三十四話 サッキキール
森の中は草木が生い茂り、視界は良いとは言えない。
通っている道の周りはいつでも逃げられるように、なるべく枝や草を刈ったが、足元が悪いので逃げられるかは多少不安が残る。
少し歩くと、サルのような鳴き声がうるさく響く。
あー、鳴きたい放題鳴いてるね。なら俺も答えて鳴こうかな。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
声にならない高めの奇声をあげる。
「待って? ! 一成は人間だよね? 」
「どうやってるんですか? その声。」
「また落ち着いたら教えるが、初心者が出すと確実に喉を壊すからオススメはしないな。」
方法としては喉を軽く閉めると声がガラガラになるから、その状態で裏声を出すことだね。地声でやると喉が痛すぎるからやめた方がいいし、この奇声を安定して出せるようになるには少しの時間かかるからね。
「というか、人の目を気にしよ! 」
「生まれてこの方16年、人の目なんか気にしたことないんでな。」
あ、待って? カピュアって神兼天使じゃん? 人じゃないから視線が気になるかな。
「さてと、頑張りますか。」
「私は魔法の無効化以外あまり援護出来ませんから、頑張ってくださいね。」
その言葉を聞いて、最も近くのサルに向かって走り出す。
足場が悪く、木と木の間隔も狭いので速く走ることはできない。
まぁ、全力で走ってもクラス最下位の鈍足の持ち主だし、工夫しながら戦うしかないね。
俺が群れの端まで辿り着くと、後ろから押されて体勢を崩しかける。
いやいやいや、サル型だからちょっと油断怠慢してたけど、ちゃんと戦略してじゃん。
なんとか一度目の衝撃は耐えたものの、それよりも強い衝撃が二度目三度目と襲ってくる。
耐えられるわけもなく大剣を落として倒れ込む。
俺が倒れたことをトリガーとして、皆が群がって抑え込む。
抑える係と体力を削る係があるのか、引っ掻かれるような痛みが走る。
これで前衛がやられて、後衛には数の暴力と魔法で対抗……といった様子かな。
にしても、ここからどうしようかな。カピュアは自分のことで手一杯だろうし。
なにか方法は……。魔法? 単発だから打ってもあまり意味はないかな。
サル……。あの蜘蛛を参考にすると、蜘蛛毒とか生成してたね。
俺は毒生成のスキルも持ってないし……。筋力増強と交換だし……。
ん? 交換スキル? 魔力とかそこら辺の木とかから生成できないかな?
俺は残り体力からかなり余裕があると判断して、表で痛覚を刺激するようなものを探してみる。
うーん。木から交換出来るものがないなぁ。なんでかな?
目隠しの煙幕は意味ないし、催涙スプレーの気体は風がないし、そもそも粉末状で交換しても飛ばないし。
タマネギを食べさせると危険ではあるけど、こんな状況で食べるほどバカじゃないだろうし、この魔物が現代のサルと一緒なのか不明だし。
やっぱり毒とか酸とか? まぁ、ものは試しかな。
魔力と交換した弱めの毒を目の前のサッキキールにかけてみる。
サルは毒のついた足が痛いのか、跳び回っている。
【俺をいじめる会】のメンバーから退出して、奥へと逃げていった。
もうこれいじめだよね。あ、そういえばいじめのネタがあるんだった。
この戦いからかなり重症になって帰ったら、カピュアに話すんだ (逆フラグ)。
逃げた一人を補うように、新しく一匹追加される。
これは確かにやばいよ。団体になった途端に強くなるんだもん。陽キャみたいに。
まぁ、囲まれてても起き上がれたら何とかなりそうかな。ならアレがあるね。うん。
「燃えよ燃えよ燃えよ。我に眠る力を呼び起こし、|次なる段階へと成長せよ。 『ファイヤートラップ』」
刹那の発動だ。俺が自爆の要領で燃え、サルたちを驚かす。僅かな時間だが拘束が外れたところで転がり、 【俺を見る会】の円から外れる。
背後にいない状況を作り出した後は、ある程度長さがあって丈夫そうな枝を二本拾って二刀流をする。
よし! 枝では電撃が走らない!
……竹刀とか木剣で攻撃しろと? 絶対体力減らないよ。
サッキキールは大剣を持てないようで、地面に放置している。
とりあえずは空中からの奇襲に注意かな。
弱い毒を枝に付けて、多少なりとも戦えるようにする。
どうやら、木にはあまり影響を与えないようだ
さてと。二刀流って左腕と右腕が別々のような感覚になるんだよね (中二病時代に経験済み)。まぁ、自滅さえしなければいい戦いできるかな。
サルたちは三匹以上のまとまりになって攻めてくる。
できる限り早く、そして胸か首か頭を狙う。
順手持ちで数回叩いたあと、戻して叩く時に逆手持ちにしてしっかりと強い攻撃を当てる。
これで、三分の一ぐらいは減らしたかな。
そう思い全体を一瞥するが、あまり数が減っていない。
攻撃した個体に注目して見ていると、奥まで行って戻ってきている。
あー、これ回復職いるタイプだね。ならできるだけ一撃で倒さなきゃか。
俺は表を出した後に、大剣を落とした所に向かって駆け出す。
サルたちは俺のしたい事に気づいたのか、大剣に群がって体で隠す。
ここまでは読み通りだよ? 知ってる? 戦いの基本は応用だよ? まぁ、スキルを知らない君たちには無理かもだけどね。
交換の特性を利用して、近づけるギリギリで宝石に交換。そして、宝石を順手持ちにした状態でもう一度交換する。
よし! 大剣装備完了。あとは攻撃を当てれば……。当たりさえすればいけるかな。当たりさえすれば……。
手に馴染む (あまり使ってない)武器を手にした俺は、回転斬りで距離を取ろうとする。
数匹は巻き込めたようだが、振りが遅いため避けられる者には余裕で避けられている。
やっぱり厳しいよね。まぁ、邪眼とのコンボで何とかなりそうだけど。
「重力の監獄に閉じ込めよ。我は摂理をも操る闇魔法の遣い手。汝、抗うべからず。力ありし者に反抗すれば、苦痛しむのみ。何も残せずに灰燼に帰す。されば、留まり楽に死せ。 『重圧の邪眼』」
一度に全てのサルを視界に収めることは出来ないが、それでもかなりの数を捉える。
魔法の対象に選択されたサルは、一斉に同じ方向に逃げ始める。
あれ? 急に戦略が消えた? なんでだろう? そんなに邪眼は警戒されるの? まぁ、背中を向けてくれるなら倒しやすくはなるけど。
逃げるサルを追って進んでいく。迷子にならないように大剣は地面に痕をつけながら走る。
半数近く倒せたかという所で、俺はふと冷静になる。
あ。やばい。これは罠だ! (嘘だァ! (ふざける余裕はある模様))
気づいた時にはもう遅い。
振り返ってみると、遅れてカピュアが走ってきている。
やばいやばいやばいやばいやばい。
あれだけ動いたから、疲労感も溜まってきているし、ステータス的な体力も、シャトルラン的な体力も減ってきてるし。
「ここまで来て大丈夫なんですか? 」
カピュアが肩で息をしながら聞いてくる。
「いや、全くだな。あと魔力はどれくらいだ? 」
これでほとんどなければいるであろう強敵に勝てないよ?
「中級魔法二発分ぐらいです。」
それはかなりまずいかな。
俺の予感は的中し、大きなサルのような影が見える。
なんでこんな時に直感スキルは発動しないんですかね。




