8♧話 数週間ぶりの帰宅
2週間以上遅れました。申し訳ございません。詳細はあとがきにて。
えっと、大丈夫でしょうか。私が勝手に出て行って、それで帰って来て……。
そんな不安を抱えながら歩いているうちに、とうとう家に着いてしまいます。不安でドキドキして、門の前をウロウロしていると感情があまり篭っていない……それでも優しい声が聞こえます。
「お帰りなさいませ、御姉様。お待ちしておりました。皆様も心配しております。どうぞ中へ」
黒いワンピースに白いエプロンをしたシキは下げていた頭を上げて、従者のように私を案内しようとします。
「私が……入ってもいいんですか? 」
「何を仰っているのですか。ゴットフリート家長女であるフェルト様が入らないで何方が入るのですか」
キツく叱るような言い方ですが、口元は笑っていて心から迎え入れていることを伝えてくれます。
大人しく従って家の中に歩いて行くと、シキは後を追うように少し離れてついてきます。
「御姉様、まずは御父様の所へ」
「えっと、行かなきゃ…ダメ……ですか? 」
少し嫌な想像をしてしまって、体が萎縮しまいます。それに伴って声も震えてしまいました。
「そんな甘い強請り方をしても駄目です。可愛いですが、しっかりと当主に認められてからそこに住まう。それが筋ってものです」
「そう……ですよね」
全面的に私が悪いので怖い自分をふるふる首を振って追い払います。覚悟を決めて書斎の扉を叩きます。
「入っていいよ」
とても優しい声に私は少しホッとします。
低い音で響くこの声はなんだかとても安心します。まるでイッセイの匂いみたいです。
言われた通りに扉を開けて真っ先に目に飛び込んできたのは本棚です。書斎の本棚に一つの歪みなく並べられた本は威厳さえ醸し出しています。
そういえば子供の頃、お父様の部屋に行くと、自分の顔より大きな本がたくさんあって、こっそり読んでも何を書いてるのか分からなくて、それを読んでいるお父様とこの部屋自体がかっこいいって思いました。
でも今のお父様はそんなイメージだけじゃなくて、実力もあってかっこいいです。
「お帰り、フェルト」
思っていたことと大きく違った言葉に私は目を丸くします。
「どうしたんだい? そんな驚いたような顔をして」
分からないと言った様子で、机に向かって座っているお父様は茶色の髪を振りながら尋ねてきます。
その隣には王宮次頭魔術師の証である、緑を基調とされて、縁と裏地に黒が使われた、ローブがポール状の洋服掛けに掛けられています。改めてお父様の凄さを実感します。
「え、だって、その……。
あぁん?てめぇのこのこ帰ってくるとはいい度胸だなぁ。あぁん?
とか言われると思ってました」
「はは、お父さんも悪いとはいえ、そんな風に思われていたのか」
怒られないかビクビクして言ったのですが、お父様は笑って聞いてくれます。
「それにしても、娘に敬語を使われるのは変な気分だな。お父さんが言うのもなんだけど、もっと気軽にしてもいいんだよ」
「えっ、でも……」
私が途端に顔を曇らせていた事でお父様は申し訳なさそうな、諦めた表情をします。私がこの家で受けた仕打ちを思い出していると考えたのでしょう。実際私は口調を話に出された時点で、嫌でもあの頃を思い出していました。
「……いや、あの、まぁ、フェルトの好きなように話せばいいんだよ。あの時は本当に済まなかった」
本来下がるのは王族を前にした時のみのはずなのに、深く、机にぶつかりそうな程深く、お父様は頭を下げます。
こんな時に言うべき言葉が見つからずに黙っていると、
「お父さんを許してくれとは言わない。ただ、あの頃は気にせずに幸せに生きてくれ」
机の模様を眺めたまま、切実に願われます。
「お父様ってば、大袈裟ですよ」
「大袈裟か……。フェルトがそう感じるならありがたいのだが、心に傷を負わせてしまったのなら、どんなことをしても黙って受けよう」
私がなにか酷いことを言うとでも思ってるんでしょうか。
「確かに酷いことをされました。でも、それは終わった話です。私の知ってるお父様は、威厳があって、魔法を使うのがとても上手で、優しいお父様です」
お父様は一成に似て、とても優しいです。そして、自分のことを低く見積もり過ぎです。
「謝るなら私の方です。勝手に家を抜け出したりして……」
私は感情に任せて、家を飛び出した自分の愚かな行動が頭に過ぎって顔向けできなくなります。つま先をじっと見詰めて喉から絞り出すように、大切な言葉を言います。
「……ごめんなさい」
「はぁ。前にアナスタシアに、直ぐに自分が悪いと思い込みすぎだと注意されたが、フェルトを見ていると自分のことがよく分かる」
身に染みて分かるといった様子で頭を揺らしてお父様は言います。
「困ったことがあれば、何でも言うんだよ」
「はい、失礼しました」
一礼をして、部屋から出ていきます。そこには両手をおへそ辺りにペタリと付けて待機しているシキが居ました。
「ちゃんとお話出来ましたか? 」
「なんだか、途中から謝り合いみたいになってましたけど……」
「しっかりと和解出来たのでしたら幸いです。では皆様がお待ちです。広間へ」
シキに言われるがまま、広間に行くと視界の大部分が白い肌に覆われます。
この柔らかい感触を押し当てられるこの感覚が久しぶりで懐かしいです。
「もうフェルト〜心配したのよ」
ルカは甘くお姉さんな声で私の名前を呼びます。
普段はもっと落ち着いて、私よりも年上に見えるんですが、私を相手にした時はこんな風にとても甘くなるんです。
私が抵抗しないでいると、もちもちしててすべすべなルカのほっぺたを私のほっぺたに押し当ててすりすりとされます。ほっぺすりすりされて私は、漸く家に帰ってきた実感が湧いてきます。
「あ〜、フェルトの髪切ったのね。とても似合ってるわ〜。それにこのほっぺた、普段通りもちもちしてて可愛い〜」
このまま家での生活に慣れようと思っていましたが、家に帰ってきた本題を思い出しました。
ルカから顔を遠ざけて、シキにお願いをします。
「あっ、シキ。着物って用意できますか? 」
「出来ますが、急を要するものでしょうか」
「はい、今日着物を着てお祭りをまわりたいんです」
「フェルトったら、私と一緒に回ってくれるのね。好きよ! 結婚しましょう! 」
「えっと、そうじゃなくて、イッセイと一緒にまわりたいな……って思ってて…」
勘違いしたルカに正しいことを伝えますが、イッセイのことを思うと自然と口角が上がって、微笑むような嬉しそうな顔になってしまいます。今回も上がってしまいました。その顔を見てルカは、
「イッセイって言うのね。その人は男かしら? 」
なんだか急に落ち着いた……冷たいような声に変わります。さっきまで明るかった髪のピンク色が、光の消えたみたいに暗くなる錯覚を覚えます。くっついていたもの、今は離れて少し距離があります。
「ルカ姉、その辺にしよけよ。フェル姉もいい歳なんだ。ちったァ色沙汰もあんだろ。仲良いっつのは悪いとは言わねぇが限度がねぇんだよ、ルカ姉は」
口調は乱暴ですが、それでも根は優しいセイカは歯止めが効かなくなりそうなルカを抑制します。
「セイカ? てっきりあの街に居るままだと思ってたんですが、いつ帰ってきたんですか? 」
「んぁ? 聞いてねぇのか? てこたァルカ姉は会えなかったってことか。あん時ルカ姉も一緒に行ってたんだ。んでフェルトが居そうっつって単独行動してたんで、会えなかったのか」
「……ルカ……あれだけ動き回ってたのに…。会えないんだ……」
笑いを堪えながらソラが言います。でも堪えきれてなくて、クククと笑っているのがバレバレです。
広間にはシキの言った通りで、妹が集まっています。耳をすまさなくてもこの声は私に届いてきます。
「ねぇー! 4時のおやつはー? もう10分も過ぎてるー! 」
「ちょっと! 私は持ってないって! まずその手で掴んで食べる癖治しなさいよ! 」
「爛腸之食。克己復礼! 」
「そんなに怒らないで。私まで怒りたくなっちゃうから。できるだけ嬉しい気持ちでいて。
……おやつ食べたくなってきた…。お腹空いた」
「ふぇぇ、喧嘩しちゃダメだよぉ」
「そんなのいいからおやつー! 」
「今日こそ永劫の時の中で間食する事を禁ずると神が言った日。神は飢餓に苦しむ我らを見て、憫笑しているのだ。ここで不作を耐乏しきれば、壺を抜け出せるというもの」
みんなの賑やかなこの雰囲気がしっくりときます。
「御姉様。着物の用意が出来ましたので、自室へお向かい下さい」
「ありがとうございます」
シキに従って、自分の部屋に向かいます。
「もうこれはフェルトについていかなきゃだわ! フェルトは私と結婚するもの。誰かに取られたりする訳にはいかないわ」
「ルカ姉はちったァ落ち着け。そもそも姉妹で結婚なんて出来ねぇんだよ。そんぐらい知ってんだろ。そもそも本当に好きならフェル姉の気持ちぐらい分かってやれよ! 」
「そんなもの私たちの恋には関係ないわ。愛さえあればなんだってできるのよ」
「てめぇのは一方的な愛じゃねぇか! 」
「フェルトのためなら火の中だって飛び込んでいくわ! 」
「会話を成り立たせろっての! なんでこんな時に限ってルシアが出かけてんだよ! 他に空間や闇使える奴はいねぇのか! 」
後ろからこんな声が聞こえていました。ルカの自信に溢れた言い方と、セイカのキツく怒鳴る言い方。セイカにはもっと怒らないように注意しないといけませんね。
そんなことを考えながら部屋に入ると、自分の部屋なのに誰か別の人のような感覚を覚えてしまいます。
淡い桃色の世界が一面に広がり、お気に入りのぬいぐるみもベッドの枕元にきちんと並べられています。私はここまで綺麗に置いていなかったので、シキが直してくれたのだと思います。
「ここにイッセイを呼べたらいいなぁ……」
「御姉様は一人の女性としての自覚をお持ちになられて下さい」
急に言われて一瞬、お餅になられてに聞こえましたが、多分お持ちになられてだと思います。
なんで急にそんなことを言われたのかなと考えると、心の声が思わず漏れていたみたいです。
「イッセイ…というのがどのような人物かは把握しておりませんが、少なくとも屋敷に呼ぶに値する者だとは思えません」
「なら、実際に会ってみてください。悪い人じゃないです……寧ろ…かっこいいです」
イッセイの顔を思い出して、つい顔が熱くなってしまいました。
「御姉様がデレるだなんて、余程の色男か、話術に長けている者でしょうか……。何方にしても判断するには好都合ではあります。従者としてその方に仕えてみることにします」
「そうしてください」
これできっとイッセイの良さが分かるはずです。
「では、御姉様。一度服を全てこちらへ」
シキはそう言って、籠を私の横に置きます。
えっ?
「全部って全部ですか? 着物は下着を履かないんですか? 」
「下着代わりの布はあります。ですから、全てを」
窓は閉まった状態で、カーテンもかかってるので外から見られるということはないのですが、お風呂でもないのに何も来ていない姿を見せるというのは、なんだか恥ずかしく感じます。シキが姉妹で女性だとしても、あまり見られたくないと思ってしまいます。
躊躇っていると、先程までとは少しトーンを上げた声で、
「姉妹なんだから気にしなくてもいいじゃない〜」
と宥めてきます。きっと、ルカの真似です。
「恥ずかしいのは恥ずかしいんです」
「承知しました。では、肌襦袢と裾除けを着られましたら、お呼びください」
シキは扉に向かって歩いていきます。だけど、数歩歩くと直ぐに立ち止まりました。どうしたのかな、と戸惑っていると大きく息を吸い込む音が聞こえて、覚悟を決めたような、そんな真面目で少し冷たい声が聞こえます。
「それと、私たちの生まれが気に入らなければ、そうおっしゃって下さい。私たちはいつでも家を出る支度は心も荷物も済んでいますので」
「生まれが気に入らないって、なんでそう思うんですか? 私はみんなが生まれて、仲良くできて、楽しいですよ? 」
「御姉様は覚えていらっしゃらないのですから、あまり期待させるような言い方はお控えください。お忘れの方が御姉様にとって幸福ですが、そのことを悔やんでらっしゃる方も居ますから。
……まるで分かっているかのようにお話しにならないでください」
言葉は刃物っていうのはこういうことを言うんでしょうか。威圧しながら言われた言葉はトゲトゲしてて、聞いていると心がチクチクします。特に最後の一文は声がだんだん大きくなっていました。あまりの気迫に後退りしてしまうほどです。
そう言い残すと、シキは音の立てないように、それでもスタスタと何かに急いでいるように出て行ってしまいます。
私が忘れてるって何のことでしょうか。でも、そんな記憶もないですし、それに生まれが気に入らないって生まれて来なければよかったってことですよね。何かあったんでしょうか……。
シキに聞いてみましょう。
モヤモヤが残ったままですが、着替えようと服の裾を掴んだ時でした。
「御姉様、御姉様に当たるような真似をしてしまい、申し訳ありません。無礼をお許しください」
シキの律儀に謝る声が耳に入りました。
「そんなことを言って、また酷いことを言うつもりです。もう許しません」
「そう言われても仕方の無いことを私はしでかしてしまいました。御姉様のお望みとあらば、家を出ることも頭に入れております」
扉越しでも分かるぐらい、
私はイタズラを仕掛けた子供みたいに口元が緩んでニヤニヤしてしまいます。
「冗談ですよ。最近覚えたんです。明らかな嘘を言って和ませたらいいんですね」
「……今回の場合は和ませられていませんが、冗談を言っている御姉様も可愛いので良しとしましょう」
「えっ? 和ませれてなかったですか? 」
和ませられなかったと言われて、傷つけてしまったのかと不安な気持ちになります。
「御姉様程のの美貌があれば自然と周囲に癒しを振り撒けています。御姉様は無駄に変なことを考えず、自然体でいてください」
「えっと、わかりました? 」
なんでか分かりませんが、自然体でいてとお願いされました。
首を傾げながらも、これからイッセイとお祭りを回ることにワクワクしながら、着物に着替えました。
一章が終わったという達成感、ソシャゲの周回(骨集め、夏イベ、最近ハマったウマ)をしておりました。今度も不定期に起こる可能性があります。申し訳ございません。反省はしていますが、気を付けはしません。投稿が遅れた時には、
「あぁ、またか」
とでも思っていてください。




