第一章 第十三幕 地下図書室の鍵
「地下図書室には、国に関する重要な書物や禁書が収められています。ですので防犯の観点からもこう言った特殊な鍵になっています」
と、メアリーは言う。
「へぇー。じゃあその鳥も鍵に必要なのか?」
「端的に言えばそうなりますね。この鳥は魔法生物ですから術者以外の言う事は聞きません」
何処か曖昧な表現をするメアリーにカリンが追求した。
「じゃあ、メアリーが術者で鍵を開けるのにはメアリーが居ないと駄目って事?」
「まぁ、そうですね。正確に言うと女王陛下やその血筋の王女の方達でも開けられますが、立ち入る場合は大抵私が同行する事になってます」
「よっぽど信頼されているんだね」
「一応これでもメイド長ですし、幼少期より女王陛下の下で遣わせて頂いた身ですので」
それからエレベーターを使い、最下層までやって来ると、長い廊下を経て図書館の入り口へとやって来た。
ここはまだ普通の図書館なのか、入り口の大きな両扉は開放されており、モダンな雰囲気のホール、その先の並べられた本棚までもが見える。
そこには何人かの人が点在して本棚の本を読んでいるのがわかった。
「こちらです」
メアリーはそう言って先導していく。
ホールを抜けて長く続く本棚の間を真っ直ぐ抜けて行くと、右へ曲がり更にまっすぐ行く。
すると、そこには螺旋階段と思しき入り口があり、壁に空いたアーチ状の穴の先には階段が斜め下へと向っているのがわかった。
そこはまるで深い闇がぽっかりと口を開けて待ち構えている様だった。
「ここから地下図書室へ?」
「えぇ、ただ結構長い螺旋階段なので足下にはお気を付けください」
メアリーが降りていくと、俺達も彼女の後を追うように降りて行った。
道中の階段はかなり暗く、光源が無いととてもじゃないが降りれる様な状態では無かった。
しかし、鳥籠の中に居る淡く光る鳥が光源となっていたので特に危険もなく降りられる。
「なるほど、その鳥ってそういう役割もあるんだな」
「はい、この先でもこの鳥達は必要になってきます」
「へぇ〜…」
それからどれくらい降りて行ったのか分からないが、メアリーの言う通り長い階段だと言う事は確かだった様だ。
ようやく目的の場所へ辿り着いたようで、拡がった空間に出ると、メアリーが足を止めた。
そこには鉄格子が設置され、その奥に大きな扉があり、周囲には蝋燭台が六つ設置されているのが確認できる。
その後、メアリーが鉄格子の鍵をポケットから取り出して開けた。
「ここからこの鳥籠が役に立ちます。見てて下さい」
メアリーがそう言うと、柄の部分の先端を引き抜いた。
引き抜いた柄の先端が鍵になっている様で、それを鳥籠にある鍵穴に差して回した。
すると、鳥籠から開放された鳥達が一斉に飛び出して四方八方へと羽ばたいて行く。
小鳥が飛んだ軌跡にはキラキラと光の粉が舞い散った。
その光景を言葉に表すのなら、幻想と言う言葉が相応しいだろう。
「凄い…!!綺麗…!!」
カリンが両手を合わせて羽ばたいて行く鳥達を眺めている。
俺もカリンと同様にその光景に目を奪われていた。
すると、羽ばたいていた鳥達が扉の前の六つの蝋燭台に向かって飛んでいくと、それぞれが蝋燭台の上に立ち、瞬時に青色の炎へと姿を変えた。
その瞬間、扉から「ガチャン」と鍵が開く音が鳴り響いた。
「開いたようだな」
「うん、すごく綺麗だった」
「じゃあ、中へ入りましょう。ただ注意点があって、決して中の本は勝手に触れぬ様にお願い致します。何があるか分かりませんから…」
脅しとも取れるメアリーの忠告に俺達はゴクリと喉を鳴らしながら無言で頷いた。
そして、メアリーが地下図書室の扉を開けた。