信号
「おはよう、にしぐちさんにふゆきさん」
その鶴の一声で、わたしが傷ついていることは誰しもが気付く。つまるところ、わたしは自律している。
「愛しているのは、サキちゃん」
「1オクターブ、ずれてる」
「気付かなくて……」
切なさは、さっきの病棟に置いてきた。わたしの病気は、単なるひとみしり……。
「ごめん」
「あっそ。サキの父は芸術家。母は東大生だよ。むしろどうしてそうちゃんのお歌をそんなにも大切に覚えてるの? そっちのほうが奇跡じゃない?」
「ごめん。0点で。デッサンどうだった?」
「いいんじゃないの?」
とどのつまり、わたしは、誰にも会いたくない。わたしの愛するユザキちゃんには、一生会えない。
「本当のこと言った」
実父・由英・兄が八十八印刷を立ち上げた。母は、一生ナースだ。母の勤める病院……。どうしても、ユザキちゃんがこうまでしても、思い出せない。信号が赤のときは立ち止まる。