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この世の朝は未だ遠く 〜Zwischen Traum und Erwachen〜  作者: レンリ
二章 主人公の素質

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八十一話 夏祭り 結

ごめんなさい、まじすいませんでした。勘弁してください。

1か月空くのは作者も予想してなかった。そして、そのせいもあって少しクオリティが低下も否めない。

けどまぁ、ほら、ifも着々と進めてるから!


……リアルが忙しいので合間を縫ってするようになりますが、失踪はしません。失踪する時は疾走してきます。と一言伝えてから逃げます。次回も期待して待っていてください

 結局例の文は俺が謝罪し、後のプレゼントを対価にすることで落ち着いたが、ここまでして俺の事を本気で嫌いにならない蒼も大したものだ。


「ちょっと食べ物を並べるの、手伝ってくれますか? 」


 安定の空間魔法で取り出しているカピュア。


 よく良く考えればこれも物理法則無視しててたなーと、最早無視するのが当然となってきた元いた世界の定律だが、異世界だからなんでもありということにしておこう。


 手を貸しつつ料理を見ると、なんということでしょう。そこにはお米の上にお魚の載った、ジャパニーズ・スーシーだ。

 勿論他にも料理はある。日本特有の違うそうじゃない意訳のオードブルだ。しかしその中身も日本でよく見る和洋折衷のもの。


「凄いな……。故郷の食べ物が揃ってる……」


 カピュアの用意が凄すぎて泣けそう。俺の為にここまでしてくれたっていう感動が……。


 鼻の奥がツーンと、溺れた時のように痛むのを無視して、次々と並べていく。どうやら寿司やオードブルだけでなく、豆腐や枝豆といった日本料理も含んでいるようだ。


 待って、本当にどこからどうやって集めたの?


 あっ、待って生食に忌避感あるかもしれないし、お寿司大丈夫……?

 ていうか、これで食中毒とかになって、魚とか自体にトラウマを抱えて生きていくとかになると俺はもう……。


 過保護なまでに彼女の身を案じているが、これが杞憂で済めば良い。そうでなければ菌だの先入観だのを没滅させなければいけなくなる。


 かなりの不安を抱えながらも品数豊富を並び終えた頃、蒼がとある提案をする。


「これだけ和食揃ってて紅茶とか会いそうにないし、一成、麦茶交換してくれない? 」


「俺の事を便利屋さんとかと勘違いしてないか? 通販じゃないんだぞこっちは」


 熱帯雨()林気候()の危険()な森林()や食べ物を運んでくれるアレかなにかのような扱いを受けているような気がするが、カピュアのためになる可能性を含む。断る理由が見当たらない。


「でも紅茶とか水よりも普通のお茶がいいでしょ? こっちじゃそんなの作れないんだし」


「いや、作れるが? 」


「そうなの?! 」


「紅茶も緑茶も烏龍茶も茶葉は一緒だ、醗酵度合いが違うだけで。ちなみにこれは五つ子の作品で得た知識だな。あと麦茶は大麦の種子から作れるから、まぁ作れるだろ」


「でも今からは無理でしょ? だから交換交換」


 肩を揺すって強請る蒼。俺が首が据わってない赤子なら余裕で後遺症が残りそうだ。


「分かった分かった。交換するから一回待ってろ。そして鬱陶しい」


 首に負担をかけられたこととは一切関係ないが、単なる女友達なら触れさえしない頭をグイッと押して引き剥がす。


「私の扱い雑じゃない!? 」


「単なる友達と世界一かわいい生物。どっちを優先するかはもう答えが出てるようなものだと思うんだが」


 会話の合間に日々のログボ代わりの宝石製造機さん、交換スキルを発動させておく。


「それで、蒼はこの飲めや歌えの三人宴になにか貢献してるか? 」


「……監督役? 」


「俺の言い訳をパクるな。そして、俺がそれを使う時は必ずある程度働いてからと、人数的に必要ない時だけだ。無駄に動き回ってると邪魔になるしな」


「でもほら、邪魔しちゃ悪いかなって思って」


「そうか、なら俺たちふたりの空間に存在してることが邪魔だって言ったら出ていくか? それが嫌なら働け」


「それとこれとは別じゃん! 」


「とりあえず働け。今時花嫁修業中とか通じないぞ」


 尚聞いた話によると結婚相談所では、女性の働く環境が整っているにも関わらず未だにこれが許されているらしい。

 フェミさんは怒らないのだろうか。


 結婚相談所って二次元との結婚方法とか教えてくれるのかな? 某ツインテール歌姫と結婚した人はいるけど。


「なら家事手伝い? 」


「働かない家事手伝い(メイド)がいてたまるか」


 ラノベには暴言を吐く傍若無人が居るが、現実と……現…じつ? ともかく現実世界と創作世界の区別は意識してつけている。と思っている。


 蒼も参戦し、対して残っていない準備を終え、料理を前に腰を下ろす。


「あー、今急に降ってきたんだが、食前の挨拶をやってもいいか? 過去にやってたジュニアで覚えたんだが」


「ジュニアってなんですか? 」


「ジュニアリーダーの略で、まぁ小学生たちと似た立場で、えー、額縁通りで言えば、子供会の活動を手伝うお兄さんお姉さんの団体? 基本的には中高生がする。

 まぁ俺の性にあわないことをやってたんだよな……」


 地域ごとに団体があって、活動に差異はあれど根本にあるのは 《大人と子供のパイプ役》や 《子供たちの隙間を埋めるスペシャリスト》といった、子供を支える役割だ。

 知名度が低いのが偶に傷。

 そのせいで初級か上級を取って受験時に書類に書いたとしても 「なぁにこれ」で済まされてしまう。一応質問が来ると良いのだが、例え上級を内申に書いたとしてもあまり点数の増加は期待できない……。


「子供たちを助けるって素敵です」


 カピュアは俺を褒めているのか、ジュニアの存在を褒めているのかどちらとも言えない……或いは両方の意味を含んだ言葉を、俺に投げかける。


「ありがとう。まぁこれのおかげで多少コミュ障が改善したって考えたら良かったんだ……うん。カピュアと会話出来たんだから……」


「改善のレベル低!? 」


「コミュ障にとって好きな人と会話できるのは、オタクにとって推しがいる作品をなにか持っていることぐらい大切なんだ」


 いくらコミュ障でもある程度仲良くなりさえすれば気軽に会話ができる。

 ……その一歩が中々踏み出せないのだが。


「コミュ障でもオタクでもないからわかんない! 」


 なんだかこのままだと永遠と会話してしまいそうな気がしたので、無理矢理打ち切る。


 俺たちの晩餐はこれからだ!


「鶴さんや亀さんのように、千年も万年も生きたいのならば、ツルツル飲まずに、よーくカメカメ――」


 数年間口にしていなかったが、体が憶えている。挨拶は流水のように流れ、〆の一言。


「頂きます」


「頂きます」

「え、えっと、頂きます! 」


 慣れていないのか見様見真似で手を合わせる彼女はとてもかわいい。


「言ってから思ったが、ツルツル飲むものって……ある? 」


「言われてみればないじゃん! 」


「地元ならいくらでもあるんだけどな。数分後歩いただけとは言わないが、ちょっと車で動けば店あるんじゃないか? 」


「それが実際にあるからツッコミずらいんだけど! 」


 さてと、カピュアがついて来れない俺たち固有の会話調……朝条節はこの程度に留めておく。収集がつかないものになってくると、ツッコミにツッコミが入って訳が分からなくなってくる。


「なんか、このまま話してても区切りが出てきそうにないし、早速食べるか」


 俺が醤油を注いだことを筆頭に、各々好きなものを食べていく。


 あぁ、やっぱりこの日本特有の感じ。ちゃんと魚の臭みを取ってるし、もうシェフ呼んでチップ渡したいぐらい美味しい。もうこれはカピュアに貢ぐしか……。


 何故か用意されていた箸を使って食べ進めていると、覚束無い様子で酢飯をふたつに分断する棒が二本。どうやら、横のカピュアが寿司の柔らかさに苦戦しているようだ。


 分かるよ。力加減間違えるとボロボロ崩れるよね。


「しょうがないな。ちょっとお箸貸してみ」


「えっ? あ、はい」


「何がいい? 」


「えっと、じゃあサーモンがいいです」


 そう言って彼女はしっかりと持ち手を俺に向けて渡してくれる。


 似てると思ってたけど、この世界にも鮭いるんだね……。


 箸に残る彼女の温もりを感じながら……。


 待って今の俺相当気持ち悪くない? 大丈夫?


 まぁ良くはないが、まぁ良い。

 箸に残る彼女の温もりを感じながら、指定の品に醤油をつけて口元に。

 彼女は特に抵抗する様子もなく、パクッと食べる。


「なんか一成手馴れてない?! 」


 大きく喉を動かし、口の中を空っぽにした彼女は、途中で産まれたであろう疑問を口にする。


「これってあーん……ですよね? 」


「あ……ごめん! 実家に帰った時に偶にあるやつだから完全に頭から抜けてた! 」


「待ってどんな状況?! 」


「いや、妹にお菓子分ける時とか口元に直接運んでいるから、つい癖で……」


 気を悪くさせたらほんとうに申し訳ない。そう思っていたのだが、


「イッセイ、もう一度いいですか? 」


 こうも恋愛系のこととなると彼女はブレない。


「えっと、まぁ、カピュアがしたいなら別に良いが……」


「謎のツンデレ?! 」


「単に恥ずいだけだ。気にするな」


 カピュアの(みことのり)に従い、適度に頬張らせているが、どうも 《あーん》を意識する。そう考えるとねだる彼女がとても可愛く見えてくる。

 俺は羞恥から目を逸らそうと、一生懸命関連のない話題を探す。


「……そういや、なんであの時歌って待ってたんだ? 」


「イッセイが一曲歌ってる間に戻ってこれるって言ってたので……」


「????? 」


 まさかこっちに来て理解不能になるとは思わなかった。現代(向こう)では狂人じみた友達によくさせられていたが、それでもそれは蒼ではないからないと思っていた。

 オマケに、《だがかわいい》が付いてくる。


 なにこのかわいい生物。


 しかし、俺の理性が千切れてこの一場面を記録できないのはとてもとても困る。


 頑張って耐えよう。そうしよう。

 この可愛さに負けない可愛さでなんとか中和しよう (?)。うん無理だ。


 カピュアを見ていると、俺の一番の推しなあのおとこの娘でさえ霞んで見えてくる。


「イッセイはお酒って飲みますか? 」


 そんな天使から悪魔の誘惑。


「え? いや、未成年だからまだ飲めない」


「出たマジメ! ちょっとぐらい破ってもいいって! 」


 先程から蒼がしばらく噛み付いてくるが、疲れないのだろうか。


「? 未成年でも飲んでいいんですよ? イッセイの国ではどうなのか分かりませんが、ここでは14歳から飲んでもいいんです。イッセイは14よりも上ですよね? 」


 ここで地味にカピュアは14よりも上ということが判明した。


「まぁ16だが、肝臓がお釈迦になってカピュアよりも先に死ぬのは嫌だから飲まないでおく。看取られて死んでカピュアを悲しませたくない」


「想像が先過ぎ! 」


「不安要素は消しておくに越したことはないだろ。どうせなら二人で仲良く手を繋いで静かに眠るように……」


「縁起でもないこと言わない! 」


「確かにイッセイが先に居なくなるのは耐えられないです。一緒にが一番ですね」


「フェルものらない! 死ぬ時のことなんてもっと後でいいの! 」


「ここだと魔族や魔物と戦ってるわけだし、平均寿命もかなり低そうだけどな」


「細かいところを考えない! この話おしまい! もっと明るい話題でワイワイ騒いで! 」


「ワイワイ…………。ッ! waiwai問題?! 」


 あの日本が出している海外に向けた新聞に、根も葉もない日本人……特に女性を侮辱するような、貶めるような記載があった、あの伝説のwaiwai問題。

 何が酷いって、海外版だから日本人で取ってる人は少ないわ、記事がネットにあっても英語が読める人なんてそんなに多くないわ、のコンボでほとんど日本人に知られてないんだよなぁ。


「知らないし、そんな問題なんて取り上げなくていいから! 」


 怒涛のボケの畳み掛け……途中カピュアの予期せぬ援護射撃で、かなり体力的に摩耗してきた蒼。はあはあと息を切らしている。


 さてと、もっといじめてあげようかな?


 思考がサディスト方面に向かっているが、俺はもとより推しの居ないゲームで友達の推しを出して妬ませるために石を貯めておくような輩だ。少しこの世界に来てから血の気が多くなってきたが、それでも気にはならない程度だろう。




 とまぁ、用量を守ってツッコませ、時に食べ、なんやかんや楽しんでいたのだが――


「ふふ〜、イッセェは〜かっこよくて〜、いつもたよりになって〜、こまっててもあんしんできて〜、いっしょにいるとこころがぽかぽかして〜、かっこよくて〜」


 少し呂律が怪しくなっているのに加え、この先程初めましてをした彼(女)を彷彿とさせる話し方。完全にアルコールに負けている。そしてかわいい。


 可愛い子が酔っ払うともう可愛さはねずみ算的に増えていくんだなって。可愛さ指数があるとしたら、新鮮さの点は満点、好みも満点、アルコールでちゃんと喋れていない、それも加点対象。尚、この加点は可愛い子のみにされる。


「えへへ〜、そんなイッセーがだいしゅきれす」


 正面から彼女の顔が近付いてきたと思ったら、背を掌や腕で後ろから押される感覚がある。これは、ハグか。ということは抱きつかれたのか。

 酒気を帯びて、お風呂上がりのように顔を赤らめた彼女は愛らしさと艶っぽさが混じったような存在だ。


 ……ここまで冷静ぶっているが、とっくの昔に耐えかねて痙攣が始まって既に治まっている。怒りを通り越して冷静になるとか、悲しすぎて涙が出ない……実感が湧かないと似たものだろう。とはいえ、かわいいは正義だ。彼女がそれでいいなら俺も受け入れよう。

 薬物のような推しの尊さをここまで大量摂取すると、後に満足できなくなる危険性があるが。


 近い顔に戸惑いこそしないが、心地いいものでは……いや、毒だ。失明しないように別の者に焦点を当てる。


「にしても蒼は随分と理性保ててるんだな」


「そんなに量飲んでないからだと思うけど……。一成もちょっとぐらい飲んだらいいのに」


「ヒロイン適性がやたら高い俺の事だ。気体吸って酔ってないだけマシって考えるしかないな」


 クビレあるとか異世界転移系に似つかわしくない男の特徴を持っているのに加え、謎に平均的に女性の方が多い魔力量も多く、多々女々しい時がある。ついでに言えばなにも意識しなければ方言付きだ。虫が子供の時から苦手だったことや猫舌、甘味好き、etc……。

 女子(ヒロイン)として生まれた方が良かったのかな、と幼い頃……具体的には小学生低学年には少し思い始めていた。最近はあまりなくなったものの、平然と女子グループに交ざっていたのだから恐ろしい。


 実のところ、「食う」や「肉」と言った荒々しいような口調があまり言いたくなかったり、人に対する悪口にかなり抵抗があったりする。


 ふと、女の子として産まれていれば顔さえ良ければ美少女でモテモテだったりするのかなと、ありえないifに辿り着きそうなところで、救世主(てんし)からお声がかかる。


「もぉ〜、わたしをみてください〜」


 彼女は腕に力を込め、俺を逃さまいと身動きを封じる。体が預けられているところを見るに信頼はしてくれているのだろうか。なんてことを考えるくらいにはこのかわいさを直視できない。

 彼女の思惑通りに美しい宝石を見つめると、その宝石は輝きを増して見つめ返してくる。薄萌葱の中に常磐色はよく映える。それこそ、自然()鉱物(エメラルド)の共生のようだ。


「うへへ〜、イッセーはもうにげらえません。」


 そう言って顔と顔がすれ違い、肩と肩が触れ合うほど


 なんだろう。一周まわって可愛さが麻痺してるのだが、そこからまた一周まわってとても可愛く思えてきた。


「やばい。なんか緊張なのかな。めっちゃ喉乾いてきた」


 初デートの時かと錯覚できるほど、手がしっとりし始める。


 これは最早惚れ直している状況に近いのでは?


 今スマホ音ゲーをしようものなら普通に叩いただけでフリックになってしまいそうなぐらい手汗が酷いことになっている。


「悪いけどカピュア、お茶取ってくれるか? それか離れてくれたら自分で取れるんだが……」


「だめれす。はなれたりひたらおこりまふよ! 」


 もう呂律が回ってなくて可愛いのと愛してるという気持ちが伝わってきて泣きそう。アルコールを一ミリも飲んでいなくてここまでは……なんだいつもの事か。

 ここはカピュアが淹れてくれた水でも飲んで、一度落ち着くとでもしよう。


 ん? 水?


 直後、焼けるような喉の痛みに思わず咳き込む。喉元がピリッというか、辛いというか、なんだがそんな感じだ。


「らいじょうふれすか、いっへえ! 」


 彼女の酔いが進んだのか、俺の名前もかなり怪しくなってきた。そんな彼女の手違いによって俺は今お酒を口にしたのだろう。


「とりあえずお茶でも飲んだら? 」


「ありがとう」


 別に悲しいわけではないが、涙が少し滲んでいた。嬉し泣きのようにもなってしまったが、とりあえずすかさず突き出された湯呑みを受け取る。ピリピリとした感覚がまだ消えないが、それでも口直しに近い効果を期待して一気に流し込む。


 少しのハプニングが起きたが、特にまだ体に異常はない。大丈夫だろう。



 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□



「ふぇ? 麺つゆだったりせん? 大丈夫なん? 」


「急にどうしたの?! 」


 すっかり酒に飲まれていた。


 今の状況を軽く説明すると、俺が(むせ)る。なんか飲んだら、と提案される。それに対して俺がこう答えたというところだ。

 ちなみにお酒の誤飲からは既に三十分ほど経過し、酔いが始まっていてもおかしくない時間帯ではある。実際に多少眠気がやってきてぼんやりとしている辺り、酔いは進んできているのだろう。方言が交じり、音程も楽なように上がっている。

 そして、酔いの状態でここまでハッキリとしている訳もなく、この目線が実は神目線だったというメタ発言も可能だったりする。


「ほんとに大丈夫なん? 」


 俺は念の為に後押しで聞くが、蒼はろくに返事もせず


「待ってなんか可愛いんだけど……」


 と全く関係のないことを呟いている。彼女のことは諦めて、喉の違和感を麺つゆだかお茶だか区別がつかないもので取り払う。本当にお茶だった。


 寝ている天使を大丈夫かな、と徐に目に映す。数分前に船を漕ぎ始め、今は静かに横たわっていて死んでいないか心配になる。大丈夫なのだろうが。


「なんなんこの寝顔。やばいやばいやばい。めっちゃスクショしたい。待って待って待って待ってやばい、可愛すぎて死ねる……」


「むぅ……いっへえはそんなにすきなんれふか? 」


 唐突な名前呼びに加え、甘く囁くような物言いに凍えた時に近い呼吸になる。体がふわふわしてる感覚も相まって今にでも成仏しそうだ。


「こんな可愛いんがこっちの彼女とかマジで信じられんのやけど。……え、やばい……」


 宵も深まり、誰にも邪魔されないアルコールで満ちた空間は静まり返っている。

 それを無音で眺める少女が一人。感情など存在しないと思わせる表情だが心做しか、口角が少し上がっていた。

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