七十二話 なんか、強くね?
馬車で移動していると、前方に蟠る人達を見つけた。近くには今乗っているものより少しみすぼらしい馬車らしきものがある。
壊れたのかな?
「大丈夫だ。行ってくれ」
舵手席に腰掛けるジョウカさんに声をかけて助けるように仕向ける。そして、
「カピュア、蹲ってる人が何名かいる。助けられるか? 」
「見てみないと分かりませんが、魔力をイッセイから貰えば大丈夫だと思います」
カピュアにも指示を出していると、商人の横に座る蒼が驚いた表情で振り向いてくる。
「え? いまのって気にせず進めみたいなのじゃないの? 」
「どれだけ心が荒んでるんだ。もっと人に優しくしろ」
本当に。俺なんて人と話さない系の人助けならいくらでもするよ? なんか、してないと違和感があるレベルで。
まぁ、話しかけるとなると無理だから、落し物を拾っても声掛けられないから落し物センターに持っていくしか方法がないんだけどね。
「大丈夫ですかな? 」
ジョウカさんがしゃがみこむ人達に声をかけているのを横目に眺めながら、立ち上がって荷台から降りる。荷台の布が阻害して、ジョウカさんの状況はよく分からない。
「オラァ、くらいやがれ」
過去に俺をいじめていたやつらに比べても一段と知能の低い声がする。声は荒々しく、威圧しているようだ。
その声が響いた直後、
「え? 」
と間の抜けた声が聞こえる。
ある程度予想していたこととはいえ、声がジョウカさんのではないのがとても意外だ。
大剣を交換して荷台に沿って移動すると、驚きの光景を目の当たりにする。
襲おうとしたうちの一人がナイフを振り回しているが、ジョウカさんに当たってもそもそも存在していないかのようにすり抜ける。
ナイフを持った人……チンピラ? よし悪意を込めて、俺の推しの出番を奪った 《いろは》という仮称を付ける。
改めて。いろははヤケといった様子で当たる希望を持って振り続ける。
「……何処ぞの巫女かよ」
「何処ぞの巫女は分かりませんが、別次元に移動して避けているだけですな」
ホントに巫女だったよ。そのうち封印とかするんじゃない? あとは空飛んだりね。
その他の腰を抜かしたり、固まったりしている人は順に私怨を込めて 《安珍》、《レン》、《フカ》、《エルザ》、《寄生した腐女子のアンチたち》、《スメイト》と付けていく。
正直全員大差ない……実際髪色以外で見分けられないのだが、いろはと安珍、ストーカーはそれぞれに分かりやすい特徴がある。
ナイフを持って先陣を切っているいろはは長身で身軽そう。
すり抜ける光景の一番近くで固まっている安珍はガタイが良く袖から突き出た腕にはボディビルダーのような筋肉が見える。
ストーカーは妙に癪に障る。何故だろう。少しばかりふくよかな容姿に加え、
ま、まぁ? 俺 (たち)はあんな商人が別次元に居ても問題ないし? 逆にそんなことで威張ってるお前らなんて低脳だし?
みたいな怯えながらの余裕という矛盾を持って煽っているような、そんな表情に見えてしまうことが理由だろうか。
「……あの、イッセイどうしますか? 」
とりあえず状況を詳しく知るために歩み寄る。
尻餅をついた人達は器用に後ずさり。
…大剣持ってるけど、より近くにいる蒼の方が凶暴で獰猛で取り扱い注意だよ?
「蒼、どうする? 」
もっと驚いていると思っていたが、案外冷静な蒼に問いかけてみる。
「別に攻撃してこないならわざわざ倒す必要もないんじゃない? 」
いや、ガンガンいこうぜ並に攻撃してるんですが? それをすばやさが高いキャラが永遠と避けてるだけなんですが?
テレテン。
ミス!
ダメージを あたえられない!
テレテン。
ミス!
ダメージを あたえられない!
テレテン。
ミス!
ダメージを あたえられない!
みたいになってるよ?
とことん 《すばやさ》と 《かいひりつ》を上げたジョウカさんに敵無しといった様子で、実際にもういろはが諦めかけている。
ここで妙案が頭に浮かんだのか、ハッとした表情をして獲物を変更する。
正面への跳躍で一気に加速したナイフは、咄嗟に動けずに突き刺さる。
相手が蒼ではなく一般人であったならば……。
迫り来るナイフに怯みもせずに、手首目掛けて弧を描く蹴りが飛ぶ。
反応できなかったいろはは防ぐこともままならないまま、甲に爪先をまともに受ける。
手から離れたナイフを隙を生じぬ二段構えで遠くに蹴り飛ばす。
あー、痛いだろうなぁ。当たる瞬間に蹴りと同じ方向にずらさなきゃ。
……本当に蒼のせいで受け身とか防御が得意になりすぎてるんだけど。
構えてすらいないところに直撃した相手に少し同情する。今はとても痛そうに顔を顰め、甲を押さえてのたうち回っている。
骨とか砕けてないといいね。
ていうか…………銃使えよ!
俺の心のツッコミが届いたのか、蒼は横になっている男に乗しかかる。男は抵抗する気力も残っていないのか、大の字にうつ伏せる。
蒼は腕の下に銃身を潜り込ませ、端と端を掴んで手前に引っ張る。
上手く体を乗せて、腕の付け根を足で押さえ込んでいるため、関節技がキマる。
「痛い痛い痛い痛い痛い。やめてくれ〜! 」
大の大人がここまでjkにボコされながら、ここまで情けない悲鳴を上げていると、なんだか蒼がとても恐ろしいモノに見えてきたのと、あんなのにはなりたくないなぁと。
いや銃弾使えよ…。
蒼がツッコミをするときに最後弱くなって着陸しているのがよく分かる。ツッコミは疲れる。後は呆れが交じり始めるというものあるが。
まぁ、人を傷つけるのには抵抗があるのは分かるけど。でもその銃は飾り? なんなの? もうそれ自撮り棒としてしか使わないの? 自撮り棒での護身術なの?
固まっていた安珍は瞼で拍を刻む。更に理解が追いつかなくなったか。
慄然としていた人達は更に恐怖に包まれ、縮こまり頭を抱えて命乞いをする始末。
もうやめてあげて。これ以上は可哀想。
……もう勝負はついたのよ!
HA☆NA☆SE!
俺は内心少し 「えぇ、この世界の賊のレベル低くない? 俺も人のことを言えないけど賊やるならもっと鍛えようよ! ありえないよ! 」と幻滅……? 叱咤激励しながら、疑り深く観察する。
しかし髪からなにか取り出すでもなく、頭を守っている彼ら。
目の前の出来事になにか影響を与える訳でもなく傍観している……というよりも仲間の危機にも日和見主義を押し通している巨漢。
怯えきってビクビクと挙動不審になっているスメイト。
「で? まだやった方がいい? 」
蒼が恫喝的な声で尋ねる。
「ひえぇぇ」
情けない悲鳴と同時に、頭を大事そうに抱えていた人たちが慌てた様子で胴を起こし、首がもげんばかり勢いで左右に振る。頭が追いついていない人達も今回ばかりは不味いと感じ取ったのか、前者に習って首を振る。
ただ一人、筋骨隆々の状況が理解出来ていない漢を除いて。
「え? まだした方がいい? 」
蒼の下にいる男性は身を震わせて、嫌だという感情を素直に表現する。
凶悪な蒼はそのささやかな抵抗を受け入れ、より多くの食料に変わる獲物に照準を絞る。
安珍に向かって駆ける。
彼は危険を察知して顔の正面に手のひらを移動させる。が、蒼は首を足で挟み、体を仰け反らせる。その反動で安珍の身体は前方に倒れ込む。
二人は重力に従い、地面に叩きつけられる。
受け身をとり、いち早く体勢を立て直した蒼は、振り向いて相手の顔に銃口を突きつけ、
「なにか言いたいことはある? 」
呆気に取られて安珍はうんともすんもと言わない。
だから俺が代わりに言ってあげることにした。
「フルコンボだ…」
バンッ!
頬を掠めた銃弾は地面で跳ね、虚しく散る。
あー、ドンじゃなくてバンッだったかー。
まぁ蒼がそこまでするなんてことは絶対ないから安心してふざけられるよね。
それにしても、なんか、とても怪物のように感じました、まる。
今更感半端ないけど、作者の書きたいように書くので、読みにくくなることが時々あります。
そんな中、伏線を見つけて考察するなどの、自己流の楽しみを見つけて頂ければ幸いです。
ついでに星を⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️にしてください。




