第一章 第六幕 謁見
開放されている城門を潜って中に入ると、そこは中庭になっているらしく立派な庭園がお出迎えした。
こちらにも中央に噴水が設置され、多くの人が行き交っている。
外の中央広場と比べると割合的に騎士が多い様に見えた。
その奥に城の内部へと繋がる門がある。
その城の門へ向かって歩いていると、門の前に立ってこちらを凝視している人物が居ることに気付いた。
銀髪のミディアムウェーブでメイド服を着ている。
どうやらこの城に仕えるメイドらしい。
「あれ…あの人」
そう言って俺は指をさした。
「どうしたの?」
「何か…あの人こっち見てない?」
「どれ?」
カリンが俺の指の先に視線を向けると、カリンもメイドを凝視し始めた。
それにメイドも気付いたのか、軽く片手を上げて明らかにこっちへ来るように促している。
そして俺達は促されるがままに彼女の元へとやって来た。
「もしかして、俺達を呼んでいました?」
メイドは改めて深々と頭を下げて自己紹介を始めた。
「はい、私はアラスタ王城専属メイドのメアリーと申します。ユリア女王陛下から直々に貴方達をお出迎えする様申し使っておりました」
「って言う事は案内役?」
「はい、そういう事になります。では、案内致しますのでどうか、はぐれぬ様。何せ城内は広いものですから」
メアリーと名乗ったメイドは俺達を先導するように場内へ入って行った。
メアリーに続いて中に入ると、豪華なエントランスホールがお出迎えした。
円形に広がったエントランスホールの天井はかなり高く、高貴そうなシャンデリアがいくつもぶら下がっている。
正面には女性の肖像画が飾られていた。
橙色のロングヘアーは被っている王冠を引き立たせるのには十分な役目を果たし、立派なマントを羽織ったその姿は凛々しく、恐らくこの女性がユリア女王陛下なのだろうと容易に想像できた。
ただ、思ったよりも若いようでパッと見た感じでは20代前半くらいだろうか?
「こちらです」
ユリア女王陛下思しき肖像画を眺めていると、メアリーが促してきた。
見てみると、金色に装飾された落とし格子があり、格子の上には半円形の目盛りが設置されている。
「こちらはエレベーターと呼ばれるものです。魔力が原動力となっており、階段を使わずともお好きな階へすぐに辿り着けます」
メアリーはそう言うと、備え付けてある2つのボタンの内、上にあるボタンを押した。
その瞬間、目盛りが動き出し、ガラガラ…と言う音と共に何かが降りてくるのが分かった。
…チーン と言う音と共にやってきたのは、箱型の小さい部屋だ。
「な、なんだこれ…行き止まりじゃないか」
「ふふっ入ってみれば分かりますよ」
メアリーが先導して先に入ると、俺とカリンも後に続いた。
そして、扉が閉まる。
すると、ガラガラと言う音と共に部屋が上へ上昇していく感覚がダイレクトに伝わり、思わず驚いてコケてしまいそうになった。
…それから先の道筋は正直あまり覚えていない。
何しろ広すぎるのだ。
どうやって来たのかは分からないが、取り敢えず今俺達は王室の扉の前にいる。
床は1面大理石で何芒星だか分からないが、複雑な星のマークを刻んでいる。
そして目の前の扉は厳重そうな扉で、何か特別な金属で出来ているようだ。
「き、緊張するね…」
「そうだねリュージ。僕も何だか緊張してきたよ」
「緊張するのは構いませんが、目的を忘れてはなりませんよ」
「でも、何で私達がドラゴンテイマーだと分かったかなんて直接聞くのは拙くない?」
「あくまで私達はドラゴンテイマーとして呼ばれたのです。であるならば相手もその疑問をこちらが投げ掛けるのもある程度予想はしている筈」
「じゃあ直接聞けって事か?警戒するべきだって言ってた筈だけど…」
「その通りですリュージ。だからこそ直接聞くのです。相手は仮にも一国を治める女王陛下。この程度の質問が飛んでくる事を予想出来ない程馬鹿ではない筈ですから」
「なるほど」
この一連の会話は当然念話によって行われていた物であり、横に居るメアリーからみれば俺とカリンが互いに見つめ合ってた様に見えたに違いない。
困惑した様子でこちらを眺めている事に気付いた俺は、愛想笑いを浮かべて言った。
「ごめんなさい、準備はできました」
「宜しいですか?」
「はい」
「それでは、扉を開けましたらそのままお進み下さい。私が同行出来るのはここ迄ですので」
そう言ってメアリーは深く息を吐くと、目の前扉を叩いて大きな声で言った。
「女王陛下!!御来賓をお連れ致しました!!失礼致します!!」
そして、大きな扉を力いっぱい押して開けた。
扉を開けた先はレッドカーペットが敷かれ、大きな空間が広がっている。
玉座と思しき場所には一人の女性が座っており、その人物は先程エントランスホールで見掛けた肖像画に描かれていた女性であった。
この人物こそがユリア女王陛下である。
玉座の後ろには床から天井までと同じ長さの大きな窓が横一列に並んでおり、ユリア女王陛下の両サイドにはそれぞれ2人ずつ、計4人が椅子に座っていた。
側近か、或いは一族の者だろうか。
俺達がユリア女王陛下に歩み寄ろうと前へ進むと、メアリーは再び深々と頭を下げ、扉を閉めてしまった。