2■話 ■■対□□
「勇者様。なにか来ます。」
そういって仲間の一人が、金髪の勇者に知らせる。
「知らせたところでなにかあるわけじゃないけどな。」
勇者の後ろには、恒例となった黒いフードを被った男がいる。
「お前が勇者か。よくもまぁ、人を殺しているくせに崇められてるよな。」
「お前が残虐行為を繰り返すという 【魔王】か! 」
勇者は腰につけていた剣を抜き、黒い男と向き合う。
「そう言えばそんな名前で広めたな。だがな、残虐行為なのは確かだが、これでもやってる事はお前よりもいいことなんだ。」
「ふざけるのも大概にしろ! 人の命を奪って、いい事だと! 」
「いい事とは言っていないが……お前よりもいいのは確かだ。」
勇者は後ろに三人居るのを見つけ、更に警戒態勢をとる。
「俺たちに何の用だ! 」
「あんまり叫ぶなよ。うるさい。用といえば、お前たちに現実を分からせる事だな。」
「現実を分からせる? どういうことだ! 」
「体験してみろよ。」
黒い男は振り返って連れてきた三人に声をかける。
「お前ら、こいつらと戦うことになったら、一対一で戦ってやれ。危なくなったら助けに入るから安心してするんだな。」
「分かったよ。」
「承知しました。」
「ほわほわ! 」
三者三様の反応を聞いて、黒い男は勇者との戦いに備えて背中の鞘から黒い剣を抜く。
「話は戦いながらといこうか。」
勇者の反応を待つことなく黒い剣で、構えていた剣を弾く。
「さすが勇者様。スキル二つ持ちとはな。片方が悪特攻で――」
「何故それを! 」
勇者は驚いた顔をするが、魔王は冷酷に言う。
「そんなことは今は関係ない。その悪特攻は誰が考える悪なんだ? 」
「そんなことは関係ない! 」
「関係あるわ。俺は疑問に思ったことはすぐに解消しないと気が済まない性格でな。どうなんだ? 」
「そんなものは知らない! 」
勇者は魔王の言葉など聞く耳持たずと言った様子で、全てを大きな声で言い返している。
「つまり、その悪というのはお前の主観と……。勇者様は自分の意見を押し付けてんだな。」
魔王は勇者の剣に剣を押し付けて言う。
「そんなことは無い! 」
勇者は剣を押し返しながら、先程と変わらず大きな声で言い返している。しかし、それは自分に言い聞かせているようにも見える。
「なら質問だが、お前らの王は善か? 」
「そんなこと決まっているだろ! 」
「それは、人を殺していてもか? 」
「王はそんなことをしない! 」
「もしもでいい。人を殺していても善か? 」
「それは、……許されないことだ! 」
勇者と魔王は切り結びながら、会話をしている。
「なら、魔人を殺しているお前らはどうだ? 」
「それは、お前らが人に危害を加えるからだろ! 」
これは自信を持って言える様子で、少し大きな声で言い返す。
「どの口が言ってんだ。お前ら人間が先に危害を加えてんだろ。」
勇者と魔王のテンションにはかなりの温度差がある。
「…………。」
「もう一度聞く。人を殺せば悪か? 」
「そうだ! 」
「つまりは、魔人を殺すお前は 【勇者】と善の極みみたいな二つ名を持つお前は自分で悪と言うんだな? 」
「違う! これは俺に課せられた使命だ! 」
口ではそういっているが、勇者の振るう剣には迷いが宿っている。
「今のを聞いても勘づかないか……。善悪は人という生物の全体的な主観に過ぎないんだ。人に危害を加えると信じられている魔族は悪だし、それを倒す勇者は善だ。人を殺すものは、自らに危害が加わるかもしれないから悪だ。それを止めるものは、自らを助けているから善だ。
それをただ、応援してくれるから、それに適していたからって使命なんて洒落こんで厨二病こじらせてんじゃねぇ! こんの、人殺しの悪が! 」
魔王は今までの冷たさからは想像もつかない程、怒りを爆発させて、叫んでいる。
「……俺が、人殺しの悪……? 」
勇者は今までの揺さぶりと、最後の言葉で自分のことが不安になっている様子だ。
「勇者様! そんな魔族なんかの言葉に耳を傾けてはいけません。アレを発動させましょう。」
白いローブに身を包んだ魔法使いが勇者に声をかけて、安心させている。
「分かった。だが、詠唱中の援護は任せたぞ。」
「もちろんです。」
勇者は剣をしまい、手を前にかざして目を閉じる。
「この俺が、 『アフラ・マズダー』が、魔王であるお前を斬る!
人を護り、人を助け、人を育てて、人を導く――」
「護るとかそいつを下をみてんだろ。勇者様も七つの大罪犯してるとか、世も末だな。言い忘れていたが、俺は魔族の中じゃ善なんだぜ。ま、名乗っておくとするか。俺は 『アンラ・マユ』だ。絶対悪をやってるもんだ。
人を殺し、人を疑い、人を嫌い、人を憎む――」
勇者の真似して、魔王も詠唱を始める。
「魔を討ち、魔を斬り、魔を正し、魔を滅ぼす――」
「魔を助け、魔を信じ、魔を治め、魔を繁栄させる――」
「これは私がこの世界に生まれたときからの使命――」
「裏切られる前に気付くべきだった――」
「固有結界 『人が皆、幸せになれる世界』」
「固有結界 『人を殺すための単純な世界』」
白い世界が広がると同時に、重く暗い世界が白い世界を塗りつぶしていく。
「分かったか? 所詮お前は最高善だ。たかが、人の中で最も大きな善が、絶対的な悪に勝てるわけがないだろ。それに、俺に対しての悪特攻は効いてないようだしな。」
アンラはそういって、闇の縄でアフラを拘束する。
「ちょっとは見てろ。魔族たちの実力をな。」
アンラは言った後、連れてきた三人に振り返り
「戦闘開始だ。存分に暴れてやってくれ。」
と言った。
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小学低学年程の少年は、大きな盾を持った勇者のパーティメンバーと戦うことになった。
「幼い子供か……。逃げるなら逃げても良いぞ? 」
「うーん。どうしよっかな〜。やっぱり食べようかな。」
「逃げぬと言うなら斬るぞ。」
「あー、うん。出来るなら良いよ? 」
まるで、斬られるという行為を知らないような無邪気さで、返事をする。
それで覚悟を決めたのか、盾役は片手にもった短剣で少年に斬り掛かる。
「じゃあ、いただきます。あーむ。」
少年は両手を合わせて食事の挨拶をした後、何かを食べるかのように口を開いて閉じた。
少年はゆっくりと咀嚼して、飲み込む。すると、盾役は糸が切れたあやつり人形のように、突然動かなくなる。
「うーん。人生刻んでないなぁ。もっとスパイスが欲しかったのに。」
少年は味の感想を述べている。
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ほわほわ! と反応したピンク髪の少女は白ローブの魔法使いと戦っている。
「びゅーんっていってドーンからのバタッ。」
「あら、可愛らしいです。戦うのは少々心が痛みます。」
そうは言いつつも、杖を握りしめて、警戒をしているのはさすがと言ったところか。
しかし警戒していても、認識出来ないほどの速さで背中を刺され、足を斬られて動けなくなる。
「どうしてです? こんな有能なスキルで戦っているのです? 他にも使い方はあるでしょう? 」
「シュタッがキラーンとドキドキワクワクでキューってなってすっかりニコニコ。」
どうやら、魔王が輝いて見えて、それに憧れたから仲間になってみると、自分にあっていると感じたかららしい。
「そうですか。頑張ってください。」
「まる! まる! 」
そういって少女は心臓を突いた。
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「見たか? お前らは女子供を傷つけることはダメだ。とかほざいてるが、女子供と戦ってるじゃねぇか。」
「そ、それは……。」
「正義もお前らの勝手だったって事だな。それ以前にお前らは正義かどうかも怪しかったがな。おっと、ピンチになっているな。」
魔王は空間転移で最後の仲間の女性の目の前へと移動する。
転移先では、女性が剣に斬られそうになっていたため、体で女性を庇う形で転移する。
『貴様に倒す権利なし。身の程知らずは滅ぶべし。』
魔王が斬られると天から声が聞こえる。そして、魔王の体から闇が飛び出し、斬った本人へと伸びていく。
闇に触れた剣士は一瞬で体力を削られ、命をおとす。
「あーあ。魔王を倒しておけば、 【魔帝の羽衣】の効果が出なかったのにな。」
魔王……いや、魔帝は勇者の元に戻り、再び話しかける。
「なぁ、お前は俺の下に就かないか? 選ばれし者のお前は生かしておきたいからな。断るなら斬るぞ。ずっと疑問に思ってたからな。勇者にちょっかい出した時に倒さない魔王のことをな。」
「お前なんかの下には就かない! 俺は勇者だ。魔を絶つべき俺が、魔に属すなんて、許されるわけないだろ! 」
勇者は最後の足掻きか、勧誘を断る。
「そうか。せめてもの慈悲だ。苦しまないように殺してやるよ。」
魔帝はガッカリした様子で勇者の首をおとす。
血を吸った黒い剣は黒い薔薇に赤い斑点が現れている。
「吸血剣 【悔恨の剣】の用はなかったな。こいつは恨むべき対象じゃない。」
「やっぱり、さすがだなぁ。」
「優しいです。」
「ズキュン」
「おい待て、いまの変なの居たぞ。」
転移で帰るまでの最後のセリフがそれだった。
精神を乗り越えたこいつがここまで堕ちるとは……。人間世界はやっぱり恐ろしいな。
それと、記憶がないと、あそこまでバカ真面目になるんだな。




