六十四話 馬車内の恋人
なんとかカピュアと俺が付き合ってることを説明して今後の関係に支障が出ないようにした。気まずい関係で一緒に旅とか嫌だし。
いや、大変だった。初手に付き合ってるって言っても頭の中でそうなってるんだよね。みたいなことを諭すような口調で言われたしなにより、愛が重いっていうか気持ち悪いのにあんな子が彼女になると思う?みたいなことを言われた。
失礼な態度だけど何も言えない……。
俺は無罪だー!助けてくれー!みたいなことを論理的に具体例を出しながらも言った。
まぁ?
そしたらその後に、そこまで細かい妄想がしてるとか……うわ…。みたいなことを言われたけど。
……流石に酷くない?
カピュアを呼び出して確認とった時は恥ずかしくて死にそうだった。
なんでカピュアは恥ずかしがらずにこんなことを言えるの? 若干誇りを持ってるようにも見えたけど。
そのあと、俺のエピソードを出して褒め殺しされかけたけどね。
その時はカピュアの頭を撫でてお互いに一度落ち着いた。カピュアが暴走しかけたけど永遠に撫でていればそれ以上のことは起きないことも判明した。
そんなことがあり、ジョウカさんの好意で荷台に俺とカピュアが乗っている。
あの、蒼でいいの? ていうか、絶対に前に二人居ないといけないの? なんなの? ジョウカさんはうさぎなの?
一応五千歳越えの化け物商人さんは手網を持ってる。しかし、蒼はなにもせずに……そう、銃すら持たずに景色を眺めている。
俺? 俺はまぁ、…ほら! 常に宝石持ち歩いてるから、常に帯剣してるようなものだって!
動く景色はゆっくりで、安全運転を心がけているようだ。
タイヤに工夫を凝らしているのだろうか。荷台は現実の電車ほどしか揺れないのでとても快適。強いていえばクッションがないことだけか。
カピュアと読んだ本の内容を話し合いながら、和気あいあいと過ごす。
いや、普通に作者すごい。自然と伏線張るところとか、ネタと伏線が入り乱れて見つけるのを困難にしているところとか、あとはとあるWebとかでよく見るヨイショヨイショしないところとか、とあるWebでよくあるキャラに魂が篭ってないヒトのカタチをしたナニカなこともないし、あとはおかしな矛盾点が発生していることもないし……。
あれ? 俺の読んでたWebが悪いだけ説出てきたんだけど?
なので (?)、カピュアの持つ最新刊を二人で読み進めているところだ。
……なんか、内容頭に入ってこないなー。
うん。ここはあとで読み直したいって言って借りて、読むことにしよう。そうしよう。
そういうことなので、カピュアの観察に移る。
カピュアの髪はとても細くて繊維のようだ。
先程から鼻腔をくすぐる匂いは、甘く心地よい気分にさせる。
踏み荒らされたことのない雪の透き通るような肌は、斜光で煌めいている。
読書に集中しているようで、普段は見れない横顔もしっかりと見える。
横から見える目は奥ゆかしい宝石のようで、吸い込まれてしまいそうな深みがある。とても綺麗だ。
少し身体を後ろに倒してみれば、髪に隠されてないうなじが露わになっている。言葉では言い表せない、なんとも耐え難い高揚感と幸福感に襲われる。
やばい。後ろからカピュアを見ているせいで、なんか、なんか、なんか! 背徳感! 特に、ほら! 半袖になって、なんか! 長袖?であってるよね? に比べて、ほら、なんか! 体のラインが出てて! 胴の、上の方の! ほら! とこが、なんか! もう、無理!
無意識のうちにヘドバンしていたのか、それとも身体を倒しすぎたことが問題か、カピュアが振り返ってどうかしましたか?と聞いてくる。
つぶらな瞳を筆頭に、きょとんとした表情はいつもよりおさない印象を与え、小首を傾げていることも相まってとてもかわいい。
ねぇ? なんか時々幼く見えるのなに? そして、大人びたように見えることもあるんだけどそれもなに?
もしかして本当に天使だったりする? 身体なんてただの器だからいくらでも変えられるとか言うの?
「悪い。カピュアに見惚れてた」
「え、あ、そ、そそ、そうなんですか」
俺が素直に褒めると、カピュアは顔を赤くして動揺する。照れているのか陽を遮っている布を見ながら話している。
ねぇ? 暴走してないと、こんなことでも照れるんだよ? かわいすぎない?
まぁ、暴走してても顔は染まるけど……。
「話は変わるんだが、カピュアの家ってどこにあるんだ? 」
なんか、学校に通ってたらしいからある程度大きな街出身か、そこに近いか。
そして学校が無償ってこともないだろうからそこまで貧乏ではない。着ている服からもある程度は裕福な家出身だと思う。上級貴族になってくると専属の家庭教師を雇うからそこまで高くはない。
あとはあのストーカーが過去に出自がなんちゃらかんちゃら〜って言ってて、俺に対しては言ってたけど、カピュアには全く言っていなかった。つまりは家系自体はストーカーと同等かそれ以上。
流石に平民が出自を気にしたりはしないだろうから、下級貴族ではある。
……というのが俺の考えなんだけど。
「……見惚れて…。あっ、ごめんなさい」
話しかけられても恍惚として、心ここに在らず。といった様子だったが、ハッとして理性を取り戻した。
「えっと、家についてですよね。家は今から行く王都にあって、公爵家…です」
慌てて、彼女の丁寧語がたどたどしくなっているところは無視しよう。
ん? 公爵家? 侯爵家?
「コウ爵ってのは、公の方か? それとも居候のほうか? 」
「公の方の公爵家…です」
正しいがどこか不安定な口調は、外国人の日本語のようにとても頑張っている気持ちが伝わり、とてもかわいい。
公の方の公爵家……。
貴族がなれる最高の爵位……。
王位継承権のある階級……。
「……あとは、お父様が公爵、お母様が准男爵でした」
うん。格差が半端ないね。なにがあったらそんなに階級の違う人と結婚するの?
「お母様の爵位をあげようとするために、公爵のお父様と結婚した…みたいです。お父様は平民の出だったんですが、官僚から公爵まで登り詰めたちょっとすごい人…です」
少しずつ流暢になってはいるが、まだ日本語が少し得意な外国人…程度しかない。抑揚も少し変だ。
……外国人の方ごめんなさい。
「内部事情話されても困るんだが? 」
「そ、そうですよね。えっと、私はそのお父様に失敗作って言われてて、それが嫌で出てき…ました」
「カピュアを失敗作って言うとか巫山戯んな。
というか、一回落ち着こう、な? 」
まるでペットをあやすみたいになってしまったが、頭を撫でて冷静にさせる。
撫でると彼女は肩が上下に動くほど深い呼吸をし始める。慌てていたのが嘘のように消え、上がっていた肩も下がっている。心身ともに安らいでいるのだろう、眠る時の無防備な表情をしている。
「やっぱかわいいな」
思ったよりも大きな声で言ってしまったが、運良く車輪の廻る音がかき消して騎手席の二人には届いていないようだ。
しかし、その例外が一人。緑のたぬk……天使は嬉しそうに顔を赤らめて微笑っている。
そんな彼女はふふっと上品に笑ってから
「ありがとうございます。でも、イッセイもかっこいいですよ」
と言う。
ねぇ?
褒められたことを素直に受け取っておきながらも俺を褒める、謙遜とは違う新たなタイプの言い方なんだけど!
これ以上の可愛さを浴びると語彙力が吹き飛んで行ってしまうから説明できなくなる! でもみたい!
たった二言で俺を矛盾した願いを発生させる辺り、流石カピュアだと思う。
「いや、俺なんかよりもカピュアの方が――」
「そんなことありませんよ。私よりもイッセイが――」
俺の否定にカピュアが返し、それに対して俺はまた否定する。
「いやいや、明らかにカピュアの方が――」
「私よりもカッコ良くて、強くて、優しくて――」
「いやいやいや、俺よりも優しくて、可愛くて――」
「なにこのバカップル! 」
半ば止まらなく…止められなくなっていた俺の奇行、カピュアの善行…及びかわいい言動が騎手席まで聞こえていたようでツッコミ役が仕事をする。
むぅ。カピュアへの褒めたたえならいくらでもできるのに……。
「なら、もっと具体的に美しさを言えばいいのか? 」
「いやそうじゃなくて――」
「道端に咲く花のような儚さと華やかさを持ち、小鳥のさえずりよりもかわいく癒される声、春に吹く爽やかな風を彷彿とさせる雰囲気や清涼感、夜を照らす月光のように優しく包み込む包容力と穏やかな眼差し。
花鳥風月を全て兼ね備えた自然と共存する理想的な人物像だとは思わない人はいるか?
――いや、いない。
美の極致に到達したカピュアこそが真なる女性と言っても過言ではないだろう。それほどまでにかわいいんだ! 」
クッ! 語彙力が足りないせいでカピュアの可愛さが伝わらない! もっと上手く言えるはずだ!
「いや! なんか口調も難しい文みたいになってるし! それにフェルが顔真っ赤! 」
言われて見れみれば、俯いて恥ずかしそうにしていた。耳まで真っ赤だ。
……うん。ごめんなさい。




