三十五話 サッキキール2
大きなサルの影は周りの木をなぎ倒して動く。
この辺に住んでいる大きな魔物のサイズ感おかしくないです? 木をなぎ倒してばっかりじゃ森林減少が起きるよ? 地球温暖化進むよ?
まぁ、戦う時に巨大化っていうのも考えられるけど……。
いやいやいや、そんなことを考えてる場合じゃない!
まず大剣を宝石に交換して、動きやすくする。そして、カピュアの手をとり、しっかりと指を絡ませる。
俗に言う 【恋人繋ぎ】だろうか。
「えっ? ちょっと、どうしたんですかイッセイ。」
「これで魔力を少しでも吸い取ってくれ。」
恥ずかしいけど、そんなこと気にしてる場合じゃない。
これは下手すれば……いや、上手くしないと死ぬ。
巨腕によるなぎ払いが左から迫ってくる。
これはどうすれば! 見極めろ。見極めろ。
腕を振る。
腕ならあそこが一番安全なはず!
かなり強引にカピュアを引っ張って走り出す。
全力で走るが、カピュアが目標地点に間に合いそうにない。
強引なのは俺のキャラじゃないんだけど!
振り返った状態で後ろに飛びながら、精一杯腕を引く。
カピュアのスレスレを大きな腕が通っていく。
俺が下敷きになることで、着地時の衝撃は和らげる。
カピュアは直ぐに横に転がり仰向けで休んでいる。
「悪い。痛かったよな。」
なんとかなぎ払いを避けられた。
仰向けになって倒れているままのカピュアの手を握って起こす。
カピュアは先程より息も絶え絶えになっている。
俺がいくら遅いからって、女子を引っ張るとそうなるよね。
恋人繋ぎ状態で引っ張ったから腕も痛いだろうし。
「だ、大丈夫ですよ。わ、私一人じゃ、逃げられませんでしたから。」
呼吸を整えながら言ってくる。そして、手を差し伸べてくる。
「魔力を吸収します。」
「あぁ。分かった。」
俺が手を握ると、しっかりと握り返してくる。
「この手を離さないでくださいね。」
「俺からは離さないが、痛くなったら離してくれてもいいんだぞ? 」
「分かりました。」
俺は一つ気になることが出来たので、聞いてみる。
「氷魔法や特級魔法の発動方法を教えてくれ。」
「氷魔法は火属性の温かいものがヒンヤリとしたイメージ。強い魔法はたくさんの魔力を込めて詠唱です。」
「把握。 『温度低下』」
俺は氷基礎魔法を発動してみる。
手の周りの温度が少し下がった程度だが、使えることは確かめられた。
大ザルは俺たちを見失っているようで、攻撃が飛んでこない。
なら、あの方法とか使えるかな? かなりお互いにやってみないとできるか分からないけど。
「カピュア。今から氷魔法を使うんだが、その間の護衛と魔力を吸い取って貰ってもいいか? 」
「もちろんです。」
俺たちが一段落ついたところで、大ザルは俺たちに直接攻撃するのを諦め、しらみ潰しに木々をなぎ倒して攻撃しようとしている。
「早速来たか。サッキキールの対処は任せるぞ。」
カピュアが頷いたのを確認し、詠唱を始める。
「全てを凍らせろ。皆に恐れられる魔女の力でここを永久凍土にし、民にその力を見せつけよ。恐れ戦き我に従え――」
俺たちの方になぎ払いがやってきている。
まぁ動きは遅いし、よく見てれば避けられないことはないかな。
見てから回避余裕でした (笑)パターンかな?
まぁ、動きが遅いぐらいしか弱点が見えないんだけどね。
なぎ払いが何度も繰り返され、辺り一帯の見通しがかなり良くなった。
俺たちは倒された木々に身を潜めている。
「これは、蒼の出番かもな。」
詠唱を寸止めした状態で話す。
この、魔力を腕に込めた状態のままなら発動できるよね? 不安になってきたんだけど。
「カピュア、蒼とテレパシーとか出来ないか? 」
「できますよ。ですが私を経由して話すのは伝わりにくいと思いますから、二人を直接繋ぎますね。強く考えると相手に伝わります。」
脳にちょっとしたノイズが走るような感覚になった後、蒼の声が聞こえる。
『これ、一成とフェル大丈夫かな。』
こ、これは……。あの伝説の台詞を使えるじゃないですかヤダー。
『大丈夫だ。問題ないな。』
『待って? ! なんで一成の声が聞こえるの? ! 』
『この状況でのツッコミ……。さすがだな。』
こんな驚くべき状態でツッコむのは俺と長年過ごしたことによる弊害かな。
『そんなふざけてる場合なの? すごい音が聞こえたけど。』
『あぁ、大猿がちょっと暴れて木々をなぎ倒して、絶賛隠密行動中なだけで、特に問題ないな。』
この隠密行動……。なんか主人公ヘビのゲームやってる気分。ヘビ! ヘビ〜!
『それ大丈夫じゃないじゃん! 』
『それよりも、音がした方向に近づいてくれるか? 』
蒼と会話してるといっつも話が脱線するんだよね。
脱線した先でも脱線して別路線に切り替えするレベル。
『なんで? 結構こっちも危ないんだけど。』
『ここで助けてくれないと、森林に二人の死体が並ぶことになるがいいのか? 』
――速報です。
とある街の近くの森で、若い男女の心中とみられる死体が発見されました。男性は初心者冒険者と思われ、身の丈に合わない魔物に挑んだところ、返り討ちにあったようです。
……こんなことを速報にするなよ! 天使の死は速報するべきだけど!
『待って? そんなに危険なの? 』
『当たれば死ぬ危険しかないな。それよりも銃をスナイパーに変えて大ザルを狙ってくれ。スコープは付けるな。後は単発式のボルトアクションよりも複数回撃てるセミオートにしてくれ。
頭とかに当たらなくていい。俺が魔法を使ったら、どこかに当ててくれさえすればいいからな? 』
俺はふざけるのと真剣なのを切り替えて説明する。
『分かったけど。全部当たらなかったらどうするの。』
『それは案があるから安心してくれ。スナイパーの弾の予備があるならリロードして攻撃してくれ。ない場合は自分の身を最優先で行動だな。』
『分かった』
「カピュア、もう切ってくれ。」
カピュアに頼んでテレパシーを辞める。
そろそろかな。
「そろそろ魔法を使うから手を離すがいいか? 」
「私もついて行きますよ。イッセイは空間転移が出来ないんですから。」
「そうか。任せたぞ。」
俺はなるべく影を通って見つからないように移動する。しかし、木が倒れていて、上手く通れない。
移動に苦戦している間に大ザルに見つかり、左右からの手のひらに叩き潰されそうになる。
今からじゃ間に合わない!
「転移びます! 」
宣言通りに視界に映る景色が少し変化する。
正面に見える大ザルに向かって走っていると、背中で風を感じる。
怖! これが死の風だと思うと怖すぎるって!
大ザルは悔しいのか地団駄を踏む。足が地面に着くごとに地響きが鳴り響く。
俺は一撃一撃をかいくぐって進もうとするが、体が動かない。全身が痺れたような感覚があり、いくら力を込めても動けないのだ。
なんでさ。あの地団駄を踏むのに麻痺効果でもあったのかな。それとも魔法でも使われた?
どこか動ける部位がないか試してみる。
「あーあー。声は出せるのか。」
口だけは動くようだ。かといってなにかできるわけでもないが。
無抵抗の俺たちに大きな、そして絶望的な足による攻撃が迫る。
「また転移びます。」
今度は先程よりも暗い場所に転移した。
「ここはどこなんだ? 」
「バキッキールの足元です。」
バキッキールはサッキキールの進化系のようなものかな。まぁ、今は関係ないけど。
あと、足元ってことは計画通りに進められそうかな。
カピュア、お見事! 流石天使!
俺たちを見失った大ザルは攻撃の手をやめ、辺りを見渡している。
フッフッフッ。計画通り!
「魂に刻め! 永久なる氷結の運命」




