
「ごめんで済まされる問題じゃ無いわよ!!ハーツだって警戒していけって言ってたのに警戒どころか挑発してるじゃない!!」
「全くカリンの言う通りです。この状況、どう落とし前付けるつもりですか?」
俺は腕を組んで考えた。
一つ案があるとすれば、レイルが来た直後に白旗を上げるしかないのだが…恐らく許してはくれないだろう。
そんな事を考えていると俺達とは別の足音が闘技場へ侵入してくるのが聞こえた。
当の本人、レイルと審判役としてユリアが闘技場へやって来たのだ。
ダメ元でやってみるか。
「さて、準備は出来たかな?結果は既に見えているが、まぁせいぜい頑張り給え」
俺は未だ嫌味をぶつけて来るレイルへの怒りを押し殺してレイルの前へ立つとーーー
「本当に申し訳ありませんでした!!」
と言って頭を下げ、右手を差し出す。
握手して何とかこの場を収めようとしたのだ。
しかし当然結果は…
「今更何を言っている。あれ程の事を仕出かしてくれたのだ。すみませんで済む状況をとっくに超えている」
それにユリアも追い打ちをかける。
「提案したのは貴方です。その責任を全うして下さい。それに今回私が貴方の提案を承諾したのは先にも言った通り、貴方達の実力を判断する為でもあります」
「ですよね…」
「よって、カリン・フォード。貴女も参加して下さい」
「わ、わかりました…」
「心配するな、カリン・フォード。僕は生意気なリュージに実力の差を分からせてやれればそれでいい。君を狙う事はないだろう」
レイルも流石に気の毒に思ったようで、カリンは狙わないと宣言した。
そして、ユリアが少し離れた位置に立つ。
「戦闘はどちらか一方が継続不能と判断されるまで続きます。ですが、降参制度は設けましょう」
俺とレイルは首を縦に振り、右手を胸に当てた。
これは闘技場で戦う時の正式な礼である。
「それではーーー始めっ!!」
開戦の狼煙が上がった。