第一章 第十七幕 黒幕
「劇場って言っても場所わかんないぞ」
「ミル、知ってる?」
「ごめん、僕にもわからないんだ」
「そもそもこの城に劇場がある事自体初耳だわ」
「でも、大方の予想は付きます」
「本当か?」
「えぇ、恐らくオペラ劇場と思われますが、場内にある場合は1階か或いは地下に併設するのが定石となっている筈です」
現在いる場所がどの辺りか分からないが、牢屋と言えば大抵地下にあるイメージだ。
であるならば劇場も近いのだろうか?
そもそも何故劇場を指定したのかも分からない。
メアリーとクレグは一体何を考えている?
俺達を如何するつもりなんだ?
考えたらキリがないが、兎に角今は進むしかない。
どうやら俺達が牢屋に捕まっていたのは周囲に知られてはいないらしく、最初こそ警戒していたが人に見つかった時に特に反応もなくスルーされた。
どうやら俺達が牢屋に閉じ込められていたのを知っているのは一部の人間だけらしい。
ならばと、行き交う人々に劇場の場所を聞きながら劇場を目指して行った。
それから少し歩くと、壁に案内板が張ってあり、銀色の金属板に金色の彫刻で『劇場』と書かれてあった。
案内板の隣には両開きの扉があり、この先に劇場が続いているようだ。
「この先だな」
「えぇ、そうみたいね。でも気を付けて、罠かもしれない」
「分かってる。ミル、いつでも戦闘できるように準備しておいてくれ」
「分かってるよリュージ」
そして、俺は扉を開けた。
中に入ると半円形の劇場が広がっており、一直線に並ぶ階段の両脇に客席が広がっている。
上にはニ階席があるみたいだ。
その中央の舞台には二人の人影があった。
見た限りだと一人はメアリーで間違いなく、隣にいる男は恐らくクレグだろう。
俺は階段を降りて二人に近づいた。
「来てやったぞ。どういう事か説明して貰おうかメアリー」
俺の問いかけにメアリーは小さく頷く。
その華奢な肩が震えていた。
「まずは、ごめんなさい。貴方達をこんな目に合わせて」
「それは取り敢えず良い。事情を聞きたい」
「はい、これにはヴァレリア様が関わっているのです」
「ヴァレリアってあの第一王女のか?」
「そのヴァレリア様です」
「一体なんでヴァレリアが俺達を狙うんだよ」
すると、今度はクレグが口を開いた。
「恐らく、お前達を利用しようとしたんだろう」
「利用って?」
「ヴァレリアとユリア女王陛下は昔から意見の食い違いがあり、犬猿の仲だったんだ。それ故にヴァレリアはユリア女王陛下を手に掛けようとしている」
「と言うことは、女王陛下を殺害して俺達を犯人に仕立て上げようとした?」
「そうだ。それでヴァレリアは俺達にお前を捕らえるよう命令した。その上で女王陛下を亡き者にしてお前達に罪を擦り付けて処刑しようとしている。お前達は部外者だから丁度良かったんだ」
「そっか、事情はわかった」
「じゃあ、なんで劇場なんかに私達を呼んだの?わざわざ此処でなくても…」
「それについてだが、折言って相談がある」
「相談?」
「あぁ、ヴァレリアにはもうすぐここへ来るよう仕向けてある。俺達は女王陛下を守る為、ここで捕らえてその事実を白日の下へ晒さなければならない。その手伝いをして欲しいんだ。だからお前達を解放した」
それを聞いた俺は一瞬の迷いもなく頷いた。
「分かった。女王陛下を守る為、俺達の国を守る為に力を貸そう」
「ありがとう、恩に着る」
「そろそろ…ヴァレリア様が来る頃合いですね」
メアリーが言うと、クレグが頷いて俺達が入って来た扉に目を向けた。
その瞬間、劇場の外から足音が聞こえて来た。
ヴァレリアが向かって来ているみたいだ。
トットット…
ドッドッド…
ドカドカドカ…
その足音がこちらへ向かってどんどん近づいて来ているのだが、様子がおかしい。
足音の人数が明らかに一人の物ではなく、大勢の物だった。
ーーーバンッ!!
次の瞬間、扉が勢い良く開かれ、外から大量の兵士が流れ込んで来た。
その直後、背後、つまり劇場側から一人の女性の声が聞こえた。
「なるほど…やはり貴方達を泳がせて正解だったわね」
背後を見ると、赤いドレスの女性が一人舞台の上に立っている。
「ばかなっ!?ヴァレリア!!一体いつから!?」
「いつからって最初からよ?貴方達の話、全部聞いてたわ。さぁ、兵士達よ!!この者たちを国家反逆罪で捕らえなさい!!生死は問いません!!」
その瞬間、雪崩れるように大量の兵士が襲い掛かってきた。