五十一話 likest
蒼に出ていけと言われてから2日が経った。
蒼と関わることがもうないのであれば告白は関係ないのだろうが、毎日数えてただけありどうしても意識してしまう。今日が7日目ってことに。
そろそろ告るべき? でも勇気が出ない。ていうか、カピュアに好きな人いるのにこんなことしていいの?
応援すべきでは? 推しの幸せを願ってこそのヲタクでは?
でも、黙って見過ごすのは……。
複雑な心のお年頃かな?
もし告白したとして気を遣わせて付き合うとかになるとなによりカピュアが幸福じゃないだろうし……。
義務なんです! 義務ですよぉ?
ふざけてる場合じゃないね。うん。本当にどうしよ。
告白して振られた時は (全てを)諦めるとして、好きでもないのに付き合うことになったら俺は嬉しくてもカピュアは嬉しいのか? 喜ぶのか?
惚れさせばいい。なんて考えてみるが、俺にそんなことできるか?
気を遣わずに答えて欲しいと言うか? あの優しいカピュアがそれで本当に本心で決断を下してくれると思うか?
そもそも、カピュアは俺に対して好意的な感情をもっているのか? 否定的な感情、不快な感情を隠して構ってくれているのではないのか?
……やばい。思考の沼にハマりそうだよ。体を動かして気分と意識を変えようかな。
「今日は狩りに行こうと思うが、カピュアも行くか? 」
「なんだか変な感じがします。でも、行きましょう。いつまでも部屋でじっとしている訳にも行きませんし。」
あっ、まだ嫌な予感はするんですね。俺の直感は全く働かないんだけど。魔力的な微かな情報かな。
個人的に直感は頭が理解できてないほど小さなことを本能的に感じ取ってるって思ってるからね。
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ん〜。なんでしょうかこの違和感は。まるでお塩の中に少しだけお砂糖が交じってるようなそんな感じがするんですけど。
そんなことを考えながら、コッラケミの生息地まで来ます。
いつもと場所が違うのはコッラケミは少し強いですが、その分経験値や通貨を貰えるのでイッセイに勧めてみました。
「コッラケミっていうのはあのニワトリみたいな魔物で間違いないか? 」
「そうですね。ちなみに体力が少なくなると卵の中に入って相手がいなくなるのをじっと待ちますから、そうなるより先に片付けた方がいいですよ。」
「なんでニワトリが殻に籠るんだ……。まぁ、魔力温存のためにまずは俺一人でやらせてくれ。」
イッセイはそう言いながらも近づいて振りかぶっています。
確か…初めて見つけた人が殻から出てくるときに立ち会ってしまってニワトリの様だ。と言ったことが始まりだった気がします。
後で教えてあげましょう。
そんなことを考えているうちにイッセイの一撃がコッラケミに傷をつけます。
しかし、羽毛に阻まれて深い傷は出来ません。
イッセイはこういうふかふかとしたのが苦手なんでしょうか。
イッセイは何度も攻撃しますが、体力を削りきることは叶いません。コッラケミの必死の抵抗で蹴られ突かれます。ですが、全て大剣で防いでいます。
お互い一歩も譲らない戦いしていると、コッラケミが羽毛から殻を生成して卵にこもる準備をします。
「えにゅあ? 殻にこもるって羽毛からなのか……。本当にニワトリかこれ? 」
拍子抜けした声をあげます。なんだか可愛いです。
コンコンとグーの手で叩いて硬さを確認しています。
「あー、これならもしかしていけるか」
独り言を呟いた後に、歪んだ不敵な笑みを浮かべます。
ちょっと怖いです。
イッセイはなにやらスキルを発動しているようで、卵の上に手をかざしています。
かざされた手からはなにやら液体が滴っています。まるで修学旅行で行った鍾乳洞みたいです。
滴る液は殻に当たるとシュワシュワします。
この拮抗?した状況に変化があるまで待ってみます。
しばらく待っていると、段々と半透明な茶色に変わっていきます。
「…なんですかこれ。」
私は見たことがない謎の物体に思わず声を漏らします。
「スケルトン卵だな。本来はスケルトン卵だが、言いにくいからエッグにしてるが。
正直ここまで早く効果があるとは思わなかったな。
殻が薄いのか? もろいのか? この世にはなかったものが触媒としての役割を果たしているのか? そうなると他の反応も見てみるべきか。
いや、まずは触媒の特定が先か? ただ情報量が少なすぎて分からないな……」
イッセイは眉をひそめて今も滴らせている手とは反対の手を口に当てて考え込んでいます。
イッセイは賢いです。私にはよく分かりません。
全体が半透明になってきているコッラケミを眺めます。
「なんだか綺麗ですね。これを倒すのはもったいない気がします。」
「そうか? なら戦わないって手もあるが、そうするか? 」
「そうですね。」
と、いうことは今日はもう狩りをしませんね。
このことを考えてしまった私は急激にある衝動に駆られます。
ダメです。こんなことはしてはダメなんです。いけないことなんです。こんな子は好かれるわけないんです。嫌われたくないんですから、こんなことはやめないとダメなんです。
なんとか気持ちを抑えようとしますが、癖になった行動は自然と体が動いてしまいます。
私は魔法を発動して、イッセイに抱きつきます。
全身で浴びるイッセイの匂いが鼻腔をくすぐり、ほのかに熱をもっている肌が優しく包み込んでくれます。
顔を上げるとかっこいいイッセイの顔が見えて、胸に埋めると世界に2人しか居ないような錯覚に陥れます。
五感のうちの3つを使うこの行動をしている間、私は満たされて、あの悲しかったことを頭から追い出すことができます。
魔力を回収しながら、しばし時間を延ばします。
お互いの心臓の音が聞こえてしまいそうなほどに近づいたこの好きです。
ですが、あまりしていると本当にバレてしまいます。バレるとイッセイに幻滅されます。
名残惜しい熱を逃さないように、自然と肌と肌を触れ合わせて、それでも離れる時は空気と触れないように体を丸め込みます。
両手を胸に当てて一、二回深く息を吸って魔法を解除します。
「イッセイ、なら今日はもう帰りましょう。」
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そういえば、アオイさんに教えてもらった片想いを両想いにする方法がありましたね。
あまり気は乗りませんが、試してみましょうか。
「カピュア、明日はいつも通りのサルを狩るのでいいか? 」
聞いた方法通りに無視してみることにします。
イッセイのことは考えません。イッセイのことは考えません。
アオイさんによると、散々絡んできた人が急に無視したりされると意識し始めて、
あれ? もしかして好きになってる?
ってなるらしいです。
「カ、カピュア…? 」
返事をしないことに不安に思ったのか震えるか細い声で名を呼んでくれます。
無理です。無視なんて出来ません!
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宿に戻ってきて今後の狩り内容を話し合おうと話題提起したら無視された件。
ねえ! なんで? 俺が悪いの? 嫌われたの?
なにが悪かったんだ? 卵? スケルトンエッグか? スケルトンエッグなのか?
嫌われ……きら……。泣いていい? 好きな人出来てるし、嫌われるし、で泣いていい?
落ち着こう。うん。餅つこう。臼と杵を交換して。うん。
きっと聞こえなかっただけだよ。うん。
「カ、カピュア…? 」
いつも通りに言ったつもりだったが、実際はいつもよりも小さな声で蚊の鳴くような声だ。ついでに震えている。
「ど、どうかしましたか? 」
なんだ。聞こえてなかっただけっぽい?
安心したよ。
「いや、明日からはサルを狩るのでいいかって聞いたんだが……」
「そうですね。そうしましょう。
それとイッセイ、先にお風呂入ってきていいですよ。私はあまり動いていませんので。」
「そういうことなら先に入ってくるな。」
俺はすんなりと聞き入れて浴室に向かう。
良かった。気遣いのできるいつものカピュアだね。ここでカピュアが先どうぞみたいなこと言うべきかもしれないけど、それで嫌われたくないからね。
そしてシャワーを浴びる。
最近俺は浴槽に浸かっていない。何故ならばカピュアの浸かったもの又は俺が浸かったものにカピュアが浸かる事ができるか? 答えは否だ。
つまりはそういうことだ。
小さな滝のような水を浴びながら、考える。
そもそも蒼が1週間とか短い期間でしろって言うのが悪い (責任転嫁)。もっと1ヶ月とかにしてくれないと。
それで、最終日になると1年にしてないのが悪い。って言うんですね分かります。
でもまぁ、確かにビビってばかりじゃ進まないよな。直接思いを伝えなきゃな。
……でもなぁ。うーん。出来たらやるの精神 (しない時の言い方)でいようかな。
いや、うん。当たって爆散しよう。
……滅びること前提なんだ…。砕けないんだ…。
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イッセイがお風呂から出てきます。
「隣座るぞ」
私はどうぞと答えて横に座ってもらいます。
「あー、カピュア。言いたいことがあるんだがいいか? 」
少し口籠もりつつ私に聞いてきます。
「なんですか? 」
イッセイの方を向いて見つめようとすると、そっぽを向いてしまいます。
「なにか言っても笑わないよな? 」
その状態のまま、小さな声で変なことを聞いてきます。
「イッセイがふざけないのなら笑いませんよ」
「ふざけると笑うのか。
えー、あー。まぁなんて言うんだ。その……」
深く息を吸い込んで私と向き合います。
イッセイの顔を見ようとしていたので、目があってしまいます。
咄嗟に逸らそうとしますが、せっかく向き合ってくれたイッセイに迷惑がかからないように見つめます。
そしてイッセイは目を閉じて軽く俯き、祈るようにして言います。
「カピュア、好きだ! 」




