あなたとともに
街に救急車のサイレンが鳴り響く。
乗せられていたのは、痩せ細った一人の青年だった。
「あの子になんてことをしてくれたの‼︎あの子はあなたのセッ、人形じゃないのよ‼︎」
泣きながら叫ぶ一人の女性と、その前に蒼白な顔で項垂れる青年。運ばれた青年と同じ年くらいか。
「あの子が、とても幸せそうな顔であなたのことを話していたから、だから一緒に住むのを許したのに、なのに、どうして、こんなことをっ‼︎」
「こんなことになると分かっていたら、絶対に、決して、許したりしなかったのに‼︎」
俯いた青年は何も言わないまま、呆然としていた。
次の日、青年が目覚めたという連絡を受けて、家族が病室に集まった。青年はまだ朦朧とした様子だったが、誰かを探すように視線を彷徨わせると呟いた。
「…どこ」
探し人を見つけられず、静かに涙を流す。母親はあの青年を探しているのだと気付いて、唇を噛み締めた。
「もう、あの子と暮らすのはやめなさい。お母さんたちと一緒に暮らしましょう?」
そう声をかけた時、青年の瞳が、意志の強さを窺わせるはっきりとした光を宿した。
「だめだよ。あいつには僕が必要なんだ。それにね、僕もあいつのそばにいたいんだよ。ごめんね、母さん」
青年はもう決めてしまっているようだった。
「でも、あの子は、あなたのことを信じなかったんでしょう?だから、こんなことになったんでしょう?」
「そうだね。でも、それでもだよ。」
その時、病室の扉が開いた。そこには、あの青年が立っていた。
「大丈夫だよ。おいで」
その言葉に弾かれたように駆け寄って、横たわったまま両手を差し出す青年に縋り付くように抱きつく。
「ごめんっ、俺、お前にっ」
「わかってるよ。でももうそろそろ、信じてくれでもいいんじゃないかい?」
「でも、」
「もう、今回だって死にかけたけど、ちゃんと君のそばにいただろう?」
「あぁ、そう、だなっ、」
しゃくり上げながら話す青年に、仕方ないなぁという顔をしながら優しく語りかける。その顔は慈愛に満ちていた。
「お母さん、お兄ちゃんは一番で唯一を見つけちゃったんだよ。だから見守るしかないんだよ」
「ええ、きっとそうなのね。でも、」
「それにね、今度はきっと大丈夫だよ。あの人はやっと愛を見つけたんだ」