第一章 第十五幕 御伽七竜星
「女王陛下、邪竜教団の件について是非お話をお聞かせ下さい」
王室に戻って来てから開口一番に話を切り出した。
「アカシックレコードをご覧になったのですね」
「はい、邪竜ティアマトの復活を阻止する為、協力させて頂きたいのです」
「分かりました。ではまずは邪竜教団についてお話させて頂きます」
「以前お話した様に、邪竜教団とは邪竜ティアマトを崇拝し復活を目的とする教団です。現状詳しい事は分かっていませんが、教団と名乗る以上教皇が居る事が想定できます。さらに『御伽七竜星』と呼ばれる者達がいます」
「御伽七竜星に関しては分かっていない事が多く、現状分かっているのは六人で構成されておりそれぞれ【帽子屋】【睡眠鼠】【黒双子】【悪戯猫】【薔薇姫】【貴皇女】と言う呼び名がある事くらいです。名前からしてもう一人居るのは予想できるのですが、こちらに関しては全く情報がなく…」
「そうですか。それって幹部みたいな物ですか?」
「そうですね。ただ現状分かっているのがそれくらいで、今回頼みたいのが、この者達の情報を集めてほしいのです」
それを聞いて俺とカリンは互いの顔を見合わせて首を傾げた。
「それはアカシックレコードを見れば良い話なのでは?歴史その物と言うのであればそれが一番手っ取り早いのかと…」
「それは私も考えました。ただ、そういう訳にもいないんです…」
「何かあったんですか?」
「何故か御伽七竜星に関する事だけは幾ら試しても見ることが出来なくて…アカシックレコードを起動出来る人間はメアリーか王族だけですし、何よりアカシックレコードに細工を加える事など出来ない筈です」
「ただ幸いな事に隠密、諜報活動に長けたクレグと言う人物が居まして、御伽七竜星の一人については既にある程度の目星は付いているとの報告を受けておりますので彼と合流した後、詳しい話を聞いてみて下さい」
「分かりました。それでそのクレグさんは今どこに?」
「彼は今別の案件で動いていまして、それほど重要な案件ではないのですぐに戻るよう使いを送らせます。それまで部屋を用意致しますので、そこでお寛ぎ下さい」
「分かりました。お気遣いありがとうございます」
「メアリー、この方達を別室へ案内して下さい」
「かしこまりました女王陛下。では、こちらへ」
そして俺とカリンはメアリーに案内されて別室へと行くことになった。
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部屋に入るとエレガントな花柄模様の壁紙に、ほんのりとラベンダー香りがした。
部屋の奥には天蓋付きのダブルベッドが用意され、エレガントに装飾されたプリンセスソファーまである。
いたれりつくせりの部屋だった。
「なにこれ!!綺麗!!」
カリンはその部屋を見てはしゃいでいるのを横目に、俺もソファーに座り込んだ。
「カリン、あんまり暴れない方がいいよ。何か壊しても俺知らないぞー」
「大丈夫よ!!それよりハーツ、見てこのベッド!!凄くない!?」
「…私はリュージの心配が正しい気がしてなりません」
しばらくするとドアがノックされ、メアリーが紅茶を淹れて持って来てくれた。
「こちら、カモミールティーで御座います。ミルクも用意していますので、お好みによってお使い下さい」
「あぁ、ありがとうメアリー」
「はい…あの、一つお聞きしても宜しいでしょうか?」
「うん、どうしたの?」
「お二人は…ドラゴンテイマーなのですよね?」
「まぁ、うん。そうだね」
「そうですか…」
「え、それだけ?」
「はい」
そう言うメアリーは銀色のお盆を胸に引き寄せる様に抱えて下を俯いていた。
ドラゴンテイマーに関して何か思う節があるのだろうか?
「リュージ!!これ美味しいわよ!!早く飲まないと冷めちゃうわ!!」
「あ、あぁ。分かったよ」
俺はメアリーに促されて紅茶を一口啜った。
「あ、美味しい!!上品な甘みだね!!」
「ありがとうございます」
そしてまた俯くメアリー。
よく見ると唇が微かに動いて何かを呟いている様にも見えた。
「では、失礼致します。何かありましたらお呼びください」
「ありがとうな」
「いえ、それでは…」
そう言ってメアリーは外に出て行ってしまった。
それにしても眠い。
今日だけで色々あったからなぁ。
今日あった事を振り返りながら紅茶をまた啜る。
その時だった。
ーーーバタリッ
何かが倒れる音がした。
いや、「何か」と言うよりは「誰か」が。
音のした方を見ると、カリンが崩れ落ちる様にして倒れて、ハーツが驚いた様にカリンを起こそうとしているのが見えた。
「ーーーカリンッ!!」
俺も慌ててカリンの元へ行こうと立ち上がろうとしたが、自分も足元がおぼつかない事に気が付いた。
「ま、まさか…紅茶…」
その瞬間、俺の意識も暗闇へと墜ちた。