第一章 第七幕 七人の竜使い
ユリア女王陛下を取り囲む様に座る人物は女性3人で、一番左に座る人物のみが男だった。
金髪のショートヘアと纏っている銀色の甲冑は見事な組み合わせだ。
風貌からするに、恐らく騎士団長とかそう言う類の人だろう。
その右に座る赤いドレスを纏っている女性や高貴そうなドレスを着ている女性二人はユリア女王陛下の血族だろうか。
俺は女王陛下の前まで来ると、片膝を付いて右手を胸に当て深々と頭を下げた。
これでも貴族だから最低限の礼儀作法くらいは知っている。
カリンも慌てて俺の真似をして頭を下げた。
そこから数秒遅れてやって来たのは、まるで天使の歌ではないのかと錯覚してしまう程の可憐で美しい声だった。
「よくいらっしゃいました。リュージ・ダルエルム、カリン・フォード」
フォード家。
初めて聞いた苗字だ。
恐らく貴族出身では無いのだろう。
そのせいなのか、この状況に慣れていない様で彼女の礼の仕方がぎこち無い。
「お二人には遠路はるばる脚を運んで頂き申し訳ありません」
「いえ、滅相も御座いません」
「では、お顔をお上げになって下さい」
俺達はユリア女王陛下に促され、顔を上げた。
「まずは改めて自己紹介を致しましょう。私はユリア・アラスタ。この国を治める女王です」
ユリアがそう言うと、次に一番左に居た金髪騎士が自己紹介を始める。
「レイル・アルシェだ。近衛騎士団長を努めている。以上だ」
続いて隣の赤ドレス。
「私は第一王女のヴァレリア・アラスタよ。レイルを除いてここに居る者は皆血縁関係にあるの」
続いて、ユリアを挟んで二つ隣の女性。
ライトブルーのドレスが輝いて見える。
「…え?あ、私ですか?」
上の空になっていたらしく、今し方自分の番だと気付いた様で慌てふためいていた。
「すみません!!だ、第二王女のクレア・アラスタですわ」
その隣のピンク色のドレスの女性はやれやれと肩を落としつつ続けた。
「第三王女のサニア・アラスタですわ。はぁ…全く、クレアはいつもこうですの」
「す、すみません!!」
一通り全員の自己紹介が終わると、ユリアが本題に入った。
「さて、既に御達しは行っていると思いますが、貴方達はドラゴンテイマーで間違いないありませんね?」
「はい、左様でございます」
そこで俺は一息にあの質問をする事にした。
と言うよりも、タイミング的に今しかないと思ったのだ。
「不躾で申し訳ありませんが、その事で一つお聞きしたい事が御座いまして、宜しいでしょうか?」
「えぇ、構いませんよ」
「私達がドラゴンテイマーだと、言う情報は一体何処で?」
すると、ユリア女王陛下はやはりこの質問を予想していたようで、コクリと軽く頷くと詳細を話し始めた。
「端的に言うと、私もドラゴンテイマーだからです。と、言うより今ここに居る者達は全員ドラゴンテイマーなんです」
「そしてドラゴンは同族がどの辺りにいるのか、ある程度感知する事ができます。そのドラゴンが人間に付いているとなれば必然的にその人物はドラゴンテイマーと言う事になります」
ーーー思い出した。
カリンを助けた後、ミルはカリンがドラゴンテイマーだと見抜いていた事を。
なるほど、これで一つ合点がいった。
しかし、まだ疑問点がある。
「まだ納得しかねる…と言った表情ね」
そう言って、口を開いたのは女王陛下ではなく、その隣にいた赤いドレスのヴァレリアだ。
「ドラゴンは同族の場所をある程度把握できると女王陛下は仰った様に、逆を言えば距離があると具体的な場所までは分からない…本来はね」
「と、言いますと?」
「ドラゴンにはそれぞれ個性が存在する。火竜なら炎を扱ったりする様に他のドラゴンも特定の能力を持っているの」
「例えば私のドラゴン『ヴィクトリア』は『共鳴』の力を有している。この共鳴の力でより遠くのドラゴンの居場所を正確に感知できる様になるの。これによって貴方達を見つける事が出来たわ」
続いて口を開いたのは第三王女のサニアだった。
「そして貴方達を呼んだ理由ですが、協力してもらいたい事があるんです」
「協力…ですか?」
「えぇ、貴方達は『七人の竜使い』と言う神話をご存じですか?」
「確か、太古の昔にドラゴンがまだ一般的に存在していたと言われていた頃、邪竜ティアマトが世界に侵攻して来て、それを七人の竜使いがティアマトを封印したと言う逸話だったと思いますが」
そしてここで、思いがけない言葉が飛んできた。
「えぇ、では…そのティアマトが実在した竜だったとしたら…そして、それが現代で復活しようとしたら…私達はドラゴンテイマーとしてこれを阻止しなければなりません」