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歳の差詐欺師の恋わずらい  作者: 夏乃海
一章『六歳は立派なレディ?』
11/50

1.7


「……それじゃあ何か。俺は今度ミモレ夫人に会う時、()()()()()で見られるわけか」


 長い長い沈黙の後。

 そう言ったローゼンに、フィラリアは一生懸命謝るしか無い。


「ごっ、ごめんねローゼン……」

「子供になったとたん、と思われてそうだな……」

「かえったらちゃんとなにもなかったっていっておくからっ」

「何かあったかもと一瞬でも思われてるとしたら最悪だ。ていうかその前にお前の父親の耳に入ってなければいいけどな……」

「……」

「そこで無言になるなよ。――ほら、ここから先は森だ。下りるぞ」

「あ、うん」


 絨毯から下り、それをローゼンが無限収納機能が付いたウエストポーチへと仕舞う。元はフィラリアの持ち物だが、何度も使ったり仕舞ったりするため依頼中は彼へ預けておくのがいつものことだ。


「ああ、あそこに道があるな」


 木樵達が普段使用しているのか、そこだけ茂みがかき分けられており、うっすらとだが地面も見えている場所があった。

 そこから森の中へと分け入っていく。

 目的の魔獣の目撃情報はこの森の中、(くだん)の木樵達から寄せられたものらしい。


「足元に気をつけろよ」

「うん……」

「…………」


 ガサガサと雑草をかき分け進む自分の後ろを一生懸命について歩くフィラリアを、一旦立ち止まって待つローゼン。


「あいたっ、うぅーん、……っしょ、とれた」

「……ちょっと後ろを向け」

「? なぁに?」


 たった二メートル程を進む間に、一つに纏めた髪の毛に沢山の小枝や葉っぱをくっ付けたフィラリアを後ろ向かせ、ローゼンがしゃがみ込む。

 するとそれらを丁寧に髪の毛から外し、くるくると頭の上で纏めてとめた。


「……っ、」

「? どうした。これで絡まらずにすむだろ」


(っ、何だろうこの、なんとも言えないこの感じ……っ)


 思わず両手で顔を覆って蹲ってしまう。


 立派な体躯で跪き、大きな手で小さな葉っぱを一つ一つ取り除いて、あっという間に幼女の髪をお団子に纏めてしまうその器用さ。

 その姿をはたから想像すると、


「や、やさしいおとうさん……」

「どういう意味だ」

「ぅわっ?!」


 赤い顔のフィラリアを、ローゼンが突然ひょい、と抱き上げた。

 慌ててその首にぎゅっとしがみつく。


「ろ、ローゼン?」

「お前の足に合わせていたら日が暮れる」

「っ、でも剣」

「利き腕は空けておくから問題ない」

「……ありがとう……」


 片腕にフィラリアを乗せて歩き出したローゼンの腕は、確かに小揺るぎもしないくらい安定していて、だけどなんだかそわそわと落ち着かない。


 ザッザッという草をかき分ける音だけが辺りに響く。


 手持ち無沙汰に目の前にある精悍な顔を見つめていると、首筋を滴り落ちていく汗が目に入った。

 それを自然と目で追って――


「っ!?」

「ご、ごめんなさい……っ?」


 どうやら無意識にその汗を手で拭ってしまっていたらしい。

 びくりと揺れた身体に、逆に驚いてしまう。


「……お前自分で散々子供じゃないと言ってたんじゃないか?」

「? ええ、そうよ」


 ローゼンの言いたいことがよくわからず、首をかしげてしまう。

 すると。


「ひゃっ?」


 無言で今度はフィラリアがローゼンからその額、そして首筋へと、厚みのある掌でゆっくり、浮かぶ汗を拭われた。

 熱を発する皮膚越しに、ざわりとした感覚が一気に背中の方へと駆け抜ける。

 それはどこか甘く――


「わかったか」

「わ、わかりました……」


 真っ赤になってしまったフィラリアの顔を見ることなく、ローゼンは歩みを再開させた。


(うぅ……、なんなのもう……)


 心臓に悪すぎる。

 だったら今こうして自分をその腕の中に抱いているのは問題ないのだろうか。




「――雑魚しか出てこないな」


 野犬の成れの果てのような魔獣を一太刀で斬って捨て、辺りを見回すローゼンに、フィラリアも確かに、と頷いて再度探査の魔法を唱えた。


「"ソナー"」


 ……やはり目当ての大物魔獣どころか、小物の群れさえ引っかからない。


「……お前の魔法の呪文は相変わらずよくわからない言葉ばかりだな」

「うーん、わたしにはわかりやすくてこうかがはつげんしやすいんだけど……」

「異世界の言葉か? イメージし易さが効果に繋がると聞くから、まぁお前にはそれが合ってるんだろうが」

「でももともとはいせかいのことばかな?っていうたんごがこちらでもいまつかわれていたりするから、もしかするとそのうちこれもていちゃくするひがくるかもしれないわ」

「なるほどな……。今の、近くにいる魔獣を探す魔法か? それみたいに他の魔法士のように長々と唱えなくても短い言葉で強力な効果が発現出来るっていうのは、まぁお前の強みの一つだな」

「うふふ、ありがとう」


 こう言ってもらえると、何となく魔法士としての実力を認めてもらえている気がして、嬉しくなる。

 今日もエイミーに、フィラリアだからパーティーを組んでいるのだとはっきり言ってくれていた。


「そろそろ今日のところは探索を打ち切るか……だいぶ暗くなってきた」

「もりのなかだと、ゆうがたでもうすぐらいよね」

「明日は早い内に見つかるといいが……」

「ローゼン、ごごからまたハンターたいけんだものね」

「フィル、今夜の野営場所を探そう。そこで結界を張る」

「りょうかい、ちょっとまって、こんどはひらけたばしょをさがすから。"ソナー"」


 本当に便利だな……というローゼンの呟きは恐らく、先程と同じ呪文でまた違う効果が現れるのだと察したからだろう。


 しばらくして、ちょうど良さそうな場所を見つけたフィラリアはローゼンを腕の中から誘導し、そこへ天幕を張ることにした。


「――お前もお前であれだが、アンソニーも大概だよな……」

「アンソニーといっしょにしないでくれる? わたしはアンソニーとちがってキテレツではないわ」


 まるで小型のカプセルホテルのような魔道具の天幕を前に、ローゼンを睨む。

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