七十四話 夜は焼肉っしょー
野宿をすることになったが、特段しなければいけないことも無く、永遠と焚き火の番をしていた。
あー。ゆらゆらと揺れる火は、時折思い出したかのようにパチパチと音を立てる。
あー、癒される。
カピュアの声と似た癒し効果を実感しながら……?
カピュアの声って1/fゆらぎだったの?
道理でとても癒されるわけだよ。
一人了得しているなか、カピュアは向かい合ったところで食材を切っている。
それはジョウカさんが空気のない次元に変化させて保管していたもので、新鮮らしい……。
スキル便利だなおい。
兎に角、手を切るなどをする危険性があるため、俺はカピュアに話しかけず気を散らさないように炎越しで一生懸命なカピュアの姿を見て癒されているという訳だ。
ホントに一生見ていられる。
蒼はツノあり鹿と協力して焚き火に使う薪を集めに行っている。
もう既にキャンプファイヤーでもするのかという量の枝が集まっているが、それでも集め続ける二人 (俺は物や動物もよく何人と数えたり、「ない」を 「いない」と言ったりしている)は努力家なのか、⑨なのか、それとも単純に提示された基準が多いだけなのか。
何往復目? 軽く20は超えてる? これってあの遠くの森から取ってきてるんだよね? 目測で200mはあると思うんだけど……。
蒼の化け物じみた体力に考えることを諦めながら、火を眺め続ける。
肝心のジョウカさんは……流石は手馴れている。荷台の布から、予め用意していたテントを取り出し、広げていく。ある程度組み終えたものは、荷台に開けてある穴に結んだ後に杭を打ち付け、しっかりと固定する。並んだテントは奥に見えるものを合わせて二つ。
あれぇ? ふたつたりないよぉ? おおきさてきにひとりひとつだとおもうけどなぁ?
あまりにも奇怪な出来事に多少幼児退行しながらも、火の番は続ける。
「そろそろいいですかな? 」
ジョウカさんが食材を切り終えるのを見計らって声をかけてくる。
「え、あ、はい。今切り終わりました。これどうするんですか? 」
カピュアは食材によって様々な切り方で分けたものを、まな板 (蒼じゃないよ)に載せたまま持ち上げて見せる。
「少し野蛮かも知れませんが、鉄板焼きにしようと思いますが、よろしいですかな? 」
「いや、今更聞かれてももう変更のしようがないだろ。野菜に回復魔法でもかけたら元に戻るのか? 」
ツッコミと軽口を呆れを込めて言う。
「え? 切らなかった方が良かったですか? 」
カピュアは慌てて野菜に手をかざす。野菜は淡い光を纏い始める。
待って待って。野菜に回復魔法かけても多分意味ないから。落ち着いて。
「カピュア、一回落ち着こう、な? 」
カピュアを撫でて一度落ち着けようと手を伸ばす。
熱が腕を襲い、痛みが発生する。下から炎に炙られたのだ。
それでもカピュアを落ち着けようとカピュアに向かって――
「えっ? イッセイ大丈夫ですか? 」
「いや、正直言って熱い。というか、もう痛みを耐えてるのが奇跡な位熱い」
火傷しそうと思った時から自身の火魔法で少し和らげつつ、回復魔法をかけてはいるが痛みが消えるわけではない。
火魔法で多少マシにはなっているが、お風呂で沸かしすぎたときのお湯以上に熱い。
「ちょっ、ちょっと待ってください! 」
「いやでもカピュアを落ち着かせるためなら……」
「いや、二人とも落ち着くのですな。
野菜を癒すのも、自身の腕で骨付き肉を作るのもやめては如何ですかな? 」
二人の酷い有様を見かねたジョウカさんがなんとか横槍を入れる。その言葉で腕と頭を冷やす。
火にかけていた腕を移動させ、内側から氷魔法で冷却冷却。
ついでに物理的に頭も冷やしておこう。
かき氷を一気に食べた時のようなキーンとした頭痛に顔を顰める。
かき氷を一気に食べた時ってこんな感じなのかな?
圧倒的場違いなことを考えつつも治療を続ける。
……。
……なんで頭を物理的に冷やしたの?
平然と意図不明行動を取っていた自分に困惑する。
それと同時に、この行為がどれほどカピュアに心配をかけてしまったのかを理解してしまう。
……待って? ホントになんで頭冷やしたの? そしてなんで燎火に手を突っ込んだの?
「カピュア悪い。心配掛けた。この出来事への贖罪は誠心誠意、真心を込めて執り行わせて貰う」
「えっ? どうしたんですか急に」
俺本人には自覚がないが、この台詞は漸く落ち着き始めたカピュアを更に戸惑いに追い込むことになってしまった。
当惑するカピュアを余所にジョウカさんは篝火に鉄板を設置する。
全くもってカピュアを困らせている自覚がない俺もそれを手伝い、設える。
今なお固まっているカピュアは先程までとは180度違った空気感に尚更茫然自失とする。
「カピュア、どうかしたのか? 」
未だに気付いていない俺は微動だにしないカピュアを気にかけて声をかける。
それでもカブは動きません。
「…カ、カピュア? 」
待って? 大丈夫? なに? 疲れ? 疲労のせいでこうなったの? え?
見当違いな心配を始める俺は、憂わしげな震える声でもう一度名前を呼ぶ。
「…ぇ、あ……はい。なんですか? 」
やっと現状を理解したカピュアは大きく頭を一つ縦に振って、いつも通りのニコニコ顔を見せてくれる。
「いや、全く動いていなかったがどうかしたのか? 疲れてるなら少し休んでおくか? 」
「いえいえ、全然疲れてなんていません。むしろイッセイの近くに居られてとても元気です」
ブンブンとかぶりを振って否定する。
最後に強く握った両手を頭の横まで持ってきて腕に力を込める。小さな力こぶを作って神気溢れる様子を表そうとしている。
柔らかい筋肉を揉み揉みしたい欲望に駆られそうになるが、フリーズしていた姿が脳裏に過ったこと、右腕が痛んだことでなんとか踏み止まる。
「そこで見つめ合って邪魔をするぐらいなら離れて頂けますかな? 」
ジョウカさんに水を差されるが、不思議とその声には苛立ちや憎しみが篭っていない。単に呆れているだけなのか、感情を隠しきっているのか。
「あ、ごめんなさい。手伝います」
「いやいや、別にいいのですぞ? おふたりが遠くの森で、人目を気にせず密会のように愛し合っても」
人をからかう側という優位に立ったジョウカさんは目を細め、ニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「いやそもそも森という時点で他者がいる可能性が無きにしも非ずだから、逢い引きのような雰囲気にするには閉め切った空間か、それこそ異次元空間のような必ずしも人がいないと言い切れる場所がないと俺は恥ずかしい」
「それもそうですね。私の異空間に移動しますか? 」
二人共が天然気味な俺達には一切通じず、挙句の果てには実際に二人きりになろうとする始末だ。
「あっ、でもそれだと一人で準備をすることになって大変ですよね。イッセイ、ここは食べ終わってからにしましょう。それだと時間を気にする必要もありませんよ」
「それもそうだな」
「いや…その――」
ここでジョウカさんが控えめに、手で制止するような仕草をして止めに入ろうとするが、流石は俺たち。一向に辞める気配がない。それどころか、
「なんだ? 今カピュアと今日の計画立ててるから邪魔しないで貰いたいんだが? 」
と少しばかり煩わしそうに追い払う。
「…おちょくっただけで、そんな提案をしたつもりじゃなくて…普通にしてもらいたいのですな」
活気溢れる気配は何処へやら。急にたどたどしく、弱々しいとまでは行かないものの先程と比べれば元気が無くなりしょぼんとした雰囲気を纏っている。
「……そうなのか? いや普通に素人の手伝いとか鬱陶しいから遠くにでも行ってくれないか? みたいな意味合いだと思ったんだが……。それとも単に睦み合ってるのが忌まわしいと思ったのかと……」
「え? 気を遣って二人きりになってもいいって言ってくれたんじゃないんですか? 」
天然なりの異なる解釈を示しながらも、心は力添えへと移り変わる。
「で、まぁそれはそうと、なにか手伝うことはあるか? 」
誰にも手伝われないまま、専用の高さを保つ器具を鉄板に取り付け、一人虚しく回復魔法のかかった野菜を焼き始めたジョウカさんを可哀想に思い、流石になにかしていないといけないような気分になる。
「そうですな。荷台に積んである調味料を取ってくるので、その間焦げ付かないか見張って頂けますかな? 」
どこから取り出したのか、いつの間にか持っていたフライ返しを――
なんだろう。とても弱い飛ぶ…ゴン君を思い出した。可哀想。
虫 (トンボ)なのにドラゴン扱い扱いされて、結果種族値がとても低いとかいう……。
――手渡して、そそくさと荷台に歩いていった。
焦げ付かないようにって言われても……。
早速野菜の水分が抜けて、萎れてきている。火力が少し強いかなと近くに置いてあったトングのようなもので薪を減らし、平らにして全体に火が当たるように心がける。
食品用かとも思ったのだが、先が地面について汚れているので調節用だろう。
……はぁ、焜炉が欲しい。
それに、こういうことをしてるから女子みたいって言われるんだろうなぁ (偏見しかない)。女子力は蒼よりはある自信しかない。
絆創膏は持ち歩き (現代での話)、メモ帳・付箋は当たり前 (現代での話)、常に爪楊枝や糸は常備 (絆創膏がテープ、爪楊枝と糸があれば固定とかには困らないかなーと)、あとはハンカチとか輪ゴム (この世界では髪留め用糸)を携帯してる。
備えあれば憂いなし!
そして家庭的なスキルだけで言えば一人暮らしをこなせている時点である程度は身についているし、なんか知らないけどクビレあるし……。
こんなことを考えながら、野菜を焼いているうちに、ジョウカさんは白く光を反射してキラキラと輝いている食材を持ってくる。手には小瓶も持っているのだが、そちらには意識が向かない。
「え? お米? 」
それは明らかに日本でみる炊かれたお米であり、インディカ米のように細長いことも、チネリ米のように形が四角く歪なことも無い。
どこからどう見ても日本でよく食べられるジャポニカ米だ。
「米をお知りでしたかな? 」
「えっと、オコメってなんでしたっけ? 」
天使首を傾げてつぶらな瞳で見つめてくる。頭上にははてなマークが浮かんでいてとてもかわいい。
ねぇ最近思うんだけど、カピュアって天使と女神どっちが向いてるのかな?
かわいい・やさしいって意味で言えば天使なのかもしれないけど、うつくしい・温かみのあるって意味で言えば女神になるのかな。でも女神だって近年は可愛いものとして描かれることが多いし……。
そもそも時折見せるお姉さんのような包容力。それを語らずしてなんという!
しかしながら、常に存在を放っている訳ではなく、いつもは花のように可憐なかわいさをしている。近くに困っている人がいた場合のみ、太陽のように辺りを照らし、微風のように静かに寄り添い、日陰のように皆を癒し、尚且つ宝石のような美しさをも兼ね備える。
これはもう天使と神のハーフとした方がいいのでは?
しかしそれを認めてしまうとどちらの割合が多いのかと言う問題が発生してしまう。
単純に考えれば一対一なのだろうが、そうであればここまで女神が薄いということが有り得るのか? 抑として女神が包容力のある存在として認識しているのが問題では無いのか?
感覚的にカピュアには天使という呼び方が合っている。しかし、雰囲気はどことなく女神なのだ。
これはどうするべきか。
問われた疑問と全く関係の無いことに静かに耽る俺をさて置き、うっかり忘れてしまったカピュアにジョウカさんが軽く説明をする。
「主にエルフ領で栽培されている主食の一種ですな。パンや芋の代用とは言わず、寧ろ本来から好むものもいるぐらい美味しいのですな。しかしまあ、米を好む種族は亜人だのなんだの侮蔑される傾向があるためにそこまで売れずに残っているのですな…。
味は本当に美味しいから食べて見てほしいのですな」
切実に懇願する言い方に、どうしてもなにかしてあげたい。という気分になってしまう。
こんなんだからやさしいって言われるんだろうなぁ。
「大丈夫だ。こっちに来る前は毎日のように食べていたから、食べることに抵抗はないな。寧ろ最近食べられてなくて恋しいと感じていたところだ」
女神天使は俺の発言に目を丸くして驚く。とてもかわいい。
「えっ? イッセイの国ではそんなにお米が食べられてるんですか?
……もしかして亜人だったりするんですか? 」
聞いた後に、聞くべきことではなかった事だと気付いたのか、
「別に疑ってるわけではなくて、その、単純に気になっただけですから。……あとは、ちょっと亜人とかとも仲良くなりたいなって思ってるだけですから、そんな差別したりなんてしませんから」
と慌てて付け足す。
亜人とも仲良くしようとしている辺り、かなり天使だと思う。
「1つ目の質問の答えは、まあな。朝ごはんはパンがご飯かで派閥が分かれる程度には浸透しているな。まぁ麺類派やシリアル派などの少数派もいるが」
そうだ! 女神でいいんだ!
画期的な案が浮かんだことはイグ・ノーベル賞を得るまで黙っておいて、驚かせよう。
「2つ目の質問の答えは、少なくとも違うと思ってる。他の動物のように嗅覚や聴覚が優れている訳でもないし、身体中が毛深いことも耳が尖ってることも、えー、あとはなんだ? 耳が四つあることもないだろ?
せいぜい直感が野生動物並みと言ったぐらいしか特徴ないしな」
最近になってから直感が覚醒してることに関しては本当に謎。現代でも時々あったけど、それ以上になんかよく当たるんだよなぁ。単に命の危険とかがあるから過敏になってるだけかもしれないけど。
「確かにイッセイの直感はよく当たりますよね」
「まぁ野生動物と言えば蒼の方が……」
急に背筋が凍るような寒気を感じ、最後まで言えずにどもってしまう。
「女の子に野生動物扱いは酷いと思いますよ。
……イッセイになら私はそんな扱いされても……」
少しアブナイ思想に走るカピュア。
「その気持ちは分からないこともないが、少し落ち着こう、な? 」
頭を撫でて、精神安定を謀る。
絹のような肌触りに心奪われ、女神は心地よさそうに目を細める。
「それに俺にそんなに扱いが出来ると思うか? 蝶よ花よと愛でるのが精一杯だ」
二人のペースで進んでいくところに、ジョウカさんやいつも間にか集まっていた蒼と一角獣はついてこれない。
視界に映っているはずの光景すらも気付かず、俺の目にはカピュアのみ。
彼女は喜びを噛み締めるように腕に巻いたハンカチを見つめ、更に口元を綻ばせる。
そんな姿を見て一段と想いを込め、愛おしいと思いながら撫でる。
「いや、場所を選んでイチャつけ! 」
二人だけの世界に崩壊を齎したのは野生獣であった。
「おいどうした? お腹空いてるのか? ほら、これでも食べて大人しくしてろ」
カピュアを撫でていない手で近くにあった肉の骨の部分を掴み、顔があるであろう方向に目線も向けずに突き出す。
「いや、生物を渡すな! 」
「それぐらい食べろ」
「無茶だから! 」
すっかり興が冷めてしまった俺は要望通りに火を通す。直火で数秒炙り、今度はジト目で相手を見て突き出す。
「なに? 機嫌悪いの!? 」
「せっかくのカピュアとの時間を潰しておいてそのセリフはなんだ? 」
「それは悪かったけど! でももっと場所を選ぼ! 」
激情に任せて声を荒らげる蒼。正当性を主張し、俺たちに諭す。確かに、蒼の意見はご最もだろう。
しかし、そんなものでは俺の心で静かに燃える炎を消すことはできない。恋という感情でしか説明できない行為を邪魔されたのだ。いくら論理立てて説明しようとも、そこに感情が加わるだけで一気に破綻する。
男女が戯れ合うのは人目を忍んだ方がいいだろう。しかしそれは始まるまでのことであり、一度イチャついたのなら趣をなくすまで、気の済むまで続けた方が良いだろう。
それは互いに満足し終えることが出来たのなら、不愉快にならずに済むからだ。
水を差されたのなら、今の俺のように相手を憎む気持ちも沸く。
その後の関係も頭に入れて行動するのならば、やはり阻むことなく成り行きを見守ることが大切だ。
という思いを視線に込めて見つめたつもりだったが、伝わらなかったようだ。
「待って? お米? こっちにあるの!? 」
呑気にも食材に気を引かれている蒼を疎ましく思いながらもカピュアの方に向き直す。
中断されたにも関わらず、楽しみが増えたといった様子で口元が緩んでいる。
「また後でしましょうね」
カピュアの宥めるような言い方に加えた華やかな笑みに毒気を抜かける。
仕方なく中途半端に焼いた骨付き肉を元あった場所に置き、食事に参加する。
「そういえば、取り分けないで一緒に食べるのは案外初めてですね」
「あー、そうだな。俺のオススメの米は是非味わって食べてくれ」
久しぶりのお米は、とても甘く、美味しかった。
どうも。第一回、一話の文字量を増やそうキャンペーンに参加している作者です。尚、今のところは参加者は一名のみです。
この状況は少し無理してる感があるので、水土日投稿には間に合うと思いますが、投稿されなくなったら察して下さい。異世界行ってチーレム無双してる頃だと思いますので。




