二十三話 三人の食事
フリートさんの料理が完成したようなので、俺たちは会話を辞める。
ここまでお肉のいい匂いが漂ってきている。
「うわぁ、なにこそ匂い。早く食べたい。」
「いくら自分で作れないからってそう慌てるな。落ち着いて生活しないから失敗ばっかりするんだろ。」
注意したけど、俺も我慢出来そうにないなぁ。だって今日食べたものって蒼の毒物を一口だけだし。もしかしたら寝ている間にも……。いや、あれを食べものと言うのはダメだから、実質なにも食べてないし。
「いや、一成は落ち着いてるのにミスしてるじゃん。特にスナップボタンとか絶対そうじゃん。」
「あれはそういう体質だから仕方ないんだ。スナップボタンの裏表を間違えるっていう一種の呪いかなんかだろあれ。」
ということは、呪い返しとかすれば間違えなくなるのね。
「自分のミスを呪いや体質のせいにするのはどうなの? ! 」
「ほら、料理が来るから騒ぐな。行儀の悪い女子だと思われるぞ。」
フリートさんがお皿を持っていることを確認して、蒼を黙らせる。
仕方ないね。フリートさんのためだから。美味しそうに食べないと、また不安になってしまうだろうし。
それに食事中に騒ぐと窒息する可能性だってあるし。
机に載せられたお皿には、匂いが嗅覚に直接殴り込みにきている原因のじっくりと煮込まれたであろうお肉と、じゃがいもがある。
「フリートさん、一つ質問していいか? 」
「え、あ、はい。なにか失敗してましたか? 」
早速不安げな表情になった。
だから誰だよ! こんな不安にさせてるやつ。はやくフリートさんに告白しろよ!
というか、早すぎるフラグ回収では?
「見た目でそれは分からないだろ。それより、どうやって煮込んだんだ? 鍋はなかったはずだが。」
まさか、フライパンで? どれだけ大変だったの? 継ぎ足し回数も多くなるだろうし、すぐに熱くなりすぎるから温度調節も大変だし。
というか、ちょくちょく匂いが思考の邪魔してきてる。なにこのトラップ。蒼とか引っかかりそう。
「はい。鍋はなかったです。なので、水魔法で創った水を空間魔法で隔絶して、その状態で火魔法で温めて煮込みました。あぁ、そういえば一日漬けて置かなきゃいけなかったので、時魔法で時間を加速もさせましたね。」
なんてことないように言う。
「凄いな。俺なんて一種類の発動ですら出来ないのに、四種類同時発動なんて。」
「いえいえ。頑張れば全属性同時発動だって出来ますから。こんなのは簡単ですよ。」
うん。桁が違いました。全属性は星の数ほどあるとか書いてたのに、それを同時とか無理です。一桁で凄いと思ってた自分が小さく思えてきました。あの本にだって二種同時発動でさえ脳二つ分ぐらい頭使うって書いてたのに……。ん? 無理じゃない?
……あの本の信頼度が地に落ちた瞬間であった。ついでにあれを渡した神も……。
「先生、さすがだ……です。」
あまりの凄さに謎の敬語になっている俺の言葉にはにかみながら、フリートさんは言う。
「ありがとうございます。料理が冷めないうちに食べてください。」
俺は小さく手を合わせて挨拶をした後、俺たち三人は料理にありつく。
一口食べて美味しい。もうこれ以外の表現が出来ないほど美味しい。
いや、確かに具体的に言おうとすれば言えるんだけど、それじゃない感がするっていうか、その表現では生ぬるい感が出てしまうんだよね。
口入れた瞬間にお肉が溶けるように無くなって、全く噛む必要がないとかできるけど、この言葉にすることで、この程度のただ一つに決まってしまうからね。
俺と蒼は何も言わずにひたすら食べ続ける。
お皿に載っていたものを全て食べ終えた頃、蒼が感想を言う。
「これどうやって作ったの? めっちゃ美味しい。」
「そうだな。多少自信がある程度で済ませていい腕前じゃない。そこら辺のレストラン以上の美味しさだな。」
蒼が褒めたのに便乗して褒める。
「ありがとうございます。頑張ったかいがありました。」
「これのお代わりってある? 」
「ありますよ。アサギリさんも食べますか? 」
フリートさんが俺のお皿を取りながら聞いてくる。
あの、手と手が当たってるんです。ドキッとするからもっと続けてください。嬉しいので。
「いや、俺はおなかいっぱいだからいい。」
「案外少食なんですね。私も十分ですから、クジョウさん、全部食べていいですよ。」
フリートさんが空間魔法で蒼のお皿に先程の料理を盛る。
「あんまり食べ過ぎると太るぞ。まぁ、蒼には関係ないだろうが。」
「こっちに来てからよく動いているからいいの! 」
蒼曰く、食べる分動いているからプラマイゼロ……むしろ、マイナスらしい。銃撃つだけなのに?
「そういえばお二人はどこから来たんですか? 聞いてませんでしたし。」
「信じてくれるなら異世界。信じてくれないのなら西の国。」
異世界定番の西の国って言っておけばなんとかなる定期。
「異世界……もしかして、選ばれし者。略して選ばれし者ですか? 」
「選ばれし者が何かも分からないし、どこをどう略したらそうなるのか分からないが、少なくとも選ばれし者の自覚はないな。」
蒼は食べるのに夢中で、話を聞いていない。
暴食キャラとして売っていくのかな?
「選ばれし者っていうのは、はるか昔、この国を救った英雄が 「世界の平穏が崩れし時、選ばれし者を派遣する。」って言葉を残しているんです。そこから、異世界から来たっていう人は選ばれし者と呼ばれるんです。」
「その選ばれし者ってのはチートスキルやありえないステータスを持ってたりするか? 」
「はい。世界を救う力を持っているとされていますね。」
世界を救う力……死に戻りとか? いやでも、全属性同時発動とかのフリートさんの方がものすごくなろうなろうしてるし。
「なら俺じゃないな。弱いスキルしか持ってないし、魔力だけはなろう系主人公ほどある割に全く魔法は使えないからな。なんなら、前のスメイト? だっけか。あいつの方が選ばれし者なんじゃないのか? 」
「スメイトさんは違いますよ。どちらかと言えば、レイリさんの……いえ、なんでもないです。」
「そのレイリってやつが気になるんだが。」
レイリ……どっかで聞いた事あるんだよなぁ。あー、温和怜悧だね。なんだそれなら偶然か……。もし現代人だとしたら、自分で怜悧……つまり賢いっていう自意識過剰になるからね。親なら賢くなって欲しいで伝わるだろうけど。そもそもこの四字熟語この世界にあるの?
いや、実名説もある? いや、そんな名前の人今まで会ったことないからいるはずない。 (意図的な決めつけ。)そもそも、会った会ってないは陰キャの俺のは当てにならないし。
「レイリさんは、一対一でなんとか私に勝つぐらいですから、選ばれし者ではありませんよ。選ばれし者ものなら私を相手に一瞬で勝敗をつけないといけませんよ。」
「自分のことを最弱として、自己を肯定している俺が言うのもなんだが、フリートさんは自己評価低すぎないか? 」
俺が言える立場じゃないね。みんなは俺はこいつより強い。こいつよりは弱い。って判断してるけど、俺は全てより弱いって肯定することによって、自分というものを認識しているからね。
まぁ、そうやって考えることで全てが強敵になるから、強敵相手にも暴れられるし、弱敵相手にも傲慢にならなくて済むし。
「そんなことありませんよ。全盛期は分かりませんが、今の私はものすごく弱いですから。」
「それなら、それと同じくらいのスメイトの格下のあの二人にも勝てる気がしない俺はどれだけ弱いんだ? 」
「大丈夫です。アサギリさんはこれから凄く成長します。私が保証します! もちろん、クジョウさんだってそうですよ。」
ずっともぐもぐしていた蒼は、一度口の中のものをゴックンしてから話す。
よく出来ました。よしよし。躾がちゃんと出来てるね。さすがの親。
「フェルだって十分強いと思うけど……。まぁ、ありがとう。私も頑張るね。一成も期待に応えなきゃね? ね? 」
蒼が静かに圧をかけてくる。
この程度の圧で屈する俺じゃないんだけどさ、どうするのが正解?
「まぁ、蒼よりは強くなろうとは思うな。これ以上蒼に敷かれなくないからな。」
「えっ? そうなんですか? クジョウさん。人を敷くのはダメですよ。」
フリートさんが俺の発言で蒼を諭すように言う。
なんか、最近フリートさんが優しいなぁ。軽く焦げそうな程に……。
「敷いてないし、敷かない! 」
「見つけたら注意しますよ? それと、クジョウさんとアサギリさんはどんな関係なんですか? 」
軽く蒼を脅して? 話題を変える。
なんだろう。俺と同じくらい脈絡掴めてないよ。
「どんな関係って言われてもな――」
「どんな関係って言われても――」
ここまでのタイミングが重なり、
「「ただの幼なじみ」だが。」
ただの幼なじみが完璧にハモる。
なんか、息ピッタリみたいな感じで嫌だなぁ。よし、いらないこと言おう。
「まぁ、蒼が俺のことを本当に対等の幼なじみで思っているかは知らないがな。もしかしたら都合のいい男みたいに思ってるかもしれないしな。」
「そうなんですか。」
フリートさんはほっと一息。
なんでかな。ココア飲みたくなってきた。
それに、この一息は多分、恋人関係とかにあると、空気が気まずいとかそんな感じだろうね。
「なら、なんで一緒に冒険者をしているんですか? 」
「いや、なんか成り行きで。」
「そうなんだよな。無理矢理ここまで移動させられてな。しかも力の弱い俺は狙ったのか大剣を使わせられるしな。」
蒼の足りない説明を俺が補う。
「それは大変でしたね。」
「まぁ、今は生活出来ているからいいんだけどな。」
「ポジティブでいいですね。」
「まぁ、諦観は俺の得意分野だからな。」
「ていかん? なにそれ? 」
蒼の知識不足を再認した日だった。




