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拉致(帰路)

続きます。

───そう、俺は彼女の、もとい雪の姫の許婚だった。



 極道と間違われる父に似てとことんまで悪かったので、雪の姫とは違った意味で俺は人を寄せ付けなかった。友達だって一人居ればそれでいい。十分だ。


 ちなみに父は外に出歩けば職質必至らしい。可哀想に。いや、俺も将来のこと考えたら泣きそうになってきたわ。エロ本買った帰りに職質持ち物検査とかされたらもう泣くしかないんだろうな……。


 触らば神の祟り無し、と変わり者の友達を一人除いては俺に誰も寄り付かなかった。……ユキも、別として。


 二人で帰り道を歩くと同級生ホモ・サピエンス(オス♂)が俺を睨みつけた。そりゃあそうだろう、こんな悪人面が『許婚だから』なんて理由でこの美少女を連れているんだ。


「ケッ」「死ね」「糞が」「覚えとけ」


「ふんぬらば」 「滅せい」


 怖い怖い怖い怖い。


 待ってなんなのおちおち夜道も歩けないんですけどォ!?命が狙われてるとしか思えないんですが。


助けて!ポリスメン! え? いや、俺が助けを呼んだんですけど。何顔見てびびってんだよポリ公オラァン!?


 それと最後の方なんだお前。ちょっとそれっぽいこと言いたかっただけだろ。


「……はぁ。憂鬱だ」


「私は楽しい」


「……さいですか。はいはいさいですか」


「うん、楽しい」


 彼女が分からない。折角、九死に一生を得た得たその最高の人生だ。とことんまで謳歌するに限るだろうに。


 何を好き好んでこのような男と一緒に居るのか。


 ヤクザ面と許婚などと親に決めつけられ、最低どん底一直線レールに乗ってただ流されるままに生きる。それになんのメリットがあるのかが全くもって理解できない。


いやちょっと待てぇ!? 自分で言ってて泣きそうになってきたわ!? 俺の人生ハードモードが過ぎんだろうが!?


『別に許婚なんて話、もう無かったことにしちまっても良いんだぞ?』


 そう尋ねようと口を開いた。


「なぁ」


「何」


「お前さ」


 そう聞くと彼女は不満そうに口をつぐんだ。どうしたと首を傾げれば彼女は小さく言葉を発した。


どうやら『お前』という言葉にご機嫌を悪くされたご様子。口を尖らせては言い張った。


「ユキ」


「……ユキはさ」


「うん、何?」


「……満足そうですね」


「うん、満足」


 いや何に満足しているのか。もはや俺には理解不能だった。乙女心と秋の空というが、こいつの心はほんっっっと分からん。


 例えるならば過去完了進行形とかいう英語の文法くらいわからん。あれなんなの主人公パラレルワールドしてるのん? どこの世界線にいるのあれ。


……でもそういうループ系の展開は割と好き。


「それで、何?」


 彼女の透き通った声を聞いては脱線していた脳内の厨二病的妄想を振り払って話を戻した。


「許婚って話、あれ、無かったことにしてもいいんだぞ?」


「嫌」


 俺は大きくため息をついては冷めた目で一瞥する彼女に対して丁寧に忠告する。


「はぁ、あのな。嫌、じゃなくて。この令和のご時世に許婚とかいう話ほんと聞かねえから。ユキにはちゃんとした青春送ってほしいんだよ。これから好きな人作って、放課後タピタピデート♡(笑)とかしてみたり、休日に会って服買い占めデート♡(失笑)してみたり、ほら、あるだろそういうの……やったことねぇし知らんけど」


「間に合ってる」


 いや間に合ってんのかよ。え、買い占めデートは間に合っちゃまずいだろ。俺も「ここからここまで下さい」とか言ってみてえよ。……いや俺がやったら余裕で何かの組の襲撃だと思われちゃうわ。ついでにレジの金とかも差し出されそう。


「あーあー、ほんと。折角綺麗なのに、勿体ねぇ……」


「…………」


 急に黙るな。余計わからん。

 すると、彼女は思い立ったように立ち止まっては勢いよくこちらを向いた。どこか頬は緩く、でも目は真剣で。


 そんな目で見られては思わず怯んでしまったが、なんとか表情だけは変えなかった。


「スイは……」


「お、俺が?」


「……何でも。忘れて」


「さいですか。ほら、ここ家だろ。んじゃあ家帰ったら薬飲んで安静にしとくんだぞ。まだ身体弱えんだから」


「いつも、駅まで遠回りなのに、ありがとう」


「や、そんなん当たり前だから。ほら、お前身体弱いし、一人だと不審者とかも怖えし、この辺割と治安悪いし」


主に治安がどうこうは同級生の話だが。ここらの治安は別に悪くない。つかおばあちゃんおじいちゃんしか住んでねぇ。


「それでも、ありがとう」


「はいはい。じゃあな」


「ばいばい」


 小さく微笑んで手を振る彼女を横目に帰路に着く。


 ため息をついて一人、紅潮した頬を隠すように俯いては呟いた。


「反則だろ……」


無事、通りすがりのおまわりさんに超ガン見されたので「うっす、お疲れ様です」風に俺に残された最後のコミュ力を使って笑顔を見せた。


対しておまわりさんの方はガクガクと震えながら腰を抜かしてぺしゃり、と尻餅をついた。


ごめんじゃんポリ助……

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