第一章 第一幕 ドラゴンテイマー
目が覚める。
窓を開けて空を眺めた。
「今日もいい天気だな」
そう独り言を呟くと、後ろから声が聞こえた。
「そうだね、今日もきっと良い一日になるよリュージ」
その声に応えるように、俺は声の主の方へ振り向いた。
そこには1匹の子供のドラゴンがいる。
紅い鱗を纏った彼は『ミル』と言うらしい。
今現在、宿屋にいる俺達はある場所へ向かおうとしているのだが、木造の宿は木の香りに包まれて心地が良い。
だからなるべく此処に留まりたいのだが、そうも言っていられない。
「じゃあ行きますか…王様に会いに」
「なんだか緊張するよリュージ…だって王様でしょ?」
「別に緊張する事はないさ。普段通りにしていれば何も問題は無いはずだからさ」
俺達は、この世界でも極僅かしかいない『ドラゴンテイマー』としてこのアラスタ王国の王様に呼ばれているのだ。
恐らく、この国の騎士団長になってくれとか国の象徴になってくれとか、そういう話だろう。
…なんて妄想してみる。
「じゃあ出るから、しばらく姿を消していてくれ」
「あいさっ」
そう言ってミルの姿は虚空へと消えた。
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時を戻そう。
ーーー13年前。
「おぎゃあぁぁ!!!」
俺、ダルエルム・リュージはアラスタ王国の貴族ダルエルム家の一人息子として産声を上げた。
貴族と言っても地位はそれほど高い訳ではなかった。
俺が産まれるまでは。
と言うのも、この世界に存在する魔力、通称マナと言うのは人によって保有量も異なれば、精錬速度も異なる。
そして、マナの保有量が多ければ多いほど、その人物は大変貴重な人材として重宝されるのだ。
両親の魔力保有量はそれほど高い訳でも無かった。
対して俺のマナの保有量は他の人よりも多かったらしい。
例えば、通常なら大抵の人は使いこなすのが困難とされる、自然のマナに干渉して自然に宿る精霊を呼び出す精霊魔法を幼少期より使えたり、マナの精錬速度も通常の人の何倍も早かった。
他にも、通常なら詠唱が必要な魔法でも無詠唱で発動出来たり、将来王国魔術師として活躍するのでは無いかと周りからチヤホヤされて育ったのだ。
そんなただでさえ才能の塊だと言われて来た俺に、これを更に拍車を掛ける出来事があった。
『ミル』との出会いだ。
5年ほど前、俺が8歳の頃。
俺は魔法の修行としていつも通っている裏山で修練を積んでいた。
近くに巨大な大樹があり、何となくそれが幻想的に思えてこの場所を大層気に入ったので、いつもこの場所に来ている。
この日もいつも通り修行を終えて帰るところだった。
「よし、今日はこれくらいにして帰ろうかな」
「夜も近いし早く帰らないと母さんに怒られちゃう」
「・・・ねぇ」
「今日の夕ごはんは何かなーハンバーグだと良いなー」
「ねぇ、聞いてる?」
「それともステーキかな?」
「聞こえてる!!?」
「うわっ!?」
突然脳内に響く様に大声が鳴り響き、頭がキーンとして頭を抑えた。
「な、何だ…?」
「君に話し掛けているんだよ。わかる?」
「もしかして、俺?」
「君以外に誰がいるのさ」
「いやでも…一体どこから話し掛けているんだよ」
「ここだよここ。大きな木があるだろ?」
「大樹の事か?」
そう言って大樹の方を見ると、そこには赤い鱗を纏った子供の竜がいた。