四十九話 知りたい
かなり前に書いてたから記憶があやふや……。
目が覚めても夢でした。なんてことはなくて私の手はないままだし、異世界にきたこと全部が夢ってこともなかった。
もちろん一成とフェルが付き合ってもない。
これ、私が邪魔してるんだ。
手伝うって言ったのに邪魔ばっかりする私にイライラする。
「蒼、右手ないの不便だろ。手伝おうか? 」
「……一成、私がなんで怒ってるか分かる? 」
ストレスが溜まってるから自然とこんなのになってしまう。
「蒼が怒ってから気づいたんだが、守りきれなかったことだよな。本当にごめん。」
「言い訳しないで! 」
気持ちとストレスが爆発して思ってもないのに言葉が口から出ていく。
「言い訳……。謝ったのに……。」
「一成はいつもなに考えてるのかわかんない目も気持ち悪いし!
オタクなとこもキモイし!
男なのに女子みたいにしてるとこみてるとウザッてなるし!
ふざけてばっかなとこも面倒くさいし! 」
あれ? 私なんでこんなこと言ってるの?
そうだ。私が居なきゃ一成もフェルも自由に恋できるんだ。私が邪魔なんだ。
でも、ただ出てくだけじゃ私も一成も納得できない。
……これで一成に嫌われたら諦められるのに……。
「ストレスでも溜まってるのか? 話を聞くぐらいならするが。」
「はぁぁ、ウッザ。一成なんかが聞いてなにになるの? 力になれるとでも思った? バッカじゃない?
いいように使ってただけなのに力になれると思うなんて笑わせないで!
あんたなんか友達じゃない! ただの荷物持ち! 」
最後の方は声を大きくして、勢いでなんとか言い終わる。
「そんな風に思われてたのか……。女子って凄いな……。」
一成は1人で呟くような大きさで言う。
ははは、もう嫌われた。
こんなところで引き返したら嫌われた意味がないよね…。
最後まで言わなきゃ…。
「あんたの顔なんてもう見たくない! 出てって! 」
一成は直ぐに部屋まで行く。
あぁ、残ろうとしないってことはやっぱり嫌われたかな。
……なんだか、目が熱くなってきたんだけど。視界も少しボヤけるし。
はぁ。あとはフェル、か……。せっかく気の合いそうだったのに。
私はフェル……カピュアの部屋まで行く。
どうか、一成と幸せになって。こんなことしかできない私の不器用なところがホントに嫌になりそう。
一度深く息を吸って、歯を食いしばって気合いを入れてからカピュアの部屋に入る。
「アオイさん、どうかしたんですか? 」
カピュアも優しいから、嫌われないと。
「どうかしたじゃない! カピュアのせいで私の手がなくなって! カピュアのせいでこんな目にあったんだから! 邪魔な一成と一緒に出てって! 」
「その、アオイさん……。な――」
「とにかく出てって! 」
カピュアも素直に部屋のものを全部……文字通り全部を魔法で持って部屋から出ていく。
私、もしかして嫌われてるのかな。
部屋にこもろうかな。その方が怒ってるように見えるだろうし。
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あんなになっているアオイさんは初めて見ました。泣いてるなんて、なにかあったんでしょうか。
アオイさんが 「一成と」と言ってましたが、イッセイもあんなふうに言われたんでしょうか。
それなら、きっと私よりも傷ついてるはずです。私は何回も言われて慣れてますけど、イッセイは初めてでしょうし。
私が励ましてあげないといけませんよね。
私は忍者のように静かに歩いて、イッセイの部屋の前まで行きます。
後ろからドアが開いて歩いていく音が聞こえます。
もう出ていったと思ったんでしょうか。
……それよりもイッセイです。
やっぱり、部屋に入らないほうがいいですよね。
私はドアに背中を預けて、ノックをします。
「イッセイ、聞こえますか? 」
「あぁ、聞こえるが。どうかしたのか? 」
イッセイの声はとても落ち着いているように聞こえます。
ですが辛いのを我慢しているんですよね。
「イッセイは、これからどうするんですか? 」
「これから?
あぁ、俺一人なら少ない稼ぎで生活できるからな。底辺冒険者として生きていくつもりだが。」
イッセイ。辛いのは分かります。ですが、そんな時こそ誰かと一緒にいないといけませんよ。
「そこに私もついていってもいいですか? 」
「いや辞めた方がいい。俺はカピュアを守れない。実際、蒼を守りきれなかった。前衛であるのにだ。
諦め…ではないが、俺よりも強くちゃんと守ってくれる人なんていくらでもいる。そんな人とパーティを組んでくれ。
所詮は一般人の…一般人以下の俺だ。選ばれし者でも勇者でも英雄でもない。
悪いことは言わない。そんなやつと同じパーティなんてやめておけ。」
イッセイ……。卑屈になって、自己嫌悪に陥ってます。アオイさんに言われて相当ショックだったんですね。
「……イッセイ、私は人を励ますいい言葉を知りません。なので思っていることを素直に言います。
イッセイが守れないなんて思いません。」
「これが俺以外の人なら当てはまったんだろうな。だが、俺の場合は何も違わない。俺は弱い、ただそれだけだ。」
「どこが弱いんですか。一人でバキッキールを倒したじゃないですか。なにがそんなにイッセイの自信をなくす原因になってるんですか。」
「あれは単なる偶然だ。読みが当たったのと、蒼とカピュアの助力……いや、主力あってこそだ。」
すこし話しますが、大地のような安心しきれる声から少しも揺らぎません。
「そんなこと無いです。私は知ってますよ、イッセイが強いってことは。」
私を巡って起きた決闘も、自分から強い敵に向かっていく。
少なくとも私はそんなこと出来ません。イッセイは強いんです。
「あまりこんなことを言いたくはないが、あって数週間で分かるのか? 」
「それは、私がイッセイのことを知らないって言うんですか?
……確かに何も知りません。ですが、イッセイが優しいことは知っています。その優しさを自分に向けてください。」
「俺は優しくなんてない。極度に自分の利益を優先するだけだ。自分勝手な人についてくる必要は無い。」
自分勝手なんて。私の方が自分勝手ですよ。頼まれもしないで勝手に励ましてるんですから。
「確かにイッセイは自分勝手かもしれません。」
「そうだ。俺は自分勝手だ。そんな性格の悪い俺についてくる必要はない。」
「確かにイッセイは性格が悪いかもしれません。」
「かもじゃない。悪いんだ。」
「そんなこと、私には分かりません。出会って数週間しか経ってませんから。」
私の言葉で、息を飲むような音が聞こえます。
「なら、そいつにそこまで尽くしてやる義理はない。」
ここまで話すことで少し声が揺らぎ始めます。
「ですが、私は一生懸命知ろうとしてます。アオイさんに聞いて、イッセイの行動をよく見て……。それでも足りないって言うんですか! 」
感情が昂ってしまった私は自然と声が大きくなります。
なにが好きなのか、どんなことをする時にどんな風になるのか、一生懸命探していますよ。
それ以前に、イッセイのことを目で追ってしまいますが…。
「そうだったのか。」
「それでも知らないって言うなら、イッセイから教えてくださいよ! 知らない分からないって言って突き放そうとするなら、ちゃんと教えてください!
それでもダメって言うなら、納得できる理由を教えてください! 」
少しの沈黙の後、揺らがなくなった声が聞こえます。
「なら、俺といると不幸になる。俺と居れば傷つくのはカピュア自身だ。」
「知らないって言ったあとは、今度は不幸になるって言うんですか!
不幸か幸福か、誰が決めるんです? そんなの私が決めるに決まってるじゃないですか!
私にとって、1番の不幸は……。」
声を大にして言うのは少し恥ずかしいです。ですが、これが私にできる唯一の方法ですから。
「1番の不幸はこのパーティを失って、イッセイと居られなくなることです! 」
耳をすませなければ聞こえないほど小さな、それこそ蚊の鳴くような声を漏らす音が聞こえます。
しばらく沈黙が続きます。
その空気をイッセイが破ります。
「俺がいてもいいのか? 好きな人に勘違いされるだろ? 」
イッセイはそんなことの心配をしてたんですか。
私の好きな人はイッセイですよ。あんなに分かりやすく言ってたのに気づかなかったんですか?
「大丈夫です。イッセイがいてくれると私も嬉しいですから。
……それよりも、その……。
あれだけ言っておきながら不安なんですけど、私邪魔になっていませんか? 」
私が勇気を出して聞くと、部屋から小さな笑い声が耳に届きます。
酷いですよ。私は本気で悩んでるんですよ?
「扉を開けてもいいか? 」
「えっ? あ、はい。いいですよ。」
一瞬頭が真っ白になりかけましたが、慌ててもたれるのをやめてドアに向き直ります。
ドアが半分まで開いたところでイッセイは口を開きます。
「逆に聞こう。俺が1人で生きていけると思うか? 」
なんででしょう。弓の弦のように張りつめていた空気が一気に緩んだ気がします。
軽く解説しておくと、手が無くなったことで蒼は混乱しております。なのでおかしなことを言っております。




