十二話 一成参戦!
何故か温泉に連れられて行った後は、宿に戻って、適当にご飯食べて、寝た。そして、朝、目が覚めた。
蒼はまだ夢の世界。
うーん。最近蒼のキャラが安定してないんだよなぁ。
そもそも、なんで異世界に俺が選ばれたのか。神はまるで俺の事を知ってるかのような口ぶりだったし、だけど俺を知ってるなら、こんな陰キャでオタクな人は異世界ものにはほとんど不適切……。いや、そんなことなかった。死に戻りは引きこもり、クズで変態は引きこもりニート、なろう系のざまぁ系の主人公は大抵陰キャ……。ここまでくるとむしろ優遇されてるまであるね。
けど、俺のことを知って、それでも選んだなら、俺を心から信頼してるぐらいないと出来ないだろうし……。
うん。考えても分からない。諦めよう、答えはない。
そんなこんなをしているうちに、蒼がゴソゴソを動き出した音がする。
よし。昨日のことを活かして、このまま寝たフリをしてみよう。そしたら、昨日の注意がちゃんと分かってるかどうかが分かる! 変態キャラにならないといいなぁ。
寝たフリをしていると、蒼がベッドから出たのが分かる。足音はこちらのベッドまで近づいている。
やばい。怖い。なんか、刺されそうで。悲しみの〜って流れそうで。それか希望の花が咲きそうで。
こちらのベッドの近くまで来たあとは、躊躇うように足踏みをしている。
何がしたいの? 正直分からないんだけど。俺が女子だったらこれ分かったの?
そして、布団がめくられて、中に蒼が入ってくる。
はてなはてなはてなはてなはてな。
何この人? 寝ぼけてる?
腕が蒼の身体に当たっていて、その熱が伝わる。
やばい。この状態で蒼が起きると絶対俺が悪いことになる。よし! 必殺 『寝相が悪い』を使おう。
俺は疑われないために一度、蒼の方へ寝返りを打つ。
蒼の柔らかい部分に手が当たってるのが分かる。
すみません。柔らかい部分ってどこですか? 太もも辺り?
このままなにか起こっても嫌なので、今度は反対に寝返りを打つ。
そのまま転がり続けてベッドから落ちる。ドスッという鈍い音と共に、後ろから衝撃がくる。
痛い。背中に石のようなものが当たったし、床は硬くて、頭も痛い。
その衝撃で目が覚めたということにして、体を起こす。
ベッドを見ると、蒼の安らかな寝顔が見える。
なんでそんな人のベッドで安眠できるの? スヤァなの? お姫様なの?
起こすために布団をめくる。そこには、眩い程の光景がある。
詳しく言うと、上半身はめくれておへそが見えてるし、ズボンはズレてかなり際どいことになっている。
……よし、見なかったことにしよう。
そっと布団を戻して、窓の外を眺めながら思考を整理する。
いまの、アニメであるあるなラッキースケベってやつだろうけど、あれを楽しめるのは真なる強者だけなんだなって。だって意図せず起こるのがそれじゃん? 意図してない状態でくると、普通は罪悪感や背徳感がえげつないことになるね。
「ふぁぁ。一成、おはよ〜。」
蒼が眠そうにあくびをしながら、挨拶をしてくる。
今の、バレてないよね。バレたら殺されるどころじゃない。
「お、おはよよう。」
「そんな動揺してどうしたの? 」
「まず、自分が人のベッドに入ってることに気付こうか。」
蒼は一度自分の様子を見渡す。
「あ、ごめん。」
謝罪の言葉を述べるが、一つ引っかかるところがある。
「なんでそんな冷静でいられるんだ。」
「なんでって、あ。」
なにその、あ。って。今気付いたみたいな反応は。
「まさかとは思うが、自分の意思で入ったとかじゃないよな? 」
「違うって。そもそも一成と一緒のベッドに入る理由がないじゃん。」
慌てて布団から出て、口論しようとする。
「あんまり動かない方が……。」
「なんで! そんなに私と近づきたくないの? 」
だーかーらー、キャラを安定させて欲しい。今度は何? ツンデレラ? ヤンデレラ? クーデレラ? ガンデレラ? デレデレラ?
布団から出た蒼は、俺に近づいてくる。
「一回、自分の服装を見ろ、服装を。」
なんとか、俺の言葉で蒼は近づくのをやめて、自分をよく見る。
恥ずかしさのあまり、蒼の顔が赤く染まっていく。
ついでに少し、歯を食いしばっている。
なんだろう。ゴゴゴゴゴゴゴゴっていう効果音が聞こえるんだけど。
「でも、まぁ、これは私が悪いし。一成は悪くないし……。」
蒼がなにか言っているが、最後の方は何を言っているのか分からないほどごにょごにょしている。
「ちょっと待ってて! 」
蒼がトイレに入っていく。
あー、多分そこで直すんだろうなぁ。
少しして、出てきた蒼の服装はしっかりと整っている。
「あっ、そうそう。一成も今日は一緒にモンスターを倒しに行こ。」
「え、なんで? 」
「だって、私は銃使うから、リロードの時とかなんにも出来ないもん。」
そんなこと言われても、多分フレンドリーファイア有りだし……。いや、ゲームみたいな考え方はやめた方がいいや。
「俺が撃たれるってことは? 」
「一成が私を怒らせなかったら、そんなこと起きないから安心してて。」
あ、怒らせたら撃たれるんですね。
「分かったからちょっと待ってろ。」
俺は先に宝石と大剣の交換をインストールしておく。そして、カバンにカードやビンを入れる。
「よし、行くぞ。」
俺は扉に向かって歩き出す。
「ちょっと待って! 」
歩いていたところを蒼に首元の襟を掴まれ、止められる。
「なんだよ。」
「一成、髪ボサボサ。ちゃんととかしてから行くよ。ほら、交換して! 」
「昨日温泉行った時は何も言わなかっただろ。」
そうは言いつつも、くしのインストールはしておく。インストールしておくだけならただだもんね。
でも、交換スキルは物を交換するっていうのが本質だから、交換元以外に代償があるかもしれないんだよなぁ。
「昨日は気づかなかったの! 」
「なら今日も気づかなかったって良いだろ。」
「気づいたからには直したいの! 」
「はぁぁ、分かった。」
一つ大きな溜息をついて、交換したくしで髪をとかす。
「よし、これでいいか? 」
蒼に確認をとる。しかし、蒼はこれでは認めないようで、かぶりを振っている。
「ダメ。一成適当にやってるもん。」
そういって蒼は俺の手からくしを奪い、髪をとかしはじめる。
「そもそも、なんでこんなにしてるんだ。蒼は俺の親でも彼女でもないだろ。」
「髪ボサボサで隣を歩かれると、私が恥ずかしいの! 」
俺はされるがままになる。しっかりと丁寧にとかされてるのがわかる。
「これでよし! ほら行くよ一成。」
「全く、誰のせいで遅くなったんだろうな。」
「ほんと誰だろうね。」
□□□□□□□□□□□□□□□□□
俺はひたすらに蒼について行くと、点P近くの草原に着いた。
あれ? 確か来た時って魔物いなかったよね? 相当運が良かったのかな?
辺りにはイノシシ型の魔物がちらほらいる。遠くの方にはオオカミ型がいるといったところだ。
「一成、そろそろ危ないから剣を交換しといて。」
言われた通りに、交換して、引きずりながら動かす。
仕方ないじゃん。重いんだよ! 筋力増加しててもこれなんだよ! それ以外の理由としては、大きすぎるの。俺の身長よりも大きな剣、しかも分厚いものをどうやって振り回せって言うんだよ。
今でも体全身使って、振るのが限界。明日には筋肉痛になりそう。
「一成、一匹来たよ。頑張ってみて。危なかったら助けるから。」
「把握。」
イノシシが俺を見つけて突撃してくる。
いのちだいじにって知ってる?
いや、そんな巫山戯てる場合じゃないね。
動きはそこまで早くない。回避も間に合うかな。でも、回避しても反撃は取れないかも。なら、相打ち覚悟で攻撃すれば、結果的に相打ちでも威力が上のこっちが勝つ!
大きく振りかぶって、百頭を射殺すつもりで振る。
イノシシは最後の飛びつきで俺の右腕を、軽く切り裂きながら、攻撃を避ける。
なんだ、結構やんじゃねぇか…。
だけど、もう一度攻撃し始める時の隙はあるよ。
イノシシが右に避けた事を確認してからずっと振り続けていた大剣が当たる。
嘘です止まりませんでした。慣性の法則を体験してました。
イノシシの重みがしっかりと腕に伝わる。だが、ここまで重い攻撃を耐える訳もなく、動かなくなっている。
「一成大丈夫? ! 」
蒼が駆け寄ってくる。
「大丈夫だ。こんな軽い傷で死なないって。だが、服は新しいの買わないといけないか。」
改めて怪我した部分を見ると、服は部分的に破れて、少し血が出ている。
絆創膏があればなぁ。あの神が奪わなければなぁ。
「服より自分の心配をして! 」
「んな事言っても誰も回復魔法使えないんだ。せめて、包帯がなんかがあれば良かったが、この程度の怪我なら止血しなくても充分だろ。それより周りの警戒をしなくてもいいのか? 」
「あっ、ごめん。」
「しっかりしてくれよ。先輩。」
「一成に先輩って言われるの凄い違和感があるんだけど。」
蒼は寄ってきたイノシシをアサルトで撃って処理している。
「やばい。怪我してるのは分かってるけど、リロードする間、時間稼いで! 」
気付けば、色んなところに喧嘩を売っていた蒼は数匹に囲まれている。
「あぁ、時間を稼ぐのはいいが、別にアレに倒されてしまっても構わんのだろう? 」
「時間稼ぐなら倒されないで! 」
蒼はずいぶんと余裕のないようで、適当にツッコまれて、終わってしまった。
仕方ない。言われた通りに時間稼ぐか。
俺は蒼に近いイノシシから、振りかぶった状態の大剣でぶつけて、できるだけヘイトを俺に向ける。
出来れば、これで倒れてくれるとありがたいけど、実際は倒れないよね。
リロードが終わった蒼が俺から遠いイノシシを順に動きを止めていく。
俺も振り回して、倒していく。
そうしているうちに襲ってきたイノシシは全滅させた。俺は心の中で手を合わせておく。
「なんとかなったな。毎日こんな感じなのか? 」
「いや、今日はなんか多かった気がするけど。」
「とりあえず、町に戻ろう。それと、回復役は欲しいな。」




