五十二話 堕天使で恋のキューピット
「カピュア、好きだ! 」
あまりにも唐突な出来事に私は考えられなくなります。
好きって。好きっていいました? 好きって……
って、告白なら返事をしないといけません。ですが、友達としての好きかもしれませんし…。
同じ言葉を頭の中で繰り返すことでなんとかハッとすることが出来ました。
「それは、その…手を繋いだり、ハグとか、……キ、キス……とかしたい好きですか? 」
「あぁ、付き合ってデートとかしたい」
照れ隠しか、イッセイは頭を掻いて答えます。
意味をちゃんと理解した私は顔が熱くなります。もしかすると私がそう思ってるだけかもしれませんが、それでもそう思えるほどには恥ずかしくて、照れています。
きっと赤くなっている顔で改めて向き合って、私も勇気をだして応えます。
「イッセイ。私も…イッセイの事が――」
突如、胴に強い衝撃を感じます。
状況を把握するのに少しの時間がかかりました。なにせ、恥ずかしさでモゴモゴと、少し躊躇っていたらイッセイに胸を撃ち抜かれました。言い方を変えると心を鷲掴みにされました。
実際に。
「イッセイ……なん、で…? 」
ここで腰の辺りでパリンとなにかが砕ける音が聞こえます。
「あぁ、一度きりの死亡回避だね。まぁ関係ないけどね」
一度治った心臓をまた奪われます。
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告白しようと決めてリビングに戻ると、あのストーカーが居た。
え? なに? 家まで入ってくるタイプのストーカーなの? それはもはや犯罪者……。ストーカーも犯罪者か。
はてなを思い浮かべて首を傾げながらも近づく。
――ストーカー――
――赤い液体―― ――なぜ――
――倒れている――
――カピュア――
――穴――
――なんで――
――赤い手――
――許さない――
――死――
俺は考えがまとまらなくなる。
無理矢理にでもまとめさせようと頭を叩くが、それでも目の前のことは分からない。
アハハハハと無粋な高笑いが沈黙に木霊する。
本能は、直感は理解しているが、脳が認識しない。いや、脳は認識しているのだろう。ただ、その事実を理解しない……理解しようとしない、認めたくないのだ。
目の前の事実を頑なに否定しようとしているのだ。
「誰に似たんだ。こんな頑固」
誰かに伝えるでもなく呟く。
俺なりに今できる精一杯で茶化すが、ドッキリでした。なんて言って起き上がることも、夢から覚めることもない。
……もう、起き上がらないのか…。
直感を心の中で声にした時、脳が急激に働き始める。
胸に違和感が生じる。悲しみで全身が震え出す。
胸の一部がなくなってしまったような消失感、虚しさ、切なさ。
胸に重りが取り付けられたような倦怠感、絶望。
胸を焦がすような怒り、憎しみ。
胸を急かすような苛立ち、不安。
もしも感情を色で見ることができるなら、俺はとてつもなく混じりに混じった汚い色をしているだろう。
黒にも白にも灰にも成りきれない溝のような色を。
きっと、全てを理解した。……分からされたのだ。
あの笑顔が見れないのか……
ドブが1つの大きな波となって襲ってくる。
しかし、その中でも溺れずに意識だけは鮮明なままだ。
こんな状況でも、どこか客観的に考えることができる自分が嫌だ。
褒めようと思えば冷静沈着な人、と言えるだろう。が、それは悪く言うのも同じ。
他者の損害であれば全く心の動かぬ薄情な、冷徹な人と言える。
壊れたラジオのように高笑いを繰り返す声に苛立ちを覚えて、そのまま気持ちをぶつける。
「何笑ってんだよ。笑うところじゃないだろ」
声は震え、怒りはこもる。
慣れていない感情の爆発は、とても――
「はぁぁ? 笑いどころだね。逆にここで笑わない方がおかしいよね! 」
「人を殺しておいて、笑い事っていうのか! 」
「決まってるよね。こんな偽物を信じてたなんてね」
ストーカーは感情を爆発させた後に、今度は落ち着き払った様子だ。
「偽物だと? 舐めんな。どこが偽物って言うんだ」
「だーかーらぁー、偽物だよね、どう考えても。こんな偽物に騙されてたと思うとイライラするね」
「…………」
俺は怒りのあまり、無言になる。
「本当に…。見るだけでなんの術式があるか分かるのがカピュアちゃんなんだよね。
隠してもない変身術式を見抜けないようなら、カピュア・ゴッドフリートを名乗らないで欲しいよね。そんなカピュアちゃんの偽物は、この僕、【ディメラ・パミェライリュ・スメイト】が倒すね」
彼は横になって……こんなことをしても意味がない。倒れているカピュアを一瞥する。
自分で傷口に塩を塗るような行為をする。だが、それで現実を認めようという気になる。1度、頭から水を被ることで頭を冷やすような効果があるのか、普段通りの落ち着きを昂った感情のまま取り戻していく。
それか、自らよりも落ち着きのない人が近くにいるからだろうか。
カピュアをチラリとみたストーカーは苛立ちで顔を歪める。
「あぁー、心臓を直したね。流石はカピュアちゃんのフリをするだけあるね。でもさぁ、そんなふうに微妙に似てるのがウザイんだよね! 腹が立ってイライラするんだよね!
カピュアちゃんの顔で!
カピュアちゃんの体で!
カピュアちゃんの声で!
カピュアちゃんの仕草で!
カピュアちゃんの名前で!! 」
始めは褒め、暴言を吐き、最終的には 『カピュアちゃん』『で』の部分で踏みつける。
胴を、頭を、顔を……。
落ち着きかけていた俺は、その行動で一気に再沸騰する。
スキルで魔力から刃を交換する。
そのままストーカーにタックルをかまして、手元に刃を作り、胸に突き刺す。
その予定だった……。
一定の条件下に無いため、発動できない。
あるはずだった刃を持っているつもりでストーカーの胴を殴る。
「は? 莫迦だね。そんなことでしか止められないなんてね」
なにか言っているが、俺の耳には届かない。
闇魔法を最大出力で発動させる。どこぞの妖怪のように、自身の周りに闇を纏わせるのだ。
しかし、予想していたような真っ暗闇はいつまで経っても訪れず、日陰程度にしか暗くなっていない。
「あのさぁ、あんまり弱いんだからそんなことしないで欲しいね。口の中の飴みたいにさ、あると噛み砕きたくなるんだよね。そんな風に――」
傲っている顔にパンチを一発お見舞する。
普段ならここで、『ちょっと硬い程度には筋肉がついた腕パーンチ』などとふざけるのだろうが、今の一成は獰猛な獣のソレだ。
単調な殴り。予測が容易い突進。
全ての行動を潰される。
疲労で鈍くなりつつも突撃を繰り返す俺に、突如全身に重りが取り付けられる。
俺にだけ重力が強くのしかかる。
「もうゴミはそので一緒に寝てると良いね。目の前で死んでいく様を見ておくんだね」
小さく言い放ち、空間から消える。
俺にかかる重みはそのままだ。
「イッセイ……」
「カピュア?! 」
声の聞こえた方に力を振り絞って這い寄る。
首を曲げて姿を視界に収める。
「…イッセイ、私はもうダメみたいです……。だから、最期に渡したいものがあります。」
カピュアは弱々しく腕を動かし、ポケットから四角く少し厚みを持った紙を取り出す。
「……これ、読んでください。本当は…生きている間に渡して……返事が欲しかったですけど……。私の想いです…」
息も絶え絶えになりながら言う。
「あんまり喋るな。余計に傷が――」
「…いいんです。きっと、ここで……言えない方が、後悔しますから……」
「それなら、ここで安静にして生き残ってから伝えてくれ。」
「…さっきはああ言いましたが、実は、そこまで辛くないんです……。少し意識が飛びそうなので伝えておきたいだけですよ……。…いいですよね」
そうは言っているが、声は小さく掠れている。
俺が何も話せずにいると、それを肯定と捉えたカピュアは一言。
「……イッセイ…しゅきぃ……」
その一言をきっかけにカピュアは何も話さなくなる。
「は。なんでだよ。」
体の重みがやっと消える。
絶望。
既に助けられないと確信を持ってしまった俺は絶望する。
絶望なんかに逃げるな。
意識が分離するような錯覚に陥る。
いわゆる天使と悪魔のように、心の中で葛藤をしているのだ。
絶望なんてのは甘えだ。絶望を言い訳に考えることをやめても誰にも咎められない。
最後まで解決策、打開策を練る。ダメ元でもやってみる。それがお前じゃないのか?
もう無理だ。カピュアの意識があったのなら、少しでも魔力を分けて回復魔法を使ってもらうことも出来た。だが、もう意識がない。回復魔法を使えない俺には……。
莫迦。それでも考え続けろ。思考を停止していいのは死ぬ時のみ。ありえないと思えることでも、いくら可能性が低くてもすべきだろ。
そんなことを言っても出血過多で意識が飛んだ。心臓が止まるのも時間の問題だ。魔法は……。
……!!
藁にもすがる思いだが、やるだけやってみようか。
俺は左手で氷、右手で火の魔力を集める。
以前読んだ。魔法は合成だと。それならば……。
両手にできるだけ均等に闇の魔力を送る。
発想はかなりぶっ飛んでる。火と氷は相反する位置に存在しているのだから、合わせれば相反する効果のある魔法になるのではないか? と思っただけだ。
回復魔法の兆が見えた俺は脇目も振らずに魔法を乱発する。
「治癒! 治癒! 治癒! 治癒! 」
一心不乱に回復魔法を使おうとしていると、ピキッとなにかにヒビが入る音を幻聴する。
魔力は減ってるんだ。頼む! カピュアだけは。俺はどうなってもいい。カピュアのためなら死ねる。
ヒビの入るような音が更に大きく、鮮明に聞こえる。
そして、割れるような音と共に淡い光がカピュアの傷口を包み込む。
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カピュアが小さくピクリと動いた。
きっと起きたんだね。うん。あの手紙のせいですごい距離感の掴み方が分からないけど。
「ここがあの世ですか? なんだか普通ですね」
目を開けて体を起こして辺りを見渡している。
ちょうど俺は背後にいて見えていないようだ。
うん。なんて言えばいいの? あんな手紙貰ったあとだよ?
「イッセイに伝えられたので良かったです。本当はもっと一緒に居たかったんですけど」
やばい。盗み聞きしてるみたいで罪悪感がとてもとても凄い。
「あー。カピュア? 起きたのか」
俺の声で1度体を硬直させてから、振り返る。
「なんでイッセイがいるんですか? 」
「簡潔にまとめると、俺が光属性を使えるようになって回復魔法が使えた。以上。
補足をするとすれば、闇属性が使えなくなっていたな。せめても闇魔法で眠りを妨げないように覆おうとしたら、発動しなかったからな。
あー。あと、なんだ? 」
カピュアが言ったから言わなきゃダメだよね。うん。
カピュアはつぶらな瞳で見つめてくる。
思わず反射的に顔を逸らそうとするが、気合で耐える。
「手紙に書いていたこと、俺からも頼めるか? 」
言い方に問題があったのか少しして、カピュアの顔が真っ赤に染まる。
やっぱり素直に言えないんだよなぁ。
茹でダコのようになったカピュアは手で顔を隠して俯く。
やばい。可愛い。これから茹でダコ食べられない。
……ん? 待てよ?
もしこれで付き合えたら、合法的にカピュアの顔を見続けられるってこと?
どうも、感動シーン (笑)よりもこの話の確認読みで泣きそうになった作者でーす。
……いや、カピュアとイッセイの気持ちを考えながら読んでるとどうしても涙が……。
それに自分で書いた文章だけど正確に覚えてなくて、うっわ切なぁってなった。
(よく分からない作者の感想)




