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この世の朝は未だ遠く 〜Zwischen Traum und Erwachen〜  作者: レンリ
一章 三千大異世界

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6◐話 廃世の獣の怒

 ――なんでこうなったんだ。


 黒髪のヒトは剣を構えて正面の怪物と向き合っている。が、その構えには力が入っていない。

 しかしどこから湧いてくるのか、ふらふらとした構えでも必ず勝てる自信がひしひしと伝わってくる。




 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「なに? 村がモンスターに襲われた? 」


 剣を携えた青年が村のあちこちがボロボロになっているこの状況を見て、なにがあったと聞けば村人のひとりが、オオカミに似たモンスターに村を荒らされた挙句食料を奪われたと答えた。それに対しての反応がこれだ。


「そのモンスターはどこに行った? 」


 興味のなさそうに聞いているが、それと同時に助けてあげようといった善意も見える。きっと勝てる自信があるのだろう。いや、正しくは倒しがいのある強敵であればいいなという高揚か。

 村人が森に向かって指を指すと、


「そうか。分かった。ありがとう」


 と返してやれやれと言った様子で魔境へと向かってしまった。


 森に着いた勇者……英雄名 【フルド】は辺りをうろつく魔物を、帯びていた剣で片っ端から斬り伏せていく。そこに慈悲という言葉は存在しない。

 魔物から噴き出す血は、命を奪った相手にかかることなく虚しくも空にかかるだけだ。


 彼が移動するだけで通った道は小さくした森に赤い絵の具を零したようになる。それもどす黒い赤色の。


「やれやれモンスターとか人助けとかほんと興味無いんだけどなぁ」


 誰かに言ったわけではないだろうが、妙に癪に障る言い方だ。

 その言葉に引き寄せられたように、大きな影が姿を見せる。今まで斬り伏せてきた魔物を毛深く、肥大化させたような獣だ。背丈はフルドの優に二倍はある。

 獣との間合いは10メートル強。詰めるにしても見てから回避が間に合う距離だ。


「少しは強そうだ」


 フルドは圧倒的な余裕を持って獣と対峙する。この状況が劇のワンシーンではないかとさえ思えてくる。

 しかし、獣……ムリフェインとしておこう。ムリフェインから隠す気もない殺気が溢れていて真なる命を賭けた戦いなのだと気付かされる。


 少しでも気を抜けば死ぬ。

 それがフルドが下したムリフェインの評価だった。


 次の瞬間、見えない刃がフルドの頬を掠める。

 フルドにはなにがあったか理解できない。


 目を白黒しているうちにも、ムリフェインはその図体からは考えられないほど身軽な動きでありえないほど速く回転をして見えない斬撃を繰り出している。

 抵抗もなく立ち尽くすフルドにひとつふたつ、ふたつみっつと次々に傷が増えていく。


 血の雨をかいくぐった体に赤い模様が描かれていく。


 フルドの身体中で無作法にも騒ぎ立てる神経が意識を現実に向けさせる。

 なにかに弾かれたように横に飛んで死界から逃げ出す。木の陰に身を潜めて一息をつく。


 痛みなんていつぶりだろうか。


 なんてこの場に合わない呑気なことを考えながら現状を確認する。どうやら大きな血管はやられていないようだ。出血量が少ない。体力もそこまで減っていない。


 やれやれ。本気を出せということか。


 フルドは痛みを無視し、ヒトでは出せるはずもない矢の如き速度でムリフェインに向かっていく。


 そう、それこそが彼に自信を与えていたものの一つだ。

 規格外な身体能力(ステータス)。これだけでも相手にするのはさぞかし辛いだろう。

 この力に加えてあとふたつもあるのだから余裕にならないわけが無い。


 ムリフェインの背後にまわったとき、もうひとつの力を解放する。


「『死の世界(アイテムボックス)』」


 小さくつぶやく。それだけで全てを呑み込む暗い暗い闇が完成する。

 この技は空間が異世界へと送られ、そこでは各種の死が行われるという


 もちろんただの魔物であるムリフェインに対抗する手段などなく、静かに吸い込まれて消えていった。


 ……そうなる予定だった。

 しかし実際はなにもせずに耐えきったのだ。いや、違う。魔法で壁を創り耐えたのだ。


 ――瞬間的な判断だけでなく、魔法まで長けているのか。


 息が全く乱れぬ獣に、フルドはその程度か? と煽られる錯覚を覚える。


 次はムリフェインの番だ。力の誇示と威嚇のために放たれた過大な唸り声は大地を揺るがし、大気を波にする。


 真っ先にフルドが感じたのは痛みだった。大きすぎる音は五月蝿(うるさ)いではなく(いた)いと感じる。

 耳を塞ぎ込んだ彼を次に襲ったのは強烈な衝撃だ。山が腹にのしかかったと思った。


 吹き飛ばされた彼は木々を人型にくり抜きながら、紅の印をつけて進んでゆく。運のいいことに耳を塞いだ姿勢のおかげで頭は強く打たずに済んでいる。


 体内の液体が重力に逆らう。喉は焼けるように痛み、酸っぱさを含む液体は門を通過して体外に出る。


 胴の全てが痛む。息ができない。

 喘ぐように微かに息をするが、それでも足りずに視界の縁が黒く染まっていく。

 頭が痛い。中からも外からも痛む。頭の中で火花がチカチカと弾ける。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


 幾つもの木を破壊しながらすすんだ彼は、ようやく硬いもので止まる。


 それが地面だと認識するのに数秒を(よう)した。そのまま寝そべっていようかとも考えたが、それは背の中を掻き乱すような激痛で認められない。


 新鮮な空気を肺に送り込み、力なくふらふらとした足つきで立ちあがり、気づけば手から離れていた剣を探す。

 それは運良く近くまで吹き飛ばされていたようですぐに見つかる。


 かなりの距離を飛ばされたはずだが、ムリフェインは数メートルといった距離まで接近している。


 黒髪のヒトは剣を構えて正面の怪物と向き合っている。が、その構えには力が入っていない。

 しかしどこから湧いてくるのかふらふらとした構えでも必ず勝てる自信がひしひしと伝わってくる。


 フルドは覚悟を決め、奥義(孤独)を発動する。


 孤独は文字通り孤独になる技だ。距離や方向の指定、対象の指定ができないがために渋っていた技。近くを通る一般人すらも巻き込む危険がある。


 しかし、それだけの制約を抱えた技は反則的な威力をもたらす。

 種族問わず全ての生物の体力を削りきり、絶命させる。それこそ悪魔であろうと神であろうと生ける屍であろうと体力が存在すれば不老不死だとしても殺すことが出来る。


 目の前の平然として立っている獣を除けば。

 絶大な期待を寄せていたがために裏切られてたときのショックは大きい。


「なんなんだよこの化け物は! 」


 感情を顕に叫ぶ。

 彼はとっくに限界だった。意識が薄れていく。

 最初は手足の感覚、次に音。自然の匂い。


 視界が狭まり、ほとんど見えなくなった視界が最後に捉えたのは体力の存在しない化け物の顔だった。


 全身が動かなくなっていくなか、獣の口が動く。

 雄叫びをあげるでもないその動きは言葉を放ったように見えた。


犬の頭(ムリフェイン)】と……


 それを最後に体は動かなくなり、石になった。

やれやれ系なろう系主人公ってうざいよね。

ってことで生態系破壊系なろう系主人公をボコしてみた。

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