八十話 夏祭り 転
みんな、遅れてごめんね!
もともと予定してたところまで書くと伸びる伸びる。その結果13000を超える文字量となりました。
読み応えあるよ!良かったね。
ごめんなさい。次回は気をつけます(直らないかも)
レイリという男の娘に出会った後、俺たち三人は階段で少し休憩していた。
俺が精神的にも肉体的にも社会的にも弱まっていたので、カピュアが提案してくれたのだ。
「レイリは一体なんだったんだ」
俺は一人、彼? 彼女?
おとこの娘って代名詞どっちがいいの?
……もう彼女でいいや。英語圏でも(s)heだし。
俺は一人、彼女のことについて考えていた。
通り過ぎる人々に奇異の目で見られる……若干どころか大半が疎ましいと感じ、侮蔑の目で見ていたと思うが、そのことは特に問題ではない。カピュアの過去を知りうる人物であること。何故かわざと女性のフリをしているおとこの娘であること。
そしてカピュアの言葉に出てきた王宮筆頭魔術師という単語。異世界テンプレ知識を引き出せば、魔力量が莫迦みたいに多いチート主人公等が当てはまる職業だ。また、単純に字面を見れば王家に仕える中でも最も凄い魔術師ということだ。見た目で判断するのはどうかと思うが、一つの判断基準として加味すると、あの幼い……小学高学年辺りの見た目でその頂点まで登りつめたということだ。才能の塊、そう評すのが妥当だろう。あの幼さに隠れた実力があるということ。
なんでだよ……。
あまりにも異世界異世界している設定に誰に向けたものでもない憤りを感じる。
なんで、俺には主人公的能力なくて、自称神とか、なんかいた大きい獣とか、見た目幼いおとこの娘にはここまでとんでもないような実力があるの?
せめて代償なしで無限に交換できるとかいうスキルが欲しかった。そしたら、宝石大量に交換して売り捌けたのに……。
……宝石価値大暴落……。
いや、でも、カピュアっていうあまりにも可愛い彼女が出来たこと自体が異世界 (社会的)チートという可能性が?
これ逢わなかったらどうするつもりだったのかな。本当にチート無しで生きていかせるつもり? 貧弱現代生粋の日本人にそれは無理だと思うんだけど。
「これからどうしますか? さっきみたいに体調が悪くなっちゃったらダメだから、今日は帰りますか? 」
「そこは大丈夫だ。レイリによる精神攻撃に似たなにかでああなってただけだから。……猫カピュアは可愛かった…」
「……猫の私…ですか? 」
「レイリ曰く、学芸会で猫の役したときの衣装らしいアレだ。にゃんがとんでもなく可愛かった」
微妙に言い難い箇所に配置されている『イ』の発音に少し違和感を感じつつも噛まずに言い切る。
どうせならレーリとかレエリとか言いやすいものにして欲しかった。
「学芸会……。もしかして、聖玉祭のことですか? 」
「俺に聞かれても分からないが、レイリと面識あってからだとは思うな。聖玉祭ってなに? 」
「聖玉祭は、ウカツコを作った人がこの地に退魔の宝玉を置いた日として伝えられている日があるんです。その事を祝って、その日に学校や街でお祭りがあるんです。学校ではクラスごとに出し物をしたり、他のクラスの出し物を回ったりするんです」
「要は文化祭みたいなものか。何年前か分かるか? 」
猫カピュアの衣装が残ってたら着させたい。
「えーと、五六年前だと思います」
五六年前ってことは、大体小学六年ぐらい?
待って、清姫と同じ?
……数えで13、今だと12才のヤンデレ度は異常。
「ちなみに衣装が残ってたりは……」
「どうでしたっけ? 衣装はお父様とお母様が全部作ってくれたと思うので、多分シキに聞けば出してくれるとは思いますけど……」
「よし、また今度それ着てみよう。できれば最新技術でもなんでもいいからその姿を写真に収めよう。それ専用の撮影場所を用意しよう」
「なんだか、ルカみたいなこと言ってますね。ルカが何枚も写真を持ってたと思うので、それを借りてまた見せましょうか? 」
ルカって日本だと女として扱われてるけど、男性名だよね……。
ルカ、誰かは分からないけど、君のことは忘れない。忘れるかもしれない行動を起こすのは俺だけど。
しかし、このまま休んでいるだけでは夜も更けて店が段々と畳まれていき、寂しくなってしまった屋台跡を回ることになってしまう。そんな全く楽しくないナイトフィーバーにする訳にはいかないので、そろそろ声をかける。
「じゃあまた回るか」
「大丈夫ですか? 倒れたりしませんか? 」
「まぁ、うん。カピュアが可愛すぎない限り大丈夫だとは思う」
着物カピュアという新鮮味がとんでもない宝物と過ごすため、少し……かなり自信がないが、猫カピュアを過呼吸程度……程度?
ともかく、過呼吸程度で乗り切った俺ならばきっと、彼女のかわいさが薄れる程に狂人的な行動をして中和するだろう、と希望を持って答える。
うん。多分、大丈夫。
「それはそれにして……。アオイさんがまた居ませんね…」
カピュアとしてははぐれないように、という思いがあるのだろうが、流石に気遣ってくれている蒼が可哀想だ。
「蒼も知り合いに見られてない状態で楽しみたいのかもな。はしゃぐのが恥ずかしいお年頃なんだなきっと」
またツッコミが飛んできそうな言い方だったが、今度は誰からも咎められることは無かった。
少し期待していただけに裏切られた気分。
今ここに存在しない人の事を考えても仕方が無いので、
「それじゃ二人でお祭りデート…でもするか」
言う途中に恥ずかしくなり、言い淀みそうになる。
が、既に大勢の人の前で奇声をあげる等の痴態を晒したこと。
脈絡もなくカピュアのことをフェルたんと呼んだこと。
精一杯、なけなしの勇気を振り絞って味噌汁を頼んだが、カピュアに伝わらずに 『みそしる』なるものが好きなのかと聞かれたこと……。
が死にかけの主人公の如き速度で脳裏を過ぎり、その走馬灯のお陰で、微かに小さくなるだけで済む。
俺って恥製造機かなにかなのかな。
俺の中でかなりの葛藤があったのだがそんなことはつゆ知らず、カピュアの心配そうな表情はパッと明るい笑顔へと変わっている。
「じゃあ、イッセイ。手を繋いでもいいですか? さっきは直ぐに離してしまったので……」
遠慮しているような言い回しではあるものの、繋いでもいい? ではなく繋ごうよ! 的な意味合いになっている。
特に断る理由もないので素直に従って手を差し伸べる。彼女はその手を取る。それでも彼女は止まらずにそっと肩に頭を添える。
「それと、今日はいっぱいなでなでしてください」
彼女は俺に頭を委ねている。そのままスリスリしている彼女は猫のようでとてもかわいい。
このお祭りの雰囲気に当てられたのか、積極的になっているカピュア。この場所の人通りはかなり少なく、特に人目を気にすることも無い。
座ったまま空いた手で頭を撫でてあげると、心地良さそうに柔らかく微笑む。
「ありがとうございます…それじゃ、回りますか? 」
すっかり 《にぱー》という効果音が聞こえてきそうな笑顔を浮かべた、彼女の気がかりは取り除けたようだ。
「そうだな。遊んでばかりもアレだし、なにか食べるものでも買うか」
カピュアのことばかり考えていたが、この状況で和むとしか思わず、ドキドキしていない俺もすっかりこの場の空気に染まっているのかもしれない。
俺は立ち上がり彼女を連れて、何を食べようかと歩き出す。
通り過ぎる屋台の幟を確認していきながら歩く。
案外こうやって誰かと一緒に回るだけで楽しいものだ。それがカピュアという天使なら尚のこと。
見たままの順で伝えると、焼きそばとか、フランクフルトとか、焼きそばとか、ポップコーンとか、焼きそばとか……。
なにここ焼きそば激戦区?
焼きそばは日本で生まれました。海外の発明品じゃありません。我が国のオリジナルです。
尚、このネタは海外のものの模様……。
焼きそばが店を挟んで三軒あることに違和感がないのか、はたまた俺以外に興味がない状態なのか。
「カピュア、なにか食べたいものでもあるか? 」
「特には……あっ、イッセイ。イッセイの国にカンカ焼きってありますか? 確かウカツコ名物だったはずですけど…」
「カンカと言われて真っ先に思い当たるのが武器全般を意味する干戈が出てきた俺もおかしいが、柑果とか坩堝とか乾果とかだよな? 」
「えっと、かんかって言われても分かりません…」
カピュアは、あはは……と困った顔で苦笑い。その笑顔の後に、俺から目を逸らすように軽く俯いた彼女からは力になれなかったという後悔に似た念が伝わってくる。
別に気にしてないよ、と言うべきかどうかで声を出せないでいると、
「あ〜、でも、ケチャップを付けて食べると美味しいですよ」
テンパってしまっているのか、よく分からない謎のフォローをし始めるカピュア。
でも干戈にトマトケチャップ……。
「俺の予想が正しいとかなり倫理的に危ない気がするんだが……」
「確かにやけどするかも知れませんが、食べても怪我したりはしませんから! 」
最早会話が成り立たない。慌て焦っているカピュアもとてもかわいい。可愛いのだが、これ以上手を差し伸べないのは酷というもの。
「カピュアがそこまで薦めるならちょっと食べてみようかな」
食べる目標も決まったことで、その屋台が出ていないか捜索を開始。
焼きそば……焼き鳥……かき氷……焼きそば……。
なに? 焼きそば人気なの?
このお祭りは焼きそばの為にでもあるのかと思い、これが 《焼きそば祭り》とでも言うのなら納得だろうなぁ。とぼんやり考えていた頃。
聞いた事のある声……それも数十分前に聞いた声が聞こえてくる。
「ねぇ〜、この中に当たりってあるの〜? そもそも〜この景品って残ってるの〜? 」
あの男の娘だ。間違いなく。ここまで独特でゆったりとした話し方をする人が他にいるのなら見てみたい。それも、ボーイソプラノという高音のおまけ付きだ。真似をしてもなかなかできることではないだろう。
「そんなことより〜当たりが残ってるのかないのかをハッキリ言って貰わないと困るな〜」
本当に蒼が言っていた通りで、かなりいい性格をしている。それも悪い方に。
どうやら言い争っている様子だが、話からしてくじかなにかでレイリが当たりの入れていないくじかなにかを見つける度にああやって潰しているのだろう。
少し話してカピュアを見せて貰った程度の仲だが、普通にしていそうな性格をしていると思う。カピュアで尊死させようとした嗜虐心の持ち主だ。有り得る。
「あるって言ったね〜? ならこの撮影機で撮るから〜当たりが出るまで引いてもいい〜? 」
幸いにもカピュアも彼女も気付いていないようだ。
一触即発。触らぬ神に祟りなし。そっとしておくのが一番だと、俺の直感がそう告げている。
声がする方とは遠くになるように曲がって、その 《カンカヤキ》なるものを探す旅に出かける。
案外すんなりと逃げ切ることが出来た?
どうもレイリに対して苦手意識があるのだが、それは正しい恐怖認識であると信じたい。
しばらく歩いて、カンカ焼きらしきものを探しているのだが、
「カンカヤキってもしかしてこのお祭りにないのか? 」
屋台のものはチラリと見た程度だが、着物やら焼きそばやらかき氷やら、日本由来のものがあまりにも多い。
かき氷は台湾などにもあるが、どう見ても日本の氷菓だ。理由は単純。単に色の着いた氷蜜がかけられていた。
そしてカンカヤキなんてものは日本で聞いたことがない。実際にあるのかも知れないが、少なくとも俺の語彙にない。
ふとなにかに突き動かされたかのように隣を見ると、しばらく歩いていたせいか、太腿に手を当てて軽く俯く彼女の姿が……。
体力がないけど頑張って歩いてるカピュアかわいい!
俺には一切サディストやリョナの適正は無いはずだが、それでも疲れている仕草一つ一つが可愛く見えるのはカピュアの持つ美貌の為せる技だ。
……なんか俺みたいな変なやつがカピュアの周りに大量発生してそう…。
わざわざ女のフリをしている、レイリ。
発言自体はまともにも関わらず、それを自分に反映しないが為に矛盾が発生し続ける、スメイト
何も言うことがなく…いや、言わずと知れた狂人、朝霧一成……。
あとは話を聞く限りかなり俺と似通った……間違いでもないが具体的に言うならば、変態的な嗜みを愉悦と感じておられるお方、ルカ。
あながち間違いでもない?
「カピュアどうする? ちょっと休むか? 」
苦しさを必死に隠しているが、その意図を汲んで何もしないというのも手だが、生憎そうして気付いたことをわざわざ実行する集団性は持ち合わせていない。
にしても、カピュアには虫を惹き付ける甘い蜜でも塗りたくられ……訂正、生産する機能でもあるのか、どうも可笑しな人が集まるようだ……。
自重しましょう。そうしましょう。うん。
カピュアの彼氏としてカピュア自体の価値が下がらないように。
良い彼氏関係なしに彼女を休ませるために、近くに休める場所はないか見渡すと、明らかに周囲の建物に馴染めていない……よく言えば際立っていて厳かな空間が存在していた。その場所はジャパニーズシュライン。つまり神社だ。
ほとんどの建造物が石の原色……要は鼠色をしているのだが、そこには見覚えしかない、赤い円柱が2本聳え、根元は黒く染まっている。上部中心には2つの棒に挟まれた板や装飾がある鳥居だ。しかも明神系の。
神と女神で力が反発したりしない? 神道ってカピュアの事を神にしてた?
「カピュア、ここでちょっと休むか」
お祭りと言えば定番かもしれないが、少しここで休ませてもらうことにした。無礼と怒られなければいいが、こちらにも神はいる。いざとなれば神助けをしていると誤魔化そう。
しかしながら、見れば見るほど日本を彷彿とさせる作りになっていて、狭いながらも本殿の隣には木々が生え育っている。
「そういや、ここって神を祀っているんだよな。神は複数存在しているのか? 」
ここがナーロッパではなく中世ヨーロッパと同じようなものである場合、肯定なる人物が宗教を立ち上げて教会等があると個人的に思っているのだが、そう考えるとあまりにもこの神社は技術も発想も、この世界にあっていなさ過ぎる。
「もちろんですよ? 」
多神教で神社。この宗教で真っ先に思い浮かぶのは自国。今ではただの人間判定だが、戦争以前を考えると……。
「なら、天皇…いや、この国の王……様は神か? 」
不敬罪に該当しないように様を付けたが大丈夫だろうか。
「国王陛下は神様の末裔ですよ。神様って言えば神様なんだと思いますけど」
そうだ。宗教に関連してだけど、カピュアが崇めるような神っているのかな?
「ありがとな。次いでにだが、カピュアはなにかの神を信じてたりするのか? 」
「はい。国王陛下から力を貰ってます。イッセイはなんの神様を信じているんですか? 」
「いや、信じてない。カピュアを女神だと仮定すると崇拝していることになるが……」
いや、中三の時とか修学旅行で太宰府天満宮にいったから一応神道? お墓参りとかもするけどそれは先祖が仏教徒だったからだし…。
それに神道って他の宗教を受け入れてくれる寛容な宗教だからきっと無神教も受け入れてくれるよね (謎)。
「なんで魔法が使えているんですか? 」
「え? いや、なんで神信じないと魔法使えないんだ? 」
「魔法は色々な説があるんですけど、その中で一番有力な説が、神様の力を借りているという説なんです」
……てことはこの世界に存在してる神は俺信じてないから……。
「カピュア、なんていうか、俺のせいで弱体化してたらごめん」
カピュアに迷惑をかけているだなんて思って生活は出来そうにない。魔法を使わないという手もあるが、そうなると俺の戦闘力が軽くゼロに等しい所まで低下してしまう。それはそれで迷惑をかけそうだ。
気休め程度だが、ほかの説を推すことで、なんとか気を紛らわそうと、
「一応聞いておくが、他の説にはどんなものがあるんだ? 」
「自然の力を借りている説や人間本来の力説、幻覚説、えっと……人々の思い説があります。でもこの人の思い説は理論上無限に魔法が使えることになるのでおかしいってされてます」
待って幻覚説なんてあるの? 頭柔らかすぎない? しかも怪我したら、怪我すらも幻覚幻覚で済ませられるから、世界五分前仮説みたいに否定できない?
「あと関係ないかもですけど魔力自体がよくわかってなくて、よく議論されてるみたいです」
「要はってことか104から118ってことか」
流石に原子番号では伝わらなかったのか、「ひゃくよん? ひゃくじゅうはち? 」と可愛く首を傾げる。
けど、魔法の原理って解明されてないんですね。まぁ人によって発動のしやすさが違えば実験はしにくいとは思うけど。
「なら俺は人の元々の能力説でも推すかな。俺の国だと……いやでもそれは一種の宗教か……。もうわかんないなこれ」
陰陽師や呪術、その他諸々がふと舞い降りてきたが、あれも神道やら仏教やらの影響を受けて日本独自に進化してきただけであって、宗教的なものであることには変わりないなと破綻していることに気付き、直ぐに口を紡ぐ。
不自然に、パソコンを電源ボタンで終了させるように無理矢理話題を切ってしまったため、カピュアも話しかけていいのか迷うような、微妙な沈黙が生まれる。
なにかこれ以上違和感の湧かない会話の繋ぎ方はないか、彼女に目をやると、
「待って何その草履かわいい! 」
黒い板に赤の鼻緒。それだけの単純な作りなのだが、黒一色だからこそ、彼女の白い肌を引き立てている。その足の先に存在する、彼女の性格のように丸く切られた爪は傷一つなく、美爪術もされていないが、煌めいて見える。
あまりにも音がしないので意識の外側にあったが、予想ではあるものの、晒まで巻いているのだ。和で統一するもの当然だ。ちゃんと足まで見ることいいね? って言いながら、世界は私のモノとか言ってるお嬢様の歌で注意されていたが、すっかり頭から抜けていた。
これが疲れやすくなっていた一因だろうか。
「カピュア、ちょっとここで待っててくれるか? 」
彼女は、せっかく二人で回っていたのに……。と決して口にはしないが、それでもそのことを暗に示す、切なそうな表情をする。
「大丈夫。すぐ戻ってくる。一曲歌ってる間に戻ってくるから」
そう言って俺は喧騒の中へと足を運んだ。途中、天使のように透き通る綺麗な歌声が風に運ばれてきたが、これは人魚の死への誘い……つまり、粉バナナと言い聞かせて目標を探す。先程の探索で大まかな位置は確認済み。
だが、まぁそれを活かせられればの話だが……。
カピュアが人魚だったらもう飛び込む自信がある。
……なんで人魚って人を襲うの? 魔物だから? 差別だ! 人種? 差別だー!
一生懸命気を逸らして、任務完遂に向けて足を早める。
思っていたよりは少し遠かったが、標的を捕捉して購入。足早に来た道を引き返す。何時ぞやの買い出しの時のように迷子にはならなかった。
ところで、神社が視界に映った辺りから一歩一歩が水の中にいるみたいに重くなっているのだが、何故だろうか。
目の鼻の先には彼女の待つ神社。全身でお祭りの熱気を浴びることも、ガヤガヤとした騒ぎにいることも本来あまり好まないはずだが、どうも足が前に進まない。
何故か分からないまま歩んで行くと、蜘蛛の糸のようにか細く、身体を通り抜けてゆく歌が聞こえてくる。この声を聞いていると心が洗われて……洗われるどころの話ではない。蒸留されているかと思えるほど、歌声自体が透き通っている。
癒されるぅ ……。
ずっと聞いていたい。音源に着けばこの歌はもう聞くことは出来ないだろう。
それでも、歌い手に一段階上の寂しさを与えないために急ぐしかない。
急ぎ足で神社に向かうと、コミケとはいかないが、かなりの人集りが出来ていた。年齢性別に偏りはないように見えるが、気持ち男性が多い?
そしてその人混みは壁のように、合流を阻む。
あぁ、ロミオ! あなたはどうしてロミオなの!?
ロミオとジュリエットごっこをしても状況が変わるわけでもなく、壁は崩壊も退きもしない。
街中……特に人混みを超えるためだけに魔法使うのっていいの? 前のランサーの時は決闘だったし、他は生活利便系だし。身体強化は危険だけど……。
戸惑っていると、脳内に某ヤンデレの言葉が流れる。
unknown 『愛に距離は関係ないと言いますものね。高度だって似たようなものでしょう』
つまり法律も愛の前では無意味、無価値、無駄ァ。
ということで俺も物理的な壁を超えることにする。
「(力をここに。願いは一つ。彼女への想いを届けるために。森羅万象を代償にしても、顔心共に哀しき景色にはさせぬ――)」
小声で詠唱開始。
「(愛の結晶をカタチにし、どんな困難をも乗り越える。彼女の想いに応えるために、お――)」
詠唱をしているうちに歌が止み、ここら一帯が破裂する。空気は振動し、熱狂が波になって俺を包む。
ここまでの音量を人が出せるのか。
突然の爆音に耳を塞ぎながら、慌てて詠唱を言い切りカピュアの元へと跳び寄る。
知りもしない男が不意に参戦したことで、見物人に沈黙が訪れる。しかし、その空白も一瞬のこと。直ぐにヒトは嫌悪感を共有したがる。
「えっ? アイツ誰? 」
「彼氏かなんかなのかな? 」
「え〜でもなんか暗そうだし、身勝手な場違いな奴じゃない? 」
もしも〜し、聞こえてますよ〜! 聞いていやがってますよ〜!
彼氏扱いされないとは思っていたが、常識知らずのファン扱いは流石に酷い。もっと二人の距離感的なものを感じ取ってはくれないものなのだろうか……。現実は非情なり。
ていうか、見ず知らずの天使が歌ってるからって、それを囲むように聞き入るのは常識的なんですかねぇ?
思いを込めて、挑発的に目をやるが、目が逢うと横を向いて何やら話す。視線を交えた人以外にも話し込んでいるのは女性が多いか。
その中でも勇敢か害悪か恐れ知らずか、数人の友達を引き連れて出てきた彼女は、
「アンタなんなの? 」
と俺に問いかける。
「いや、カピュア……この麗しい天使の彼氏だが? 」
それを聞くと話しかけてきた彼女は勝ち誇ったような表情になる。そして真っ直ぐカピュアの目を見て、
「せっかく顔もいいのに彼氏がこんなのなんてかわいそー」
憐れむ気持ちなど微塵もないだろうに。
「あぁ? 自分が劣ってるからって付属品の貶しか? どうせお前らは付属品でしか善し悪しを判断できない低能なんだろ? 」
カピュアの悪口の代償だ。正直煽りで抑えられた自分を褒め称えたい。
「イッセイがこんなのってどういう――」
「自分が劣ってるっていう自覚あるんだー。ならこんな陰キャが付き合ってないとバカにされなかったのにねー」
カピュアが抗議の声をあげるが、煽り合いになった俺たちにかき消される。
歌姫に魅了されていた人々も、面倒事は避けたい一心か、既に見当たらない。
「なら、今からお前の友達全員可哀想だな。こんなのと関わったせいでバカにされるなんてな」
「でたー、陰キャ特有の口だけ達者なやつー」
取り巻きがいるからここまで強気に出れるのか、はたまたどう見ても筋肉のない俺だと油断しているからか。どちらにせよ、
「俺の事をなんと言おうが関係ないが、カピュアに可哀想と言ったこと、莫迦にしたことを謝れ」
「はぁ? 思ったことも口に出したらダメなの? てか、謝んないとどうするつもり? 殴ったりするの? できないのに? そんなに大切なら暴力ででも止めてみなよ」
「いいんだな? 」
「できもしないのに脅すとかダサすぎ」
彼女の言葉を肯定と捉えて、詠唱。
「彼女の冷評一つここにあり。が、怒りのままに力を振るうは愚か者。我が身を案じて動かぬは臆病者。当然の事ながら、彼女にはどちらも釣り合わぬ。ここは一つ、判断の余地を与えよう。頭を冷やし、冷ややかになる時を。 『氷茨』」
先程までの熱気はどこへやら。夏とは思えない程に気温が下がる。呆気に取られている彼女は、地面から生えてきた氷の鞭に拘束される。
「え? は? 」
取り巻きすらも俺の事を舐めていたのか、目を丸くして固まっている。
「イッセ――」
「はぁ?! こんな暴力的な人と付き合ってるとか性格終わってるんじゃない?! ていうか、そんなに歌も上手くないし! ちょっとチヤホヤされただけで調子に乗んないでよ! 」
カピュアが何か言いたそうに声を荒げるが、またも女性の怒鳴りにかき消され、俺の耳には届かない。
しかしまぁ、全く、言っている事が成り立ってない。確認をとった上での拘束を暴力と捉え、散々聴き入っていたのに侮辱。調子に乗ったような行動などカピュアがいつしたと言うのだ。
「凍えて眠れ、『圧縮された絶対零度』」
詠唱は短い、しかしそれは微調整無しの全力ブッパを意味する。
半分にされた割り箸を持ったままの手から、見るだけでも冷たいと分かる球体が飛び出す。一切の迷いもなく氷弾は女に向かって加速して――
動きが鈍った。
それと同時にタタタタタタと、軽やかな足音が聞こえてくる。白い一陣の風は右手で下からボールを殴り上げる。拳と氷がぶつかったとき、ジャストガードのように心地よい音が響き渡る。
「あっぶないな〜。ボクが遅れてたらどうするつもりだったの〜? 」
上に打ち上がった魔法は、時間差で爆発する。砕け散った氷の塊は、細氷となって俺たちに降り注ぐ。
「いや、魔法使いじゃないの? 」
俺が真っ先に抱いた、率直な感想だった。
「しっかし、拘束して動けない相手の目の前で減速する魔法なんて、キミもかなり怖いね〜」
「いや、質問に答えろよ」
緊迫した雰囲気が、レイリのマイペースですっかり消え去る。俺も毒素を抜かれ、女に怒る気持ちもどこかに行ってしまった。
「人に向けて魔法を撃つことも、街中で攻撃に該当する魔法を使うことも、法律違反だよ〜。今回はボクがなんとか罪状を帳消しにしとくけど〜次はもうないからね〜? 」
女に絡みつく氷を拳で砕きながら、レイリは言う。
「あ〜ごめんね〜。新魔法の練習してたら誤爆しちゃったみたいで〜」
その言葉を聞く女性達は目は虚ろに、船を漕ぎ、微睡み始める。カピュアから教わっている魔力探知もまだまだだが、恐らくは闇魔法辺りで洗脳か記憶処理かだろう。
人に向けて魔法使うことが法律違反とは一体。
「じゃ〜ボクは全員連れて離れるから〜イチャつくならど〜ぞ」
バスガイドのように手を挙げて、時折振り向きながら移動する。レイリの見た目が幼いことも相まって小学校の集団登下校にも思える。
邪魔者も居なくなったところで、カピュアを愛でようと体を後ろに背けると、彼女は膨れっ面ををしていた。
「なんで攻撃したんですか! 」
見たことも無い、彼女の激情している姿に動揺を隠せない。
カピュアは、目に涙を浮かべ、俺の服の襟を掴んで胸に顔を押し当てる。
「魔法は……誰かを傷つけるためにあるんじゃないんですよ…………」
彼女の性格上、怒るのは向いていない。実際、今も涙を流して、心に訴えかけるように、小さく呟いている。
「私たち冒険者は魔物を倒すために魔法を使ってますが、それはあくまでも生活のためや、食料や武器の素材のためです……」
でも俺はこんなに血の気の多い性格じゃ……いや、言い訳か。
俺お得意の責任転嫁を考えて、やめた。
「でも、こんなふうにイライラしたのを誰かにぶつけて…………一方的に痛めつけるようなのは魔法じゃないんです……」
ギリギリと歯が音を立てる。
彼女はハッ、と感情的になったことを悔やんで自身を責める。
「ごめんなさい……イッセイを責めて……」
「カピュアは悪くない。俺が悪い。ごめん」
現代で武力を持った人間に、散々痛めつけられていた。そのことも忘れ、侮辱されたからと言ってストレスを発散。一番俺の嫌いなタイプじゃないか。
なんて言えばいいか思いつかない。
「本当にごめん」
ただ真摯に謝るがちゃんと伝わるだろうか。
「イッセイは私の悪口が言われたのが悔しかったんですよね……それなのに私……」
「いや、カピュアにとっての魔法が軽んじた俺が悪い」
「イッセイはもう謝らなくていいです……分かってくれたならもういいですから。でも私は……」
どちらが悪いと罵り合うでもなく、お互いに謝り合うという喧嘩直後には珍しい状態だが、俺たちらしい感じがする。
未だに悪いことをした。その気持ちは抜けきらないが、このまま謝り続けても埒が明かない。彼女のために買ってきた菓子を渡そうとして――
「あ……溶けてる……」
無駄な時間を過ごしすぎた。すっかり二つとも溶けてしまった。りんご飴の方は食べられないことは無いが、べったりしている。
私の出番と言わんばかりに顔を輝かせて、
「あ、ちょっと待っててください」
そう言うと徐に片手を俺当て、もう片方を二本の割り箸にかざす。するとわたあめはふんわりさを、りんご飴は硝子のような硬さを取り戻す。
「レイリさんには秘密にしておいてください。時魔法の巻き戻しはしないでよ〜って言われてますから」
唇に人差し指を当てて、黙っててね。とジェスチャー。とても可愛い。
「魔法って、物理法則無視できるんだ…」
この世界の物理法則が違っていたとしても、時が簡単に巻き戻せるなんて有り得るの?
……少し後悔は薄れてきたが、それでも指に刺さった棘のように心を傷つけている。
「カピュア、どっちがいい? 」
「ん〜、じゃありんご飴で」
注文通りに渡して、仲良く並んで座る。
そうそう、意味の無い知識だけど綿菓子って売り手の利益とかを考えても40円が妥当らしいね。けど、お祭りとかに出品してる場合は機械がかなり値が張って数百円になるんだったっけ?
そんなことを思いながら久しぶりに綿菓子を口にする。白みがかった雲は、口に入れると甘い香りを残して雪のように溶けてなくなってしまう。
隣からは軽やかな音が聞こえてくる。
「あっ、イッセイのわたあめ、一口貰ってもいいですか? 」
いつも出会いは突然に……とは違うが、衝撃的な出来事や特別なことは不意に起こる。当たり前だが。
俺は半ば脊髄反射で、
「え? あぁいいよ」
気付けば答えていた。
が、もう遅い。彼女は俺の持つ綿菓子にかぶりついていた。とは言っても、あむっ! という音が聞こえそうな程に可愛らしいものではあったが。
しかし問題はそこじゃぁない。彼女の食べた綿菓子。彼女が口をつけたところは水分を得て溶けて固まっている。その水分は……。そう! 彼女の唾液だ。
…………やばい、手の震えが……。
これはオタクあるあるだとは思うのだが、もはや尊さが振り切れた時、それは愛で崇める存在になり、彼女の存在に触れること自体が申し訳ないような気になって……。
何が言いたいのかと言うと、申し訳ない気分になってわたあめ食べられないよ…。
多分、普通の恋仲ならなんてことないんだよね。それに喩え関節キスを断るにしても女性だよね……。
ワケワカンナイヨー!
訳わかんない主治医にでも頼りたい気分だが、意を決し、意を決し……意を決して……。
無理だ。
もうここまでくるとなにかの病気だが、彼女の唾液を強く意識してしまう。そして、認識すれば気にしないようにしても気になる。気にならない方がおかしい。
葛藤の最中、彼女からの提案が来る。
「イッセイも一口食べますか? 」
悪魔の囁き……。これを受け入れれば少しずつ耐性ができ始め、いずれ直にでも……。
何を考えているんだ俺!
「いや、なんか、ほら、関節キスとか恥ずかしいし、なにより申し訳ない気分になるからいい」
結局は、圧倒的恋愛経験の無さが勝利した。
「だから、良かったらわたあめも半分ぐらいちぎって食べるか? 」
はい! という元気な声と共に、固まった側の半分を優しく千切り、手にする。
それを眺める彼女はどこか感慨深そうな笑顔だ。
「なにか感傷に浸っているのか? 随分と嬉しそうな微笑み方だったが」
「あ、いえ。そういえば家族以外でなにかを分け合って食べるのはイッセイが初めてだなって思ってただけです」
「いや、あの硬い硬いパンは? 」
「それも含めてイッセイだけです」
蒼の手料理も分けてはいるのだが、きっとひとつのものを二つに分けて食べることを指しているのだろう。
こうしてどう考えてもお砂糖よりも甘い時間を過ごした。
ここで終われば文句なしだった。
「蒼は一体何処に居るんだ」
そして今、勝手に居なくなった蒼を捜している。居ても居なくてもsweet timeが終わった後に面倒になる。どうにかならないだろうか。
「カピュア、どうしかして捜し出せるか? 」
「人数が減ってますけど、それでもまだ多いです。探知はかなり厳しいです」
「やっぱりなにか目印になるものとか決めておいた方が良かったよなぁ。もういっその事大空にまな板って文字でも書くか? 」
一途の希望に賭けて貶してみたが、謎の蒼レーダーが反応することはなく、風が通り抜けるのみ。
「人探し……人探し……あ」
蒼の好感度を考えなければ必ず見つかる方法を思いついた。
「カピュア、人に魔法で伝えるってできるか? できるとしたらイメージ的にどんな感じなんだ? 」
「出来ますよ。頭の中に急に文字が浮かんでくる感じです。やろうと思えばその人の声で再生することも出来ますけど」
「このお祭りの範囲内だけでも全員に同じ文を送ることはできるか? 」
「イッセイの魔力を借りれば出来ますよ。でもそんな探し方しても大丈夫ですか? 全員にアオイさんに伝えたい言葉が届くんですよ? 」
「大丈夫だ。これなら蒼だけ反応する」
もちろん個人情報保護の観点はよく守る。その上、好感度外視なら確定で見つかる。
俺はその文面をカピュアに伝え、送信してもらう。
そして俺たちは家に戻って待っていると、直ぐに蒼が帰ってきた。
「もっと他に方法なかったの!? 」
とお怒りの様子だったが。
ちなみに、俺が皆の頭に思い浮かばせた言葉は、
『調理器具、ウォールブルー、負けヒロイン。タピオカチャレンジカッコ笑い。敗北者。先に家に帰っておく』




