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この世の朝は未だ遠く 〜Zwischen Traum und Erwachen〜  作者: レンリ
一章 三千大異世界

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七十六話 キャンプ

8000文字て……。

 ジョウカさんは屋根に載せておいた厚い布を降ろし、トンネル状の空間に蓋をする。


「お楽しんでくれると喜ばしいですな」


「いや、何をどう楽しめと」


 戻ってきた俺たちを露ほども気にしていない様子で寝床の準備を手伝ってくれるのは優しさか。それとも単にからかいたいのか。興味がないのか。


 幸い、布団は二つ用意されているから寝られないことはないのだが……。


 そもそも元あった荷物はどこ行ったの?


 誰に向けたでもない問は自身の記憶が答えを教えてくれた。


 あー、なんか、荷物を外に運び出してたなー。それも全部。それをツノ鹿の水壁でこの空間ごと覆ってたなー。


 たかが密室。何も起こるわけが無い。しかし、近い。お互いに運良く(わるく)寝返りを打った場合は顔に息がぶつかる距離まで接近することになる。

 今しがたくっついていた人の思考とは思えないが、いざ隣合って眠るとなるとどうしても意識がそちらに向いてしまう。


「えっと、テントの空きはないみたいなので仕方ありませんね。

 イッセイ、どっちを使いたいですか? 」


「ん〜。左で」


 俺が同じ空間にいる時点で今更感を否めないのだが、一応水の壁に近い左を選択する。

 それを聞いたカピュアは右の毛布を捲り、ふわっとしたオムライスのたまごのように、そのまま自身に載せる。

 その行動に心の中で静かに胸を撫で下ろす。


 大丈夫。何も起きない。カピュアだもん。こんな思考回路をしてるのが間違い間違い。

 普通の考え方をしよう。うん。


 ……? 草原に寝そべったけど大丈夫なのかな? ちぎれた葉とかついてないのかな?


 後ろめたさを感じるが、その考えは少し意識を逸らすことに成功する。


 ジョウカさん。ごめん。


 大丈夫。天使な寝顔が月額俺の自由(さんびゃくえん)で見放題なだけだから!


「どうかしたんですか? 」


 いつまでも突っ立ってる俺に邪気を一切含まない瞳で問いかけてくる。


「もしかして――」


「いや、全然そんなことないから大丈夫だ」


 私と一緒が嫌なんですか? という質問が()えた。そんなカピュアに心配させる未来を回避するために聞かれるよりも先に潰しておく。

 カピュアに倣い、毛布の下に潜り込む。これがカレーライスの白米の気分なのかな。なんて場違いなことを考えつつ、心臓に追加の重労働を依頼する。


「立てったまま眠ろうとしてるんじゃないんですね」


 突然過ぎる突飛な発想に、思わず軽く吹き出して笑ってしまった。


 確かになんか小学生低学年の頃に、椅子に座って背(もた)れに凭れたまま寝てみたいとか、壁を支えにして寝てみたいとか思ったことあるけど!

 結果的に眠れなくて大人しく布団で寝た記憶があるんだよなぁ。


「えっ? なんで笑ってるんですか? 」


「いや、ちょっとな」


「何があったんですか? そんなに面白いことですか? 」


 語尾は毎回上がり、頭にはてなマークを浮かべ、小首を傾げて、後ろから肩を数センチだけ揺すっている。

 彼女からしたら大真面目に考えただけなのかもしれないが、予想外な方向性の想像だ。堪えることが出来るわけない。

 喩えるならば、ネコ耳をしていると思って推しキャラを見に行ったらメイド服にネコ耳とシッポまでついていたようなもの。これを発狂せずに耐えきれる者は恐らくいないだろう。

 思いつくにはつくが、まさか起きるはずがないと無意識のうちに除外していた選択肢。


「まさか今ここであんなに昔のことを思い出すとはな」


「なにを思い出したんですか? 」


「子供の頃の記憶をちょっとな」


 カピュアにしては珍しく、その事について言及せず、この話題は幕を閉じる。


 しばらくの静寂が訪れる。


 そろそろ寝たかなと思い、寝返りを打って一度カピュアの方を向く。そして薄目を開けて確認してみる。


 なんか、めっちゃ、ガン見、して、きてるん、だけど!


 布越し……それもかなり厚めの…月明かりしか光源がないのにここまで明確に分かるのは何故だろう。


「カピュア、そんなに見つめてどうかしたのか? 」


 コソコソと確認していた事を忘れ、質問する。


「何だかイッセイを見てると時々背中が(くすぐ)ったくなるんですけど、なんでか分かりますか? 」


 なにその症状。


「なにかがきっかけで暗示にでもかかったのか? それとも弱い呪いか……。魔法とかではないよな? 」


「呪いは分かりませんが、魔法ではないです。少しでも魔力が歪めば分かりますから」


 今回はカピュアの一大事かもしれない出来事だ。今までに読んだファンタジー小説の知識を全て引っ張り出す……それこそ全てを 『再生』させるつもりで。


 ……再生? 人形師が得意な系統があるじゃん。


「それはルーン魔術でもか? 」


「はい。ルーン魔術と言っても発動する手順が違うだけで結果は同じようなものなんです」


 傷んださんでもダメか。あ、なら曲がれ〜さんなら。


「それならそこに以前傷を付けられたとかはあるか? スキルによる影響や古傷が開いてる可能性もあるしな」


「背中を怪我したこともないですし、スキルなら分かるはずなんです。スキルは実際にできることを簡単にできるようにしたものですから。少なくともスキルでの呪いとかは魔法に近いので分かるはずなんです」


 痛みが残留していることもなしと。


「う〜ん、分からないな。少し視点を変えてみるか

 カピュア、狼男だったりするか? 」


 少し煮詰まってきた。こういうのは考えれば考えるほど仮定を事実として捉えてしまう。要は思い込みをしてしまうんだ。だから一定の間隔で一度リセットしなければ引き返せない所まで嵌ってしまう。これこそが思考の沼だ。連想ゲームのようになんとか辿り着くことができることもあるが、それは稀な事だ。

 喩えるならばお題が 『りんご』で与えられた条件が 『カレー』だ。カレーにりんごが入っているから……なんて理由で辿り着く者はそれこそバーモンドのパッケージでも見ている者ぐらいだろう。


「え? 私は女の子ですよ? 」


「そうだけどそうじゃない」


「えっ? 私女の子だけど女の子じゃないんですか? どういうことですか? 」


「あー、簡単に言えば種族的な問題じゃないかって話だ。狼男とは言わないが、妖怪だったり、分身する系の亜人だったり、……まぁなにか他の種族の血が混じってないかって話だな。そのきっかけが俺っていうのじゃないのか? 」


 話の長い説明キャラさんや曲がれ曲がれさんの世界の言い方をするならば血に魔が混じっていないかってことだ。


「どうなんでしょう。私には分かんないですけど、少なくとも特定の誰かがきっかけになにかが起きる種族なんて聞いた事ありませんよ。特に背中なんて」


「そうだよなぁ。事件性もなし、種族もなし……。それが偶発的なものとかではないのか? この世界には体のどこかがくすぐったくなる病気があったりしないか? 」


「そんな病気は聞いたことありませんね。もしかすると私が初めての患者さんなのかも知れませんけど」


 全ての知識が尽きた。いや、まだあるのかもしれないが少なくとも今現在で思いつくのはこのぐらいだ。


「ならもう直感とかか? 」


「でもそれってイッセイとなんの関係があるんですか? 」


 思考に熱中するあまり、前提条件を入れずに考えてしまったいた。


「もう恋の病ってことにしないか? 」


「恋って病気なんですか?! 」


「まぁそう例えられることがあるって事だな。実際胸がギューってなって苦しく思う人もいるみたいだしな」


「回復魔法で治るんでしょうか? 」


 心から心配している様子だ。恐らく自分の身に起きないか危惧しているのだろう。いや、カピュアの事だ。もしかすると俺の身を案じてくれている可能性も……。


 でも大丈夫。カピュアへの想いは変じゃなく……恋だ! 間違えた。恋じゃなく愛だ。


 安定の深夜テンションで心の中で可笑しなことほざいたいることは一度無視する。


「精神系の攻撃だから効かないんじゃないのか?

 ダメだ。今日はちょっともうなにも思いつかない。また明日にでも蒼も入れて話し合おう」


「それもそうですね。今日はもう寝ましょう。おやすみなさい」


 やばい。カピュアのおやすみなさいがとてもかわいい。普段って案外、こんなにも鮮明に聞くことってないからなんか、とてつもなく初心な感じがして……。


「あぁおやすみ」


 こうは言ったが、カピュアの身体が変なことになっていないか心配な俺は、眠らずに……というか眠れずに、カピュアが隣でいるという事実を意識しないために、なにが起こったのかを考察していた。


 まず原因が俺にあるのかどうか。あるとすればどのような力が作用しているのか。また、その刺激の誘因が俺にあるとして、誘因が俺になった発端は他にいるのか。

 原因が俺にあるとするのなら、それは無意識下の出来事なのか単に俺が気付いていないだけなのか。俺ができてカピュアも気付けないようなものはなんなのか。

 カピュア自身のスキルの代償といった線も捨てきれないが、それならば以前から魔力を吸っていた人には反応がないというのもおかしい。

 そもそもの始まりが二人にないとすれば誰が引き金を引いたのか。

 俺と出会ってからカピュアに関わった人物は俺の知る限り、 【イッセイ】 【蒼】 【セイカ】 【ソラ】 【スメイト】 【神成】 【ランサー】

 ヒト以外も含めるのなら、 【大猿】や 【なろう系主人公のようなイヌ】辺りだろう。


 もしかすると背まで貫通したトラウマが無自覚のまま呼び起こされているのかもしれない。


 何故だろう。とても行き場のない殺意が湧いてきた。


 そんな殺意をカピュアで中和するために閉じていた開くと、そこにはスゥスゥと小さくかわいい寝息と立てて眠るカピュアがいた。

 毛布を抱き枕のようにギュッと大切そうに抱いている。その身体は丸まっており、ネコの睡眠時を彷彿とさせる。


 ん? なんで背中を怪我したことないって言ったのかな。いや、貫通してたっけ? 記憶があやふやなんだけど。


 とりあえずスメイト、一回人生終わろうか。


 アニマルセラピーに近しい快楽を得てストレス軽減されると同時に、せっかく気を逸らしたのが無駄になってしまった。


 カピュアかわいいなぁ。そしてこんな美少女がいる状態で寝られるわけないなぁ。

 もう耐久しようかな。そのうち寝落ち出来ると思うし。


 隣で寝ている美少女の安らかな顔を見つめてニヤけるとかいうもう少し歳を重ね、もう少し太っていたならば……いや、今でも十分に傍から見れば気色悪いやつになるであろう行為をする。


「……むぅ…ッセイ…」


 やばいやばいやばいやばいやばい。なんか、いつも見慣れてると思ってる顔でも寝言で名前を呼ばれると、無防備な表情と相まって反則的なかわいさが!


 ふと急に数時間前の出来事が脳裏にチラつく。


 抱きついている中、頬を染めたまま上目遣いで優しく

「……イッセイ」

 と彼女が呟く。


 あれ? こんなのあった?


 俺が疑問に思っている間にも妄想(えいぞう)は止まらない。


「……イッセイ、今は私だけを見てください…」

 自分に自信がないのか、少し口元が不安げに歪んでいる。それをはにかみ笑いで上書きして可愛くあろうとしている努力が見える。

「…………」

 俺はなんと言えばいいのか分からず、そんな彼女への返事をしあぐねる。

「…今だけでいいです。今だけは私のことだけを考えてください」

 瞳は潤んで、飾った笑みも崩れて、切実に訴えかけている。

「……ぁ…ッ。……ぅ…ぁ……」

 言葉がかすれて上手く出ない。代わりにこくりと頷いてやると、頬が水で濡れてしまう。

「ありがとうございます」

 幸福で出てきた涙を放置し、今までのことが嘘のようにパッと明るい笑顔を浮かべる。

 その笑みは、悲しみを連想させる涙と嬉しいと思わせる笑顔の合わさった表情はとても歪に思えて、それでも――。


 なにこの天使。

 涙顔と笑顔の合わせ技はズルい。単純に可愛いのと、涙笑みがなかなか見れる表情じゃなくて色褪せてないっていうのが更に引き立ててて (てててて)、もう説明のしようがないほどかわいい。


 気分と胸の高鳴りが最高潮に達し、眠気がとっとこ逃げ出す。

 話し相手にカピュアを選ぼうとした時には既に夢の世界にお散歩しに行っているので寝言と会話などいう危険な行為を行わざるを得ない。


 どっちでもいいから帰ってきて!


 出来ればカピュアの健康や美肌の為に睡魔を召喚したいなと思うが、ディメラなんとかスメイトとかいう言いにくい発音の名前をした奴のせいで闇魔法が使えなくなったのだった。


 この世界にモルペウスとかっているのかな。


 無関係なことを考えても今度の気持ちの昂りは治まりそうにない。先程のとてつもなく壊れてしまいそうで、悲しそうで、それでもかわいいカピュアを幻影のせい……お陰だ。


 仕方ない。羊でも数える? あ、でもアレってsleepとsheepの発音が似てるから自己暗示みたいになって眠れるんだっけ?


 ……一つ眠る、二つ眠る、三つ眠る、四つ眠る、五つ眠る…。


 これで眠れる気がしないんだけど? ドイツ語とかなら効果あるかな?

 ドイツ語とかは例の本編に比べるとほのぼのし過ぎている魔法少女のアニメの主人公の出身国だったり、詠唱が時々ドイツ語だったりするから少し勉強したんだよね。愚ー愚ル先生使って。

 アニメなら覚えられる。英語は分からない。


 ein Schaaf……いや、ドイツの場合Schäfchen zählenだったってネットに書いてた気が……。


 結論、分かんない。




 その後もひたすらにエクスプロージョンやブレードワークスの詠唱を違う種類も含めて……もちろん剣製の方は英語の方もしたのだが、なかなか寝付くことが出来ず、

 そういえば日本版の英語の詠唱の発音が日本人がかっこよく聞こえるように言ってるのが分かって滑稽とか言われてたなー。…第一言語じゃないんだよ。そのぐらい多めに見てよ!

 って思った記憶が甦ったりする合間にも時は流れる。


 気付けば布の隙間から光が漏れて出てくる。いや、閉め切った空間だから内側となるのはこちら側だろう。ならば、光が漏れ入ってくるが正しいのか。


 ん? 光?

 待って? もう日の出? 夏だから、日本と同じならもう四時過ぎてるの? 何があった?


 しかしまぁ明るくもなれば早起きしたとも言い張れるのに加えて少しは眩しくて目も覚めるだろうと思い、幕を捲る。

 太陽光に目を攻撃され、視界がぼんやりとしながらもカピュアと並べて置いた靴を履いて首を鳴らす。


 少しは太陽光もジャムってくれないの?


 太陽の理不尽さに太陽の創成者のことを少し恨みながら (理不尽)身体を伸ばしてストレッチ。折角時間もあることだから以前覚えたラジオ体操第三も踊る。


 いちにっさんしっ、ごーろくしちはち。


 身体を大の字にして大きく上に跳ぶ運動をしていると、ガタッと強くぶつかる音がする。音源はあまり離れていない。どうやら俺の寝てい……寝ていた?荷台で音がしたようだ。

 なにやら忙しなく鳴る足音。入口のうち片方が揺れ、緑色をした(つや)やかな物体が地面を見つめる。何かに気づいたのか更に慌てた様子で、ぎこちなくあちこちに視線を向けている。焦っている要因がなんとなく分かる俺は、宥めようと歩み寄る。

 地面を踏む音で、ビクッ!と完全に警戒されている動きでこちらを向くが、姿を見ると直ぐにホッと息をつく。


「なんだかイッセイがいなくなったような不安な感じがして起きてみると、実際に寝てなかったから心配したんですよ」


「平然と俺の直感(おかぶ)を奪っているところに凄さを感じる」


 彼女へのツッコミが板についてきたことを実感しつつも、本当に彼女へツッコミができるようになって良いのだろうかといった疑問を持つ。


「イッセイの株なんて取ってませんよ? なにかそういう夢でもみたんですか? 」


 一見皮肉にもとれる発言だが、カピュアに限ってそんなことは有り得ない。起こりうるはずがない。そう信じたい。


「それより、今って何時ぐらいですか? 」


「四時半から五時の間ぐらいだとは思うが」


「……これってとんでもなく早起きしちゃったってことですよね。皆さんが起きるまで暇じゃないですか? 」


「ジョウカさん辺りは結構早く起きてきそうな雰囲気だが、少なくとも蒼はあと3時間は起きないと思う」


 寝る子は育つって言うのにどことは言わないけど育ってないよねあの子。


 夜中寝なかっただけあって普段からは考えられないほどテンションが高く、頭が軽くぼんやりしているというお酒でも飲んだのかというような状況に陥っている。そのせいで大して面白くもないネタを永遠と出し続ける不良品と化している。


「空が綺麗だな」


「えっ? 急にソラの話ですか? 」


「そうだな。青い空を見てるとちょっと気分が晴れやかになってくる」


「青いソラ……? 体調が悪いんですか? どこにいるんですか? 」


 というすれ違いや


「好きな食べ物ってなにかあるか? 」


「食べ物……ならイッセイって言えませんね…。ナッツやサンドイッチです」


 好物まだも可愛いの?


 と愛でているうちにジョウカさん、蒼の順で起きて…ジョウカさんと蒼の間は2時間は空いていた…馬車を出発させた。


 そして今は朝食のパンを齧っているところだ。


 もっきゅもっきゅ。


 一口噛み締めるごと、とまではいかないが周期的にじんわりとした頭痛がする。上手く喩えると強くぶつけた後の持続した痛みに似ているか。


 残りの一塊を胃に落としたとき、そんな俺のいつもと違うことを見抜いたのか、


「イッセイ、なんだかいつもより元気がなかったりしませんか? よく眠れませんでした? 」


 あまりにも核心をついた発言に思わず身体を少し仰け反らせる。

 カピュアが気付いているかも知れないだなんて考えていなかった。いや、考えられなかった。頭がぼーっとしている。一応働かないことは無いが、集中しないと直ぐに頭が楽をして思考が止まる。


「いや少し睡眠が足りてないだけだ。気にするな」


「睡眠が足りてないって寝られなかったんですか? 」


「ドキドキして寝られなかっただけだ。健康に害があるほどじゃないよ」


 そう言った途端に視界が黒く狭まり、こめかみにズキンと局部に集まった痛みが生まれる。

 隠し通そうとしても、既に顔を(しか)めて痛む部分を押さえてしまっている。


「いや、それは元気って言えないから! 」


 時すでにお寿司。


「蒼、大声は頭に響く。抑えてくれ」


 この時初めて己の貧弱な身体を忌まわしいと思った。


「やっぱり体調が悪いんじゃないですか? 」


「いや単純に寝不足なだけだ。少し寝れば戻る。嘘じゃない」


 その言葉を聞いてカピュアは佇まいを正し、急に正座をする。そして軽くトン…トン…。と太ももを叩く。


 俺は目をパチパチさせて一生懸命考える。


「……太もも寝かしつけてるのか? 」


「イッセイは眠れなかったんですよね。なら膝枕ならよく寝られるかなと思ったんです」


「いや枕程度なら取り出せばいいし、俺のスキルでも交換できる。わざわざカピュアが膝枕する必要なんてないと思うんだが」


 ネットに赤いミニスカの膝枕されている気分になる枕があったことを思い出し、遠慮する。


 ……太ももの感覚を再現したとか書いてあったけど検証のために誰かが犠牲になったの?


 そもそも、何故日本には膝枕などといった可笑しな物品が存在・製造しているのか……。


 話を戻すと、善意を断るのは逆に失礼になるという。彼女はムッとした顔になり、少し不機嫌そうに頬を膨らませる。


「それだと魔力がもったいないじゃないですか。それに、イッセイになにか貢献したいんです。膝枕したいんです」


 カピュアに頭を動かされ、抵抗する間も与えられずに膝枕される。

 柔らかくて、温かくて、まるで全身包まれているような安らぎを感じる。


「カピュア凄くドキドキするんだが……」


 このまましばらく楽しむのもいいなとは思うが、眠ってしまうとしばらくカピュアは正座したままで居なければならない。それはどう考えても……どう言い方を良くしたとしてもこれは迷惑をかける。身体にも負担をかける。

 つまりは眠ることだけは絶対に避けなければならない。


「安らかに眠ってください 『睡眠導入(スリープ)』」


「それ…死ぬと…きの……せり…ふ……」


 俺の願いとは裏腹に全身から力が抜けて、意識は底なし沼のような闇に、ゆっくりと沈んでいった。

一応ここで一章終了となります。ここまで微妙な区切り方になるのにも物語的な理由がありますので……というか理由を作ってますので一生懸命考察してみてください。

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