六十三話 冒険者護衛車
なにやら慌てているカピュアに従い、急いで王都行きの商人を探す。
俺はそんな急用なら転移とかじゃダメなのか?と聞いたが、どうやら王都などの都市や広い屋敷には転移で入れないような結界が張られているとのことだ。
それって、近くまで転移でダメなの?
そのことは転移した瞬間に襲われる危険性があるのと、長距離転移はかなり魔力を使うので3人は厳しいとのこと。
俺から取れないの?
疑問は残ったが、とりあえず厩戸で王都行きの商人を探す。
「すみません。この馬車って王都に向かいます? 」
「えぇ向かいますな。もしかして冒険者の方ですな? 」
蒼に気安く話しかけられた商人は、嫌な顔ひとつせずに気兼ねなく会話を始める。
異世界ってみんなこんなにコミュ力高いの? それとも日本人が内気なだけ? オタク文化?
「はいそうです」
しっかりと敬語を使うあたり、意外とちゃんとしてるんだなぁ。
「これはこれは、なんとも運がいい。護衛が見つからずに立ち往生していたところでしてな。早速出発させますが良いですな? 」
俺たち3人はコクコクと頷いて、指示に従い荷台に乗り込む。
蒼のコミュ力のおかげでそこまで時間をかけずに見つけられてよかったよ。
……俺には到底無理な芸当だなぁ。
俺は馬に近い舵手の座席で商人さんの隣に座ったまま、馬車が動き出す。
馬車は二対の車輪のついた荷車を布で覆い、テントになっている。
馬車を引く動物は馬ではなく、鹿のような胴体に青銅のような蹄、額から真っ直ぐに生えた螺旋構造の銀色の角。
その姿は神話に出てくるケリュネイアの鹿を彷彿とさせる。
「いやぁ、こんなべっぴんさんが二人もいる護衛なんて久しぶりですな。眼福眼福…」
商人は棚ぼたと言った様子で呟いている。
振り向いて褒められた側の少女たち……少女……? をチラリと見るが、女子会に花を咲かせていて聞こえていないようだ。
俺が参加すると雑草が生えるんだろうなぁ。というか、草を生やすんだろうなぁ (他人事)。
商人は白くて長い顎髭が特徴的な中年男性だ。見た目は……言い方は悪いが老けて見えるものの、活発な雰囲気を放っている。
うん。カピュアを可愛くないとか言う人には天誅を与えなきゃね。この人は大丈夫そうだね。
まぁ、手を出したら命の保証は出来ないけど……。
自分を抑えられる自信ないし。
なにもしていない時ですらあどけなさの残る整った顔立ち……。
互いに引き立て合う目と髪……。
……やばい。好きなところ語りが止まらなくなるところだった。
「あんまり聞くべきじゃないのかもしれないが、商人をして何年ぐらいなんだ? 」
暇を持て余した神々(当たり障り)の遊び。
口調を敬語に直そうかとも思ったが、そこまで気にしそうな人じゃないのと冒険者って野蛮で荒々しいイメージを守るためにもこのままにした。
「商人になって何年か、とは意外ですな。かれこれ5000年程続けておりますな」
え? 5000? 二銭年? 二銭稼いだ年?
「5000年って聞こえたんだが、俺の耳がおかしいのか? 」
「いえ、合ってますな。私のスキルは老いることがなくなるんですな」
「便利だなスキル。……え? なら商人さんは5000歳超えってことか? 」
「えぇ、まぁそうなりますな」
「もっている知識を社会に貢献しろよ……」
思わず心の言葉を漏らす。こめかみを抑えて反応したことを聞かれたのか、
「それをしようともしたのですがな、あまり過去の話は重要ではないみたいでしてな」
と片手で顎髭を擦りながら答える。
「どれだけ魔族との戦闘に力入れてるんだよ……」
呆れの対象が商人から国家に移動したところで、今更感があるがふと思う。
この人の名前何?
「そういえば名前言ってなかったな。俺は朝霧一成。珍しいとは思うが、苗字が朝霧で名前が一成だ。
後ろの金髪は九条蒼。緑髪の天使がカピュア・フェルト・ゴッドフリートだ」
振り向いて軽く顎で指し示しながら説明する。
もちろんカピュアの時は指を揃えて丁寧に示したが……。
「ご丁寧にすみませんな。私はジョウカ・エッノシー二世なので自由に呼んでくれればいいですから」
「ジョウカさん……か? 俺たちの方も好きに呼んでくれ」
「でしたらアサギリ殿、クジョウ殿、ゴットフリート殿でよろしいですかな? 」
殿を使う人初めてみた。2000歳なら普通…なのかな……?
「まぁいいとは思うが、注意されたら変えてくれ」
カピュアとかそんなに改まらなくてもいいですから。って照れながら言いそうだし。
「そうですか。
ところで、何度か英雄に会った時の話をしてもいいですかな? この歳になると過去の話を引っ張り出して自慢しなくなってしまいましてな」
「英雄の話か……。興味もあるし聞かせてくれ」
聞いた話では、
過去に会った英雄は強いとは言えないが、人を思いやることのできる優しい人だった。能力は2つあったが、ふたつとも護りに適したチカラで多くの民を守った。
使う武器は盾のみ。その盾には自らの血で術が施されており、紅い十字を象っている。
……との事だ。
次の英雄は一国の王だった。
ん?
その王は感情豊かでよく泣き、よく笑っていた。そんな中、ある巨人と退治することとなる。
その王は怪力で有名であり、200kg以上の武装で身を固めて打ち破った
……との事だ。
3つ目の英雄は――
「多い多い多い多い多い。どれだけ英雄を知ってるんだ」
長寿って言っても知りすぎでは? 何度かって違う英雄に何度かなの? 同じ英雄じゃないの?
「おっと、すみませんな。私が若かった頃は英雄がたくさん生まれていましてな」
失礼失礼。と謝ってくれる。
「なら、【始まりの英雄】の話をしてくれ。少し詳しく知りたいって思ってるんだ」
「【始まりの英雄】とは意外ですな
残念ながら会ったことはないのですな。なにせ、彼は今約七億歳ですからな」
「長寿インフレ起きてないか? 」
なんなの? 不老不死の水を飲んだの?
「まぁ神話の時代は今と違ってみな長命でしたな」
「半神半人でもいたのか? 」
半分神だったら寿命も長いよね。ギルガメッシュとか在位126年だし。
……ギルガメッシュは3分の2が神なんだよなぁ。
「そこまで多くはないにしても、知り合いに数人いる程度でしたな。今となっては世界に数人となってしまいましたがな」
「今も半神半人っているんだな。他の英雄ってどんなのがあるんだ? 」
ジョウカさんは顎髭を撫でて考え込む仕草をする。
「そうですなぁ。最終的に自殺した英雄なんかもいましたな」
何があったら自殺するの? 英雄だからいじめとかじゃないだろうけど……。
「怖すぎるだろ…」
「あとはアルニラムと名の宝石魔法や糸術を得意とする英雄もいましたな」
「個性豊かなんだな」
「英雄で思い出したのですが、英雄になれば願いが叶うなんて話もありますな」
俯いて考えてしたジョウカさんはふと顔を上げて言った。
……願いが…叶う?!
……興味ない。
だってカピュア居るし、これ以上何を望むの? 神になってカピュアと同等の存在になること? それかカピュアを増やす?
想像してみよう。いや、わざわざ深く考えなくとも容易に想像できる。
ある日、
今日はカピュアとのデート。
左を見れば俺に微笑みかけている天使。楽しみですねとこれから起きる現象を心躍らせている。
右を見れば店を眺める天使。次々と目移りしているが、見るもの一つ一つに反応している。出店の料理を好奇な目で見つめていると思えば、目をキラキラさせてぬいぐるみを見つめる。時々ニッコリとこちらを向いて笑いかけてくれる……。
……え、死ぬ。
両手に花ならぬ両手に妖精? それも尊死を司るタイプの。
「イッセイはどっちの方が好きなんですか? 」
あ、まだ妄想続いてたんだ。
二人とも頬をふくらませて睨み合っている。その姿ですら絵になっているところがさすがカピュアというところか。
彼女たちは袖を掴んで一生懸命私を選んで、と主張している。
なにげに腕を引っ張ることなく小さく握って自分のモノアピールをしているところもかわいい。
こんな状況になってしまうと、もちろん口元は緩みにやけ始める。
「……私を選んでください。お願いです…」
俺の左に位置しているカピュアは情に訴えかける言い方だ。それに上目遣いと切実さが加わって破壊力がとんでもないことになっている。
「私は、イッセイのためになんだってします。だから選んでください」
一方、右に存在しているカピュアは選んだあとの利益を提示して役に立つことを説明している。地味に俺のためにという言葉が天秤をこちらに傾ける一因になっている。
ねぇ、もうカピュアだけが登場人物のラブコメとかギャルゲー作らない?
ほら、素直ツンデレ (ツインテール)とか純粋であどけなさの残るけど敬語キャラ (ロングストレート)とか、たまにその鱗片が姿を見せるお姉さんキャラと今のを混ぜてお姉さんっぽいロリキャラ (ゆるふわカール)とか、あとは運動できないけど一生懸命頑張ってるキャラ (ポニーテール)?
真面目な風紀委員系 (おさげ)もかわいいかな? 眼鏡とかかけさせて、書類とかは抱え込むように持ってね。
編み込みとか今のショートとかもかわいい。
「だいぶにやけてますが、大丈夫ですかな? 」
その妄想は現実世界にも影響を及ぼしていたようだ。
「悪い。願いが叶うと言われたから、少し想像してただけだ。気にしないでくれ」
「ちなみにどのような夢か聞いてもよろしいですかな? 」
「あんま面白くないがいいか? 」
良いですぞ。と先に了承を得たので話す。
「願いが特に見当たらなかったからカピュアが二人いる世界線を妄想してた。二人が俺を取り合ってたんだが、それぞれの主張にも個性があって可愛いんだよな…
それにあれだけかわいいカピュアが二人だぞ? もはや暴れだしたいほど嬉々とした気分になったな」
つい熱弁をふるってしまう。
「えぇ…。美人だからってそんな妄想をしても切ないだけだと思いますな。少なくとも本人には言わないことをオススメしますな」
なんか、結構本気で引かれた。
あ、そっか。この人俺とカピュアが付き合ってるって知らないんだ。ていうか、付き合ってたとしても一般的な考えだとかなり気持ち悪くない?




