十七話 二人のいつもの日常
ッッッ! 気絶してた? !
俺は意識の覚醒と共に気絶していたことを認識する。
「3.1415926535897932384626433832795028841971693993751058209749445923078164062862089986280348253421170679821480865132823066――」
「えっ! 待って、怖! 何してるの? ! 」
「いや、気絶してたし、身の危険がある食べ物食べたしな。頭が正常に働くか試してただけだ。気にするな。」
この辺りの自己防衛が今後の将来を決めると言っても過言ではないと思う。
「だからって急に数字を並べられても怖いって。」
数字だって? 円周率をただの数字と一緒にするなよ! 無理数だぞ! 数学者にとってはかなり魅力的な数字だぞ!
「円周率だからダメだったのか? 素数なら良かったか? 」
他のいいものってなにかあったっけ? あぁ! √2とかもいいかもしれない。
「素数でもダメ。怖い! 」
「起きる時にいまから起きるよーって言えって言う人が、寝起きすぐに円周率言って怒るなよ。」
「急に数字言われても怖いだけなんだって! 」
怖くないもの怖くないもの…………。
「いろは唄とかならいいのか? それかランダムに百人一首の読み上げならいいか? 」
「どっちもダメ! というか、一成はなんでそんな変なことに頭使ってるのに、私より点数がいいの? ! 」
「いや、他のことに常に頭を使っているから衰えないんだ。まぁ、この方法は蒼にはオススメしないが。」
この方法を蒼が実践した場合は、要らないことだけ覚えて失敗するのが、目に見えてる。
「じゃあ、どうすればいいわけ? 」
「とりあえず、問題を解きまくる。それで覚えてない所も覚える。これでいいだろ。今後、使う機会があるかは知らんが。」
異世界に来てまで勉強したくないだろうし。
「分からなかったら、また一成に教えてもらうからいいよ。」
「全然良くない。一番俺が良くない。」
「一成? あの約束忘れたの? 」
蒼が俺に挑発のような、威圧のような言い方をする。
「あー、あの不平等条約か? 」
またの名を朝条修好通商条約という。井伊直弼のせいでこんなことに……。幕府の許可なく勝手に結ぶから。
「不平等じゃないじゃん。私を手伝って貰う代わりに、女子のことを教えてあげるっていうちゃんとした約束じゃん。」
約束ごと (契約)だから、消費生活センターに行けばいいかな。もしかしたら、クーリングオフ出来るかもしれないし (約束してから二年以上経ってます。)
「その女子の生態の実態を教えるっていうやつな。思ったよりドロドロしてて聞きたくなかったんだが。」
ドロドロすぎて、ギリシャ神話か日本神話かと思ったね。あれは、浮気だの、心を痛めただの、人間らしさがよく出てる。
「大丈夫だって。中学の頃が一番怖いだけだから。まぁ、高校生になっても笑顔で嫌ってるとかはあるけど……。」
「いや、あるんだな! 女子ってなんでそんなに怖いんだ。」
「いや、一成が知らなさすぎの、いい人すぎるだけなんだって。男子でも嫌と思ってても絡んでる人なんていっぱいいるよ! 」
「いや、陽キャ怖すぎるだろ! 」
怖い怖い。人の生態がそんなんだったなんて……。
「でも、まぁ、珍しいけど、一成みたいな人もたまにいるよ。さすがに一成ほどいい人はなかなか居ないけど。」
なかなか居ないって何? 絶滅危惧種だった? 天然?
「そうなのか? 」
「そうなの! じゃあ一成は嫌いな人が居たらどうするの? 」
嫌いな人? 後輩系あざと可愛いやつ?
「嫌いな人? そんなもの滅多に居ないんだが……。もし居たとしても、関わらないから結果的に何ともならないぞ? 」
「じゃあ、イラつく人とかは! ? 」
蒼は俺を悪人にしたいのか、聞き方を変えて聞いてくる。
「そうかそうかつまり君はそういう奴だったんだな〜って考えてるが。」
これが人生でネタに極振りした者の末路……。結果的に楽しいし、いいや。
「そういう所が少ないの! 普通、イラつく人とかいるから! 」
なんか、この話終わらなさそうだし、次に繋げよ。
「この話はもういいな。今は何時だ? 」
「いや、流れどこいったの? ! 」
脈絡ないのは分かってる。だけど、逆に聞きたい。脈絡ってどうやって作るの?
「バットで吹っ飛ばした。」
「一成にそんな筋力あったんだー。」
半場諦めているような無気力なツッコミが返ってくる。
「で、今何時だ? 」
「今はちょうど三時ぐらい? 」
「食べ物で軽く五時間は気絶してることに驚きを隠せない。」
あの食べ物は、兵器かなにか? 今度から麻酔の代わりにあれ打っても使えそう。
「いや、隠せないじゃないじゃん! そんなこと言って隠す気ないじゃん! 」
「昼ごはんはどうしたんだ? 」
「まだ食べてないよ? 」
蒼はいかにも不思議といった表情をする。
なんで疑問形? なに? 食べてないことが前提だったの?
「なんで食べてないんだ。お腹すくだろ。」
「だって……一成と食べたいし……それに…………。」
顔を赤らめて、目を逸らして、小声でなにか言う。
ん? デレた? いやさすがに俺でもデレの三大要素が揃えば勘づくよ。いや、からかってるだけだこれ。
うん。こんな蒼がデレるはずもないし。
一番は本人に聞くことだね。それが手っ取り早い。
「蒼。お前、デレた? 」
「そそ、そそんなことないよ! 」
またもや動揺してるし……。
もしかしてツンデレ? いや、わかんないし、フリートさんとくっつくのを応援するとか言ってたし、からかってるだけだね。
「だよな。蒼がデレないっていう科学的根拠もあるしな。」
「待って、なんか適当なこと言ってない? ! 」
「いや、本当にあるんだなこれが。
幼いころから一緒にいる相手は恋愛対象にはならないって言うのが、本能であるんだよな。」
「意外としっかりしてた! 」
でも、これは過信は出来ないんだよね。実際、これがある中でもシスコン・ブラコンあるんだから。
「で、ご飯はどうするんだ? 」
「一成のオススメで。」
なにそのシェフに注文するような言い方。本当にオススメでいいのなら、好き勝手させて貰おう。
「なら食べなくていいか。」
「いや、一成のオススメはないの? ! 」
もんく? 俺のオススメでいいんじゃなかったの?
「いや、一食ぐらい食べなくても死にはしないから大丈夫だ。」
「お腹空くじゃん! 」
「文句言うならオススメで注文するな。蒼ならそれぐらい分かるだろ。俺がかなり極端なことぐらい。」
「もういいもん! お腹空いたら一成食べるもん。」
子供っぽく、そして分かりやすく拗ねる。
これぐらいちゃんとしてくれれば、俺でも分かるんだけどなぁ。
「拗ねるな。そして、意味不明なことを言うな。お前は人狼かなにかか。まぁ、ちょっと待ってろ。」
俺は家に残っている食材を確認する。
しかし、ほとんど残っていない。台所の方を見ると、ダークマターが量産されていた。
「蒼……料理するのはいいけど、ゴミを量産するのはやめてくれ。」
「ゴミは酷いってゴミは! 」
「間違えた。悪い――」
「そうだよ。本当に。私だって頑張ってるんだから。」
蒼は頑張っているらしいが現実を教えて上げないといけないんからなぁ。俺がその役をかってでよう。
「――バイオ兵器の間違いだったな。」
「待って、私の料理はもはや兵器なの? ! 」
待って? 今更気付いたの? 味見しなかったの?
「悪かった。せっかく自分が作った兵器をゴミ扱いされたら、それは怒るよな。」
「だーかーらー! 私は料理を作ってたの!! 」
蒼が声を荒げて言う。
うるさい。
「あんまり、大きな声を出すな。近隣の部屋の人に迷惑がかかる。」
「こうなったのは一成せいだってこと忘れてない? ! 」
蒼が再び大きな声を出して、怒っているところに扉が数回ノックされる。
「ほら、早速苦情が来たぞ。」




