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この世の朝は未だ遠く 〜Zwischen Traum und Erwachen〜  作者: レンリ
一章 三千大異世界

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五十九話 暗記術

うー、にゃー。うー、にゃー。うー、にゃー。

 昨日貰ったプレゼントはクッキー (あまりにも美味しかったので恐らく手作り)と私服の長袖と半袖 (お店で見たことないほど精巧に作られていたので恐らく手作り)だった。


 カピュアって裁縫 (機織り)もできるんだね。


 使うのがもったいない気もするが、カピュアの優しさで包まれているような幸福感に溺れるので着ている。


 さてと。モブAの銃使いの少女の勉強でも教えるか。


 ん? モブAが誰だって? 言わなくても分かるよね。蒼に決まってるよ。


 ん? 仮にも好きだった人? 記憶にございません。そもそもあれは多分魅了(チャーム)とかその辺だよ。

 その時点で一番の推しを超えてないから、低級な魅了だろうね。


 まぁ、今から蒼ルート()に入る可能性も……ないな。


 カピュアと共に蒼の部屋に入らせてもらった。無許可だが。


 そこで待ち受けていたのは机の近くで寝転がってうにゃ〜とかの鳴き声を発している奇怪な人の形をした猫だった。


「猫かお前は」


 というツッコミを思わずしてしまった。


 にゃあとかあざとい子以外発しないよ? 対してかわいくもないよ?


「にゃ…あ? 」


 あお…人型の猫の鳴き声を真似してカピュアはかわいらしい声を出す。


 やっぱり女子の猫語ってかわいいよね。ね? ね?


 自分でも引くような手の平返しをしたあとに、蒼を勉強させる気にする。


「あと3日で試験だが、なんでごろごろしてるんだ? 」


「だってわざわざこっちに来たのに勉強なんてしなくないし…」


 うん。確かに異世界に来てまで勉強するのはいくら数多の異世界作品を生み出してきているなろうでもほとんど見たことないぐらい異端だね。

 でもなろう出身の神作は文字の勉強してたから。


「そんなこと言わずに一緒に受かりましょうよ」


「私も受かりたいけど覚えられないもん」


 想定通りの発言をする蒼はいつまでも手のひらで踊らされるんだろうなぁ。

 あ、人型の猫って言うの忘れてた。


「ならいい暗記術があるが試してみるか? 」


「え? そんなのあるの?! 」


 蒼は期待を裏切らない。すごい勢いで食いついてくる。


 こういうのを⑨って言うのかな。


 ⑨とは……綺麗な弾幕出身のネタで莫迦(バカ)って意味。蔑称だからあんまり使いたくない。


 教えるのは俺に任せてくれているが、カピュアは蒼を嫉妬や羨ましいといった表情で見ているような気がする。


 あとで頭なでなでとかしたら喜ぶかな? それか化学知識教えたり?


「まぁ四つぐらい方法はあるが、まずは一つ目。擬人化法。」


「えぇ? それ? 」


「擬人化法舐めんな。電磁誘導は完璧だ。

 電磁誘導は近づいた時に反発するくせして、一度近づくと離れる時に引き留めようとする。ツンデレだ」


 電磁誘導を物語にしてみよう。


 ――夏休みのある日。今日は少し用があって彼女の部屋の前まで来ている。(セミ)はミンミンと五月蝿(うるさ)く鳴き、辺りを照らす日光は見るだけで夏だと思わせる。

 今日は大切な用があるとはいえ、いつも突き放す態度を取られている僕には彼女の部屋に入る権利があるのだろうか。

 少し恐れながらもチャイムを鳴らす。

 扉を開けて、なに?と苛立ちが混じったようなそんな声で返事をしてくれる。

「ちょっと、用があって……」

「ふうん。帰って」

 いつものように突っぱねた態度をとる彼女に僕はどうしても萎縮してしまう。

「でも、今日は大事な用で…」

「アンタがそこまで言うなら別に入れてやってもいいけど? 」

 目線を僕の後ろに移動させて彼女は言う。


 □


「用も済んだし、僕はこれで帰るよ」

 彼女の部屋から立ち上がり玄関に向かおうとすると、彼女は腰に抱きついてか細くお願いする声で

「ダメ……帰らないで…」

 と言う。いつもの彼女からは想像もできない声だ。

「そんなこと言われても、もう時間が……」

「お願いだから……」

 彼女に触れれば消えてしまいそうなほどに儚く思える。それほどまでにか弱いつぶやきだ。


 とまぁ、程度の低いラブコメなら電磁誘導を利用するだけで作れるんだよね。


「いや、わけわかんないし! 」


「これじゃ無理か? 」


「無理に決まってるじゃん! 」


「俺は大抵これでおぼえてるんだけどなぁ……」


 蒼の否定に俺は呟く。

 仕方がないので妥協案を出す。


「なら、辛い経験は覚えやすい法を使うか? 」


「いや、なにそれ!? 」


「簡単に説明すれば、いじめた側はあまり覚えていないのにいじめられた側はよく覚えているアレだ」


 何事もないように説明したつもりだが、悲壮感が漂ってしまったのか、2人が気を利かせて


「そんな辛いことで説明しなくてもいい! 」


「イッセイ。もしも辛いことがあったら私に言ってください。私はイッセイのことを嫌いになったりしませんから」


 慰めてくれる。


 軽いいじめられ経験の多い人間は基本的に感情を殺す術を身につけてるから。それに、俺の場合はネタに利用するかネタで気にしてないから。


「蒼はともかく、カピュアは頼りにしてる。カピュアもなにかあったら俺に言ってくれ。そこ相手を二度となにかができないようにするからな」


「なんで私は頼りにされないの?!」


「そこまではしなくてもいいですよ。イッセイが困っていないならそれでいいですから」


 蒼はいつもの事として、ふるふるとかぶりを振ってやんわりとかわいく断る。


 蒼が雑? 仕方ないね。蒼だもん。

 幼なじみだもん。ラブコメでいう負けフラだもん。タイトルで盛大にネタバレしてくる幼なじみ系のラブコメあるけど……。


「カピュアがそう思うように俺もカピュアの幸せだけを願うんだ。だから、なにかあればすぐに言ってくれ」


「イッセイ……! 」


 トュンク…という効果音が聞こえそうな目で見つめてくる。それに応えるように俺ははにかみ笑いを浮かべて頭を撫でる。


 カピュアの髪はサラサラと油気がなく、絹のような手触りだ。手のひらに伝わる微かな刺激がくすぐったいが、それすらも愛おしく感じる。一生触っていたい気分になる。


 軽く頭を下げて撫でやすくしているカピュアは心地よさそうに目を細めてサワサワという音を聴き入っている。


「なにこの誰にも手が付けられないカップル……」


 蒼のボソッとした呟きでこの世界に他者の存在を再認する。


「カピュア、場所を変えるか? 」


「そうですね……。2人きりで逢い引きしましょう」


「人前でそれを言うと意味無い気がするんだが? 」


 俺は蒼の部屋から出て人の目のない俺の部屋まで移動する。


 ――そうしたかった。

 俺の願い虚しく出ていこうとしたところを蒼に止められたのだ。


「いや、私に暗記法教えるんじゃなかったの?! 」


「あっ」

「そういう話でしたね」


 俺はカピュアの頭に手を置いたまま答える。


 完全に頭から抜けてた。

 俺たちはどちらかが冷静で居ないと暴走し始めるね。暴走しててもお互いに満足するから問題はないけどね。


「なら、やっぱり辛いことしながら覚えることだな」


 一度止めた手を動かしながら、蒼への講座を続ける。


「辛いことだと、脳が次回以降にその状況から逃げるため反芻処理……つまりは繰り返し思い出そうとするんだ。ならそれを利用して辛い状況下で勉強すればよく記憶に残る……と俺は思ってる」


「いや、絶対じゃないの!? 」


「やるだけやってみろ。カピュア、厚着を取りに行こう」


「分かりました」


「待って? 何が始まるの?! 」


 困惑する蒼をよそに部屋から出て名残惜しいがカピュアから手を離して、それぞれ厚着を取って戻ってくる。


 事前にカピュアには説明していたので真冬のような格好をしている。

 首には毛糸で編まれた薄紫のマフラー、手には同じく毛糸で作られたピンク色の手袋だ。横向きに赤や緑の縞模様が描かれている。

 見慣れた半袖とはまた違ったかわいさがあって新鮮だ。


「イッセイ、始めていいですよ」


「把握。

 翠色冷光(すいしょくれいこう)虎尾春氷(こびしゅんぴょう)滴水成氷(てきすいせいひょう)寒気凜冽(かんきりんれつ)寒煖饑飽(かんだんきほう)滴水成氷(てきすいせいひょう)

 冷酷な慈悲により、この空間を凛としろ。

 極地の如き冷たさに、震えて眠れ。

『紅蓮獄牢・永久凍土』」


 俺から放たれた冷気は刹那の瞬間(とき)で部屋を埋め尽くす。


「いや、寒! 寒いって! 」


「暗記のためだ。致し方ないな」


 俺はせめても苦しいと思わないように、神妙な顔つきではなく笑顔で言う。


「悪魔! 」


「イッセイは悪魔じゃありませんよ。優しいじゃないですか」


 カピュアは優しく諭すように蒼を宥める。


 どおどお


「逆にここまでして悪魔じゃない方がおかしいって! 」


「イッセイは聖人です。とても優しいです」


 カピュアの顔には朱が混じる。そんな彼女は耳元まで顔を近づけてくる。

 そして小さく隠し事をするように


「私はそんなイッセイが好きですよ」


 と囁く。耳元で囁かれたとろける声はくすぐったくて耳の辺りをゾワゾワとした気分にする。カピュアの鈴の音のような声は直接脳に届くようで俺の思考を妨害する。


 俺の沈黙をどう受け取ったのか、耳元に柔らかいものが当たる感触があり、耳の大部分が高温多湿の空気に包まれる。

 体に衝撃が加わったことで放心状態にあった脳は活性化する。おまけで全身の筋肉が収縮する。


 えーと? カピュアは俺の耳をハムハムしてて? それを蒼がぽかんとした表情でみていると?


 すーぐ暴走するんだから。ほんっとかわいい。


 カピュアのおかげで耳の大部分だけが亜寒帯から熱帯雨林気候になっているので、首は動かさずに蒼には聞こえないように小声で


「俺も優しくて天使みたいなカピュアが好きだが、なんで耳ハム? 」


 と言う。すると、カピュアは耳を亜寒帯に戻しながら


「大丈夫ですよ。空間魔法で固定をしたので、アオイさんからは同じ姿で固まっている私たちしか見えていませんよ」


 と秘密の話みたいに静かに言う。

 湿った耳が寒さにやられて針で刺されているようにチクチクと痛む。


「それにしてもなんで小声なんだ? 」


 軽度の凍傷になりかけている耳を火属性の魔力を流し込んで温めながら問いかける。


 ……お客様、こちらの耳は温めますか?


 えっ? はぁ温めない? 承知しました。


「空間を映しているだけですから、声は伝わるんですよ。あたり声を出すとアオイさんにバレますよ? 」


 俺の試すような挑発的で嗜虐的な笑みで小さく言う。


 ヤバい。なんか手玉に取られてる感じがなんか。なんか! なんか!!


 まとめると……悪い気分はしない。

 でも暴走カピュアもかわいいけど、ちょっとからかってみようかな。


「カピュアの方こそ、大丈夫か? 」


 俺はそう言いながらおもむろに手をカピュアの顎に付けて軽く手元に寄せる。


 カピュアの顔が正面に来てつぶらな瞳とバッチリ目が合う。パチパチと瞬きをしてキョトンとしている。


 少しして、朱に交われば赤くなるという言葉通り俺の赤面が移ったように、嬉しそうな顔になり朱が混じる。


「イッセイ……」






 恥っっっっっっっず!


 顎クイってこんなに恥ずかしいの? それとも相手がカピュア=天使だから恥ずかしいの?


 ……なんかもう天使の括りにしていることが不敬罪に感じてきた。それぐらいかわいい。破壊力が核。


「寒いし! 二人ともさっきから動かないけどどうかした? 」


 体を小さくして、肌を擦りながら青が言う。


 あー。なんかいましたね。光の三原色の(あか)(みどり)以外のアレ。


 俺は手を目線をカピュアから放して頭を切り替える。


 スーハースーハー。緊張と恥は一回捨てる。捨てる捨てる捨てる。


「カピュア、一度空間魔法を解除してくれ」


「分かりました」


 なにも変わった感じがしないが蒼が 「あ、やっと動いた」と言ったので蒼から見て変わったのだろう。


「とりあえず」


「フリーズしてたのはなんだったの!? 」


「気にするな。軽く耳が熱帯雨林気候になってとろけそうになっただけだ」


「熱帯雨林?! 」


「気にするな。この状態で暗記しろ」


「いや、気になるって! 」


 カピュアは無言を貫いている。というか、喜びを噛み締めているみたいだった。


 うん。袖クルとか壁ドンとかしたらもっと喜ぶのかな?


 そのあとは、流れを理解する繋がりで覚える方法と、寝る前に見ると脳に定着しやすい法を教えて実践してもらった。


 もちろん 「それがあるならなんで初めからしなかったの! 」と怒られたが……。


 ……そういえば、衝撃的な出来事や特別な出来事は記憶に残りやすいらしいね。1番目の口付けとか(恥ずかしくない言い方がこれだった)。


 つまりはカピュアの耳ハムとか顎クイ忘れないってことだよね?


 ……顎クイは恥ずかしくて死にそう。忘れたい。

※前書きは作者が狂っただけです。意図はとくに少ししかありません。

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