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この世の朝は未だ遠く 〜Zwischen Traum und Erwachen〜  作者: レンリ
一章 三千大異世界

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七十一話 洗濯板

「そういや、蒼って可哀想だよな」


 突然の侮辱に彼女は顔をしかめる。隣にいるカピュアも眉をひそめて怪訝そうな顔をする。

 とてもとても居心地が悪い。カピュアはなにか裏があると思っていてくれている (テがたくさんだぁ)と信じているが、それでも納得されていない、少しでも疑いの目を向けられているとかんがえただけで……。


 もうヤダ。この話題話したくない。


 もちろん不思議がっているカピュアも可愛いが。


「待って? なんで急に貶されてるの? 」


「いや、まずは話を聞いてくれ」


 ここで俺は確実に伝わるように噛み砕いて、噛み砕いて、唾液まみれになって、原型が留まらなくなって、ドロドロとしたものに溶かされて……。


 あれ? 案外噛み砕くの表現って現実的にしたらちょっと不快だよ?


 ……いつの間に動作が受け身になってた?


 とりあえず説明する。


「だってほら、言ってしまえば蒼ってまな板だろ? 」


 蒼は穏やかな笑みを浮かべてん〜? と声を出す。しかし、目が笑っていない。怒り……ともすれば殺意に満ちている。


 何故だろう。カピュアの困り顔の方がかわいい。


「俺の友達の自論とネットで見たんだが、小さくとも身長が低ければ幼児体型ということでロリコンに需要があるみたいだ。余談だが、生粋のロリコンである友達曰く「ロリコンってのはなぁ、幼女を愛でる存在で、家に招き入れたら適切な量のお菓子をあげて、一緒に録画しておいたプ〇キュアを見て、日が沈むまでには家に送り届ける。そんな存在なんだよ! 」らしい……。

 話を戻すと、低めとはいえ俺よりも身長が高い蒼はその分野には入れないわけだ。

 だから可哀想だな、と」


「なんか更に悲しくなるからやめて! というか、別にロリコンに好かれても嫌なんだけど! 」


 手と頭をブンブン振って拒絶する。


 ……これがカピュアだったらかわいかったんだろうなぁ。

 確かに蒼も整った顔立ちとは思うよ? でも……まぁ、カピュアには敵わないって言うか、二次元のかわいさと三次元のかわいさのような絶対的な違いがあるって言うか……。


「でもほら、小さいとモデルに有利らしいぞ。様々な服を着こなせるかららしいが……。

 ついでに言えば、一定数はそういう好みの御方もいるし、その人たちの主張は

「無駄にあるよりはいい」

「ステータス」

  「生理機能的には、乳房は授乳を行う産後1年前後だけ膨らんでいればいいのであって、平時から膨らんでいる必要はない。人間以外の哺乳類は成体でも平たい胸の方が多い 」

 とかあるな」


 ……おかしい。こんないじりは全然しなかったはずなんだけど。


「あとは、和服を着る時に有利とかもあるな」


「いや、急にこんなこと言われても反応に困るんだけど! 」


 蒼はこの空気感に順応して、いつもの雰囲気を取り戻していく。ゴキブリのような環境適応力だ。


 なぜか一回新聞紙で叩いてみたい気持ちになりながらも (実際には死骸見るのとか、新聞紙で叩くことすら無理)続ける。


「あと、昔は蒼みたいなのの方がいいみたいな風潮だったことは確かだな。欧米とかでもキリスト教の影響で大きいのがよくないみたいな常識もあったしな」


「なにそれ! 昔めっちゃいいじゃん! 」


 目からウロコ……いや、胸からまな板が落ちたような表情をする。


 無いものが更に……いや、もう凹む。


 そんな蒼は目を輝かせて興味津々。


 とことんいじってるなぁ。

 そうそう、ネットにはひんぬー教なるものも存在していみたいだよ。


 カピュアは追いつけないと言った様子でずっと前から首を傾げている。とうの昔に理解を諦めたようだ。


 あ、カピュアに不適切な知識を与えるところだった。この話題は今後カピュアのいない時にしよう。そうしよう。


「まぁ…ビート板が当てはまるかどうかは分からないが」


「ビート板言わないで!

 ていうか、なんでこうなこと急にいじるようになったの!? 前まで全くいじらなかった……というよりまず話題にしなかったじゃん! 」


 賛美の言葉は良かったのだが、どうやら比喩では怒るようだ。


「…いや、触らぬ神に祟りなし…かなと」


 HAHAHAと乾いた笑い声を発した蒼は、首を傾げて


「誰が(さわ)れないって? 」


 少し前までの笑顔すらも消え去り、ジトォォっとした目で睨んでくる。身長が高いことも相まって、相当な威圧感を放つ。

 怒っている蒼に、それっぽい言葉は油となるようだ。


「誰も言ってないんだが?

 あとは、多分俺が普通に親しく思ったからだと思う」


「自分のことなのになんでそんな自信ないの!? 」


 ここで、カピュアは理解出来た!えっへん!というような表情をする。具体的には首を直し、少し胸を張る。表情は自信に満ち溢れた笑顔だ。


 なんか、カピュアの仕草ってものすごく言葉が読み取れるんだよね。ジェスチャーとは違うんだけど。なんか伝わりやすい。


 ……なんで胸を張ったの? 頭撫でて欲しいの?

 う〜ん。日に日にカピュアによく触るようになっているからなぁ。

 ……そのうちずっと触っていないと落ち着けないようになりそう。


 そんなことを考えていると、カピュアはふと閃いたようで突拍子もなく、


「イッセイ、私のことをいじってください! 」


「ウッ、俺の良心が……。カピュアはいくら親しくても尊ぶべき存在だ。いじるなんて出来るわけない。それに、カピュアに短所ないだろ」


 カピュアに短所など存在するはずがない。カピュアは人間じゃない。天使なのだから。


「運動音痴なところとかあるじゃないですか…」


 自己評価が低いところは変わっていないが、それを補える俺の熱愛がある。


「女子の運動できない、は逆に庇護欲を掻き立てるから長所だ! 」


 彼女は顔を下げて安定の自己否定をする。


「それに忘れっぽいところもありますし…」


「忘れっぽいのは俺も同じだ。

 それにカピュアは女子で天然なんだからかわいいとされるものだ。そもそも天然な女子が天然記念物に指定されかけているこの世の中で誰にも屈することなく貫き通す天然さは希少性だけではなく孤高に咲く一輪の花のような強さがありそれでもどこか儚い朝露に思えてしまうそんな矛盾をもったところは一目置くことすら当たり前に感じる。寧ろ置かなければ失礼だ。そんな天然のなか更に俺のために全てを懸けて尽くそうとする姿勢は最早一種の娯楽であり言動の全て……いやそこに居るだけで万物に快楽を受け渡し存在自体がこのストレス社会に癒しを与えるオアシス! そのオアシスが俺専用のようなものになっていることに罪悪感はあるのももそれすらも凌駕するかわいさには脱帽するしか――」


「オタク怖! 」


 滝のようにとめどなく流れ出した言葉を蒼がダムを建設することで一時中断する。


「二次オタをバカにするな。オタクは日本の伝統文化だ。外国でもCool Japan(クールジャパン)と言われてるんだ。我国の文化を大切にしろ。2030には日本人の40パーセントがオタクになっていると予測だってあるんだ」


 ネットで見た信憑性ゼロの知識を使って自身を正当化する。


「そんな日本嫌なんだけど! 」


「舐めるな、殴るぞ」


 このセリフをカピュアはなにを勘違いしたのか、


「痛いのは嫌ですけど、イッセイに殴られるのなら……嬉しいです」


 ねぇ、最近カピュアが歪んできてない? 俺と同じで好きな人なら殴られてもいいってなってない?


 ……俺ぐらいになるとカピュアになら殺されてもいい。

 だって殺されるってことはなにかしら思われてるってことだよ? 無関心よりは興味を持ってくれている。そんな幸せなことなんてあるわけないし。


 自分がかなりおかしいのは一応自覚してる。


「カピュアは女の子なんだから自分の体は大事にしなきゃ! 」


「でも……イッセイになら暴力でも……」


「うん、やめよう。俺がカピュアに暴力を振るうことなんてあるわけないし、そんなことをしてしまった時は直ぐに入水する」


 無理矢理話題を切り、オタクの話題を再開させる。

 カピュアがとても悲しそうな表情をしていたのがとてもとてもとても心に残ったが、カピュアに悪影響を与えないためだと割り切っ……割り切っ…未練に思いながらも話をする。


「そもそも、なんでアイドルオタクはよくて二次オタがダメなんだ。ドルオタに風当たりが弱くて二次オタに強いのは推しと結ばれるかどうかか? 手の届かない存在ということに対してはドルオタだろうが二次オタだろうが一緒だろ。そして最も納得いかないのが、なんで社会ブームを巻き起こす系の鬼狩りオタクは良くて、ラノベがダメなんだ。二つとも同じ二次元だろうが。それなのにそれはブームに乗っていないだけで流行遅れと後ろ指を指され、逆にラノベの流行に乗っていればオタクだキモーイってなる。なんなんだ。それにオタクはもともと蔑称からできた言葉なのに、それを社会が認めていること。それ自体が最早いじめや差別なのではないか? 実際にネットに溢れる情報には電車に乗っているだけでオタクであることをバカにされたという事例も発生して――」


 蒼の建てたダムはとても小さかったようで、すぐに満水になる。


「ちょっと、待って! 落ち着いて――」


 新しいダムを慌てて建てようとするが、地元住民(おれ)の反抗によりそれは叶わない。

 カピュアは困惑した面持ちで俺の行く末を見守って……唖然としている。


「いるんだ。いくら伝統文化を尊重しない日本人であるとしても、それは地域で行われる祭りのように肯定されるべき存在だ。間違っても差別や誹謗の的にするべきでは無い。現に祭りに参加する人々はなにも言われていない。それと同じだ。オタクであることを常識として思っている人はオタクに対して悪いイメージは持たないだろう。そのような教育をするべきだと思うんだ。いや却ってオタクは己の趣味を没頭し他者の意見を気にしない究極なる研究者の適正がある。そんな彼らの未来を潰すような行動をしても良いのだろうか。答えは否だ。物事の全てにおいて未来というものは存在する。しかしそれを特定の理由をつけて潰すということは単に自分は間違っていない、潰す側であるという自己暗示であり、他者を陥れることで優越感を得られる人間だから起きることだ。無駄な知識を身につけること自体は悪いことではないだろう。オタクなんてものは布教以外でその知識を身内以外にひけらかしたりしない。しかし現実はどうだ。社会では横文字を使うものこそカッコイイというような風潮が出来上がり、それを知らないことで侮られるという。実際に外来語や造語は状況を表すのに最も効果的だと言える。だがそれはお互いにその意味を理解しているからこそ通じ合えるのであってその言葉を知らない人からすれば意味不明だ。

 例を出そう。日本語と英語を話せる人と英語しか話せない人がいる。二か国語話せる人は日本語話せるアピールのために日本語のみで会話を試みる。多少横文字が入ればそれだけは解すことはできるだろう。しかし大半は無意味な雑音に聞こえるだろう。雑音で会話を成り立たせる。それを無謀と呼ばずしてなんという。横文字が重要な部分だった場合は理解できないことにより引き起こされる問題の解決は横文字を使わないことよりも重労働だろう。それを理解しないのが横文字を使うもの達だ。相手に伝える努力もしない者が自分の不手際で起こったとさえ気づいていないことに対して償おうとするか? 大凡は違うだろう。また償う人間も丹心で進んで行う者はゼロに等しい。大抵は失敗した者に罪を押し付けて自身の地位を守る。不当な怒りをぶつけてそれからは日常を過ごすだけだ。

 話が逸れたな。先程話したように知識を見せびらかす人間はされるだけで済む。オタクはしなくても迫害される。最近は理解者も増えては来たが、未だにオタクというだけで苦労する世だ。

 だから蒼は差別をしないでくれ…」


 最後に俺の切実な願いを込めて俺の主張を終える。


 たくさん話したせいで喉がカラカラだよ。10:0で俺が悪いけど。


「大丈夫ですよ。オタクは素敵だと思います。オタクはカッコイイです」


 そう言いながら、手にしたタピオカミルクティーを手渡してくる。


「あぁ、ありがとう」


 気遣いのできるいい彼女だなぁ……?


 直感とは別の違和感を感じてふと考える。


 ……あー、これカピュアが咥えてたやつだね。


 容量は減ってないかもだけど、無理。

 精神的に無理。

 決して嫌いな訳では無いし、それどころか命懸けるぐらい好きだけど、無理。


 だってカピュアが口をつけたものだよ? 触れた瞬間に浄化されて天に昇るよ?


 なんていうか、嫌じゃないけど烏滸(おこ)がましいっていうか、俺だと役不足っていうか、失礼な気がするっていうか……。


「これはカピュアのだろ? 俺はまた自分で作るよ」


 最近化けの皮がよく剥がれているのを実感しながらタピオカを返す。


 カピュアはムッとした表情をする。


 とても珍しいじゃん。今すぐに写真を撮りたい!


 今回唇を歪めたのは俺が好意を無下にしたからか。それとも俺がまだタピオカを飲んでいないことか。もしかすると、散々仲間外れのようにされてストレスが溜まっているのかもしれない。


「ほら、カピュアには楽しんで飲んでもらいたいしな。わざわざカピュアの分を横取りしてまで飲もうとは思わないよ。

 ……その考えだと全てに当てはまるけど」


「分かりました。じゃあイッセイの分を作ります」


 俺の3分クッキングをよく刮目していたのか、覚束無い手つきではあるものの、丁寧にタピオカミルクティーを作り上げる。


 ……? そんなに難しい? タピオカドーン! ミルクティードーン! 蓋をドーン! ドーンだyo! で終わるよ?


 タピオカの個数や量もきっちり同じにしようとしているようだ。


 え?


 ……え?


 手間暇かけて完成したタピオカをニッコリ笑って差し出してくる。笑顔はさながら山にポツリと咲く一本の桜のようで郡を抜くかわいさ。


「ありがとな」


 ストローに口をつけて吸う。正面のカピュアもぶっといストローで吸い上げている。


 ……ここまでタピオカになりたいと思った瞬間はない。


 まぁもしタピオカになったとしても、口の中に入ることが無礼だからコップの底で捨てられるまで耐久するけど。


 ……根比べになりそうだなぁ。カピュアもったいないとかイッセイの作ったものだからとかなりそうだし。


「なんだか、不思議な食感ですね」


 モチモチネットリしているタピオカを飲んでいると、あることを思い出す。


「そうだ。タピオカを多めに買ってもいいか? 」


「そんなに気に入ったんですか? 」


 カピュアの発言に蒼はあれ? と疑問を持つ。


「でも一成ってそんなにブームなもの好きじゃなくない? 」


「まぁ、俗っぽいものとか見た目重視でそんなに美味しくない映える?ものとかは好きじゃないな」


 切った時に肉汁とかが出てくること重視で作ったハンバーグとか、パサパサしてて嫌いだし。出来れば噛んだ時にじゅわっと口の中に広がる作り方にして欲しいよね。


「じゃあなんで? 」


「いや、タピオカミルクティー一杯ってご飯二杯分のカロリーらしいからな。緊急時の備えにいいかと」


「いや、発想がおかしい! 」


「いやでもほら、ご飯二杯食べるより楽だろ? 」


「確かにそれはそうだけど! 」


 頭ごなしに否定しない蒼って相当優しいんだよね〜。


 ていうか俺の独特なペースに合わせられて、かなり親しくできる人は相当優しいか、オタクか、頭のおかしい人ぐらいしか居ないし……。

 そう考えると友達少ないのも納得できるね。


「その分飲みすぎると余裕で太るけどな。」


 俺はもう過去の太かりし頃に戻りたくないからちょっとしか飲まない。あの頃は某アンパン系ヒーローだった…。


「え? これそんなに太るんですか? 」


「まぁ何事も食べ過ぎたら太るが、肥りやすいことは確かだな」


「ならあんまり飲めませんね。太っちゃったら大変ですから」


 俺にはかける言葉が見つからない。だから思ったことを素直に伝えることにした。


「……カピュアなら多少太ってもかわいいと思う」


「女の子にそれは失礼じゃない!? 」


 蒼は俺が密かに思っていた心の声を代弁してくれる。

 しかしカピュアはそうじゃないようで、


「……そう言われるのは嬉しいですけど、イッセイの前では理想の自分で居たいので、少し抑えます」


「そうか…。頑張ってくれ」


「いつか見せる水着のために頑張ります! 」


 なんかカピュア、水着着ることになってる?


 いつか見るであろうカピュアの水着姿に想いを馳せながら、休憩を終えたのであった。

最近投稿を忘れてしまう……。

反省しています。以後このようなことが起きないように善処します。


意訳:

忘れてなければする 《行けたら行くと同じ》

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