二十七話 訳あり物件
そういえばこれをイトチエタって略すと、
例のウェブ先生でも認識できなくなった。
「イッセイ、私を取り戻してくれてありがとうございます。」
少し顔を染めつつ感謝を述べてくれる。
待って、名前呼びされたんだけど。死ぬ。死ぬかもしれない。心臓がバックーン!……バックーン!ドッカーン!!!ってなってる。
「ななんで名前呼びなんだ? ももしかして、決闘中に名前で呼んだのを根に持ってるのか? 」
少し動揺しながらなんとか質問する。
「そんなことはありませんよ。むしろ嬉しかったぐらいですから。それに、そろそろ名前で言い合ってもいいかなと思っただけです。」
ふるふると横に首を振って答える。
だから、この仕草一つ一つが可愛すぎるんだって。犯罪級の可愛さなんだって。
「なら俺も、カピュアって呼んだ方がいいか? 」
よし! 名前を言う前に少し恥ずかしさで止まったけど、バレてないはず……。
そう言うと、満面の笑みで
「はい。よろしくお願いしますね。イッセイ。」
と言ってくれる。
ぐはぁぁ。待って。いつもの癖の首振りや痙攣を抑えるのってこんなに難しいの?
体が条件性脊髄反射 (ただの条件反射)によって地面につくばって、頭を下げること。俗に言う土下座の体勢をとろうとするのを理性で必死に阻止する。
「改めてよろしくな、カピュア。」
二回目 (実質三度目)でもなかなかに恥ずかしい。
「まぁ、なんだかんだで良かったじゃん。
フェル、私も 【あおっち】とか 【あおみん】とか 【あおるん】とか 【くじょっち】とか 【あおまる】とか 【あーさん】とか 【あい】とか 【くーさん】とか 【あいみん】とか 【あおのん】とか 【あおあお】とかって呼んでいいよ。」
なにそのあだ名のオンパレード? 全部蒼のあだ名なの?
「なら、アオイさんで。」
「待って、私だけさん付け? ! 」
「いじってもいいって判断されたんだろ。それに、 【ウォールアオイ】とか 【まな板】とか忘れてないか? 」
あ、これ説教されるいじり方だった。
・・・ちゃんと後で謝っとこ。
「一成。あとで説教ね。」
「説教できる語彙力があるのか疑問だがな。」
ここで説教されるということを認めたくないんだよね。カピュアの前だし……。
「そうかもしれませんが、女の子のコンプレックスを口に出してからかうように言うのはダメですよ。」
「はい。ごめんなさい。」
俺は謎の強制力を感じ、敬語で頭を下げて蒼に謝る。
「待って! 私の時は意地張ってたのに、なんでフェルの時はちゃんとしてるの? ! 」
「何故かとてつもない強制力を感じたんだ。しないととてつもなく後悔するような……。そんな感じだったんだ。」
そう。それは赤いあの刻印のような。そんなレベルの強制力だったね。あの神父がいっぱい持ってるアレ。
それに俺の直感が合わさった感じかな。
そんな会話の中、ふとカピュアが口を開く。
「それはそうと、私、イッセイと一緒に住みたいです。」
突然の発言に俺たち二人は思考が停止する。
沈黙したことによって、カピュアが顔を赤くして慌てて補足する。
「いや、その、へ、変な意味とかじゃないですよ! パーティメンバーとして、一緒に住んでいると狩りとかに行くのに便利かなーって思っただけですよ! 他に意味なんてありませんから! 本当ですよ! 」
身振り手振りで一生懸命否定している。
「それは分かったんだが、疑いの声も上がっていないのにそこまで否定されると、逆に怪しく見えてくるんだが。」
「一成の言う通りかも。そんなに慌ててたら疑いたくなるよ。」
二人の注意を受けて、カピュアがしょぼんとする。
「じゃあ、このまま私一人で――」
いや待って。一人暮らししてるの? こんな美少女が一人暮らしなんて危なすぎるよ。守らなきゃ! (急な使命感)
「まぁ、あの宿は気に入ってはいるが、少し広いところに住みたかったしな。変えてもいいかもな。」
「それもそっか。じゃあ一成が探すなら私はいいけど。それと、泊まる時のお金も一成が頑張るならいいよ。」
ついでに言えば、蒼がうるさくなければいいんだけど。
あー、一軒家とか借りられたら良さそうだなぁ。
「条件がほとんど俺が頑張ることになっているんだが? 」
「でも、良かったですよ。これで一緒に住めそうじゃないですか。」
「とりあえずはいろんな所を巡って気に入るところを探すとするか。」
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一軒家とまではいかなかったが、二階があるかなり広くて安いところに泊まることが出来た。
ベッドは二階に二つ、一階に一つある。
なんでこんなに安いの? 前回よりも普通にいい所なのに、値段自体は1.2倍程しか上がってないし……。
もしかして訳あり物件だったりする?
それよりもここまで条件に合うことに恐怖を感じるんだけど。
とりあえず夜が来たので、寝ることにした。
気がつくと知らない場所で立っていた。
あー、夢かなこれ。
確認のためにとある行動をする。
うん。夢だねこれ。
辺りを見渡すと、真っ黒な空間の中に一人の女性がいる。
夢で女性……。サキュバスだねこれ。少なくとも現実世界と同じなら。
サキュバス (仮)は俺に気がつくと、近寄ってくる。
かなり乱れた服装の美人というのが適切な容姿だ。
ごめん。カピュアの方がよっぽど可愛い。それにサキュバスの本体は醜い老婆ってことも知ってるし。この世界は違うかもだけど。とりあえずはカピュアの……二人のことが心配だし、早く夢から覚めないといけないんだけど。前にネットで見た方法でも試してみよっと。
俺は思いっきり目を閉じて、力強く一気に目を開ける。
すると、見慣れた天井がある。
ふぅ、とりあえずは二階に行ってみないと。
そして二階に行くと、二人のうなされる声が聞こえている。
どちらかが悪夢を見ているか、二人ともインキュバスが夢に出ているかのどっちかな。
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気がつくと真っ黒なところに立っていました。
ここ、どこですか? まさか連れ去られたり……なんてありませんよね。アオイさんならともかく、私は可愛くないですから。
見渡してみると、男の人を見つけます。
「あの、ここってどこですか? 」
近寄って声をかけてみます。
男の人はイケメン?っていうのでしょうか。そんな整った顔をしています。
はぁ、心配です。私がこんな状況になっているのなら、アオイさんだってこうなっているはずですし。
もしかしたらイッセイも連れ去られてるかもですし。
私が考えていると、男の人は返事もせずに押し倒してきます。
なんで、こんなことになっているんですか? それ以前に、聞かれて返事をしないってどうなってるんですか!
「お前、案外可愛い顔してんな。」
「なんなんですか急に! 聞かれたことはちゃんと答えないとダメですよ。」
上に乗っかってきた男の人を手で押し返しますが、全く遠くなりません。それどころか近づいてきます。
「それに初対面なのにこんなことして。怒りますよ。」
押し倒されるならイッセイが良かったです。なんて、言ってみたいですね。
「怒った顔も可愛いじゃねぇか。」
「からかわないでください! 離れないと魔法をうちますよ。」
「血の気の多い女も嫌いじゃないな。」
私は真剣に受け取らない男の人に水の塊を当てようとしますが、魔法が発動しません。
「な、なんで使えないんですか……。」
「そんなこと言わずに楽しもうぜ。」
男の人は私の服に手をかけて、脱がそうとさせてきます。
なんなんですか、この人は。嫌です。こんな人に脱がされるなんて。
「い、嫌です。やめてください。」
私は手足をばたつかせて必死に抵抗しますが、男の人の腕で抑え込まれてしまいます。
「嫌です。嫌です。こんな人となんて。」
「こんななんて言うなよ。俺だって案外モテるんだぜ。」
私は一生懸命魔法を使います。
もしかしたら、水魔法無効化とかだったのかも知れません。なら全属性で攻撃したらいけますよね?
突如、何かに押されたように男の人が後ろに下がります。
やっぱり全属性なら効くんですね。
私は立ち上がって男の人に手の平を突き出します。
「これ以上乱暴するなら、精一杯魔法をうちますよ。」
すると、男の人はボヤけてどこかに消えてしまいます。
私がほっとしていると、急に頭がぼんやりとして気づいたら私のベッドの上で寝ていました。体が揺すられています。
あれは夢だったみたいですね。
「大丈夫だったか? 」
一番見たかった顔が、覗き込んできます。
「イッセイ。男の人に乱暴される夢を見ていました。助けてくれてありがとうございます。」
「多分インキュバスだな。俺もサキュバスらしいものが夢に出てきたからな。まぁ、無理やり夢を覚まして来たけどな。」
イッセイは夢から自力で起きてきたんですね。流石です。
「なら、アオイさんも危ないですね。私が夢魔法で起こしましょうか? 」
「あぁ、頼む。サキュバスならともかく、女子はインキュバスだからな。真っ先に俺が疑われる事件が起きてしまうからな。」
インキュバスってことは子供ができてしまいますね。確かに男性のイッセイが疑われますけど、私を助けてくれたイッセイはそんなことしませんね。
「大丈夫ですよ。私は何があってもイッセイの味方ですから。」
「そう言ってくれるとありがたいな。」
私が夢魔法で起こした後は、アオイさんが 「ほんとにありがとう」って言いながら抱きついてきました。
これでイトチエタって打ったせいで先生の検索結果に引っかかるようになってしまった!!




