七十三話 ケリュネイアの鹿もどき
ジョウカさんの巫女技と蒼の格闘技のおかげで、賊を完全に封じることが出来た。
相変わらず蒼が強いんだよなぁ。
野生動物。
戦意喪失した賊は、俺の交換したものにカピュアが強化を付与した縄で縛って (ジョウカさんの)荷台に繋げた (賊の用意していた)荷台に乗せている。
報奨金が貰えるらしいが、特に興味無いので……面倒事に巻き込まれたくないので……目立ちたくないので、ジョウカさんに全てを託した。
「あぁ、ここからならいけそうですな。
申し訳ないのですが、ここからは賊たちを連れていきたいので先に行ってもよろしいですかな? 」
ジョウカさんは突飛な発想を平気な顔で言ってくる。
「いや、足が無くなるんだが? 」
勿論、移動手段が無くなることを意味して言ったつもりだが、超絶可愛い天然なカピュアの耳には違う意味で届いたようだ。
「え? イッセイの足が無くなるんですか? なんでですか? 」
俺の足が無くなるのね。うんうん。ある程度予想できるから対処は簡単かな。
「この場合は移動手段がなくなることを意味するんだ。だから俺の足が無くなる心配は今のところないし、カピュアがわざわざ回復魔法をかける必要も無いよ」
俺の足があたたかい光に包まれ始めているので、魔力の無駄を防ぐためにも、分かりやすく簡単に説明する。
「…そうだったんですね。本を読んでいても急に足が無くなるって書いてあったのに、立っている描写があったのでなんでか思ってましたが、納得出来ました」
合点がいったといった様子で、曇った不安げな表情から、快晴の自信のある笑顔へと変わる。
天然すぎる人に読書は向かないみたいだね。まぁこれからは早合点しないでくれそうだから問題はなし。
……でも勘違いするカピュアもかわいい…。
あぁー! どうすればいいんだ!
困り果てる俺を他所に、ジョウカさんは着々と準備を進める。
荷台と馬 (のような動物)を繋いでいる器具を賊入りのものに付け替え、しっかりと手綱を握って――。
まるでどこぞのライダーのように空を駆け出した。
え? え? え?
荷台を例のドームで囲い、転落事故を防いでいるのが見える。
なに? サンタクロース?
馬に引かれる要領で浮いている荷台は、グワングワン動いてとても乗り心地が悪そうだ。
「あれ、一角獣じゃないのか」
「私も初めて見ました。飛ぶんですね」
何事か気になってひょこっと顔を出したカピュアは戸惑いつつも答える。
「あー、これは帰ってくるまで待っていないとダメなやつか? 」
遠目で見ても飛行機並みの速度を出しているからあまり心配しなくても良さそうな気はするが、何もせずに待つというのもなにか釈然としない。
「気長に待ちましょう。イッセイとなら何時間でも待てる自信があります」
「まぁ激しく同意だが、なんかモヤモヤする」
「あっ、そういえば王都に着いてから2日間は3人で宿に泊まりますけど、3日目からは2人で宿を探してもらってもいいですか? 」
「え? なんで? 俺の事嫌い? 」
カピュアが言い終わるかどうかのところで、安定の化けの皮を脱ぎ捨て言う。
待って? 嫌いって言われたら立ち直れない。え、どうしよ。
「そんなわけないじゃないですか。何言ってるんですか、もう。まだ私を信じてくれないんですか? 」
カピュアは頬を膨らませて、子供っぽく不満を表す。ジトッとした目で俺の瞳を見つめる。いくらもしないうちにふふっと吹き出して、笑顔に変わる。
とてもかわいい。
改めて振り返ると、カピュアに関する時だけ頭の回転がいつも以上に早くなるの怖い。
「そうだよな。なにかあるのか? 」
「ちょっと、みんなと話し合って仲直りしてからイッセイを家に入れます。なので少しの間だけ、それでいいですか? 」
喧嘩してたの? これは家のうちの誰かがものすごく性格悪い説が……。
いや! カピュアを生み出した人達。カピュアと同じ空間、環境で育った人達。そんな方々がそのようなものであるはずがない。喧嘩はきっとお互いの正義がぶつかって意見のすれ違いが起きただけ。うん。そうに違いない。
「俺と蒼の二人きりだがいいのか? 」
特になにか起きるはずもなく……。というのがあった俺たちだから安心しかないけど。
「そこはアオイさんにしっかりと言っておきます」
俺じゃないんだね……。
蒼には言わなくても絶対にそんな気すら起きないと思うけど。
オタク……嫌い……うっ頭が。
「私も寂しいですけど、一生懸命耐えますから。一緒に頑張りましょう」
なんだろう。一緒に痩せる宣言に近い決意を感じる。
単に会えないだけだよね?
……俺が耐えられる自信がなくなってきた。
「会えなくて耐えられそうにない時はカピュアの実家に突撃してもいいか? 」
「その気持ちは嬉しいですけど、我慢してください。それに、待ち合わせをしたりもなんだかんだで楽しいと思いますよ」
「うぐっ…。でもカピュアの頼みを断るわけにはいかないし……。それでも……。うーー」
カピュアと一緒にいたい。それでもカピュアのお願いを無下にするわけにはいかない。
一緒にいることで得る幸福と、カピュアの願いを快く受け入れることで得る幸福。
そのふたつは全くの対等であるはずなのに、カピュアの願いを受け入れると、とても嫌な未来になってしまう。
しかし、カピュアの願いを受け入れなかった場合は彼女に悪いという気持ちから嫌な未来になってしまう。
幸福を得るはずの行動が両者とも結果的に幸福が薄れてしまう。
これはもう推しと別居のパラドックスと名付けよう。
どうするべきか考えあぐねる。しかし、カピュアのうるうるとした上目遣いに抵抗する気も起きない。
「あー、まぁちょっとカピュアの手も借りるかもしれないが、なんとかしてみせる。
……借りても問題ないよな? 」
「勿論です。私にできることならなんだって言ってください」
パッと花が咲く。
この華をみてると、なんか、もうカピュア以外どうでもいい気がしてきた。
「ねぇ、フェルはなんでそんなに慌ててるの? 」
ここで、俺たちが話しているとツッコミするとき以外は静かになる蒼が新たに話題を作る。
いや、話題の方向性が変わっただけで本質は変わってない?
「それはちょっと言えません」
カピュアは目を伏せて申し訳なさそうにする。
「まぁ急ぎの用があるならそれでいいだろ。無駄な詮索をして、カピュアに変な気を使わせるな」
カピュアは性格的に隠し事をしていると心が痛む。だから彼女にはできるだけ罪悪感を感じさせないためには何も聞かない言わせないを心掛けることが必須。
カピュアには嫌な思いをさせない、絶対に。それが俺の今の信条。
「さてと、蒼の話題が速攻で潰されたわけだけどどうする? 」
辺りを見渡してみる。
日は大分傾き、夕闇…とまではいかないものの幼気な少女が出歩くには少し危険な時間帯だ。
薄くかかった雲は光を浴びてぼ淡く光っている。空全体が大きな虹のように綺麗な階調を生み出し、良い風景だ。
……感動的だな。だが無意味だ?
そんな太虚に黒い点が一つ……?
え?
大きな声でフォッフォッフォ〜と笑っていそうな雰囲気を醸し出しながら、その流星は近づいてくる。
え? なになに? サンタさん? プレゼントは 【リボン付きカピュア】でお願いします。
遠目でも分かる。背後に大きな荷台がついていない。
黒い点は俺たちに近づいてくると、速度を落としてゆっくりと旋回し出す。その姿はさながら獲物を躵う隼のようだ。
これが襲ってくるって考えると恐怖でしかない案件。あれでしょ? 最高速度時速300km超えるんでしょ?
サンタは緩やかに高度を下げ、軽やかに着陸した。音は一切聞こえない。
ここがもしも水面であったなら飛沫は起こらず、水の波紋が広がるだけだろう。
一角獣の前足が上がり嘶く。そして、
「すみませんな。待たせましたかな? 」
ここは礼儀とか年齢とかを考えずに一言。
「お前は白馬の王子様かなにかか」
蒼の感情を爆発させたようなツッコミとは違って冷静で追い詰めるような (追い詰めてどうする)指摘をする。
初対面とかでこれをしてしまうと、テンション低いの? ってなるから……。
もっと親しい場合は~〜? ってツッコミとは言えないような疑問になるから……。
どっちがいいかは甲乙つけ難い……五十歩百歩だね。
「残念ながら、王子と言うには歳を取りすぎてしまいましたな…。せめて王ならいけますかな? 」
「乗っかるな乗っかるな」
残念がり始めたジョウカさんは抑止しておく。これ以上野放しにしておくともっと巫山戯そうな……俺と似た空気を感じる。
「王子様はイッセイですよ! こんなにも王子様に向く人がいるはずありません。
優しくて、気遣いができて、いつも守ってくれます。理想の王子像ですよ」
「ありがたいけど恥ずかしいから辞めようか」
俺がどれほど王子に向いているかの適正を語り始めたので、感謝を伝えてから断っておく。
とてつもなく居心地が悪い……いやむず痒い? 本人を褒める話は本人の居ないところでして欲しい。
大丈夫? 俺が移ってきてる? 俺ってる?
そう考えると俺っていつもカピュアに猶恥ずかしい思いをさせてるの?
ちょっとこの褒める問題は真摯に対応しないといけなさそう……。
「イチャつくのは後にして。それで暗くなって来たけどどうするんです? 」
蒼がカピュアの惚気をスパッと切り裂き、今後の行動をジョウカさんに聞く。
「どうするって言われても野宿しかありませんな。女子2人は野宿でも大丈夫ですかな? 」
蒼は留保つきながらと言った様子で錆びたブリキのようなかくついた動きで頷く。
カピュアはなぜか移動しながらもうんうんと首を振って容認する。
待て。なんで俺にくっつく。
そんなこんなでキャンプのような、緊張感のない空気のまま野宿することになった。




